住宅の火災保険は2015年9月に旧制度から変わり、最長10年間しか保険を掛けられなくなりました。
考えてみれば東日本大震災以降、度重なる災害によって、火災保険ほど制度の変更を余儀なくされた保険はありません。
ここでは普段なら取り上げる機会の少ない住まいの火災保険について、選び方や対象範囲、また相場観を中心に、総合的な視点で見ていきます。
目次
火災保険とは、火災や自然災害を含むその他の災害で、建物や家財などに損害が生じた際に補償する保険です。
ところで究極ですが、生命保険と損害保険、あなたならどちらがより重要でしょうか。
少し馬鹿げた質問ですが、日本では税金で個人の財産に対する補償を十分に行えないのが政府の立場だと考えると、被災者の生活立て直しという観点から、火災保険などの損保をより重視しなければならないのはこの10年間を見ても、身にしみて分かることではないでしょうか。
諸事情によって住む場所を自由に変えられない方が多いことを考えると、我が家のおかれているリスクを見極めて、より実効性のあるコストバランスのとれた火災保険に検討したいものです。
住宅ローンと火災保険は原則関係ありませんが、住宅ローンを償還中、万一災害等が起きた場合、保険でローンを完済しなければならないこともあるでしょう。
ここでは、住宅ローンと火災保険の関係について見ておきます。
住宅ローンを使って家を建てる場合も、私たちは火災保険を検討しなければなりません。
この場合、金融機関が保険に指定してくることは
などです。
もちろん銀行も特定の損保会社の代理店を兼ねていますので、融資担当者が自分の担当する保険の紹介はしてくるでしょう。
ただし、銀行が紹介した火災保険への加入が義務ということはありません。
あくまで自分で加入したい保険を自由に選んで構いません。
ただ金融機関によってはローンの担保として、火災保険の保険金を請求する権利(保険金請求権)に対し、質権を設定することは今でもあります。
火災保険に質権設定すると、火災事故などが発生した際に支払われる保険金は、質権者である金融機関が受け取ります。
そして金融機関の同意なしには、火災保険を勝手に解約はできません。
また住宅ローンを完済するまでは、保険証券は金融機関が管理し、保険契約者には証券ではなくその写しが保険会社から渡されます。
細かいことですが、注意点として覚えておくといいでしょう。
かつての火災保険は、経年劣化を考慮した「時価額」が基準の保険商品が主流でしたが、ここ最近は「再調達価額」を保険金として設定する火災保険が一般的です。
私たちが住宅ローンを使う場合、金融機関も「時価額」ではなく「再調達価額」で火災保険を指定します。
「再調達価額」とは火災などで損害が生じた建物を再取得するのに必要な金額を算出し、それをもとに保険金を決めます。
従って火災保険を「再調達価額」で掛けておくと、建物が全焼してしまった場合でも、保険金で同じ建物を建てられます。
また「再調達価額」については、よく「新価」との違いを聞かれる場合があります。
「再調達価額」は「損害が生じた地および時において」保険の対象と同一の質、用途、規模、型、能力のものを再取得するのに要する額をいいますが、「新価」には損害が生じた「地および時」という概念がありません。
「新価」とは、あくまで保険の対象と同一の質、用途、規模、型、能力のものを再取得するのに要する額のことですが、私たちが普段使うなかで、両者はほとんど同じ意味として捉えて問題はありません。
では「時価額」はどうでしょう。
「時価額」とは、損害が生じた時点の経年劣化した物の価値をもとに保険金を決めます。
「時価額」は「再調達価額」よりも火災保険の保険料は安くなりますが、たとえば建物が全焼してしまうと保険金だけでは同じ建物を建て直せないばかりか、住宅ローンも完済できない可能性があります。
保険料は確かに上がりますが、火災保険から十分な補償を得るには「再調達価額」で契約することがいまや常識です。
一般的に火災保険は住宅の災害に備える保険と考えがちですが、もとは広い意味であらゆる建物に使われています。
ここでは火災保険をいろんな角度で分類してみます。
火災保険の対象は、物件によって「住宅物件」「一般物件」「工場物件」「倉庫物件」の4つに分類され、補償の範囲や内容が火災保険の種類によって変わってきます。
ここで解説しているのはもちろん「住宅物件」の火災保険です。
住宅用の火災保険は「建物への補償」と「家財などへの補償」の2つの主契約に、各種特約・賠償責任保険・傷害保険などの組み合わせで構成されています。
また住宅用の火災保険は建物と家財の両方はもちろん、家財だけといった加入の仕方も選択できます。
また「住宅物件」の火災保険は、以下のように大きく4つの種類に分類できます。
・住宅火災保険
・住宅総合保険
・オールリスクタイプ
・特約火災保険
ただし住宅ローンに使われる特約火災保険(住宅金融支援機構の特約火災保険)は、2016年3月31日をもって新規契約引受を終了しましたので、現在新規引受が可能なのは特約火災保険を除く実質3種類です。
これから火災保険を検討する場合、「住宅総合保険」や「オールリスクタイプ」から火災保険を選択し、立地環境やリスク要因に応じて必要な補償を選びます。
(もちろん補償は限定的ですが、最も基本的な「住宅火災保険」を選択しても良いでしょう)
火災保険は建物の補償と家財の補償に分かれますが、建物の補償はこの後で解説するとして、ここでは先に家財保険について簡単に解説しておきます。
家財保険は生活に関連する動産(家財)を補償する保険です。住宅ローンを使う場合、建物の火災保険には入っていると思いますが、家財保険にも別途加入しておくことをおすすめします。
家財保険の補償額(保険金額)の決め方ですが、家財保険は世帯主の年齢、家族構成によって基準となる補償額があります。
保険金額の設定は保険会社によっても違ってきますが、ある程度補償額を決められるものと、いくつかの決まったパターンから選択できるものもあります。
たとえば独身者の1人住まいなら300万円、4人家族なら700万円〜2000万円という具合に設定補償額(保険金額)が決まっています。
補償額が気になる場合は、実態に合うように一度代理店に見てもらうのも良いでしょう。
また家財保険で忘れてはいけないのが「明記物件」です。
「明記物件」とは一個(一組)の価額が30万円超の貴金属、宝石、書画、骨董などで、上限は100万円までです(住宅総合保険の「盗難による盗取、毀損、汚損」が該当します)。
これらは通常の家財の補償とは別に、「明記物件」として補償をつけなければなりません。
また「明記物件」として補償をつけるには、価額の根拠となる資料等が必要です。
火災保険によっては、とくに明記しなくても一定額までは補償するタイプの保険もありますが、該当する家財があれば保険契約の際に確認しておきましょう。
なお、賃貸住宅に住む場合、家財保険に「借家人賠償責任保険」を付帯しておくことが大切です。
これについては機会をみて解説したいと思います。
保険契約者が支払う火災保険料は、建物の構造や所在地などによって大きく変わってきます。
これは保険料を決める料率が、建物の構造や所在地などによって決定するからです。
では建物の構造や所在地はどのように分類されているのでしょうか。
火災保険の建物は、現在3つの構造級別に整理されています。
3つの構造級別は以下の通りです。
コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、レンガ造建物、石造建物、耐火建築物の共同住宅建物
コンクリート造建物、コンクリートブロック造建物、レンガ造建物、石造建物、鉄骨造建物、耐火建築物、準耐火建築物、省令準耐火建築物
M構造、T構造に該当しない建物。一般木造など
保険料はM構造からH構造に向かって高くなります。
台風や豪雪等の自然災害が発生する頻度や被害の程度、また建物密集度による延焼リスクは、地域により違ってくるため、建物の所在地(都道府県別)により保険料率を区分けしています。
火災保険にはいろいろな割引制度があり上手に活用したいところです。
なお、保険会社や商品によって名称が異なりますので注意してください。
代表的な割引をあげておくと、オール電化割引、高機能住宅割引、新築物件割引、省令準耐火料率・耐火性能割引、耐震性能割引、既契約者割引などがあります。
火災保険の補償範囲と内容以下に示す通りです。
それぞれの補償範囲にも触れていますので、簡単にみておきましょう。
建物や家財を対象とする火災保険では、以下のような災害や事故によって生じた損害に対して保険金が支払われます。
家が火事にあった場合はもちろんですが、落雷で電化製品が壊れたり、ガス漏れで爆発が起きたりした場合も補償されます。
台風や竜巻で屋根が飛ばされた場合や、雹(ひょう)が降って家の屋根に穴が開いた、豪雪によって家屋が壊れた場合も補償されます。
ゲリラ豪雨で床上浸水した場合もこの補償が該当します。
なお「住宅火災保」の補償範囲は火災・落雷・破裂・爆発と風災・雹災・雪災までで、これ以降の補償は「住宅総合保険」か「オールリスクタイプ」でなければ付けられません。
台風や突然の豪雨等で床上浸水した場合はもちろんのこと、また高潮、土砂崩れ等の災害もこの補償が該当します。
家屋の掃除中に誤って窓ガラスを割ってしまった場合や、子供が室内で物を投げて窓ガラスを破損したときにこの補償が該当します。
水道管から水漏れや、床が水浸しになった場合にこの補償が該当します。
たとえば家屋に誤って自動車が飛び込んで衝突してきた際、この補償が該当します。
デモに伴う暴力行為によって家屋や建物が壊された場合に補償が該当します。
泥棒に家財が盗まれた、鍵や窓が壊された場合にこの補償が該当します。
火災保険に限りませんが、保険には免責金額を設定できます。
「不測かつ突発的な事故(破損・汚損)」は、免責金額(自己負担額)を0万円にしていても、自己負担額(1万円程度)が発生します。
破損・汚損の補償が不要な場合は、あらかじめ補償を選択できるタイプの火災保険を選ぶようにしましょう。
なお火災保険の免責金額は、任意で設定できる免責額が通常は「0円、1万円、3万円、5万円、10万円」など、保険会社によって違ってきます。
また免責金額は補償内容を問わず一律に適用されるもので、免責金額が多くなれば保険料は安くなります。
ただ、風災・雹災・雪災については、他の補償と別に免責金額を設定できる火災保険がありますし、水災については実損、定率かを選べる火災保険もあります。
どの火災保険にしたら良いか迷っている方は、立地環境とリスク度合いを考慮し、検討してみると良いでしょう。
このほかにも、次のような費用にも保険金が支払われる火災保険があります(こちらは「住宅火災保険」「住宅総合保険」共通です)。
家屋が災害に見舞われた際に必要になる宿泊費、交通費等の臨時費用を補償します。
保険金×30%。100万円を限度。
火災などにより損害を被った場合に、家屋や家財の取り壊し、撤去、搬送などの処分にかかる費用を補償します。
実費(損害保険金×10%限度)。
被災世帯数×20万円限度、保険金額×20%を限度。
家族が死亡、後遺障害、重傷を受けたときに臨時に生じる費用を補償します。
死亡・後遺障害のときは保険金額×30%。重傷時は保険金額×2%(1名につき1,000万円限度)。
火災、落雷、破裂・爆発の事故で消火活動に要した費用を補償します。
地震による火災で家が燃えてしまった場合などに発生する臨時の費用を補償します。
保険金額×5%。300万円を限度。
(地震保険から支払われる保険金とは異なります)
特約の選択によって、保険料は大きく変わります。
とくに最近では水災を不担保できる火災保険契約が増えています。
最近の天候の異常から、水災害はもっとも心配しなければならない災害のひとつですが、高台の立地で土砂崩れの危険性もない住宅地の一戸建てで、排水についても問題がない地域に新居を構えるとするなら、水災の補償の必要性は低いかもしれません。
またマンションの高層階などに住んでいる人にとっても同じことが言えるでしょう。
このような場合、水災補償を外して火災保険の保険料を安くするという方法が、2008年頃から一般的に広まっています。
水災不担保にすると火災保険は確かに安くなります。
特に戸建住宅は水災補償を外すと、保険料がかなり抑えられることがわかっています。
また最近の10年更新型の代理店型損保型火災保険でも、30万円掛かる保険料が水災を外しただけで20万円程度になる火災保険があります(住宅総合保険、所在地:東京都、構造級別:H構造。ただし代理店型損保の場合)。
ただし省令準耐火構造(T構造)のツーバイフォーの建物が在来工法(H構造)の建物と同じように、3割から4割程度も保険料が下がることはないでしょう。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・ツーバイフォー住宅とは?ハウスメーカー・特徴・欠点を解説![/su_box]また、マンションの場合は下がっても2割強という結果です。
しかしM構造で2割も変わるのですから、検討してみる価値はありそうです。
なお注意点として、水災補償を外すと水害での補償は一切なくなります。
水災補償を付けるか外すかの判断は慎重に行う必要があります。
火災保険の保険料の相場について、こちらで把握している範囲でお答えしますと、水災不担保の項目でも伝えた通り、H構造の標準的な住宅での火災保険の保険料は大体30万円程度となるでしょう(住宅総合保険、契約期間10年、代理店型損保の場合)。
ただ保険会社による補償内容の微妙な違いや、所在地・構造によっても保険料は変わりますので、一概に断言できないことをお断りしておきます。
同じ条件でネット損保を使うと、もちろん保険料はさらに安くなると思います。
ただし保険料は会社によって開きがあるため、相場をお伝えするより各自で見積もりをとってみることをおすすめします(保険料は同じ条件だと、10年で大凡20万円台に収まるとかと思います)。
また他の構造については、残念ながら相場観を伝えられるほど情報を把握しておりません。
これについても、一度各自の状況に合わせて見積もりをとることをおすすめします。
住宅ローンを組む場合に火災保険には入ったけれど、地震保険も考えている人もいるでしょう。
最後に地震保険にも触れておきます。
ご存知の方も多いと思いますが、地震保険はそれ単体では加入できず、火災保険に付帯して加入するのが前提です。
さらに地震保険は次のような特徴があります。
・地震保険の契約期間は最長5年ごとに更新されます。
・地震保険は国と民間損保会社の共同運営によって成り立っています。
・地震保険の対象は居住用の建物と家財のみです(事業用の建物は補償対象にはなりません)。
・地震保険の保険金額は、火災保険(家財も含む)の30%〜50%の範囲内で設定されます。
・地震保険の最高補償額は建物が5,000万円、家財が1,000万円です。
・被害が広範囲に渡る大震災については補償が減額される可能性があります。
各自要件を理解したうえで、地震補償を検討しましょう。
2017年1月1日から地震保険の損害区分が、これまで3つの区分だったのが4つに変わっています。
補償の範囲(割合)は以下の通りです。
全損の場合:保険金額の100%
大半損の場合:保険金額の60%
小半損の場合:保険金額の30%
一部損の場合:保険金額の5%
また損害認定の基準も新しくなっています。
【全損】
基礎、柱、屋根などの損害額が建物の時価の50%以上。
焼失・流失した部分の床面積が建物の延床面積の70%以上。
【大半損】
基礎・柱・屋根などの損害額が建物の時価の40%以上50%未満。
焼失・流失した部分の床面積が建物の延床面積の50%以上70%未満。
【小半損】
基礎・柱・屋根などの損害額が建物の時価の20%以上40%未満。
焼失・流失した部分の床面積が建物の延床面積の20%以上50%未満。
【一部損】
基礎・柱・屋根などの損害額が建物の時価の3%以上20%未満。
全損・大半損・小半損に至らない建物が床上浸水(地盤面から45cmを超える浸水)。
地震保険も以下に示す通り、建物の構造級別と所在地によって料率が変わってきます。
当然ながら、ロ構造(一般木造)のほうが保険料は高くなります。
イ構造:鉄骨造やコンクリート造の建物など(非木造)
ロ構造:木造の建物など(木造)
1等地から3等地に向かって保険料は高くなります。
1等地:岩手県、秋田県、石川県、福岡県など
2等地:北海道、青森県、京都府、宮崎県など
3等地:神奈川県、東京都、大阪府、高知県など
また地震保険は耐震性能が優れている建物には割引が適用されます。
1981年6月1日以後に新築した、いわゆる「新耐震基準」に該当する建物(1981年6月1日以後に建築確認申請済)に適用されます。
耐震診断・耐震改修により、現行耐震基準(新耐震基準)を満たしている建物に適用されます。
住宅性能表示制度の「耐震等級1・2・3」に該当する場合、等級に応じ10%、30%、50%割引が適用されます。
住宅性能表示制度の「免震建築物」に該当する建物に適用されます。
なお、これらの割引制度の複数適用はできません(複数あげた場合は、割引率が高いものが適用されます)。
ただし建物・家財のどちらにも上記の割引率が適用されます。
地震保険の火災保険に対する付帯率は6割強と言われています。
保険は最終的にコストバランスがすべてですが、地震保険に関心がある方は一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
普段、解説することが少ない火災保険をまとめてみると、伝えるべき項目が多いことに今回あらためて気づきました。
住まいの火災保険は生活に密着した大切な保険です。
更新情報が新たに出た場合は、適宜内容を刷新していければと考えています。