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テナントと一緒に盛り上げる
若手オーナーの新しいビル経営

東京・神田錦町にある5階建ての古い中規模ビル。若い人たちがシェアハウスとコワーキングスペースを運営し、興味深いコミュニティが形成されていると聞いた。ビルの名前は弦本ビルで、プロハ(TOKYO PRODUCERS HOUSE)と呼ばれるスペースに若い人たちが集まっていた。オーナーである弦本卓也さんがこのビルを購入したのは2015年、なんと27歳のときだ。オーナー自らテナントを探し、コワーキングスペースを誘致した。「仲間と一緒にビルを盛り上げたい」という若きビルオーナーの思いを聞いた。

――リクルートで働きながら、27歳のときにビルオーナーになられたそうですが、なにかきっかけはあったのでしょうか?

弦本(弦本卓也氏 以下、弦本) そもそもは、リクルートで不動産系メディアの企画の部署に配属されたことがきっかけでした。戸建て住宅の売買情報を担当する部署に配属されたのですが、自分には売買の経験がないので、カスタマーやクライアントの気持ちがわからない。その悩みを先輩に相談したら、「自分で家を買ってみればいいじゃないか」と言われたんです。配属から2カ月後、ローンを組んで新宿区内に新築の戸建て住宅を買いました。その家には自分も住みながら地方から東京へ来る就活生の滞在場所としても提供していました。ある程度の収入はあったのですが、本業のほうで今度は戸建て住宅の「売却企画」を担当することになったので、また「自分でも経験しなくては」と考え、翌年には売ってしまいました。

しばらくして、戸建ての売買でお世話になった不動産仲介会社さんから、「ビルを買いませんか?」と突然、電話がありました。私のことを「物件をうまく活用できる人」だと思っていただいていたようで、連絡してくれたのです。好奇心で見に行ってみたら、面白そうなビルだなと。頑張ってローンを組めば買えるとわかったので、思い切って購入しました。

――突然ビルの購入をすすめられても、すぐに決断できるものではありません。一体どこに面白さを感じたのでしょうか?

弦本 食べる・住む・働くがひとつの場所にあることです。このビルは、購入時には空室が目立っていましたが、新築時は1階が中華料理店で、2階は麻雀店、3階はスタッフの休憩室、4、5階は住宅になっていたそうです。都会の真ん中にあるビルに、食べる・住む・働くための場所が、コンパクトなサイズでひとつになっている。それでなにか面白いことができるのではないかと思いました。

このあたりでこのクラスのビルを買うと数億円はかかります。しかし、このビルは土地が借地権になっています。毎月地代を支払う必要がありますが、その分、購入するときは建物部分の支払いで済み、1億円もかからないで購入できました。また、建物面積の3分の1以上が住宅として登記されていることもあって、住宅ローンを組むことができ、月々の返済金額が下がることで、フルローンで契約することができました。

――購入した当初から、今のような事業を描いていたのでしょうか?

弦本 事業計画はほとんど何もありませんでした(笑)。見に行ったら面白そうなビルだったので、プランニングしないまま購入したというのが実情です。ただ、以前から頑張っている人を応援するような事業を副業でしていたので、そのための場所づくりをしようという漠然としたイメージは持っていましたね。

――現在、1階で以前と同じ中華料理店が営業していますが、その上の階は大きく変わりました。2階がコワーキングスペースで、3階がオフィス。4、5階はシェアハウスとなっていますね。テナントや入居者はどのようにして探したのですか?

弦本 まずは身近な人にたくさん会いました。本業の合間にたくさん友人や知人をビルに連れてきて、見学会をやったこともあります。1カ月で100人くらいに声をかけました。ただ、多くの人が「面白いね」とは言ってくれるものの、実際に借りるまでには至らない。借りてくれそうな人を人づてに紹介してもらって、駄目ならまた別の人を紹介してもらって……。その繰り返しです。「仲間と一緒にこのビルを盛り上げたい」という思いがあったので、テナント募集を仲介会社に委ねて、広く募集することはしませんでした。

弦本 結局、2階部分については、以前からの知り合いである梶海斗さんが借りて、プロハ(TOKYO PRODUCERS HOUSE 以下、プロハ)を運営することになりました。3階部分のテナントもSNSで知り合いを通じて決まりました。シェアハウス部分もプロハの利用者が使うことになり、すべてのフロアの利用者が決まっていきました。

このビルは入居者のやりたいことに重きを置いている分、家賃を相場より低めに設定していて、敷金・礼金もありません。テナントに引き渡す際に、オーナーによる内装工事も施していないので、原状回復義務もありません。内装は入居するテナントが自由に工事できるようにしています。例えば、2階のプロハでは、運営者が自分たちで内装を施しました。3階をオフィスとして利用しているテナントも、ほとんどそのままの状態で使っています。

――プロハを運営するジョブライブの梶さんは、なぜこのビルに入居されたのですか?

梶(梶海斗氏 以下、梶) 私も弦本さんと同じく、リクルートで働きながら、別に会社を立ち上げて副業していました。私は1988年生まれなのですが、周りにいる私と同世代の人たちの間では起業する人が増えています。そこで、同世代向けのコワーキングスペースを立ち上げようと思い、場所を探し始めました。しかし、ワンフロアをこちらの思うような空間として使わせてもらえる物件はなかなか見つかりませんでした。そんなときに「面白い男がビルを買ったらしい」と聞いて(笑)。もともと同じ会社で面識はあったし、この人なら、私が考えているようなものができるだろうと思って借りることにしたんです。

プロハのコンセプトは「新しく何かを始めたい人の支援」。月額1万円で登録すると、24時間365日いつでもコワーキングスペースとして利用することが可能です。月額2万円ですとコワーキングスペースの利用に加えて、イベントスペースを自由に使うことができます。イベントを開催して得られた収益は、すべて主催者のものになります。現在の会員は約30人で、これまでの3年間の利用者は延べ80人ほどになります。フリーランスや副業を持っている人、起業した人などが多いですね。

――プロハは弦本ビルのテナントと言うことになりますね。シェアハウスはどうなんでしょうか?ここもプロハが運営しているのでしょうか?

弦本 運営者は私ですが、住むためにはプロハの会員登録が必要なので、私とプロハによる一体の運営だと言っていいかもしれません。シェアハウスの入居者にはプロハの会員にもなってもらう仕組みにしています。

単に住む場所を提供するのではなく、プロハでなにかを実現したい人に住まいも提供しているというイメージです。普通のコワーキングスペースだと、同じ場所で働いているのに他の人と面識がない場合も多いですよね。でも、ここだと生活も共にするのでコミュニティが強固なんです。プロハの会員同士で新しい事業を始めることもあるし、そのための支援もしています。

――プロハの会員はどのように募集したのでしょうか?

基本的には口コミだけです。弦本さんのテナント集めと同じで、仲介会社やネットなどで大掛かりな募集はしていません。リクルートの社内には副業を始めた人や、これから始めようとする人が多くいたので、そういったつながりを中心に、同世代で起業した仲間を6、7人集めてスタートしました。その後、ここで毎月、いろいろなイベントを開催していたら、プロハに共感する人が徐々に集まってきたのです。

弦本 4、5階がシェアハウスになっていることも、人が集まった理由のひとつかもしれません。いま、働き方改革の流れを受けて、プライベートな時間を確保できるようになり、そこで自分のやりたいことを実現したいという若い世代が増えています。ただ、どうやって起業すればいいかなど、やり方がわからない人も多い。プロハにいて、同じくらいのフェーズにいる人や、一歩先を行く人たちと生活をともにできることのメリットは大きいようですね。

また、コミュニティが強固であるという意味では、このビルのプランも結果的に良かったんです。このビルは5階建てですが、エレベーターはありません。ビルの片側にある一直線の階段ですべてのフロアがつながっています。そこで、4、5階のシェアハウスに帰るためには、階段で2階のプロハの横を通過することになります。その際に、誰かがいたり、イベントをやっていたりして、気になる動きがあれば、ドアを開けてすぐにコミュニケーションが生まれる。2階のプロハが、このビルのリビングみたいな役割も果たしているのです。

弦本 これまでの活動を本にまとめて出版もしました。実は、プロハのもうひとりの創業者である早野龍輝さんがもともと出版社で編集の仕事をしていたので、自費出版で彼と一緒に本を作りました。2冊あり、1冊目はプロハが始まって1年経ったときに作ったものです。メンバーのインタビューや内装のDIYなどの話が中心です。どちらかと言うと内輪に向けた本で、100部発行したのですが、イベントを開催したときにすぐに売り切れました。2冊目は3000部発行しましたが、OBを含めたプロハのメンバー12人に事業などの成功の法則を聞いて、章立てしてまとめたものです。

――ビル経営から出版まで幅広い活動ですが、全体の収益はいかがでしょう?

弦本 一定の収益も出しています。テナントの空室はほぼなく、稼働率は95%以上です。

――今後の展望を教えてください。

弦本 ここには面白い人たちが集まっていますが、現状はビルの中だけで閉じていると思っています。ビルのある地元の人たちともっと関わって、地域に開かれたビルにしたいですね。ここ神田錦町や神保町界隈では、音楽祭やアートイベントが盛んなので、私たちも実行委員や手伝いとして参加しています。

また、他のビルにも広げていきたいとも思っています。このビルは5階建てですけど、次は8階建てくらいのビルにしたいですね。弦本ビルが始まって3年、入居者も増えているし、いろんなフェーズに行く人もいる。これから結婚して子どもができる人もいるかもしれません。そうなってもみんな一緒に活動ができる場所にしていきたいです。

――仲間を中心にビルやコワーキングスペースを運営して、そこでの利用者や入居者も口コミなどで広がっている。イベントや出版によって、さらに仲間を増やしているようにも見えます。そうした活動のお話を聞くと、「ビル経営」とか、「不動産投資」といったイメージでは取らえられない感じを受けます。

弦本 「ビルオーナー」と呼ばれると気恥ずかしく感じます(笑)。もちろんビルの経営を続けていくためには、ソロバンを弾かなければなりません。でも、それだけだと面白くない。ロマンとソロバンが両方成り立つように運営しています。

時々、3年後はどうしたいかと聞かれますが、あまり考えていません。昔の働き方は「山登り型」で、ゴールに向かってひとつずつ課題を達成していくものでした。私も含めて、いまは「川下り型」が多くなっているんじゃないでしょうか。下りながら、右と左のどっちを選ぶかをその場で決めて、その先に自分のキャリアを築いていく。行き当たりばったりだと思う人もいるかもしれませんが、変化の多い時代ですし、自分がワクワクして、それが周りの人たちのためになって、結果としてお金をもらえていればそれでいいかなと思っています。

 

(引用)日経BP:働きたくなるオフィス大全

http://special.nikkeibp.co.jp/atclh/KEN/officetaizen/180509_01/index.html

 

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