かつての注文住宅は規格住宅とは違って経済的にも余裕があり、住宅に関心の深い施主に許された贅沢な家づくりでした。
それがバブル期以降、住宅会社はユーザーの裾野を広げ、幅広い顧客にアプローチを仕掛けることで、ローコスト住宅などの新興ジャンルをつくり出します。
もともと住宅産業は「クレーム産業」と言われるトラブルの多い業界でしたが、このころからその火種は多方面に飛び火するようになってきました。
ここでは「トラブル10選!」と題し、注文住宅業界のむかしからあるトラブルや、最近になって目立つクレームなどに焦点を当てています。
目次
まずは契約や工事に絡むトラブルから紹介しましょう。
最初は注文住宅で多く指摘される追加工事の問題から見ていきます。
追加工事は注文住宅のトラブルで真先に出てくるワードかもしれません。
なぜ注文住宅に追加工事のトラブルが多いのかというと、契約時までの見積もりは基本工事(または標準仕様)だけに留めて、契約後の見積もりは追加工事にするという契約形態がいまもこの業界の主流です。
もちろんお客様にもこのことは知らせていますし、後から苦情が出ないように仮契約から本契約に進むまでには、キッチン等の住設や暖房設備などは決定している場合がほとんどです。
それでも追加工事が膨らむのは、標準設定以上の仕様をお客様が無意識に求めてしまうからということもありますし、住宅会社も提案という名のもとに追加工事を受注してしまうからです。
追加工事は契約と同じ効力を持ちますので、会社によっては追加をいただくということは新たな契約金を増やしたと見なす会社もあるようです。
このため現場監督やインテリアコーディネーターは進んで追加工事を受注します。
もちろんお客様が納得していれば全く問題はありません。
ただ問題なのは、追加ではなく自由に選べると考えていたら問題です。
色のバリエーションを変えたぐらいでは追加にはなりませんが、たとえばキッチンの面材の色は変えただけで金額が変わってしまうものもあります。
その辺りの説明をしていなければ、誤解がどうしても起きます。
とくにトラブルになりやすいのは、標準仕様の設定が低い住宅会社です。
あまりにひどいところは、わざと外壁などの標準仕様の設定を低く設定しているとしか思えない会社もいまだにあるようです。
こういう設定の会社はお客様も不幸ですが営業も不幸です。
仕方ないので外壁材や電気配線の費用は、営業自身が多めに見込んで見積もりを組んでいる場合もあります。
そうしないと外壁のグレードアップやアンテナのブースターやら、あとでかならず必要なものまでお客様に全て請求しなければなりません。
反対に標準仕様がある程度高い設定にしている会社は、お客様自身がこれは追加工事になると理解できるものが多いため、トラブルにはつながりにくいといえます。
何れにしても追加工事のトラブルを避けるには、その会社が設定している標準仕様をあらかじめ聞いておくことは重要です。
注文住宅ではこちらのクレームもよく聞きます。
住宅会社はお客様本位で動かなければなりませんから、トラブルは100%住宅会社の責任です。
間取りのイメージがつかなければ、せめて模型などをつくって見せれれば、こうしたクレームは緩和されたでしょう。
ただ注文する側も、どれだけ真剣に打ち合わせに参加したかを反省するべきかもしれません。
なぜなら間取り打ち合わせに真剣に向かう人から、こうしたクレームがあがってくることは少ないからです。
また顧客自身が大変に忙しく、注文住宅を建てるのに向かない方もいます。
そうした方は注文住宅より、すでに建物ができている物件や、完成してはいないがほぼ内容が決まっているマンションのほうが合っているかもしれません。
こうしたトラブルを防ぐために注文住宅では自社のイメージを明確にしているところもあります。
こういうタイプの方は「こんなことまで決めなきゃならないの!」とクレームをつける前に、典型的な注文設計の会社は無理に選ばないほうがいいでしょう。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・【新築】注文住宅の間取りはどうやって決める?ポイントや流れを解説![/su_box]こちらも注文住宅のトラブルでしばしば聞かれる問題です。
地盤調査を実施することは注文住宅を建てるお客様にもずいぶん浸透しています。
ただ、地盤調査の判定が会社によって異なる場合があるということについては、あまり知られてはいません。
また戸建住宅の地盤調査はスウェーデン式サウンディング(SWS)調査で行いますが、この調査は敷地に対して建物が実際に建つ配置が決まってから行うのが本当です。
ところがある住宅会社では、プランが確定もしていない契約前の段階で、自社の社員が敷地の任意の箇所で地盤調査を実施するところもあります。
その会社で出た調査結果が杭打ちの必要がないと出たとしても、正規の配置に対して地盤調査会社が出した結果に、お客様がクレームを出すというのも筋違いです。
ただこれについては、お客様に地盤調査の進め方についてきちんとレクチャーを行い、正しく理解してもらうことに努めるしかありません。
非常に苦々しいクレームといえましょう。
次に住宅の間取りや性能についてのトラブルに付いてみていきましょう。
間取りや性能に関するトラブルは、契約や工事に絡んだトラブルより深刻な問題には発展することはありません。
ただ注文住宅ではよく起きるトラブルのひとつといえます。
まず収納が少ないことについてのトラブルから見ていきます。
収納が少なく物が片付かないという問題は、注文住宅では多くあげられる項目かもしれません。
ただ、その会社の設計方針が純粋な自由設計型の注文住宅では、あまりこのようなクレームは聞かれません。
いっぽう、同じ注文住宅でもどちらかというと規格プラン型に近い注文住宅では、想像していたより収納が少なくて困ったというユーザーからの声は聞かれます。
もちろん住宅会社は自社の設計プランを、規格プランに近いという人はいないでしょう。
ただし業界に長くいれば、どこのハウスメーカーがそれに近いかということは大抵知っています。
ただお客様も、プランの良さだけでハウスメーカーを選びません。
家は三回建てないと満足した家にならないといわれるのは一理あります。
ただこれを防ぐには、お客様自身もプラン(間取り)打ち合わせに積極的に参加するしかありません。
また二、三社同時に掛け持ちしてプランを比較してください。
勘のいい人なら、その間取りがきちんと人の手で書かれたものかどうかは分かるはずです。
物干しスペース(ユーティリティ・スペース)が足らないというのは、クレームとして現れにくいですが、実際にはもう少し適切なスペースを確保したかったという要望は相変わらず強いと思います。
物干しスペースはベランダがあるからいいとの声もあるでしょうが、白い物や下着類は外に干したくないという声は多くの奥さまの声です。
また天候として外に干せない日もありますので、物干しとして最適なのは家のなかにスペースを確保しておくことです。
そうなると、やはり間取り構成力やプラン力というものが求められます。
新築の住宅は気密や断熱性能、窓の性能が良くなっていますから、外の音が聞こえにくくなっています。
ただその反面、内部の音は聞こえやすく、2階の音が結構響いて聞こえますし、振動音も耳障りに感じるかもしれません。
ただし、これは建物の性能が良くなったために起こる現象で仕方ないという面があります。
音や振動の対策としては、住宅会社によって2階の床に防振マット(通常のマットより重量を重くしたもの)を敷いて施工するところもありますし、2階の懐(ふところ)に特殊な防振吊り木を使うところもあります。
また2階の懐にグラスウールを防音用に敷く会社もありますので、住宅会社ごとにどういう取り組みを選択しているのか聞いてみたほうがいいでしょう。
また間取りも階下に音が響かないよう、2階の乗りを工夫するケースもあります。
これらの副次手な効果で、少しでも音が気にならないようにはできます。
やはりこう考えると、間取りの打ち合わせが大切なのかが分かります。
間取りの問題は多少我慢できても、新築住宅で寒い・暑いということは、人によっては深刻なトラブルにも発展しかねません(ここでいう「寒い・暑い」ということは、住宅の性能に関することです)。
北海道や北東北では当たり前のことですが、昨今は注文住宅も性能について関心を持つ住宅会社が増え、いま話題のエアコン暖房を推奨する会社も出てきているようです。
ただエアコン暖房だけで冬を快適に過ごすのには、温暖な地域でも寒冷地並みの断熱仕様と気密施工が必要です。
付け焼き刃的な気密・断熱施工では、エアコン暖房だけでは足らない場合があるかもしれません。
またその対処法に床暖房をあげることがありますが、壁(四面)、床、天井(屋根)の断熱が正しく施工されていないと、少ない暖房費でからだに快適な性能は維持できません。
性能を向上するには住宅六面の断熱材を見直し、必要な気密施工を行うことが大事です。
そうしなければ床暖房を敷く意味はあまりありません。
かえって床暖房以前に窓の性能を上げる工夫をするべきです。
ただむかしに比べると、比較的温暖な地域といわれる西日本でも正しい断熱施工ができる工務店やビルダーが増えてきました。
会社選びを間違わなければ、今なら日本全国で高性能な住宅を注文できるようになっています。
具体的なトラブルにまで発展することは少ないのですが、ここ数年でいちばん変化した分野は住宅の弱電設備で、準クレームになりやすいのがこの分野の要望ではないでしょうか。
ここでは住宅の弱電設備に関するクレームと、最後に外構工事にもついて触れておきます。
いまでも多いのがコンセントの数スイッチの数での後悔です。
注文住宅ではコンセントやスイッチの位置や数の指定もできますし、さらにこだわる人になるとスイッチの形態も住まいのインテリアイメージに合わせて変更も可能です(もちろんこれらの変更は追加工事になります)。
ただスイッチの形態にまでこだわる人なら多分大丈夫なのですが、無頓着な方は後で「ここにコンセントが欲しかった、スイッチがあればよかった」と後悔します。
営業も会社の設定では足らないことがわかっているので、配線の追加分の予算を余分にみています。
ところが慣れていない営業になると余分に見ていない場合があります。
とくにキッチン周りは標準設定だと少なすぎる場合がありますので注意したいところですし、最近では書斎もコンセントが必要です。
パソコンやスマホの登場によって、必要なコンセントの数が以前とは比較にならないほど増えているからです。
多少プラスになっても後で後悔のないよう、必要な数だけは見ておきたいものです。
これはトラブルというより、注意点としてあげておきます。
Wi-Fiについては、無線ルーターで利用している人がほとんどだと思いますが、一戸建ての場合はルーターから離れた書斎や子共室各部屋でもWi-Fi を使う場合もあります。
このような戸建住宅では、壁中を通したLAN配線(空配管)が必要です。
慣れている現場監督がいればいいですが、いない場合もありますのでプラン打ち合わせの段階から設計や工事スタッフにLAN配線(空配管)のことは伝えておくようにしましょう。
なかには情報分電盤の設置をすすめてくる住宅会社もあるでしょうが、情報分電盤にもいろんな設置パターンがありますし、もちろんこの場合も空配管は必要です。
家が完成してしまうと、空配管の設置は難しくなりますので注意してください。
完成したばかりの現場を見ると分かりますが、外構工事にまで予算が回らなかったことに後悔する言葉もよく聞かれます。
ただ以前に比べて、外構工事分をとっておく方は増えている傾向にあるようで、前よりは確実に減ってきていることが分かります。
おそらくですが、父親世代からの指南で、カーポートやコンクリート打設費用分ぐらいは最低でもとっておくように言われているのだと思います。
しかし植栽まで手が回る方は限られてきているようです。
戸建住宅は、庭をきちんと作ると全体的な見映えが全然違ってきます。
住宅に掛かる分の費用を7,8掛けぐらいにしても、庭や外構工事は予算をとっておきたいものです。
家づくりは人任せにできない作業が含まれています。
またそれは、他人や周囲に状況に急がされて取り組む種類のものでもありません。
住宅にはさまざまな取得方法がありますが、注文住宅はまさにそのパターンです。
そのような家づくりをサポートしてくれる会社選びこそ、失敗の少ない家づくりにつながります。