※この記事は、2019年6月20日のインタビューで発表した「会社員の副業」についての書き起こしです。
目次
近年、世の中では副業について注目が集まってきています。今回は、本業を持ちつつ副業をしている弦本さんに、どういう風にキャリアを形成してきたのかをインタビューしたいと思います。本日はよろしくお願いします。
弦本:よろしくお願いします。
ということで、テーマは「会社員の副業」なのですが、副業という言葉自体はよく耳にするようになってきたと思います。しかし一方で、実際の現場ではなかなか浸透していなくて、企業によっては制限も多いと思っています。
ここでは、個人にとって、何がメリットで、何がデメリットなのかを整理しておきたいと思います。
弦本さんは、どんな副業をされているのか、そのきっかけは何だったのかを、少しお聞かせいただけないでしょうか?
弦本:はい、そうですね。もともとはリクルートに内定したのがきっかけです。2011年の4月に入社をしましたが、その当時は1年前には内定が決まっていたので、同期が100人いたのですが、これを機会に一人ひとりと、同期に会いに行っていました。
僕自身は大学ではプログラミングを勉強していて、あまり外との関わりがなかったのですが、そしたら100人のうちの30人がすでに学生時代から起業をしていて、負けたなと思い、自分も起業したいなと思って、起業をしました。
ただ、起業といっても2011年3月に形だけ作ったというものでした。実際に会社を作ってみたはいいけど、やる事業は決めていなかったので、起業している同期たちに再度アドバイスをもらいました。
最初はイベント系がいいよと聞いて、イベントをすることにしました。イベントは、次につながる人脈もできるし、お金もその場で集めてお店に払うだけなので、初期費用やリスクが小さく、はじめやすいということでした。
まずは、とりあえずやってみました。そして、その後は徐々に自分の味を出していきました。もともと、「専門性のある人を応援したい」という想いがあったので、それができるようなイベントを手がけるようになりました。
それをはじめたのは、入社1年目だったのですか?
弦本:そうですね。
やってみてどうでしたか?発見できたものありましたか?
弦本:意外と会社を作るのは簡単なんだなとわかりました。ネットで調べ、無料相談をして、定款を作ったり、目的を書いたりして、20万円と少しで作れたと思います。
そうだったのですね。本業と副業の違いとはなんですか?
弦本:副業は、自分の「やりたいこと」ができると思います。本業は意思決定を自分では完全にできないので、副業は「ゼロから立ち上げる経験」ができて、「自分の本当にやりたいことができる」のはメリットだと思っています。
やられている副業は、個人で決裁できるというのもありますからね。
弦本:そうですね、自分でできる範囲でやっていますから。
会社だと様々な収支を考慮したり、稟議を通したりしないといけないですよね。自分のやりたいことが意思決定できるのは何が違うのですか?
弦本:たとえば、起業した2つ目の会社は、高等専門学校(高専)を対象にした会社があります。社会人1年目の終わりの時期に、リクルートにインターンに来ていた学生さんで、高専出身の子がいて、こんなに可能性のある人たちが短大卒扱いされて、5年制で短大と一緒だから東京に出てきても就職がしづらいというのを知りました。
高専生向けのビジネスは、リクルートなどの大企業の論理だと、それだけでは市場が小さいので、サービスをすることができないと思っています。
大企業の論理では優先順位を下げられるような状況でも、自分の想いで選択して、意思決定ができるという実感があります。
なるほど、そうだったのですね。逆にいうと、副業だけにしない理由は何ですか?
弦本:そうですね。それはリクルートが好きで、まだ恩返しをしたいなと思っているからです。
副業が広まっていくとそっちの方が本業になるということはないですか?
弦本:今のところはないですね。できる範囲でやっていますから。
そうですか。本業と副業とは位置づけとしては何か違うのですか?
弦本:自分の会社では、一生をかけてでもリクルートみたいにはできないと思っています。優秀な方々がいて、お金をかけて大規模な会社でダイナミックなことをやっていくというのは副業ではできないし、自分でやったプロダクトを色々な人に使ってもらえて、色々な人に価値を出していくのは大企業ならではのことであり、それはそれで楽しいと思っています。
いまは新卒から入社して社会人9年目ですが、今まで育ててもらっているので、その分をきちんと今の仕事である「組織開発」を通じて、新人教育をしたり、後輩を育てたり、教えてもらっていたものを恩返ししていったりしたいですね。
そうなのですね。脈々と続けていく感じですね。
弦本:そうですね。僕は先人に感謝しているので、後輩に還元するというかたちですね。教育だとかイベント系だとかもそうですけど。
似ている軸がありますね。
弦本:そうですね。
その中で、シナジーなどはありますか?
弦本:ありますね。副業を立ち上げたばかりのときは、信頼もないし、実績もないので、大企業で働いているというのは名刺がわりもなります。大企業では、社会人としてのマナーだとかビジネスマナーとか、それ以外にも決裁の取り方だとか組織の在り方などを学ぶことができるので、自分の会社の方でも活かせますね。
本業でやっていることを活かせるって感じですね。
弦本:そうですね、例えば副業の方で2012年にクラウドワークスやミクシー、ヤフーなどと取引をさせていただいたのですが、リクルートで働いているからということで、スムーズにアポイントがとれて、話を聞いてもらえたと思っています。大学を出た若造がとりあえず作ったみたいな会社では、恐らく会ってもらうこともできなかったのではないかと思います。
そうなのですね。結構そのリクルートというブランドが副業に効いたという感じですね。
弦本:はい、そうですね。そういうノウハウや人脈というのは副業でも活かせますね。信用もありますし。
逆もありますか?
弦本:ありますね。副業はゼロから立ち上げたので、ひたすら人と会い、ビジョンを掲げ、ついてきてくれる人と一緒に新規事業をはじめる経験ができると思います。あとは、起業家精神や経営者視点は、大企業ではなかなか身につきづらいと思いますので、副業をやりながら身につけていきました。仕事が好きだという気持ちや、この事業を通じてこうしたいというビジョンも、大企業で働くうえでも役に立つと思っています。
どっちもシナジーある感じですね。
弦本:はい。最近は経営層やマネジメント層と直接やりとりさせていただく機会が多いので、どうやって意思決定をするのか、どうやって大企業を動かしていくのかという勉強をしているので、副業にも役に立つと思います。
大企業で働きながら副業をするというと、1日の生活はどのようになるのでしょうか。
弦本:そうですね。いまはだいぶ仕組みができてきて、個人としては細々と続けている感じです。
立ち上げたばかりのころは、終電まで大企業で働いて、始発までは自分の会社のしごとをして、3~4時間寝て、シャワー浴びて出勤というのは社会人2~3年目までやっていたのですが、いまは任せられる人に任せて、進捗だけ確認という感じになりましたね。
そうなのですね。型ができたって感じですね。
弦本:はい。
なんでそんなに頑張れたのですか?
弦本:いま思い返しても、あのときの頑張りは、いまでは厳しいかもしれないです(笑)
当時はワクワクしていたから、寝ても起きても楽しいし、リクルートも楽しいし、副業では頭の使う場所が違うというか、切り替えて新しい気持ちでやれました。
どんなことでワクワクしていましたか?
弦本:そうですね。頑張っている人たちがいて、その人たちが自分の可能性に気づいて、輝いていく姿を見るというところです。
高専でいうと、これまで地方にいた学生さんたちに、食費や交通費を出してあげて、東京に呼んで、企業を12社ほどまわるということをしたのですが、学生さんたちがお互いに切磋琢磨して、企業側ともかかわりができて、というのが嬉しかったです。
自分が新しく開拓して価値を作ったという実感があって、自分自身のやっていることが彼らに価値を出しているという実感があって、やりがいを感じますね。
そしたら、副業だけにしようとしないのはなぜですか?
弦本:やはり恩返ししたいというのが一番の理由ですね。自分は育ててもらったし、もうちょっと還元をできてからって感じですかね。
それと、高専はあまりビジネス的にも一気に儲かるようなベンチャーと違って、教育系なので、細々とですが長く続けることに意味があると思っています。
現在の組織開発のお仕事はご自身で希望されましたか?
弦本:はい。
それはなぜですか?
弦本:やっぱり人が好きだからですね。
やってみてどうですか?
弦本:すごくいいと思っています。
例えばどんな点ですか?
弦本:自分が関わっているから良くなっているという実感がですね、本業でも感じられるからです。
人事の人たちは結構忙しくて、意外とポジティブな人が少なくて、面白くなさそうな仕事のイメージがありました。
人事の人は、性悪説で考えていることがありますよね(笑)
弦本:たしかに、採用や年間のイベントごとなど、毎年定常でやっている仕事が多いだから、ミスをしてはいけないというところがあるからかもしれないですね。
そうなのですよね。そんななか、人事はどうですか?
弦本:楽しく働いていますよ。完全な人事ではなくて、これまでの8年間で自分が在籍していた組織を見ているので、現場がどのようなことをしていて、どのようなことを考えて仕事をしているのかがわかる実感があります。
これまではウェブのプロダクトの開発をしてきましたが、そこで培ったプロダクト開発や問題解決などの知識を、人にも当てはめて考えると、考え方として応用できるので楽しいですよ。
そうなのですね。この後は何がしたいのですか?
弦本:そのときそのときが楽しければいいと思っています。よく3年後はどうしたいの?とか聞かれますが、あまり考えていないし、これからも楽しいことやっていきたいなと考えています。
そういったなかでも、人のため、社会のために役に立てて、ありがとうと言ってお金をもらうというのは続けたいですね。
なるほど。10人くらいにインタビューしていて、比較的そういう回答が多いですね。「さきのことなんて考えていません」だとか、「今を生きる」といったのが特徴的です。
弦本:ポイントはワクワクですね。
会社では副業のことは言われませんか?
弦本:言われないですね。しっかり伝えてありますので。
周りの方の反応はどうですか?
弦本:たまに、どう?って聞かれたりはしますね。
ネガティブなことは言われませんか?
弦本:ないですね。
副業に向いている人と向いていない人とは何かありますか?
弦本:そうですね。そう思うとたしかに、まずは本業をしっかりやらないと行けないと思います。副業したいという人は多いですけど、それはただ本業から逃げたいだけだったりすると、結局同じ課題にまたぶつかって、あまりうまくいかないんじゃないかと思ったりします。転職などでもそうですが、将来が不安だからとかではなく、個人的には何か実現したいビジョンやワクワクがあって行動するのを応援したいと思っています。
そうですよね。困っている人を応援したいというのは、どんなことがきっかけでしたか?
弦本:特になくて、大学時代に内定した後に夏休みにヨーロッパを一人旅して、夜行バスや電車に乗って、長時間電車に乗っていたときです。そのときに、そのときに、働くとはなんだろう、生きるとはなんだろうと考えていて、僕自身も色々な人にお世話になっているし、お返ししていきたいな、といった答えにたどりついて、それらがいまの自分のコアの考えとなっています。
そうだったのですか。なんで一人旅に行こうと思いましたか?
弦本:1人になる時間をとろうと思ったからです。もともと人が大好きなので、放っておくといつも予定ばかりが入っていたんですよね。
そうだったのですね。もともとリクルートを選んだのはどうしてですか?
弦本:そうですね。色々なことやりたいと思っていたからです。中学のときに理系を選んだのは、文系のことは自分で勉強しようと思ったからだし、大学のときに情報系を選んだのも、プログラミングやITができれば、ほかの金融や経済、介護などとの掛け算で、色々なことができると思ったからです。
リクルートも人に関することや住宅、車など、様々な事業分野があって、選択肢をしぼらなくていいと思ったからです。
たしかに、ひとつのことに集中するのではないですよね。
弦本:そうですね。同じことをやるのがあまり得意ではなので。
やはりワクワクが肝心ですよね。でも、ワクワクというのは理屈じゃないので、どうやったらワクワクできますか?
弦本:そうですね。2つの方法があると思います。1つは、自分の内面を深く掘って行く方法です。人生の歴史を書き出して、モチベーションのグラフを書いて、自分のテンションがあがっていることの要因の共通点を探すなどといった方法が有効だと思います。
もう一つは、ひたすら外に求めるというものですね。たくさんの人に会うということです。自分にとって新しいことをはじめるときに、自分のなかに選択肢がないときは、外から学んだほうが有効だと思います。そうすると、自分はどうしたいのかが明確になります。
僕も、新しい事業をやろうと思ったら、100人くらいには会います。そうすると、その業界のことをすごくよく理解できるようになります。
弦本さんのような現場主義は、どこで身についたのですか?
弦本:もともと人が好きなので、人と会うのが苦じゃないからかもしれないです。話を聞いていると、その人になりきることができるようになって、この人を助けたいとか、そこから事業がはじまります。
自分のやりたいことを見つけるのが難しいってよく言いますよね。そういう人たちに向けて、何かアドバイスはありませんか?
弦本:そうですね。自分のやって楽しかったことを思い出したり、ワクワクしている人たちに会って話を聞かせてもらうことですね。幸せもそうだと思いますが、すでにあるものに気づくっていうのも大事だと思います。
実は、やりたいことはないのではなくて、気づいていないだけかもしれないです。もしまだ見つけられていない人がいるなら、ぜひ気づいてほしいと思うし、そこから幅を広げてほしいし、刺激を受けて、成長していってほしいですね。
なにかすごく心を打たれました。最近の若い人は、大企業に入ったものの、やりたいことができずに仕事がつまらないというケースが多いじゃないですか。その後のキャリアとか、キャリアで迷子になったり、枠を超えられなかったりしますよね。やはりワクワクを得るというのは今日の一番印象的ですね。最後に言い残したことありますか?
弦本:そうですね。やはりいまの時代、ワクワクがないと続かないし、たとえ給料が高くても、その仕事が長続きしなかったりもすることもあると思います。そのため、自分にとってのワクワクを見つけて、楽しく生きるというのが大事ですね。
本日はありがとうございました!