1990年代の終わり頃から建設が始まり、2000年代に入ると爆発的に増えてきた人気のタワーマンションですが、現在では売却物件も増えてきているといわれています。
アベノミクスによる金融緩和で金余り現象が発生したり、金利の低下により住宅ローンの利用が増えたりすることによって、不動産はあたかもバブル期のような活況を呈していたのですが、はたして2020年の東京オリンピック終了後も続くのでしょうか。
特に、実需以外の目的で購入された物件が多いタワーマンションの売り時については、「オリンピック開催を待たずに売却した方がよい」といった声も聞かれています。
そこで今回は、人気のタワーマンションが中古で売れない理由と売り時の目安について、詳しく解説します。
現在、タワーマンションの売却を検討している人は、ぜひこの記事をチェックしておくことをオススメします。
目次
これまでタワーマンションが爆発的に人気を集めたのは、主に次の2つの理由からです。
ここで改めて確認してみましょう。
2013年9月、2020年のオリンピックが東京で開催されることが決定しました。
そこで、中国人や台湾人などを中心とした海外投資家が、日本の不動産に目を付けました。
オリンピック開催による好景気や不動産価格の上昇を期待して、オリンピック会場となる東京の湾岸エリアを中心にタワーマンションをまさに「爆買い」したのです。
特に2015年はその傾向が顕著でした。
国民性からか中華系の海外投資家は派手で豪華なマンションを好むため、プールやスポーツジム、バースペースやパーティールームなどの共用施設を備えたタワーマンションを購入することが自然だったのです。
上層階のほとんどの住戸を、中華系の海外投資家が購入したタワーマンションもあるといわれています。
国内の富裕層が相続税対策のために、こぞってタワーマンションを購入したこともよく知られています。
預貯金などの現金で相続した場合、相続税評価額は時価ということになります。
しかし、その現金でタワーマンションを購入した場合、相続税評価額について土地は路線価で、建物は固定資産税評価額で評価されることとなり、時価よりもかなり評価を圧縮でき、賃貸することでさらに評価を圧縮できます。
また、専有面積が同じであれば、低層階の住戸でも高層階の住戸でも評価額は同じとなります。
<タワーマンション節税のイメージ>
タワーマンションの場合、低層階より高層階の方が販売価格は高くなるため、高層階の住戸を購入すれば時価と相続税評価額の間に乖離が生じて、相続税の節税効果が見込めることになるのです。
こうした仕組みにより、タワーマンションが大量に富裕層に購入されました。
中国人をはじめとした海外投資家のタワーマンション爆買いは2015年をピークとして減っているといわれています。
タワーマンションに対する課税強化もあり、これまでタワーマンションの購入を牽引してきた層に変化が起きているため、今後、中古タワーマンションが売れなくなるという意見が散見されます。
ここでは、これまで人気の中古タワーマンションが売れない原因や理由について考えてみます。
2013年から2014年かけての日銀の積極的な金融緩和策による金利の低下とマネタリーベースの増加が、新築マンション(特に新築タワーマンション)市場に好影響を与えました。
住宅ローンの金利低下に伴い、一次取得者などの実需層が東京湾岸エリアのタワーマンションを中心に積極的にマンションを購入し始めました。
ちょうどその頃、東京でのオリンピック開催が決定したこともあり、値上がり期待の海外投資家や相続税対策目的の国内富裕層も積極的にマンションを購入していました。
その結果、東京都心(千代田区・中央区・港区など山手線の内側)、城南エリア(世田谷区・目黒区・品川区など)、湾岸エリア(江東区・大田区など)を中心に不動産価格が高騰し、局所的な「ミニバブル」といわれる事態が生じたのです。
こうしたマンションをはじめとする不動産の価格高騰により、一次取得者などの実需層の購入限度額が近づいてしまったため、割高な物件の売れ行きは急減速しています。
日本では1960年代から分譲マンションブームが本格化し、高度経済成長期やバブル経済期などを通して幾度かマンションブームを作り出しながら、2008年のリーマンショック前まで分譲マンションが大量に供給されてきました。
国土交通省の統計データによると、平成29年(2017年)末の分譲マンションストック数は、644.1万戸となっています。
その一方で、皆さんもご存じの通り、日本国内では少子化による人口減少が現実的にデータで確認されており、今後マンションが供給過剰によりダブつくことは明白です。
アベノミクス以降の日本の不動産市場を牽引してきたのは海外投資家であり、日銀の金融政策により溢れた投資マネーをタワーマンションに投資してきました。
しかし、2015年には中国人のタワーマンション購入もピークを迎え、現在では投資マネーの流入は完全に冷え込んできています。
東京オリンピック開催を当て込んだ値上がり期待の購入のため、価格が高騰しすぎて旨味がないと判断すれば投資マネーの流入がストップするのも当然です。
こうした海外投資家の投資マネーが日本のタワーマンションではなく、香港やイギリスの不動産に逃げ始めているといわれています。
国内の富裕層がタワーマンションを購入し、相続税の節税を図るスキームが横行したことを問題視した国税庁は、タワーマンションに対して課税を強化することにしました。
具体的には、平成29年度の税制改正において、20階以上のマンションに対して高層階の住戸ほど固定資産税評価額が高くなるように見直し、1階の住戸より最上階の住戸の評価額を最大10数パーセント程度高くすることにより、相続税の節税効果を薄めることにしています。
しかし、タワーマンションの低層階の住戸と高層階の住戸の価格差が10数パーセントということはないため、まだまだ節税メリットを享受できるといえますが、国が今後もタワーマンションによる相続税対策について着目していることは間違いありません。
いつ何時、さらなる見直しや課税強化が実施されるかどうか、警戒感が高まっているのが事実です。
一般的に、マンションは10年~15年の周期で大規模修繕工事を行うことが、建物の品質や価値の下落を防ぐといわれています。
一般のマンションであれば数千万で行える大規模修繕工事も、タワーマンションの場合は億単位の費用が発生し、月々の修繕積立金では不足するリスクも囁かれています。
年々増加傾向にある修繕積立金のほかに、数十万円単位の一時金が発生するのでは住民は安心できません。
タワーマンションの大規模修繕工事費用が高いと言われているのには、2つの理由があります。
まずは「過去の事例が少なく経験やノウハウが蓄積されていない」ことです。
タワーマンションの歴史は浅く、初期の物件でもやっと築後20年を迎える程度です。
そのため、大規模修繕工事の事例が非常に少なく、工事業者に経験やノウハウが蓄積されていません。
それゆえに、工法なども確立されていないため工事の難易度が高く、一般のマンションと比較して割高な工事費となってしまうのです。
次に「タワーマンションを施工した工事業者以外に任せにくい」ことです。
一般のマンションの場合、大規模修繕工事を行う際は「相見積り」といって、複数の工事業者から同じ仕様や条件で見積りを取って比較・検討します。
また、相見積りを実施することで競争原理が働き、工事費を抑える効果もあります。
しかし、タワーマンションの場合、多くの工事業者が施工のノウハウを十分に持っていないうえに、見積りを出すための建物調査や必要な情報取得について手間やコストがかかるため、割高な工事費用にならざるを得ません。
その点、そのタワーマンションを施工した工事業者であれば、建物の仕様や設計、その他の必要情報について有利な立場にあるため、他に任せる工事業者がなかなか見つからないことから、競争原理を働かせにくくなります。
実際に過去のタワーマンションの大規模修繕工事の事例は、ほとんど施工した工事業者が請け負っています。
こうした理由により、タワーマンションの大規模修繕工事は高額な工事費が発生してしまうのです。
これまで説明したことを踏まえて、タワーマンションの売り時と注意点について確認しましょう。
2019年10月に消費税が8%から10%に引き上げられます。
政府は、リーマンショック級の経済危機が訪れれば見送る可能性を示唆していますが、2020年にオリンピック開催を控えており、そこまでの経済危機が発生する可能性は低いのかもしれません。
過去2回消費税が引き上げられたときは、その後に2回とも深刻な景気低迷を経験しています。
そのため、2019年10月に消費税が10%に引き上げられた場合も、同様の事態が生じる可能性は高いといえるでしょう。
現状で、売れにくくなっているタワーマンションが、消費税増税といった事態を迎えてさらに売れ行きが落ち込むことは疑いようがないといえます。
また、過去2回とも引き上げの直前は駆け込み需要により住宅販売数が伸びましたが、翌年はその反動で急激に販売数が減っており、今回も同様の現象が起きることが予想されます。
タワーマンションの売却を検討している人は、消費税増税となる前に売却することを考えてはいかがでしょうか。
ちなみに、個人がタワーマンションを売却しても消費税の対象とはなりませんので、頭に留めておきましょう。
東京都は「2020年に東京都の人口がピークを迎え、その後人口減少が本格化していく」という予測を立てています。
地方から東京都への人の流入問題が叫ばれていますが、2020年以降はその東京都でもいよいよ世帯数や人口が減少していくのです。
そうなれば、供給過剰になっている住宅(戸建てやマンション)の空き家化・空室化が進むこととなり、タワーマンションも例外ではありません。
需要と供給のバランスから価格も下落することは間違いなく、エリアによっては暴落する危険性さえあるでしょう。
また、東京オリンピック開催による不動産高騰を期待した海外投資家が、オリンピック前に一斉にタワーマンションを売却する可能性も高く、さらなる価格下落リスクとなります。
こうした点を考慮すると、タワーマンションの売却を検討している人にとって、少なくとも2020年の東京オリンピック開催前までに売却することはひとつの考え方といえるでしょう。
さらに不動産業界で問題となっているのが、「2022年問題」といわれている「生産緑地の指定期限終了」です。
生産緑地とは「市街化するべき市街化区域内にある農地に対して、農業を続けることを条件に30年間固定資産税などの税金を例外的に減免する」と指定された土地をいいます。
東京23区などの大都市圏でも多くの土地が生産緑地の指定を受けていますが、その指定期限が2022年に終了し、固定資産税などの税金が一気に高くなってしまいます。
そのため、生産緑地の所有者の多くが高齢者であり、農業を承継する人も少ないことから、これらの生産緑地が一斉に売りに出される事態も考えられます。
農地として利用していた土地ですので面積も大きく、かなりの面積の土地が一斉に不動産マーケットに出てくれば、土地を含めた不動産価格の暴落を招くかもしれない、と言われているのです。
また、一部が賃貸アパートや賃貸マンションなどに活用されれば、住宅がさらに供給されることになります。
現状で、空き家問題・空室問題が発生していることを考えると、供給過剰により不動産価格の下落を招く可能性もあります。
このように2022年は不動産業界にとって大きな問題を抱えているため、タワーマンションの売却を検討している人は、不確定要素の多い2022年までには必ず売却を終えていた方がよいと考えられます。
タワーマンションは大規模な物件が多く、1棟当たりの住戸数が数百戸の物件も珍しくありません。
そのため、同時期に売却を検討している人が多数いて、数十戸単位で売りに出ることもあり、売り物件が積み上がってしまう可能性があります。
実際に、2017年7月に竣工した「ザ・パークハウス西新宿タワー60(総戸数:954戸)」も、現在30戸を超える住戸が売りに出ています。
ほとんどの住戸が同じような条件で売りに出るため、価格面で差をつけるしか早期売却を促進する方法はなく、価格競争が起きる可能性が高くなります。
そうなると、他の住戸より価格を下げなければ売れないことになります。
また、同じタワーマンション内で売りに出ている物件が多くある場合、買い手側からすると、
「なぜこんなに多くの住戸が一斉に売りに出ているのだろう?
「何か重大な問題があるのではないか?」
といった、不安や懸念から敬遠される可能性もあります。
タワーマンションが人気だったポイントと今後売れない理由、売却時期の目安などについて解説しました。
タワーマンションは購入価格が高いため、万一売却に失敗した場合は損害が大きなものになる可能性があります。
そのため、失敗を防ぐには売却時期を見誤らないことが非常に重要です。
特に、この記事で説明したような外的要因に影響されそうな将来を考えると、
「あの時に売却しておけばよかった・・・」
といった後悔を残さないように、ご自身のタワーマンション売却計画を見つめ直してみてはいかがでしょうか。