減税措置や補助金制度の話題で、長期優良住宅の周辺は幾らか活気を呈してきつつあります。
ここでは建築業界やユーザーである施主にも、長らく浸透・普及しているとはいえなかった長期優良住宅について解説をしています。
長期優良住宅は住宅性能表示制度をベースに作られていますが、最近では自然災害リスクを回避する目的から、意識の高い工務店を中心に長期優良住宅の認定取得が注目されています。
まずは流れと概要から、長期優良住宅をつかんでいきましょう。
目次
長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用できるように措置が講じられた良質な住宅のことで、2009年の6月に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」として誕生しています。
また長期優良住宅を知る上で重要なのは、長期優良住宅が住宅性能表示制度ベースに作られたものだということがあります。
住宅性能表示制度を簡単に言い表すと、あなたの建てた(買った)住宅の性能を等級などの数字で分かりやすく表示する制度で、2000年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(通称:品確法)」にもとづき、同年10月から運用が始まりました。
長期優良住宅も住宅性能表示制度に則り、最大で10に分かれる分野ごとに等級を決めて、これまで長期優良住宅の認定をとってきました。
ところが住宅性能表示制度は国内の建築会社にほとんど普及しませんでしたので、2009年にスタートした長期優良住宅も不発に終わります。
しかし2017年の4月からは分野数が狭まり、住宅性能表示制度は必須評価項目が4分野9項目(戸建ては7項目)に簡素化されました。
これによって長期優良住宅の認定範囲も同様に狭まり、業界内には長期優良住宅の認定を取ろうとする機運が高まります。
とくに住宅の性能に対して意識の高い中小の工務店やビルダーは、長期優良住宅の認定取得を武器にしたいと考えるところあるでしょうし、そうしたこととは無関係に、要望があれば長期優良住宅の認定を取るに行くとするビルダーも増えています。
おそらくこうした傾向は、しばらく続くと考えて間違いありません。
長期優良住宅の認定を受けようとする方は、長期優良住宅の建築や長期優良住宅取得後の維持保全に関する計画書類を作成し、着工前に所管行政庁に申請します。
そして当該計画が以下に掲げる基準に適合しなければいけません。
1.住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること。
2.住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること。
3.地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること。
4.維持保全計画が適切なものであること。
この4つの基準はあくまで大まかな基準で、実際に長期優良住宅の認定を受けるには4分野9項目(戸建ては7項目)に細かな技術的基準があります。
以下に2017年に簡素化された4分野と、長期優良住宅の認定を受ける場合に必要な等級数をまとめておきます。
・耐震等級:2
・劣化対策等級:3
・維持管理対策等級:3
・省エネ等級:4
なお広さについては戸建て住宅が75㎡以上(1人世帯の誘導居住面積水準は55㎡を下限とする)、共同住宅は55㎡以上(1人世帯の誘導居住面積水準は40㎡を下限とする)となっています。
耐震等級以外の3つはいずれも当該分野の最高等級ですが、耐震等級だけは最高等級の3ではなく2となっています。
この理由については明快には示されていませんが、おそらく最高等級の3にすると、マンションの長期優良住宅の認定が、ほとんど取れなくなるからというのが業界の大多数の見方です。
マンションの耐震等級は1か2が多く、等級3を取れている物件はほとんどありません。
等級3でマンションをつくると建築費かさむので、等級3を意識的に排除しているようです。
逆に戸建ての長期優良住宅では意識的に等級3を取りに行っています。
熊本の震災でもありましたが、短期間に二度震度7程度の揺れを受けると、等級2では倒壊の恐れがあると指摘する地震学者もいるようです。
幸い戸建てに関しては、耐震等級を3にすると手が出ない価格高騰はないため、耐震等級も最高等級で考えるビルダーが多いようです。
なお、2017年に選択評価項目となった分野も以下にあげておきます。
・火災時の安全に関すること(耐火等級など)
・空気環境に関すること(ホルムアルデヒド対策など)
・光・視環境に関すること(方位別開口比など)
・音環境に関すること(透過損失等級など)
・高齢者等への配慮に関すること(高齢者等配慮対策等級など)
・防犯に関すること(開口部の侵入防止対策など)
住宅性能表示制度や長期優良住宅の認定をとるには、何より設計図書類を仕上げることが大変といわれています。
今回、分野が減り設計チームの労力が減少したことは、長期優良住宅の申請にとって大きくプラスになったことは間違いないでしょう。
長期優良住宅のメリットは、後述する各種減税措置にあるのではなく、地震などの自然災害を回避できることにこそ、利点があると考えられます。
そのため戸建住宅はぜひとも耐震等級3を堅持している工務店を選びたいところです。
また長期優良住宅の認定を取得する場合、特別に仕様等をあげなくても、普段どおりの作業・仕様で認定を取得できる工務店を選びましょう。
そうすることで原則的にコストを必要以上にあげなくても済みます。
コストがかかるのは建築自体のコストアップではなく、長期優良住宅の認定に必要な書類作成費だけなら、20万円から高くでも30万円程度のコストアップで認定が取れます。
この程度のコストアップで済めば、地震保険の減額等で十分もとは取れます。
基本的に長期優良住宅仕様にすることで、固定資産税がアップすることはありません。
要領さえ掴んでおくと、長期優良住宅の認定を取ることはそれほど難しいことではありません。
このことは重要なことなので覚えておきましょう。
長期優良住宅を選ぶとユーザーは幾つかの税の特例措置を受けられます。
ここでは主だったものをあげておきます。
住宅ローン減税(住宅ローン控除)は返済機関が10年以上の住宅ローンを組んで新築や増改築をすると、居住を始めた年から10年間にわたってローン残高の一定割合が所得税から控除されるというものです。
住宅ローンを使って長期優良住宅を建てると、年間控除額が一般住宅の40万円から最大で50万円引き上げられます。
このため所得税を多く負担している方は所得の少ない方に比べて、メリット感を享受できます。
ただし、あくまで住宅ローン減税は所得税を多く負担している人にとってお得感があるものです。
ここを勘違いしてはいけません。
長期優良住宅を平成32年3月31日までに建てると、所有権保存登記が0.15%から0.1%に、所有権移転登記は0.3%から0.2%(マンションは0.1%)に税率が軽減されます。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・登録免許税とは?計算・軽減措置・相続・納付方法について解説![/su_box]また同期間に長期優良住宅を新築すると、不動産取得税の特例適用期間が2年延長され、課税標準に対する1200万円の控除額が1300万円に拡大されます。
さらに固定資産税については減税措置の適用期間が2年延長されます(戸建ては3年から5年、マンションは5年から7年)。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・固定資産税の評価額はいくらくらい?調べ方や計算方法などを解説!父母や祖父母などから自分で住むための住宅資金の贈与を受けると、一定金額まで贈与税が非課税となりますが、長期優良住宅を建てた場合、通常より500万円(平成28年8月であれば700万のところ1200万まで)非課税枠が増額されます。
この場合、非課税枠の増枠となるのは「質の高い住宅」となりますが、そのなかには耐震等級が2以上あれば該当しますので、長期優良住宅の認定を受けていれば非課税枠の増枠は該当します。
また長期優良住宅を申請すると、補助金制度も受けられます。
下記の補助金制度はいずれも国土交通省と関連する補助金制度です。
一般社団法人・木を活かす建築推進協議会において、地域型住宅グリーン化事業(長寿命型) が認定長期優良住宅を供給する地域の中小工務店を対象に、新築の認定に係る補助金の交付を行っています。
ただ注意が必要なのはこちらの補助金は、施工業者のグループを対象にした補助金事業で、素材生産事業者・原木市場や製材・集成材製造・合板製造、建材流通、プレカット加工など、設計・施工以外の業者を含めてグループを構成しての応募とのことです(少し面倒のような気もします)。
また長期優良住宅を発注した顧客も間接的に補助金を受けられますので、工事費見積書等で金額を確かめられるようにしておいたほうが安全でしょう。
補助金の上限は一戸あたり110万円です。
既存住宅の長寿命化に貢献するリフォーム等を行う場合に使える補助金制度で、こちらは交付された補助金は長期優良住宅を発注した顧客に還元するようにうたっています。
ただし、新築ではなくあくまでリフォームを対象とした補助金ということで、活用できる選択範囲は限られてくるでしょう。
また顧客に還元するようにうたっていますが、全額還元するかは定かではありません。
そのためこちらも、工事費見積書等で金額をチェックできるようにしておきましょう。
なお補助金の上限は一戸あたり200万円です。
認定長期優良住宅は住宅ローンでもいろんなメリットを活用できますが、いちばんうれしいのは金利の引き下げではないでしょうか。
長期固定金利で知られるフラット35は、【フラット35】Sが、マイナス0.25%金利引き下げで対応していますし、期間限定の【フラット35】リノベでは中古住宅に性能向上リフォームを行うとマイナス0.5%金利引き下げで対応しています。
いずれのメニューも長期優良住宅の品質で該当しますので、住宅ローンに長期固定金利を使う予定があれば検討してみるといいでしょう。
地震国日本に災害リスクが定常的に起こるようになり、長期優良住宅は今後さらに扱う建築業者が増えてくると思われます。
とくに気密・断熱性能のアップに真剣に取り組んできた工務店にとって長期優良住宅の認定取得は、C値(相当隙間面積)を1以下にする努力に比べて案外簡単なものではなかったかと思います。
長期優良住宅の普及はこれらの中小の工務店にとり、まさしく追い風となることでしょう。