不動産を売却する場合には、一般的には不動産会社に依頼することでしょう。
不動産会社に依頼する際には口頭だけで依頼するのではなく、媒介契約を締結することになります。
媒介契約は不動産を売却するための約束事や、依頼者と不動産会社の間のルールを定めるという重要な役割を担っており、あなたの売却方針や希望に応じて3種類ある媒介契約から適切なものを選ばなくてはなりません。
この記事では、媒介契約の目的や意義、3種類の媒介契約の特徴やメリット・デメリット、媒介契約を締結する際の注意点など、不動産売却の重要な入口について解説しています。
この記事を読んで、あなたの不動産売却に適した媒介契約を選択できることを願っています。
目次
まずは、媒介契約について理解しましょう。
不動産を売却する場合、自分自身で買い手を見つけたうえで売買契約を締結し、決済・引渡しまで行うことは困難です。
さらに、買い手が金融機関の住宅ローンを利用する場合などは、宅地建物取引業者が発行する重要事項説明書も必要になってきます。
そのため、不動産会社に媒介(仲介)を依頼することが一般的です。
仲介を依頼された不動産会社は、民法・建築基準法・宅地建物取引業法などの法律知識、各種税金に対する税務知識、これまでの実務経験を活かして、不動産取引のプロとして安全かつスムーズな不動産売買取引を実現する義務を負っています。
<不動産を売却するための7つのステップ>
不動産を売却するためには、大きく上の図のような7つのステップがあります。
不動産会社と依頼者との間で「媒介契約」を締結することは、上の図では3番目のステップにあたります。
媒介契約を締結する主な目的は以下の通りです。
・依頼者と不動産会社(宅地建物取引業者)の間の依頼関係の明文化
・不動産会社の成約に向けての義務の規定
・媒介に係る業務の規定
・違約金等の規定
・媒介契約の有効期間の規定
・成約時の報酬金額の規定
など
媒介契約を締結することは、依頼者および不動産会社の義務や責任を明確に規定し、売買仲介に関するトラブルを未然に防ぐ役割があります。
宅地建物取引業者は、媒介契約を締結する時に宅地建物取引業法第34条の2に定められた事項を記載した書面を依頼者に交付する、と規定されています。
この場合、国土交通省が消費者保護を図るために標準化した「標準媒介契約約款」を利用することにより、消費者にとって不利な媒介契約が締結されることを防止することができます。
国土交通省による「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」というガイドラインにより、宅地建物取引業者は、媒介契約を締結する際にはこの標準媒介契約約款を使用することが義務付けられています。
<「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」より抜粋>
引用元:国土交通省ホームページ 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 より
媒介契約には3種類の契約形態がありますが、ここではそれぞれの契約形態について説明します。
まずは、下の媒介契約の一覧表を確認しましょう。
<媒介契約の一覧表>
専属専任媒介契約は、1社のみに仲介を依頼できる契約であり、1社と専属専任媒介契約を締結してしまえば、他の不動産会社に併せて売却を依頼することはできません。
また、親戚や知人など自分で買い手を見つけてきた場合でも、その不動産会社を通して取引することが契約で義務付けられています。
もちろん、この場合も仲介手数料の支払い義務が発生します。
その他に専属専任媒介契約の特徴として、
・契約期間が3ヶ月以内であること
・指定流通機構(レインズ)への物件登録が、契約締結後5日(5営業日)以内に義務付けられていること
・依頼主に対して1週間に1回以上の頻度で、書面またはメールにより販売状況を報告する義務があること
などがあります。
このように、専属専任媒介契約は、売却活動のすべてを契約した1社だけに任せる契約内容となっていますので、あらかじめ認識しておきましょう。
専任媒介契約も専属専任媒介契約と同様に、1社のみに仲介を依頼できる契約であり、1社と専任媒介契約を締結してしまえば、他の不動産会社に併せて売却を依頼することはできません。
契約期間も3ヶ月以内となっています。
専属専任媒介契約と異なる点は、
・自分が見つけてきた買い手と、その不動産会社を通さずに売買契約を締結することができる
・指定流通機構(レインズ)への物件登録が契約締結後7日(7営業日)以内に義務付けられていること
・依頼主に対して2週間に1回以上の頻度で、書面またはメールにより販売状況を報告する義務があること
の3点です。
このうち、自分で見つけてきた買い手と売買契約を締結する場合、不動産会社はそれまでに要した費用の一部(ただし約定報酬額を越えない額)を請求することができる契約内容となっておりますので、注意が必要です。
<自己発見取引に関する専任媒介契約約款の事例>
一般媒介契約は、複数の不動産会社に同時に仲介を依頼することができる契約です。
自分で見つけた買い手(知人や親族など)とも、媒介契約を締結した不動産会社を通さずに売買契約を締結することができます。
複数の不動産会社へ依頼するため、他社よりも早く確度の高い買い手を見つけてきた不動産会社と取引を進めるケースが多いです。
また、指定流通機構(レインズ)への物件登録は任意となっており、販売状況の報告義務もないため、適宜、依頼者から確認する必要があります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・レインズ(REINS)とは?用途やログイン・閲覧方法を解説![/su_box]契約期間の定めもありませんが、行政指導により一般的には3ヶ月以内としているケースがほとんどです。
一般媒介契約には「明示型」と「非明示型」の2種類があります。
「明示型」は、依頼者は他にどの不動産会社と一般媒介契約を締結しているのかを明示する必要があります。
一方「非明示型」は、他の不動産会社との一般媒介契約の有無や、どの不動産会社と一般媒介契約を締結しているのかなどを明示する必要がありません。
依頼者は「明示型」と「非明示型」のいずれかを選ぶことができますが、標準媒介契約約款では「明示型」を採用しています。
そのため、「非明示型」を選ぶ時は、明示に関する条文を不採用として明示義務を負わない旨の特約事項を加筆する必要があります。
<「明示型」の一般媒介契約約款の事例>
続いて、3種類の媒介契約のメリット・デメリットについて確認していきましょう。
専属専任媒介契約を締結した不動産会社は、必ずその不動産会社を通して売買契約が締結されるため、仲介手数料収入が確定することとなります。
そのため、広告宣伝費をかけた積極的な売却活動が期待できます。
売却の窓口が一本化されるため、さまざまな情報やデータがその不動産会社に集約されます。
例えば、購入希望者からの問い合わせ数や内容、他の不動産会社からの問い合わせ数や内容、広告の反響結果、内覧者の感触や買わなかった原因などが集約するため、これらのデータを分析することにより適切な対策を立て、早期売却を実現することができます。
1週間に1回以上の頻度で販売状況が報告されますので、依頼者も現状をタイムリーに把握することができます。
不動産会社とも頻繁にコミュニケーションを取ることで、情報や熱意を共有することができるでしょう。
専属専任媒介契約は、1社のみに限定して売却を依頼するため、いわゆる「囲い込み」のリスクがあります。
「囲い込み」とは、自社で買い手を探して両手仲介(売主・買主双方から仲介手数料を得る取引)を狙って、他の不動産会社に物件情報を流さなかったり、他社からの問い合わせを断ってしまったりという、不動産業界の悪しき慣習です。
窓口が一本化して早期売却を実現できる反面、悪い方に作用すれば情報操作をされてしまう可能性があるのです。
こうした依頼者にとってデメリットしかない「囲い込み」のリスクがある、ということが最大のデメリットです。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・不動産の売却時に要注意!「囲い込み」の実態と対策とは?[/su_box]専任媒介契約のメリットは、専属専任媒介契約と同様に、
・不動産会社の積極的な売却活動が期待できる
・窓口が一本化することにより早期売却が実現できる
・販売状況を把握しやすい
ということになります。
専任媒介契約も1社に情報が集約するため、「囲い込み」のリスクがあることが最大のデメリットです。
その他、専属専任媒介契約と比較して、レインズへ登録するまでの日数が若干長いことや販売状況の報告頻度が半分になることがデメリットといえるでしょう。
一般媒介契約の最大のメリットは、複数の不動産会社に売却を依頼できることです。
専属専任媒介契約・専任媒介契約の場合は1社にしか依頼できず、依頼された不動産会社は仲介手数料収入を確定させることができます。
一方、一般媒介契約の場合は、他社より早く買い手を見つけて成約させなければ、仲介手数料を得ることはできません。
こうした一般媒介契約の特徴が良い面に作用すれば、依頼した不動産会社間で競争原理が働いて、より高値でより早期の売却が実現する可能性があります。
すぐ売れてしまうような人気物件を除いて、広告宣伝費をかけて積極的な売却活動を行っても、他社で決まってしまっては広告宣伝費の回収もできないため、コストをかけた積極的な売却活動は期待できない傾向があります。
複数の不動産会社が同じ物件情報を3ヶ月以上発信しているような場合、消費者心理が「いろいろな会社が出している物件」→「それにもかかわらず長い期間売れていない」→「何か重大な問題があるのではないか」といった思わぬ方向に進んでいく可能性があります。
各社が物件情報を垂れ流すのではなく、ツボを抑えた効果的な情報発信をしなければ売却は望めません。
一般媒介契約は、販売状況の報告義務がありません。
そのため、現状でどのような販売状況になっているのか、ということをタイムリーに把握することが難しいといえます。
媒介契約を締結するにあたって、主な注意点について説明します。
一度契約してしまうと、最長3ヶ月は解約できないので事前によく確認しておきましょう。
これまで説明した通り、媒介契約には専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の3種類があります。
一般的に、不動産会社は売主側の仲介手数料を確定できる専属専任媒介契約や専任媒介契約を勧める傾向があります。
しかし、それぞれの契約形態の特徴やメリット・デメリット、自分自身の状況や売却方針などを踏まえて、自分に適している媒介契約を選択することが大切です。
不動産会社は、まずは自社の顧客リストや店頭掲示、自社ホームページなどを通じて自社で買い手を見つけようと動きます。
うまく自社で買い手を見つけることができれば、仲介手数料収入が倍になる両手仲介になるためです。
ただし、自社で買い手を見つけることには限界があり、レインズへ物件情報を登録して広く買い手を探すこととなります。
専属専任媒介契約や専任媒介契約の場合は、レインズへの登録が義務となっています。
一般媒介契約の場合はレインズの登録が任意となっていますが、必ず不動産会社へレインズへの物件登録をするように依頼しましょう。
また、いずれの場合も、不動産会社からレインズの登録証明書を発行してもらうことを忘れないでください。
<実際の媒介契約書(専属専任)の事例1>
媒介契約の契約期間については、これまで説明した通り、どの契約形態でも3ヶ月以内が一般的となっています。
ここで注意したいのは、「3ヶ月以内」であって必ず「3ヶ月間」で契約しなければならない、というわけではないことです。
つまり、極端な話が3ヶ月以内であれば「1週間」でもよいのです(現実的には1週間で受ける不動産会社はないと思いますが・・・)。
専属専任媒介契約または専任媒介契約を締結する場合でも、まずは1ヶ月で媒介契約を締結して、その不動産会社の営業姿勢や実力を見極める、という方法を取ることもできます。
そうした提案に嫌な顔を見せる不動産会社は、初めから依頼しない方が無難です。
また、いずれの媒介契約も更新する場合には、依頼者からの書面による通知が必要ですので注意しましょう。
<実際の媒介契約書(専属専任)の事例2>
媒介契約の締結にあたっては、仲介手数料の金額と支払時期を決定します。
いわゆる仲介手数料の速算式である「売却価格×3%+6万円(別途消費税)」で求められる金額は、仲介手数料の上限額です。
この金額以内であれば法的に問題ありませんので、仲介手数料の金額について協議をしたい場合には、媒介契約を締結する前に行いましょう。
また、支払時期については、一般的には「売買契約締結時50%・決済時50%」となりますが、「決済時100%」でも問題はありません。
支払い時期に関しても媒介契約を締結する前に不動産会社と協議しましょう。
なお、買い手の住宅ローンが承認されずに「ローン特約」により、売買契約締結後に白紙解約となるケースがあります。
この場合は取引が成就していないため、不動産会社は受領済の仲介手数料全額を売主に返還することとなります。
依頼者が媒介契約に違反した場合には、不動産会社から違約金や費用償還の請求を受けることがありますので、注意が必要です。
・専属専任媒介もしくは専任媒介で媒介契約を締結した時に、契約を締結した不動産会社以外の不動産会社に売却を依頼して売買契約を締結した場合
・専属専任媒介で媒介契約を締結した時に、依頼者が自分で見つけた買い手と売買契約を締結した場合
<実際の媒介契約書(専属専任)の事例3>
専属専任媒介もしくは専任媒介契約を締結した時に、不動産会社の責任によらない事由(依頼者の一方的な理由による解除など)によって媒介契約が解除された場合は、不動産会社から依頼者に対して、仲介手数料の金額を上限として実費費用の負担を求めることができます。
主な実費費用としては、
・物件調査費用(現地までの交通費や資料発行手数料など)
・売却活動費用(広告宣伝費や通信費、現地までの交通費など)
などが考えられます。
また、一般媒介契約(明示型)を締結した時に、明示していない不動産会社に売却を依頼して売買契約を締結した場合、やはり実費費用を請求されることがあります。
媒介契約書に広告宣伝活動について明記することは義務付けられていませんが、売却活動の中でも広告宣伝活動は非常に重要な要素です。
そのため媒介契約を締結する前に、どのような媒体を使って広告宣伝を行うのか、どの程度の効果が期待できるのか、他の不動産会社からの広告掲載依頼にどう対応するのか、などをよく確認しておきましょう。
より効果的な広告宣伝活動が早期売却のカギとなります。
また、広告宣伝費については、原則、不動産会社の負担となりますが、売主が特別に依頼した広告宣伝費用は売主負担となります。
事前に広告宣伝費用の負担についてもよく協議のうえ、具体的な内容を媒介契約書の特約事項などに明記してもよいでしょう。
<実際の媒介契約書(専属専任)の事例4>
これまで注意してきたポイントは、標準媒介契約約款に基づいているポイントですので、不動産会社が提示してきた媒介契約書が標準媒介契約約款に基づいていれば問題は発生しません。
念のために標準媒介契約約款と比較し、相違している部分や漏れている部分などがあれば不動産会社にその理由を確認しましょう。
また、不動産会社と協議のうえ依頼者として加筆したい事項があれば、特約事項などにその旨を明記しましょう。
消費者(個人)である依頼者にとって不利にならないよう、より具体的に加筆してもらうことが大切です。
3種類ある媒介契約のうち、どの媒介契約を選ぶかということは、高値かつ早期の不動産売却を実現するための重要な要素のひとつであることが理解できたのではないでしょうか。
ここで得た知識や情報を活かして、自分自身の売却方針に沿った契約形態を選択してください。
そして、最も大切なことは、どの媒介契約を選んだとしても媒介契約を通じて不動産会社と強い信頼関係を築き、二人三脚で売却成功というゴールを目指すことです。