せっかく買ったマンションの資産価値を落としたい所有者はいないでしょう。
いつまでも住みよく、資産価値を維持したマンションにしておくために欠かせないのが、大規模修繕です。
大規模修繕は区分所有者で結成する管理組合の重大な仕事のひとつですが、建築や法律などの専門知識が必要とされ、管理組合が自分たちだけで対応するのは難しいかもしれません。
そこで、管理会社や設計事務所、建築会社などに相談する管理組合が多いのですが、管理組合自体も大規模修繕に関する最低限の知識や理論を身に付けていなければ、専門家と共通言語が持てません。
あってはならないことですが、何も知らなければ管理組合にとって不利益なことが行われてしまうリスクだってあるのです。
そこで今回の記事では、管理組合の皆さんに向けて、大規模修繕の費用や相場、工事の周期や主な工事内容、工事の流れや進め方などの基礎知識をご紹介します。
目次
マンションを取り巻く環境は、高度経済成長期やバブル経済期、人口減少期などを経て大きく変化してきています。
まずは、そうした変化についてデータをもとに検証していきます。
我が国の分譲集合住宅の第1号は、東京都建設局により1953年に建てられた「宮益坂アパート」であり、1956年に竣工した「四谷コーポラス」が初の民間分譲マンションとなっています。
その後の高度経済成長に伴って、1963年頃から第一次マンションブームが発生し1964年の東京オリンピックも国内景気を刺激したため、マンション開発が次々と進んでいきました。
1962年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定されていたことにより、分譲マンションが法的に確立され、住宅ローンが利用できるようになったこともマンションブームを下支えしていました。
<分譲マンションストック戸数>
引用元:国土交通省ホームページ マンションに関する統計・データ等「分譲マンションストック戸数」より
上のグラフは分譲マンションのストック戸数を表したグラフです。
このデータによると、平成30年末時点のマンションストック総数は約654.7万戸であり、毎年着実に増加していることがわかります。
一方で、新築マンションの供給戸数は減少傾向にあり、今後は新築マンションに対するマーケットより既存マンションのマーケットが拡大していくと考えられています。
我が国のマンションストック総数を確認したところで、すべてのマンションのうち築後30年以上の高経年マンションがどの程度存在しているのか、次のデータを確認してみましょう。
<築後30、40、50年超の分譲マンション戸数>
引用元:国土交通省ホームページ マンションに関する統計・データ等「築後30、40、50年超の分譲マンション数」より
このデータによると、平成30年末時点で築年数が30年を超えるマンションは197.8万戸あり、マンションストック総数の30%を超える割合となっていることがわかります。
これらの高経年マンションの改修・再生・建替は、国の重要な住宅政策のテーマのひとつとなっていますが、我が国の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少し続けており、2065年には8,808万人になると推計されています。
<日本の将来推計人口(平成29年推計)>
引用元:厚生労働省ホームページ 日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要 より
高経年マンションは今後も増え続けるにもかかわらず、我が国の人口は減少していくため、中古マンションの流通市場では「勝ち組・負け組」がより鮮明となっていくことが予想されています。
特に、都心や東京湾岸エリアを中心とした立地条件が良く、ステータスのあるマンションなどは中古の相場価格が下がらず、資産価値を維持しています。
一方で、築年数の経過した郊外の団地型マンションは、住民の高齢化に伴って一部がスラム化するなどの現象が生じ、相場価格が大幅に下落して資産価値を維持できていない傾向があります。
このように、中古マンションのストックは二極化しており、マンションの資産価値を維持するためには、適切かつ計画的な改修や修繕を行い、マーケットでの流動性を保つことが重要といえます。
<二極化する中古マンション>
マンションが、築年数の経過とともに劣化していくことを経年劣化といいます。
この経年劣化を適切に修繕することにより、建物や設備の寿命を延ばし、資産価値を維持することができます。
経年による物理的劣化(例えば、コンクリートのひび割れや外壁タイルの剥がれなどの目に見える劣化)をリアルタイムで見つけ、そのまま放置するとなく調査をし、適切な修繕を行う必要があります。
ただし、マンションの経年劣化とは物理的に目に見えるものだけでなく、下の図のような目に見えない劣化に対しても対応しなければなりません。
<マンションの経年劣化の種類>
上の図の通り、マンションには3種類の経年劣化があります。
それぞれについて説明します。
まず、マンションは建物ですので、年数とともに物理的に劣化していきます。
具体的な物理的劣化の現象は、コンクリート躯体の中性化や設備類の鋼管の腐食などがあります。
一般的に「経年劣化」といえば、この物理的劣化を意味しており、修繕や改修により物理的に修復可能な劣化といえます。
また、計画修繕におけるマンションの予防保全とは、この物理的劣化の是正がメインとなっています。
デザインや設備の機能性が、時代に置いて行かれて陳腐化したり、法令の改正により建物が既存不適格(現行の法令に対して不適格な部分が生じた建物のこと)となったりすることが社会的劣化です。
その他にも、社会の変化や移り変わり、生活スタイルの変化、住民のニーズの動向など、マンションを取り巻く環境が変わることで相対的に劣化することをいいます。
資産としてマンションを考えた場合に、現在の資産価値(売却可能な相場価格)が将来的な修繕費用を下回れば、経済的劣化が発生したと考えられます。
1980年代~1990年代初めのバブル景気時には、売却価格が購入価格の2倍・3倍となることも珍しくなく、経済的劣化とは無縁でした。
しかし、バブル景気の崩壊後や2008年のリーマンショック後などの経済低迷期には、地価の下落とともにマンションの経済的劣化が進みやすいといえます。
このように、マンションの劣化を防ぐためには、目に見える物理的劣化を修繕するとともに目に見えない劣化をも「修繕」していく必要があるのです。
新築マンションには、引渡し後一定期間内に建物や設備の故障や不具合が見つかった場合、売主であるデベロッパー(分譲会社)が無償で補修をするという「アフターサービス」が付いています。
アフターサービスの対象となる部位や期間は各デベロッパーの規定によりますが、ほとんどの部分が引渡し後2年までとなっており、構造耐力上主要な躯体部分や雨漏りなどについては10年までとされているケースが目立ちます。
「引渡し後2年」の部位が多い理由は、宅地建物取引業法において売主が不動産事業者の場合の瑕疵担保責任が「最低でも引渡し後2年以上について、物件の品質に関して責任を負わなければならない」と定められていることによります。
<マンション共用部分の主なアフターサービスの対象部位と保証期間>
適切な大規模修繕を行うためには、このアフターサービスの期間を上手に利用することが大切です。
というのも、アフターサービスを利用することにより初期の不段階で不具合や施工不良を無償で補修しておくことにより、10数年後の大規模修繕で自分たちの修繕積立金で補修する必要がなくなるため、その差は大きなものになるといえるでしょう。
ただし、アフターサービスを利用するためには、住民自身が建物や設備の不具合を発見して、瑕疵担保責任を負う売主のデベロッパーに申し入れる必要があります。
そのためには、各入居者が所有する専有部分だけでなく、共用部分に目を配らなくてはなりません。
また、不具合や故障をチェックするためには、最低限の建築知識や法律などを理解しておく必要があり、その後のデベロッパーとの交渉に関しても、ある程度の交渉スキルが必要となります。
アフターサービスの期間は前述の通り、2~10年間と期間が限られているため、早い段階から住民間の建物(特に共用部分)に対する意識を高めておかなければなりません。
マンションの修繕・メンテナンス工事には、日常的に行う軽微な工事(共用廊下の電球などの消耗品交換や扉の作動調整など)とマンションの経年劣化に合わせて計画的に行う工事の2種類があります。
このうち、大規模修繕とは後者のことを指し、具体的には外壁の補修工事や屋上防水工事、鉄部や外壁の塗装工事、給排水管取替工事などが該当します。
分譲マンションにおいては、区分所有者で結成する管理組合が主体となって、建物や設備の経年劣化による重大な不具合や故障の発生を防ぐために、長期修繕計画を策定して計画的な修繕工事を実施します。
この計画的な修繕工事は、全区分所有者が積み立てている修繕積立金を原資として行われ、工事内容が大規模であり、工事費が高額かつ工期も長期にわたるものを一般的に大規模修繕と定義しています。
大規模修繕においては、「修繕」だけでなく同時に「改修」を行うケースがありますが、その違いは何にあるのでしょうか。
ここでは、「修繕」と「改修」の違いについて、説明します。
「修繕」とは、経年劣化などにより発生した建物や設備の不具合を修理・取替などを行うことによって、本来の性能や機能を回復させることをいいます。
つまり、老朽化・劣化した建物を新築時と同等の性能レベルにまで戻すことが目的であり、「修繕」は、いわゆる「Reform=リフォーム」の意味と同じです。
ちなみに、大規模修繕と関わりのある計画修繕においては、「修繕」は一定の期間ごとに計画的に行われます。
そのため、劣化や不具合が発生した際にその都度行われる「補修」や「小修繕」とは区別されています。
マンションに求められる性能や機能は、生活スタイルの変化や消費者のニーズ、各メーカーの技術向上などにより高まってきています。
これにより、以前は住みやすかったマンションも性能・機能が陳腐化し、不動産流通マーケットでの流動性が低下して資産価値が下落するリスクが顕著となっています。
そうした資産価値の下落リスクを防ぐためには、前述の「修繕」による性能・機能回復だけでなく、時代の変化や入居者のニーズを取り込んでマンションの改良(グレードアップ)を図ることも必要です。
このように、「修繕」と「改良(グレードアップ)」により、建物の性能や機能を新築時のレベルより向上させたり、価値を高めたりすることを「改修」といいます。
「改修」は、いわゆる「Renovation=リノベーション」の意味と同じです。
<マンションの計画修繕と大規模修繕の概念図>
引用元:国土交通省ホームページ マンション管理について「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(平成20年6月策定)」より
上の図は、計画修繕と大規模修繕の概念を表していますが、社会の変化などにより現状の一般的住宅水準が向上していくため、大規模修繕の回数を重ねるごとに改良の割合を大きくしないと現状のレベルに追いつかないことがわかります。
マンションの大規模修繕は、建築基準法第2条十四および十五に規定される種別とは異なります。
(用語の定義)
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(中略)
十四 大規模の修繕 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。
十五 大規模の模様替 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替をいう。
(以下省略)
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
一般的なマンションの大規模修繕は、主要構造部について修繕を行うことはなく、増築や改築、用途変更などを行わない限り建築確認申請も必要ありません。
そのため、施工された大規模修繕工事が建築基準法に適合する工事内容になっているかどうか、役所や検査機関によるチェックは行われません。
ただし、建設業法第26条により、工事現場に施工の技術的な管理を行う主任技術者を置かなければならないと定められており、元請として請負契約金額が3,000万円以上(建築一式工事の場合は4,500万円以上)を下請契約して工事を行う場合には、主任技術者に代えて監理技術者を置かなければならないと定められています。
第二十六条 建設業者は、その請け負った建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。
2 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第三条第一項第二号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第十五条第二号イ、ロ又はハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあっては、同号イに該当する者又は同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。
(以下省略)
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
1980年代以降、マンションのデベロッパーや系列管理会社によって、竣工後30年程度までの大まかな修繕工事の項目と周期を、分譲時にあらかじめ長期修繕計画として取りまとめているケースが多く見られます。
これらの長期修繕計画は、国土交通省による長期修繕計画のガイドラインがもととなっており、ガイドラインでは12年をひとつの周期として必要な工事が集中しています。
<各修繕工事の適齢期の事例>
引用元:国土交通省ホームページ マンション管理について「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(平成20年6月策定)」より
注意しなければならないのは、原則12年周期に基づいて修繕計画や予算を組み立てるのはよいのですが、どのマンションも一律に同じような劣化が進むとは限らない点です。
例えば、海沿いのマンションであれば、塩害により塗装の劣化や鉄部の腐食が内陸部のマンションより早いなど、個別の要件や事情により状況が変わってきます。
そのために、長期修繕計画で定められた大規模修繕の予定時期になったら、専門家による建物や設備の診断を実施して、診断結果に基づいてどのような修繕を行うべきかを把握することが大切です。
また、長期修繕計画であらかじめ策定された予算計画も、新築時の性能・機能に基づいて立てられており、大規模修繕実施時点での細かな劣化状況などを想定していない場合があるため注意が必要です。
住民が日常的な管理や計画修繕について、管理会社に丸投げするのではなく、主体的に取り組むことが大切です。
<大規模修繕の収支計画の事例>
引用元:国土交通省ホームページ マンション管理について「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(平成20年6月策定)」より
大規模修繕工事は、外壁塗装・屋上防水・鉄部塗装などの躯体部分の工事と、エレベーター・給排水管・機械式駐車場などの設備部分の工事を一度にまとめて行います。
マンション外部に仮設足場を組み立てて、一般的には数ヶ月から半年程度の工期をかけて施行され、大規模マンションであれば1年以上の工期を要する場合もあります。
ここでは、主な大規模修繕工事の内容について説明します。
仮設工事には、共通仮設工事と直接仮設工事の2種類があります。
共通仮設工事は現場事務所・資材置き場・仮設トイレ・仮設倉庫などを設置するための工事であり、直接仮設工事はマンションの外部に架ける足場設置工事がメインとなります。
足場のほかにも、飛散防止のメッシュシートや落下を防止するための防護柵、侵入防止用フェンスなどの養生を設置します。
塗装工事には、主に外壁塗装工事と鉄部塗装工事の2種類があります。
外壁塗装工事については、塗装工事自体は第1回目の大規模修繕では行われないこともありますが、足場が設置されていることから、外壁のコンクリート補修・タイル補修・シーリング打ち替えなどを行うケースがあります。
外壁塗装工事を行う場合の作業としては、劣化した塗膜の除去・ケレン(サビ落とし)・塗装・仕上げ処理という流れで行われます。
鉄部塗装工事は、住戸玄関ドア・共用部分ドア・手すり・共用廊下・共用階段・バルコニー・自転車置場・メーターボックスなどの鉄部等を塗り直す工事です。
防水工事には、屋上防水工事と床防水工事の2種類があります。
屋上防水工事にはルーフバルコニーなども含まれ、防水方式には、アスファルト防水・シート防水・塗膜防水などがあります。
それぞれの一般的な耐用年数は、アスファルト防水17~20年、シート防水10~15年、塗膜防水10~13年と言われており、マンションの場合はアスファルト防水が多く見られます。
また、床防水工事はバルコニー・外部開放廊下・外階段などに対して行われます。
これらの防水工事は、不具合部分を補修しながら既存の防水層のうえに重ねて防水層を施工する方法と、既存の防水層を全面的に撤去して新しく防水層を施工する方法があります。
防水工事を行う場合は、既存防水の仕様・現状の劣化状況などを確認・分析したうえで、最適な材料の選定・施工方法を決定します。
マンションの設備には、給水設備・排水設備・電気設備・ガス設備・空調換気設備・情報通信設備(テレビ共同受信設備や電話・インターネットなど)・消防用設備・エレベーター設備・機械式駐車場設備などがあり、これらの設備類の改修工事も必要となります。
東京都都市整備局が平成25年3月にリリースした「マンション実態調査結果」によると、東京都内の分譲マンションの大規模修繕工事費用総額として、最も割合が高い金額帯は「1,000万円超~3,000万円」で35.0%、次いで「3,000万円超~5,000万円」で22.2%となっています。
中には「1億円超」という費用がかかったマンションも6.7%あります。
<分譲マンションの大規模修繕工事費用総額(東京都内)>
引用元:東京都マンションポータルサイト マンション実態調査結果 より
このデータからは、大規模修繕を行った場合の工事費用総額しか把握できません。
そのため、マンションの戸数や大規模修繕の回数に応じて、どのくらいの費用がかかっているのかを確認することはできませんが、全体の44.1%のマンションが3,000万円超の大規模修繕工事費用がかかっており、1,000万円超となれば全体の79.1%を占めています。
また、下のグラフはマンションの戸数に応じた戸当たりの大規模修繕工事費用を示しています。
<住宅戸数×戸当たり大規模修繕工事費用(東京都内)>
引用元:東京都マンションポータルサイト マンション実態調査結果 より
これによるとマンションの戸数によって割合は異なりますが、最も割合の高いボリュームゾーンは戸数に関係なく「60万円以上~90万円未満」であることがわかります。
次いで「90万円~120万円未満」の割合が比較的高くなっています。
データからは、マンションの戸数に関わらず、「30万円~120万円未満」の間に全体の60%以上のマンションが該当しています。
ただし、このデータからは大規模修繕の工事内容や回数などが確認できないため、このデータを自分のマンションに即適用することはせずに、あくまでも目安に留めておきましょう。
なお、実施した工事種別では、外壁補修84.8%、屋上防水・塗装79.0%、鉄部の塗り替え78.2%、廊下・ベランダの防水69.4%の順になっています。
<工事種別>
引用元:東京都マンションポータルサイト マンション実態調査結果 より
興味深い点としては、バリアフリー対策や防犯カメラ等の防犯設備整備など、マンションの付加価値を高める工事内容が含まれていることです。
やはり、資産価値の下落を防止するためや、社会性の変化に対応するために、こうしたバリューアップ工事を行うマンションが増えています。
大規模修繕工事費用は、区分所有者が毎月積み立てている修繕積立金を原資としていますが、そもそも修繕積立金の適正額とはどのくらいなのでしょうか。
国土交通省が平成23年4月にリリースした「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」にマンションの規模による修繕積立金の平均額が目安として示されています。
<専有床面積当たりの修繕積立金の額>
引用元:国土交通省ホームページ 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」より
このデータをもとに試算してみます。
例えば、地上10階建・延床面積8,000平方メートルのマンションの場合、専有面積1平方メートル当たりの修繕積立金の平均額は202円となります。
専有面積70平方メートルの部屋を所有している場合、修繕積立金の目安は、202円×70平方メートル=14,140円/月となります。
ただし、機械式駐車場がある場合は、別途その修繕工事費用が加算されます。
なお、上の表には15階~19階のデータが記載されていません。
その理由として、15階~19階のマンションは特別避難階段等の設置が義務付けられているために供給量が少なく、目安算定に用いる事例が十分ではなかったためです。
15階~19 階のマンションの目安については、「15 階未満」の目安と「20 階以上」の目安との間に収まるものと考えられます。
ここでは、大規模修繕の円滑に進めるために、全体の流れと進め方について説明します。
各ステップをひとつずつ着実に実践することが大切であり、成功のカギとなります。
大規模修繕の時期が近くなったら、事前準備として管理組合の理事会の諮問機関として長期修繕委員会などの専門組織を設置し、設計図書類やこれまでの細かな修繕履歴などもリストアップしておきます。
理事会と長期修繕委員会が中心となって、大規模修繕のパートナーとして設計会社やコンサルタント会社の要否や総合的な発注方式などを検討します。
また、区分所有者への広報活動などについても準備しておきます。
大規模修繕への第一歩が「調査・診断」です。
まず、専門家による建物診断を行い、建物や設備の劣化状況や不具合、性能低下などを客観的に把握したうえで、修繕や改修の必要性を判断する根拠とします。
無駄な工事を省くためにも、建物診断は重要な位置付けとなります。
建物診断の結果は資料配布もしくは説明会等を開催して、区分所有者間で共有できるようにします。
建物診断の結果を踏まえて、長期修繕計画の見直し(ない場合は策定)を行い、今回の大規模修繕後20~25年といった長期的な視点で、資金計画や修繕対象・仕様等の基本計画を検討します。
コンサルタントなどの専門家を入れた場合は、アドバイスを受けながらこのステップを進めていくこととなります。
設計会社を入れる場合には、まず設計会社を選定します。
選定した設計会社が実施設計を行い、仕様書や積算資料などを作成します。
それらの資料をもとに、複数の施工会社から見積もりを取得し、工事に対する提案やアドバイス、これまでの実績などを比較・検討して施工会社を選定します。
なお、設計会社や施工会社の選定については、総会の承認が必要となります。
工事を施工する施工会社と工事を監理する設計会社が決まりましたら、それぞれ「工事請負契約」「工事管理業務委託契約」を締結します。
実施設計を行った設計者が工事監理を行い、工事中のフォローをしていくことが望ましい体制です。
また、大規模修繕工事は、工事中に設計内容が変更となるケースが多く見られるため、工事中に新たに生ずる問題に対して柔軟に対応することが大切です。
工事が完了しましたら、修繕計画通りに工事が行われたかを理事会によって確認し、不備があれば手直し工事を要請します。
また、実施した工事や変更点は総括して長期修繕計画に反映させ、次回の大規模修繕に向けて整理しておきましょう。
大規模修繕を行う場合、施工会社のほかに設計会社やコンサルタントなどの専門家に設計監理業務や全体のマネジメントを依頼するケースもよく見られます。
ここでは、そうした大規模修繕の発注方式について理解していきましょう。
責任施工方式は、管理組合が自ら複数の施工会社を探して、相見積もりや各種提案を通して比較・検討のうえ、施工会社を選定します。
選定された施工会社に、建物診断から実施設計、資金計画、工事施工、工事監理のすべてを一任することになります。
<メリット>
・競争原理が働き、費用を低く抑えることができる
<デメリット>
・管理組合の負担が大きい
設計監理方式とは、実際に工事を施工する施工会社と別に、建築士を有する設計事務所や管理会社等を選定して、まずは建物診断から実施設計、施工会社選定、資金計画等の業務を委託し、大規模修繕工事が着工したら工事監理を委託する方式です。
<メリット>
・工事内容や費用に関して、専門家の視点でチェックができる
・入札形式で施工会社を選定できるため、競争原理を働かせることができる
・工事施工の透明性が担保され、責任の所在が明確になる
<デメリット>
・設計会社へ支払う費用が生じる
コンストラクション・マネジメント方式は、アメリカで一般的に行われている方式です。
この場合、管理組合とマネジメント契約を締結した代理人であるコンストラクション・マネジャーが、第三者の公平中立な視点で大規模修繕をすべてマネジメントし、適正な工事品質や工期、費用が担保されているか専門家の立場でチェックします。
設計監理方式と全体のスキームは似ていますが、コンストラクション・マネジャーは施工や監理などの担当分野だけでなく、大規模修繕のすべてをマネジメントする点が異なっています。
近年、日本でも増えてきている発注方式です。
管理組合の理事や理事長のなり手不足は、近年、多くのマンションで問題となっています。
住民が高齢化してなり手がいない、仕事を口実にみんな逃げてしまう…など理由は様々ですが、くじ引きや抽選によって理事や理事長を決定しなければならないマンションも少なくありません。
マンション管理組合の理事や理事長はただでさえ負担の大きなポジションですが、大規模修繕のタイミングと重なってしまえば、なお一層負担が大きくなります。
しかし、これからの時代は「自分の財産は自分の手で守る」ことが大切です。
理事や理事長の立場で、真剣に大規模修繕に取り組めば、他の区分所有者から「みんなのためにありがとう」「本当によくやってくれました」など言ってもらえるに違いありません。
その場合は、きっと「引き受けてよかった」と感じることができるでしょう。
大規模修繕においては、理事や理事長のやる気や熱意が工事の品質や費用に必ず反映されます。
理事や理事長の腕の見せ所と考えて、ぜひ取り組んでみてください!