相続が発生した場合、一定規模の資産があると相続税を納税しなければなりません。
平成27年に相続税が改正され、基礎控除の金額が減額となったために相続税が課税される人が増えていると言われています。
相続税は現金納付が原則ですが、手元に納税するだけの現金がない場合、相続した不動産を売却したお金で納税するケースが多いです。
相続税の納税は期限が定められているため、のんびりと構えていると延滞税や加算税がかかってしまい、余計なお金を払わなければならなくなります。
そこで今回は、
・不動産を売却して相続税を納税する一連の流れや仕組みとは
・どうやって不動産を売却すればよいのか
・必要な手続きとはどのようなものか
・相続税はどうやって計算するのか
・相続税の他に収めるべき税金があるのか
・申告はどうやってするのか
・相続した不動産を高く売るコツとは
など、相続が発生して相続税を納めるまでの一連の流れや注意点などについて詳しく解説します。
無駄な相続税を納めたり、払うべき他の税金を納め忘れたりすることがないよう、しっかりと確認しましょう。
目次
親や配偶者などの親族が亡くなった場合、精神的に動揺したり不安になったりしますが、いつまでもそうしていられません。
相続は始まっているのです。
他の相続人と協力してやるべき対応を進めていかなければなりません。
まずは、相続の開始から不動産売却、納税までの流れを時系列で解説していきます。
<相続全体の流れ>
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産を相続人が引き継ぐことです。
民法では、相続は死亡によって開始し(第882条)、相続開始の場所は被相続人の住所において開始する(第883条)と定められています。
相続が開始されると、被相続人の財産上の一切の権利義務(積極財産・消極財産)が相続人に引き継がれます。
「積極財産」とは、現金、預貯金、有価証券、土地建物などの不動産といったプラスの財産であり、「消極財産」とは、借金などの債務といったマイナスの財産をいいます。
相続人とは、相続により被相続人の財産を引き継ぐことができる一定範囲内の親族のことをいいます。
このうち、法定相続人とは配偶者・子・父母・兄弟姉妹などの血族相続人をいい、その順位が民法により定められています。
配偶者は常に相続人となり、子・父母・兄弟姉妹については、第1順位は子、第2順位は父母などの直系尊属、第3順位は兄弟姉妹と順位が決まっています。
上位の順位の相続人がいない場合に、初めて次の順位の相続人に相続財産が分割されることになります。
つまり、被相続人に子供がいれば配偶者と子供が法定相続人となり、父母や兄弟姉妹に相続財産が分割されることはありません。
被相続人に子供がおらず、直系尊属である父母が法定相続人となった場合は、順位が下位の兄弟姉妹に相続財産が分割されることはないのです。
そして、被相続人の相続財産を誰がどのような割合で引き継ぐのか、民法によって定められている割合を法定相続分といいます。
法定相続分は、以下の表の通り定められています。
遺言書がある場合は、遺言書の内容通りに相続財産を分割しますが、遺言書がなく複数の相続人(共同相続人)がいる場合は、協議によって分割することとなります。
これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議が成立するためには、共同相続人全員の参加と合意が必要となります。
また、遺産分割協議の効力は相続開始の時に遡って生じます。
共同相続人の協議により、各共同相続人が相続する財産が決まれば、その内容を遺産分割協議書という文書として作成します。
遺産分割協議書を作成することにより、後日のトラブルを避けることができますし、相続財産(預貯金・株式・不動産など)の名義変更に際して、銀行や法務局などに対して提出するためにも必要となります。
遺産分割協議を作成するときの主なポイントは下記の通りです。
・被相続人の氏名・住所・死亡年月日・最後の住所・本籍地を記載する
・遺産分割協議書はパソコンなどで作成しても問題ないが、署名は手書きで行う
・不動産の内容は、登記簿の内容をそのまま記載する
・預貯金や有価証券などは、特定できるよう銀行名・支店名・口座番号・残高・銘柄・証券番号・株数などを記載する
・債務がある時は、借入額・債権者名などを記載する
・その他の相続財産がある場合は、その内容を具体的に記載する
・相続人全員の署名・押印(実印)・印鑑証明書が必要
<遺産分割協議書のサンプル>
遺産分割協議書が作成できれば、不動産に関して相続登記を行うことで名義変更をします。
相続登記は特に期限は決められていませんが、名義変更しておかないと売却ができませんので、早めの対応が必要です。
相続登記を行うためには以下の書類が必要です。
<相続登記のための必要書類>
・被相続人の戸籍謄本(出生してから死亡まで連続しているもの)
・被相続人の住民票の除票
・相続人全員の戸籍謄本(被相続人が亡くなった日以降に発行されたもの)
・相続人全員の印鑑証明書
・相続関係説明図
・遺産分割協議書(遺言の場合は遺言書)
・相続人全員の印鑑証明書
・不動産取得者の住民票
・固定資産評価証明書(相続する不動産のもの)
・相続登記申請書
これらの書類を取りまとめ、不動産の所在地を管轄する法務局にて申請します。
相続する不動産の登記済証(権利証)や登記識別情報は相続登記には必要ありません。
相続登記の手続きは相続人本人でも可能ですが、不備があった場合は法務局へ何度も出向かなければならない可能性があるため、司法書士に依頼するケースが一般的です。
相続登記についての司法書士へ支払う報酬は、およそ7~10万円程度です。
その他に、登記のための登録免許税や戸籍謄本など必要書類の発行手数料がかかります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・登録免許税とは?計算・軽減措置・相続・納付方法について解説![/su_box]これらの費用は不動産の数や難易度によっても変動しますので、事前に司法書士によく確認しましょう。
次に、不動産業者に売却する不動産の価格査定を依頼しますが、事前に自分自身でもその不動産の相場を調べておきましょう。
何の予備知識もないままに、不動産業者の提案を聞いても妥当性や大切なポイントがわかりにくいためです。
SUUMOやアットホームなどの不動産ポータルサイト、もしくは国土交通省が運営する「土地情報システム」などの公的サイトを利用して、おおよその相場などを確認しておきましょう。
相場観をつかんだら、実際に不動産業者に査定してもらいます。
信頼できる不動産業者の知り合いがいなければ、不動産一括査定サイトなどを利用すると便利です。
不動産一括査定サイトとは、複数の不動産業者から査定を受けることができるインターネットサービスであり、ある程度の物件情報と氏名・連絡先などを入力すればメールなどで査定結果が送られてきます。
必ず複数の不動産業者から査定を受け、査定価格の妥当性を確認しましょう。
また、査定価格だけで選ばずに、各不動産業者のホームページなどを見て、会社風土や得意分野などを確認のうえ、特に相続不動産の売買に強みを持つ不動産業者に依頼することが大切です。
不動産業者が決まれば、あとは売却活動の報告を受けながら買い手が見つかるまで待ちます。
適正な価格戦略と緻密な売却活動を行えば、通常は3ヶ月以内に売却が完了します。
相続税の申告・納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内となっています。
相続税は、原則、現金による一括納付となっていますが、不動産などを現物で納付する「物納」という方法も認められています。
しかし、物納するためには物納要件を満たす必要があり、ハードルが高いのが実状です。
相続税の申告義務がある場合の申告方法は、相続人が申告期限内に被相続人が死亡した時に住んでいた住所を管轄する税務署へ申告書を提出します。
期限内に提出しないと、延滞税や加算税などの罰則を受けるリスクもあるため注意が必要です。
相続税を申告するためには、役所や法務局、銀行など回って多くの必要書類を集め、複雑な申告書類を作成し、一緒に提出しなければなりません。
万一、申告漏れなどがあると、後になってから税務調査を受ける可能性もあります。
そのため、税理士などの専門家に依頼することもひとつの方法といえるでしょう。
相続税は、平成27年に大きな改正がありました。
基礎控除の減額や相続税率の引き上げなど、多くの納税者に影響のある改正について説明します。
相続税の基礎控除とは、課税対象の相続財産額から一部を非課税枠とすることができる制度のことです。
相続税は、課税対象の相続財産額から基礎控除を差し引いたプラス部分に課税されますので、課税対象の相続財産額が基礎控除以下であれば相続税は課税されません。
その基礎控除の額が、平成27年の改正によって従前の60%に減額されました。
それにより、相続税の課税対象者が増えるといわれています。
【基礎控除の計算例】
例)被相続人:父 相続人:母(配偶者)・子2人 課税対象の相続財産:7,000万円 の場合
<改正前>
基礎控除額=5,000万円+1,000万円×3=8,000万円
課税対象の相続財産7,000万円<基礎控除8,000万円のため、相続税の納税なし
<改正後>
基礎控除額=3,000万円+600万円×3=4,800万円
課税対象の相続財産7,000万円>基礎控除4,800万円のため、相続税の納税が必要
平成27年の改正では、相続税の税率も以下の通り変更されました。
(平成27年1月1日以降)
前段の例において、相続税の税額を計算してみましょう。
課税対象の相続財産7,000万円-基礎控除4.800万円=課税価格2,200万円
法定相続分の課税価格を計算します。
配偶者:2,200万円×1/2(法定相続分)=1,100万円
子供1:2,200万円×1/4(法定相続分)=550万円
子供2:2,200万円×1/4(法定相続分)=550万円
続いて、各法定相続人の相続税額を計算すると、
配偶者:1,100万円×15%-50万円=115万円
子供1:550万円×10%=55万円
子供2:550万円×10%%=55万円
となります。
(※実際には、配偶者は税額軽減の適用が受けられ、納税額0円となります)
次に、相続税を納税するために不動産を売却した場合に、相続税以外に発生する税金について説明します。
相続した不動産を売却して利益が出た場合は、相続税の他に譲渡所得税を納税する必要があります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・譲渡所得とは?税率・計算方法・特別控除について解説![/su_box]ただし、相続のために不動産を売却した場合は、「相続税の取得費加算の特例」あるいは「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」のいずれかの特例を選択して適用を受けられる可能性があります。
譲渡所得は、譲渡価格-(取得費+譲渡費用)という計算式で求められます。
譲渡価格とは売却価格であり、取得費は売却した不動産の購入費用やその際に支払った仲介手数料などであり、譲渡費用とは売却した際の仲介手数料などの費用を指します。
また、相続した不動産の場合は、被相続人の取得費を引き継ぎます。
譲渡所得対する税率は、その不動産を所有していた期間により定められています。
※平成25年から平成49年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が加算されています。
相続した不動産を売却した場合は、被相続人が所有していた期間を引き継ぎます。
また、所有期間が10年を超えている自宅を売却した場合は、「10年超所有軽減税率の特例」を適用できる場合がありますので、確認しましょう。
相続のために不動産を売却した場合の2つ節税方法について説明します。
要件にあてはまれば大きく節税できる可能性がありますので、ぜひ確認してください。
相続の開始があってから3年10ヶ月以内に相続した不動産を売却して相続税を納めた場合、その不動産に相当する相続税額を取得費に加算できるという特例が認められています。
相続の開始直前まで被相続人が住んでいた居住用不動産を相続して売却した場合、一定の要件を満たす場合に3,000万円の控除が受けられるという特例です。
主な要件は、
・相続開始直前まで、被相続人以外の居住者がいなかったこと
・譲渡をした人が、相続により被相続人居住用建物およびその敷地の用に供された土地などを取得した個人であること
・昭和56年5月31日以前に建築された建物であること(区分所有建物を除く)
・平成28年4月1日から平成31年12月31日までの譲渡であること
・相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡
・譲渡価格が1億円以下であること
・建物が耐震基準を満たしていること(建物も売った場合)
などです。
不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に、確定申告をして納税します。
相続登記のために所有権移転をする時、登録免許税を納付します。
登録免許税は「固定資産税評価額×0.4%」で計算されます。
固定資産税評価額は固定資産評価証明書にて確認できます。
また、相続した不動産に抵当権が設定されている場合は、決済・引渡しの際に抵当権抹消のために登録免許税がかかります。
いずれの場合も司法書に依頼した場合は、司法書士への報酬も発生ます。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・固定資産税の評価額はいくらくらい?調べ方や計算方法などを解説!相続した不動産を売却する場合、売買契約書に貼付する印紙税がかかります。
印紙税の額は契約金額に応じて、下記の表の通りとなります。
平成26年4月1日から平成32年(2020)年3月31日までに作成される売買契約書については軽減措置が適用されています。
相続した不動産が少しでも高く売れて、相続税を納税した後に手元に現金が残ればよい・・・と誰でも考えるでしょう。
ここでは、相続した不動産を1円でも高く売るコツについて解説します。
不動産の売却方法は大きく分けて、不動産業者の直接買取と法人を含めたエンドユーザーへの売却の2通りがあります。
まず、不動産業者に買い取ってもらえば仲介手数料も必要なく、時間もかかりませんが、価格はエンドユーザーに売却する時と比較して安くなります。
エンドユーザーに売却する場合は、価格も自由に設定できますが、納税期限に間に合うのか、売れ残りのリスクはあるのか、など不安要素が残ります。
そのため、個人のエンドユーザーがマイホーム(土地)として購入できる不動産なのか、一般の法人企業や店舗が事業用地として向いている不動産なのか、広すぎるために不動産業者による商品化が必要な不動産なのかなど、売却する不動産の最適な用途や特性を知る必要があります。
もちろん、自分で考えるのではなく、そういった目利き力やスキルを持った不動産業者をパートナーに選ぶことが大切となります。
相続した不動産を売却する場合は、相続不動産売却に強みを持つ不動産業者に依頼することが最も大切です。
通常の売買仲介を得意とする不動産業者の場合は、仲介業務については問題ありませんが、不動産買取業者や一般の事業法人などへのネットワークがないために最適な売却先への提案ができないなど、売却が長期化するリスクがあります。
また、不動産買取業者だけに相談すれば、高く売却するチャンスを失うリスクがあります。
相続不動産売却に強い不動産業者であれば、その不動産の価値の最大化を考えた売却戦略を立てることができ、さまざまなターゲットへのネットワーク持っています。
そのような不動産業者を見つけるためには、税理士に紹介を受けるのが一番です。
そうでなければ、不動産一括査定サイトなどを利用して、「相続に強いですか?相続での売却に実績はありますか?」と質問したうえで、不動産業者を選びましょう。
相続した不動産を売却する場合の手続きや流れ、注意点などについて解説してきました。
しかし、この記事で解説した内容は基本知識であり、実際の相続に関してはより詳細な知識や検討が必要になります。
不動産は高額なため、少しの勘違いやミスが大きな損失につながる可能性もあります。
そのため、判断に迷ったり方向性がわからなかったりする場合は、最寄りの税務署か税理士などの専門家に相談しましょう。