投資用不動産の売却のタイミングや売却価格を論理的に決めることを「出口戦略」と呼びます。
不動産投資ファンドなどのプロは、投資をする前に必ず出口戦略を策定しますが、個人投資家の方々こそ緻密に出口戦略を立てる必要があります。
投資用アパート・マンションを購入する前に最善の出口戦略を立てるためには、どのようなタイミングで物件を売却すればよいのか、どうした方法が高く売却できるのか、適正な売却価格はどのように算定すればよいのか、など多くの要素を取り込まなければなりません。
そこで今回は、投資用アパート・マンションを相場より高く売却するために、適切な出口戦略の立て方を具体的に解説していきます!
なお、この記事では「投資用アパート・マンション」を「一棟単位で所有する賃貸用の共同住宅」と定義しており、区分所有の投資用マンションは想定していません。
目次
まずは、近年の投資用アパート・マンションを含む賃貸住宅経営を取り巻くマーケット状況などについて確認していきましょう。
日本屈指のシンクタンクである野村総合研究所が2017年10月に発表した「日本の不動産投資市場2017」というレポートから、首都圏の空室率の推移について確認してみます。
<首都圏における賃貸住宅の空室率の推移>
引用元:株式会社野村総合研究所 「日本の不動産投資市場2017」より
このグラフから、東京都全域では12%強、東京23区で11%~12%の空室率となっていますが、郊外である東京市部では14%~15%の空室率となっていることがわかります。
東京都では、2016年の後半から空室率が23区内でも上昇傾向にあり、注意が必要です。
また、神奈川県では、東京市部より高い15%超の空室率となっており、2015年の後半からは急激に空室率が上昇しています。
<1988~2013年における住宅戸数の変化など>
引用元:株式会社野村総合研究所 「日本の不動産投資市場2017」より
上のグラフから、賃貸マンションの供給戸数は、全住宅戸数の増加率を上回る水準で推移しており、賃貸需要を巡る競争の激化が空室率の上昇に影響を与えているといえるでしょう。
さらに、相続税の税制改正により、2015年1月から相続税の基礎控除が2,000万円以上縮小されたことが、空室率上昇の原因として挙げられます。
改正前の税制であれば相続税課税の対象でなかった人も、改正後は対象となるケースが増えてしまいました。
そのため、節税目的の賃貸住宅(特に郊外の賃貸アパート)の建築が増え、実際の賃貸需要を上回るくらい供給過多となることにより、賃貸住宅に占めるアパート比率が高い首都圏郊外部において空室率が急上昇しているのです。
次に、日本全国の主要都市における賃貸住宅(主に賃貸マンション)の空室率の推移を確認してみましょう。
<主要都市における空室率の変化>
引用元:株式会社野村総合研究所 「日本の不動産投資市場2017」より
どの主要都市でも、1998年と2013年を比較すると空室率が上昇傾向にあり、2013年においては15%を超えている状況です。
ただし、仙台市は震災復興が進んだ影響による特需で、空室率が低下していることがわかります。
また、不動産情報ポータルサイトの「LIFULL HOME’S不動産投資」では、総務省統計局「住宅・土地統計調査報告」をもとに、全国の賃貸用住宅の空室率を発表しています。
<全国の賃貸用住宅の空室率一覧>
引用元:LIFULL HOME’S 不動産投資 「見える!賃貸経営」より
※総務省統計局発表の平成20年度住宅・土地統計調査報告のデータより算出
空室率の算出方法は、住宅の数(又は借家の数)に対する空き家数(又は賃貸住宅の空家数)の割合をエリア毎に計算したもの、となっています。
ただし、平成20年度のデータにより算出しているとありますので、現時点のデータと若干の乖離がある可能性もあります。
これによると、日本全国の賃貸用住宅の空室率は19.0%であり、最も空室率が低いのは東京都で14.5%、最も空室率が高いのは福井県の30.1%となっています。
全国的に空室率は上昇傾向にあり、今後も続いていくことが予想されていますが、その2つの大きな原因について確認してみましょう。
<日本の人口と世帯数の推移>
引用元:株式会社野村総合研究所 「日本の不動産投資市場2017」より
上のグラフは、日本では2015年に人口の減少が戦後初めて確認され、今後もその減少が続いていくことを予測しています。
人口の減少の割合に比べて、世帯数は緩やかな減少が予測されていますが、その原因は主に東京などへの単身世帯の流入があるためと考えられています。
実際に東京都は、「2020年に東京都の人口が1,338万人とピークを迎えることになるが、その後人口は減少していく」と予測しています。
ほとんどの地方都市は人口の減少が顕著となり、東京都でさえ人口の減少が予測される中、賃貸用住宅の空室率が上昇することは避けられないといえるでしょう。
<新築住宅着工戸数の変化など>
引用元:株式会社野村総合研究所 「日本の不動産投資市場2017」より
上記「1991~2016年における新規住宅着工戸数の変化」のグラフからわかるとおり、新築住宅着工戸数に対する賃貸用住宅の割合が伸び続けています。
また、「地域別借や新規着工数の変化」のグラフから、首都圏のみならず、地方圏でも賃貸用住宅の新規供給が増加していることがわかります。
このように、人口は減少していくにもかかわらず、賃貸用住宅はさらに供給が進み供給過多となることが予想されるため、空室率は上昇していく可能性が高いと考えられています。
<不動産価格指数(商業用不動産)のグラフ>
引用元:国土交通省HP 建設産業・不動産業 不動産価格指数(商業用不動産) より
上のグラフは、2018年12月に国土交通省が公表した「不動産価格指数(平成 30 年 9 月・第 3 四半期分)」のもですが、一棟マンション・一棟アパートの市場価格指数は2012年後半より2017年半ば頃まで右肩上がりに上昇していましたが、2017年中ごろから2018年後半にかけてやや停滞気味であることがわかります。
<不動産価格指数(商業用不動産)の比較表> ※2010年平均を100とした場合の指数
引用元:国土交通省HP 建設産業・不動産業 不動産価格指数(商業用不動産) より
上の比較表では、投資用アパート・マンションの市場価格指数が、全国で135.2(対前年同期比▲0.8%)、そのうち三大都市圏では131.8(対前年同期比▲1.9%)、三大都市圏以外の地域では145.6(対前年同期比1.5%)、南関東圏では132.9(対前年同期比1.6%)となっており、三大都市圏から市場価格の低下が現れています。
※三大都市圏:南関東圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)、名古屋圏(岐阜・愛知・三重)、京阪神圏(京都・大阪・兵庫)
グラフから見ると、全体的には上昇傾向が認められるため、市場価格指数のわずかな低下は一時的なものとも考えられます。
しかし、売却される投資用アパート・マンションが増加すれば、需給バランスにより市場価格は低下していくこととなりますので注意が必要です。
2020年には東京オリンピックという大きなイベントを控えていますが、ある意味では売却を検討している人にとって、今が売却のチャンスといえるかもしれません。
不動産投資ファンドなどの不動産投資のプロは、物件を購入する前に必ず出口戦略を策定します。
出口戦略は、投資の利益を確定させるために必要不可欠なものです。
ここでは、投資用アパート・マンションにおける出口戦略について見ていきましょう。
投資用アパート・マンションにおける出口戦略には、まず「売却する」か「売却しない」かの選択があり、「売却しない」を選択した場合には「保有し続ける」もしくは「建て替える」「相続・贈与する」という戦略が、「売却する」を選択した場合には「そのまま売却する」「リノベーションして売却する」「建物を解体して更地で売却する」などの戦略があります。
売却する場合には、保有期間5年以下の短期譲渡と5年超の長期譲渡によって譲渡所得税の税率が大きく違うため、あらかじめシミュレーションしたうえで戦略を策定しなければなりません。
最も大切なことは、出口戦略は購入してから策定するものではなく、購入前に策定しておくべきものということです。
ただし、運用中に急激な市場の悪化があったり、ポートフォリオの組み替えの必要性が生じたりすれば、従前に策定した出口戦略に固執せず、柔軟に対応する必要もあります。
<投資用アパート・マンションの出口戦略の例>
続いて、それぞれの出口戦略について解説していきます。
売却せずに保有し続けるということもひとつの戦略といえるでしょう。
適切な修繕やリフォーム工事を行い、物件の価値を維持していくことで、現実的に築50年近くなっても満室を維持している物件もあります。
立地が非常に良い場合はそうした運用が可能ですが、すべての物件にあてはまるわけではありません。
逆に多くの場合、築年数が経過すればするほど物件が老朽化・陳腐化し、物件の競争力が低下して空室率が上昇します。
その一方で、修繕費やメンテナンス費用などの支出が高額になるため、手元のキャッシュフローが悪化します。
最悪の場合は、支出が収入を上回る逆サヤの状態となりますので、破たんリスクを避けるためには売却を検討しなければなりません。
物件が陳腐化して競争力を失ったり、修繕費やメンテナンス費用などの支出が高額になったりした場合、新築に建て替えるという戦略もあります。
新築物件は家賃を高く設定できるメリットがあり、住宅設備類なども最新トレンドのものになるため、物件の競争力が飛躍的に向上します。
ただし、新築工事にはもちろん工事費用がかかり、既存建物の解体工事なども必要なため、工事費が割高になります。
また、既存物件の入居者の立退き交渉を行う場合など、専門的な交渉が必要となるため自力で対応することが難しく、弁護士などの第三者に依頼すれば費用や時間がかかることとなります。
投資は利益を確定させることが最も大切です。
株式投資やFX投資の場合、保有している株式や通貨に含み益が出ていても、売却して利益確定をしなければ利益ではありません。
一晩のうちに値下がりして含み損となってしまった…などということは日常的にあるため、どこかのタイミングで株式や通貨を売却(または買戻し)して利益(または損失)を確定させる必要があります。
投資用アパート・マンションは、家賃収入というインカムゲインがありますが、永久的に得られるものではありません。
建物が老朽化・陳腐化していくことにより、物件の価値が下落して入居率が低下するリスクがあるからです。
入居率が低下すれば、必然的にインカムゲインも減っていくこととなります。
このように、投資用アパート・マンションにおいても、基本的にはどこかのタイミングで出口戦略として物件を売却することを検討する必要があり、売却のタイミングを見極めることは非常に重要な要素です。
不動産投資ファンドなどのプロは、5年~7年程度保有した後に物件を売却し、計画していた利益を確定させることが一般的です。
また、不動産投資の利益は、家賃収入などのインカムゲインと売却時のキャピタルゲイン(損失が出ればキャピタルロス)の合計であるトータルリターンで考えます。
<トータルリターンの事例>
上の事例のように、売却によって投資資金の回収ができてトータルリターンが利益となる可能性があることも売却の大きなメリットです。
次に、投資用アパート・マンションの最適な売却のタイミングについて考えてみましょう。
ポイントは、「利益を最大化することができるタイミングで売却する」ということです。
物件が満室稼働中の場合、安定的な家賃収入があるため、そのまま保有していてもよいかもしれません。
しかし、満室稼働物件は少し割高な価格でも売却できる可能性があり、購入価格より高く売却できればキャピタルゲインを得ることができるのです。
不動産買取会社は、入居率の低い物件を叩いて割安な価格で購入し、バリューアップ工事などを行って満室にした後に市場価格で転売します。
このように満室稼働は物件の価値や評価を上げ、買い手にも大きくアピールできるポイントといえるため、売却のタイミングとして最適です。
不動産は相場によって価格が形成されます。
そのため、地価が上昇している場合など相場が上昇しているタイミングで売却することは、戦略的に正しい判断といえるでしょう。
そのためには、公示地価や基準地価の動向を日頃からチェックしたり、不動産投資ポータルサイトで自分の物件と類似した物件の売却情報をチェックしたりするとよいでしょう。
気を付けるべきことは、株やFXと同様に、不動産も相場が上がるスピードより下がるスピードの方が速いため、売却のタイミングを逃さないことです。
満足する価格で売却できることが確認できたら、売却の準備を整えて、「もう少し待てばもっと上がるだろう」といった欲を出し過ぎないで売却することが大切です。
また、理論的な価格を確認するために、市場での想定利回りをチェックしておくとよいでしょう。
前述のLIFULL HOME’S 不動産投資(https://toushi.homes.co.jp/owner/)では、全国の想定利回りをチェックすることができますので、利用すると便利です。
<全国の想定利回り>
引用元:LIFULL HOME’S 不動産投資 「見える!賃貸経営」より
投資用アパート・マンションには多くの付帯設備があります。
付帯設備とは、各居室にあるエアコン・給湯器・トイレ・システムキッチン・洗面台・モニター付きインターホンなど、共用部にある給水ポンプ・オートロック・エレベーターなどです。
こうした付帯設備は、メンテナンスをしていても10年~20年程度のスパンで取替や交換の必要が出てきます。
その他にも、屋上防水や外壁塗装、給排水管取替などの大規模修繕工事が15年~20年程度のスパンで必要です。
このように、築年数が経過すれば経過するほど修繕費用がかかり、キャッシュフローを悪化させます。
そのため、大幅な付帯設備や大規模修繕工事の費用が見込まれるタイミングでは、売却を検討した方がよいでしょう。
このケースは、金融機関のアパートローン(特に元利均等返済型)を利用している場合に発生します。
不動産投資におけるデッドクロスとは、減価償却費分が、アパートローンなどの元金返済分を上回る状態をいいます。
ローン返済額のうち、金利分は経費として計上できますが、元金返済分は経費として計上できません。
元金返済分が大きくなると、帳簿上の利益が黒字にもかかわらず、現実には元金返済分がキャッシュとして出ていくため、手元にキャッシュが残らなくなります。
しかし、黒字部分に対しては所得税が課税され、収支がマイナスとなってしまいます。
デッドクロスの状態に陥ると手元のキャッシュの赤字が常態化してしまい、帳簿上は黒字であっても資金がショートするという、いわゆる「黒字倒産」を迎えるリスクが発生します。
そのため、デッドクロスの状態を迎える前に物件を売却し、利益を確定させる必要があります。
デッドクロスの発生は、事前のシミュレーションで予測することができますので、しっかりと準備しておきましょう。
建物の減価償却が終わった場合も、最適な売却のタイミングのひとつと考えられます。
なぜなら、減価償却が終わったということは、必要経費として減価償却費を計上できなくなり、節税効果が薄れてしまうからです。
このタイミングで売却し、改めて新規物件に投資してポートフォリオを組み替える投資家も多く見られます。
これは、最も大切な売却のタイミングと考えられます。
キャッシュフローの計算は、家賃収入からローンの返済分や運営費、修繕費、税金などを合計した税引き後の基準額を差し引きます。
キャッシュフローが赤字になる前に、売却することが大切ですので、綿密にシミュレーションしておきましょう。
投資用アパート・マンションを高く売却するためには「高く買ってくれる属性の買い手」をターゲットとすることが大切です。
どのような属性の買い手がターゲットとなるのか、解説していきます。
相場観に乏しい不動産投資の初心者は、相場より少し割高であっても他のメリットや長所を重要視して購入する傾向があります。
このような投資初心者は、不動産会社が開催するセミナーなどに参加する傾向があり、そこで営業マンから勧められた物件を購入するケースも多く見られます。
そのため、そうした不動産会社に売却を依頼すれば、相場より高く売却できる可能性があります。
相続対策のために投資用アパート・マンションを購入する富裕層も良いターゲットです。
物件の収益性より相続税の節税効果を重視する傾向があり、購入する期限が決まっているケースも多いため、多少割高な物件でも税理士などの勧めで購入する傾向があります。
近年、急増しているのがサラリーマン投資家です。
サラリーマン投資家は、その属性から金融機関のアパートローンなどを利用して物件を購入する人がほとんどです。
そのため、金融機関の担保評価の出ない築古の物件などは見送られ、比較的築年数の浅い物件を購入する傾向があります。
また、銀行の与信力はあるのですが、自己資金は乏しいのが特徴です。
本業で利益の出ている一般法人が、法人税の節税対策として投資用アパート・マンションを購入するケースがあります。
物件の収益性よりは所得税の節税効果を狙っての購入であるため、減価償却が大きく取れる物件であれば、他の投資家が手を出さないような物件でも購入する可能性があります。
また、法人であるため資金力もあり、個人では手が届かない価格帯の物件を購入できることが特徴です。
プロである不動産買取会社は、転売して利益を出さなければならないため、その分安い価格でしか購入しません。
買取価格が市場価格の50~60%程度になることもザラにありますが、空室だらけの物件や修繕費が相当かかるような物件であっても価格次第では購入するため、難あり物件の場合はメリットがあるといえるでしょう。
また、購入申込みから決済・引渡しまでの期間が短いことも特徴です。
いずれにしても、自分が所有している投資用アパート・マンションの特性をよく理解したうえで、最適なターゲットに向けた売却戦略を立てることが大切です。
投資用アパート・マンションを売却する場合、不動産会社に依頼する前に自分自身で物件の査定価格を把握しておくことが大切です。
なぜなら、不動産会社から提示される査定価格の妥当性や根拠を検証することができ、買い叩かれるリスクを軽減できるからです。
不動産会社に価格査定を依頼する前に、必ず自分自身で自分の物件の適正な価格を確認しておきましょう。
投資用アパート・マンションの価格査定の方法は「積算法」と「収益還元法」の2種類があり、ここではそれぞれの査定方法について解説します。
積算法は、土地と建物の価格をそれぞれ別々に計算して求める方法であり、多くの金融機関で担保評価を算定する方法として採用されています。
まず、土地の積算価格の算定は、国税庁が発表している「路線価」がベースとなります。
路線価は、国税庁が運営する「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」において確認することができ、相続税や贈与税を算定する場合の評価基準となる価額です。
<実際の路線価図の事例>
引用元:財産評価基準書 路線価図 より
このサイトで自分の物件の路線価を調べたら、その路線価に土地の登記面積をかけた価格が土地の積算価格となります。
土地の積算価格=路線価×土地面積(登記面積)
ただし、路線価は市場性を反映しているわけでなないため、相場価格とは乖離が生じることがほとんどです。
一般的に路線価の1.2倍が相場価格の目安と言われていますが、土地や地域の特性に応じて1.5倍~2.0倍になることもしばしばあります。
いずれにしても、積算法では路線価がベースとなりますので、注意しましょう。
次に、建物の積算価格は、以下の計算式によって算定されます。
建物の算定方法は少し複雑ですので、注意してください。
建物の積算価格=再調達価格×延床面積×(法定耐用年数-築年数)÷法定耐用年数
それぞれの項目について説明します。
再調達価格とは、同等の建物を新築する場合の1平方メートル当たりの建築費であり、価格の目安は下記の表の通りです。
<再調達価格の目安>
構造 | 再調達価格(万円/平方メートル)の目安 |
---|---|
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC) 鉄筋コンクリート造(RC) | 20万円/平方メートル (18万円/平方メートル~20万円/平方メートル) |
重量鉄骨 | 18万円/平方メートル (15万円/平方メートル~18万円/平方メートル) |
軽量鉄骨 | 15万円/平方メートル (12万円/平方メートル~15万円/平方メートル) |
木造 | 15万円/平方メートル (12万円/平方メートル~15万円/平方メートル) |
延床面積は、建築確認申請時の床面積や設計図面での床面積ではなく、登記されている床面積で計算します。
耐用年数とは、減価償却資産について減価償却を行う期間(年数)のこといい、税法上の耐用年数を法定耐用年数といいます。
法定耐用年数は、あくまでも税法上において画一的に定められた期間であり、実際に法定耐用年数を終えた建物であっても、まだまだ利用できるケースは多く見られます。
しかし、金融機関などは法定耐用年数をもとに担保評価を行います。
<主な建物の法定耐用年数>
耐用年数 | 償却率 | |
---|---|---|
鉄骨鉄筋コンクリー造(SRC) 鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 | 0.022 |
重量鉄骨 | 34年 | 0.030 |
軽量鉄骨 | 27年 | 0.038 |
木造 | 22年 | 0.046 |
それでは、積算法による具体的な査定事例を見てみましょう
<積算法による具体的事例>
金融機関によっては、路線価に掛け目を入れて計算したり、独自の耐用年数を採用していたりするケースもあります。
しかし、売却の査定価格の目安を算定する場合、基本的にはこの積算法で算定すればOKです。
積算法で価格を算定したら、次に収益還元法でも算定します。
収益還元法とは不動産の収益性に着目した評価方法であり、その不動産が将来にわたって生み出す価値を現在価値に割り引いて評価します。
収益還元法には「直接還元法」と「DCF法」の2種類がありますが、売却の査定価格の目安を算定する場合は、基本的な「直接還元法」で計算するとよいでしょう。
直接還元法は、年間の純収益を還元利回りで割り戻す算定方法であり、計算式は下記の通りです。
物件価格=(年間の満室想定家賃-空室損失-年間の運営費)÷還元利回り
それぞれの項目について説明します。
物件が、相場賃料で満室稼働していると仮定した場合の年間家賃収入です。
空室損失は、満室想定家賃に空室率をかけて算定します。
空室率はこれまでの運用実績から入居率を求めてもよいですし、物件周辺の賃貸事例データなどから求めることもできます。
空室率は物件のスペックや立地などにより変動しますが、目安としては都心の人気エリアであれば5~10%、郊外や地方の物件であれば10%~20%程度となります。
金融機関の中には、想定空室率を15~20%で計算する金融機関もあります。
不動産を所有・維持していくための必要経費です。
具体的には、固定資産税・都市計画税、賃貸管理費、共用部の水光熱費、火災保険料、リフォーム費用、建物修繕費、入居者募集費用などがあります。
還元利回りとは、投資家が期待する収益率のことをいいます。
「この地域では空室率も高そうであるため利回り15%は欲しい」
「立地が駅に近い人気エリアで投資の安全性が高そうなため利回り6%で十分」
このように、リスクが高いと考えられる物件は投資家の期待する還元利回りが高くなり、リスクが低いと考えられる物件はその逆となります。
還元利回りの目安は、前述のLIFULL HOME’S 不動産投資の「想定利回り」などを確認してみるとよいでしょう。
ただし、この「想定利回り」は空室率や運営費を考慮してないものですので注意しましょう。
それでは、積算法によって査定した前述の物件を収益還元法でも査定してみましょう。
<収益還元法による具体的事例>
上記のように、同じ物件でも積算法による査定価格は1億186万3,636円、収益還元法による査定価格は9264万円という結果になりました。
投資用アパート・マンションの購入を検討している投資家は、こうしたロジックに基づいて価格目線を出してきますので、まずは自分自身で2種類の査定方法で物件の査定価格を計算して、売却前に大まかな数字をつかんでおきましょう。
次に、投資用アパート・マンションを売却する場合の流れについて見ていきましょう。
<売却の主な流れ>
前章で解説した積算法と収益還元法の2種類の査定方法により、自分自身で物件の査定を行います。
また、同時にいつまでに売却したいのか、最低売却価格はいくらなのか、想定通りに売却が進まない場合はどうするのかなど、売却計画を整理しておきましょう。
売却価格を高くするために修繕工事を実施する場合は、このタイミングで行いましょう。
主な修繕工事の内容は、次章で詳しく解説します。
自分自身で査定価格を把握し、必要な修繕工事を着手したら、投資用アパート・マンションの売買仲介に強みを持つ複数の不動産会社に査定を依頼します。
複数の不動産会社から査定を受けることによって、価格相場や価格の妥当性を比較・検討することができます。
投資用アパート・マンションの売買仲介に強みを持つ不動産会社を探す際には、前述のLIFUU HOME’S 不動産投資の他に、
などの不動産ポータルサイトを確認するとよいでしょう。
売却を依頼する不動産会社を選定する場合、査定価格だけをもとに選定することはせずに、売却戦略や広告活動、査定額の根拠、過去の販売実績、売却までの期間、担当者のスキルなどを総合的に判断して決定することが大切です。
売却を依頼する不動産会社が決まりましたら、その会社と媒介契約を締結します。
基本的に、媒介契約には「1社にしか売却を依頼できない専任媒介・専属専任媒介」と「複数の不動産会社に売却を依頼できる一般媒介」があります。
<専任・専属専任媒介と一般媒介のイメージ図>
また、一般媒介契約と専任・専属専任媒介契約のメリット・デメリットは下記の表の通りです。
<一般媒介契約と専任・専属専任媒介契約のメリット・デメリット>
それぞれ、メリット・デメリットがあり、売主としては悩むところですが、事前に価格の査定根拠や投資用アパート・マンションの販売実績、担当者のスキルなどをよく比較・検討したうえで「この会社なら!」と思える不動産会社に専任媒介で依頼する方法をオススメします。
売却を依頼した不動産会社経由で、「物件資料開示」や「現地内見」などに対応します。
また一般的に「買付証明書」という購入申込みを受け取りましたら、そこに記載されている購入希望価格や売買条件などをよく確認して、不動産会社経由で買い手側と交渉します。
売買価格や条件が整いましたら、売買契約を締結します。
事前に、不動産会社が作成する売買契約書や重要事項説明書をよく確認しましょう。
また、売買契約締結後は融資を受けている金融機関や賃貸管理会社などへも連絡し、対応を協議する必要があります。
その他、エレベーターメンテナンス会社、機械警備会社など、物件を運営する上で取引している会社すべてに連絡しましょう。
売買契約書に規定された期日までに、決済・引渡しを行えばすべての取引が完了します。
具体的には、売却代金を受領したうえで、鍵や必要書類を買い手に引渡し、所有権移転登記や抵当権抹消登記を同時に行います。
早く売却したい、どうしても高く売却したいなど特別な場合を除き、一般的には不動産会社の査定から決済・引渡し完了まで3ヶ月を目安に予定しておきましょう。
逆に言えば、3ヶ月で売却できない場合は、これまでの反響の程度や販売状況などを分析したうえで、不動産仲介会社の更迭や売却価格の変更などを行う必要があるでしょう。
続いて、投資用アパート・マンションを高く売る6つのコツについて解説します。
それほど費用をかけずにできることが多いので、ぜひ検討してみましょう。
高く売却したいのであれば、入居率アップは欠かせない要素です。
なぜなら、家賃収入を上げることが、収益還元法において物件の評価額を上げることに直結するためです。
ただし、家賃を相場より値下げして無理に満室にしても物件評価が下がるだけですので、周辺相場の家賃で満室にすることが重要です。
そのためには、物件を相場賃料に見合うだけの状態にすることが必須ですが、その方法は次項で解説するとして、まず検討するべきポイントが3つあります。
通常、入居者を決めてくれた場合に賃料1ヶ月分の仲介手数料を支払いますが、これに加えて「広告料」や「AD」などの名目でもう1ヶ月分の費用を支払うケースがあります。
その他にも、客付けしてくれた賃貸仲介会社の営業マンに「担当者ボーナス」などを合わせて支払うと、モチベーションが上がりリーシングに成功する場合があります。
この方法は効果が高く、レントロール(賃貸一覧表)にも反映されませんので収益還元法による物件評価にも影響せずに満室にできます。
ただし、賃貸仲介会社によっては担当者へのボーナスを禁止している会社もありますので、注意が必要です。
<実際のレントロールの事例>
家賃を下げなくとも、敷金や礼金など契約時の費用を下げることにより、リーシングがしやすくなる場合があります。
昨今では、ゼロ・ゼロ物件といわれる敷金ゼロ・礼金ゼロという物件も珍しくありません。
ただし、入居時のハードルを下げることにより入居者の属性が悪化するリスクもありますので、賃貸保証会社などを利用することも併せて検討しましょう。
フリーレントとは、入居時から一定期間家賃を無料にするサービスです。
実質的には値下げの意味合いを持ちますが、レントロールには反映されないため、物件評価には影響しません。
これらの方法の他にも、一定の家電・家具類を設置する、ペット可にする、など家賃を下げずにリーシングを行う方法がありますので、賃貸市場や特性などを捉えて工夫することが大切です。
賃貸でも売買でも、物件のパッと見た第一印象は非常に大切です。
見た目の第一印象が良ければ、入居の意欲や購入意欲が高まるためです。
そのために行うべき5つの方法について解説します。
これらの方法は、大きな費用をかけることなく行うことができるものばかりですので、ぜひ取り入れましょう。
最もお金がかからずに効果の高い修繕です。
エントランスや共用廊下などの共用部分を徹底的に掃除し、清潔感を演出します。
同時に、粗大ゴミや不用品などが放置されていれば片付けます。
自転車置場の放置自転車、共同のゴミ置場に放置された家電類や家具などが放置されていると、購入希望者が物件の内覧に来た場合に非常に悪印象を持たれてしまいます。
また、賃貸希望者へのアピールも高いため、入居率アップにも効果を発揮します。
エントランスや共用廊下、自転車置場などの共用部分の照明が切れている場合は、早急に交換します。
蜘蛛の巣や鳥の巣などがある場合は、同時に処理します。
共用部分を明るくすることは防犯性も高まりますので、女性の入居希望者や購入希望者へのアピールになります。
物件の敷地内に雑草が繁茂していれば、非常に印象が悪くなります。
また、害虫や害獣などの姿が見えれば、それだけで物件全体が敬遠されてしまうリスクもあるため、必ず除去・駆除などの処理を行いましょう。
エントランスは物件の顔ともいえる部分です。
特に、集合ポストが破損していたり、チラシなどが溢れかえっていると入居者の属性が問われたり、スラム化している物件と捉えられてしまい、絶対に成約に至りません。
よしんば買付が入ったとしても、思い切り買い叩かれる可能性が高いです。
溢れかえっているチラシ類を処分するとともに、破損しているポストは新しいものに交換するとよいでしょう。
非常階段の手すりや踏面、外構の柵などの鉄部が錆びている場合、早急に塗装しましょう。
錆びたままの状態で放置されていると、見た目が悪いばかりでなく、買い手に「必要な修繕工事が実施されていない物件なのでは?」という疑念を抱かせてしまいます。
そうしたイメージは、買付価格にてきめんに反映してきますので、事前に対応しておく必要があります。
投資用アパート・マンションを売却する場合、必ず買い手から質問を受けるのが滞納の有無と入居者の属性やトラブルの有無です。
滞納や入居者トラブルがある場合には、解決して引き渡さなければなりません。
万一、これらの事実を隠して売却してしまうと、引渡し後に売主の瑕疵担保責任を問われて、損害賠償請求など深刻な事態を招きかねません。
滞納がある場合はいったん売主負担で決済時に清算し、入居者トラブルが発生している場合にはトラブルを円満解決するか、原因となっている入居者を退去させるなどの対応をしましょう。
投資用アパート・マンションの物件情報の中に、たまに「境界非明示」という売買条件で売りに出されている物件があります。
「境界非明示」とは、隣地との境界をはっきりと明示せずに行う取引のことですが、引渡し後に隣地所有者と境界を巡るトラブルが発生するリスクがあるため、買い手にとっては大きな障害といえます。
万一、隣地との境界が自分の土地側に大きく食い込んでしまうと、建ぺい率オーバーや容積率オーバーなどが生じ既存不適格物件となり、再度売却する際には大きなマイナス要素となるためです。
引渡し後にそのような事態が生じれば、損害賠償請求や契約解除などのトラブルに発展してしまいます。
「境界非明示」での取引は法律的には有効ですが、通常の売買契約では売主の責任と負担で境界を明示することを義務付けるケースがほとんどです。
費用はかかりますが、売却の際には土地家屋調査士に確定測量を依頼し、大きなトラブルを避けるためにも、きちんと境界を確定・明示しましょう。
もちろん、手元に確定測量図と境界確認書がある場合は、改めて確定測量を行う必要はなく、境界を明示したうえでそれらを引き渡せばよいことになります。
売却前に大規模な修繕工事・リフォーム工事・リノベーション工事を行うか、悩む方もいるでしょう。
しかし、大きな費用をかけてそれらの工事を行っても、工事費用を売却価格に転嫁できるかというと難しいのが実状です。
もちろん、大規模なリフォーム工事やリノベーション工事を行うことによって、入居率を上げたり、家賃設定を上げたりすることは可能ですが、積算法による評価は変わらないため売却価格を高くすることには限界があるでしょう。
1,000万円の費用をかけて大規模修繕工事やリノベーション工事を行っても、売却価格にはほとんど反映されなかった…ということもよくありますので、事前に十分な検討が必要です。
ただし、雨漏りや水漏れなどが生じている場合など、適切な修繕工事は必ず行いましょう。
売主の瑕疵担保責任を果たすばかりか、そのままで売却すれば転売目的の投資家や不動産会社に買い叩かれてしまうだけです。
商談が進んでいくと、買い手から修繕履歴の提示を求められます。
必要な修繕工事をきちんと実施しているか、その費用は適正か、今後の修繕工事のサイクルはどうなっているかなど、買い手が物件の評価や今後の運営予算を確認するためです。
きちんとした修繕履歴を提示すると、買い手に安心感を与えるばかりでなく、これまでしっかりと維持管理されてきた物件であるとアピールすることができます。
そのため、過去に行った修繕工事の記録を蓄積し、いつでも開示できるよう準備しておきましょう。
万一、手元にない場合には、賃貸管理会社や工事業者などにも確認してみましょう。
<実際の修繕履歴の事例>
物件資料請求や現地内覧を経て、買い手から買付証明書(購入申込書)が提出されます。
買付証明書はあくまでも買い手の希望条件のみが記載されている書面であり、売主としてその条件のすべてを受け入れなくてはならないものではありません。
「いよいよ、本格的な交渉が始まる…」という位置付けとなります。
買付で最も重要なポイントは価格です。
売却価格満額で買付が入ればよいのですが、必ずといっていいほど指値が入ります。
中には非常に厳しい指値が入ることもありますが、どう対応したらよいのでしょうか?
売主として事前に価格戦略をしっかりと立てておき、「この価格までは交渉に応じる」というラインを明確にしておくことが大切です。
相手も投資家であり、自分なりのロジックや予算を考えたうえで買付証明書を提出していますので、ダラダラと交渉を長引かせるよりは一発回答を心がけましょう。
つまり、買い手の「この価格で買いたい」という希望に対して「この価格なら売ります」というように明確に伝えましょう。
「この買い手をキープしておきたい」と考えて思わせぶりな態度でいることは、買い手に「もっと価格を下げられるかも…」と思われて逆効果となるケースが多くあります。
ただし、買い手の属性やローン利用の有無などをよく確認したうえで回答することが大切です。
買付証明書にローン特約条項などが記載されている場合は、ローン申込みの進捗状況や融資の可能性を詳しく確認しましょう。
資金調達が難しい買い手と交渉していても、時間の無駄になってしまうからです。
その場合は、他の買い手との交渉を優先して進めましょう。
<実際の買付証明書の事例>
続いて、投資用アパート・マンションを売却する場合に発生する費用や税金などについて、時系列で確認していきます。
まず、売買契約の締結時に、契約金額に応じて売買契約書に収入印紙を貼付します。
印紙代は、売主・買主双方がそれぞれ負担することになります。
売買契約書の原本が2通の場合は、売主・買主双方がそれぞれに印紙を貼付し、売買契約書の原本を1通とする場合は、一般的に買主が原本・売主がコピーを保有して、売買契約書に貼付する印紙代は売主・買主が折半します。
つまり、1通方式の場合は、印紙代を節約することができます。
売買契約書に貼付する印紙税の一覧は下記の表の通りです。
<投資用アパート・マンションを売却する場合の主な印紙税の一覧>
契約金額 | 税額 | 軽減後の税額 |
---|---|---|
100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
※2018年4月1日から2020年3月31日までに作成される売買契約書に記載された契約金額が、10万円を超えるものについては軽減措置が適用されます。
決済時に売主が負担する登録免許税は、金融機関などのローンを利用している場合の抵当権抹消登記、引越し(住所変更)や結婚(氏名変更)などによる登記名義人表示変更登記がある場合に課税されます。
いずれの場合も、登録免許税は不動産1個につき1,000円となります。
例えば、アパートの土地が3筆、建物が1棟の場合は合計で4,000円の登録免許税を納めることになります。
決済時に抵当権抹消登記や登記名義人表示変更登記の必要がある場合に、司法書士へ報酬を支払います。
費用の目安は1万円~3万円程度でしょう。
売却を依頼した不動産会社へ支払います。
仲介手数料は、売却価格×3%+6万円(税別)で求められますが、この計算式で求められる報酬額は上限額となっています。
物件が投資用アパート・マンションの場合は、マイホームなどと違い専門性や取引のスキルが求められるため、上限額で請求されることが通常です。
仲介手数料は、売買契約締結時に半金、決済・引渡し時に半金を支払うことが一般的ですが、具体的な支払時期は媒介契約を締結するときに決定します。
決済・引渡し時に全額支払い、というケースもあります。
投資用アパート・マンションを売却して所有者が代わると、各入居者へ所有者変更通知を行い、それ以降の家賃を新しい所有者の口座に振り込んでもらうよう手配します。
しかし、決済のタイミングにもよりますが、決済の行われた月と翌月分の賃料・共益費を決済時に買主に支払い、それ以降を新所有者が受領することが一般的です。
そのため、実務的には決済時に売買残金から差し引いて清算します。
預かり敷金も同様です。
決済時に売買残金から差し引いて、買主へ承継することとなります。
これは売主の費用ではありませんが、説明しておきます。
固定資産税・都市計画税は、決済日前日までは売主負担、決済当日から買主負担となります。
しかし、固定資産税・都市計画税はその年の1月1日時点での所有者に課税されていますので、決済の行われた年の分は売主に納税義務があります。
そのため、決済時にその年分の固定資産税・都市計画税を精算し、買主が売主に精算金を支払います。
精算金を受領した売主は、忘れずに納税することが大切です。
投資用アパート・マンションを売却して、売却益(譲渡所得といいます)が出れば、その利益に対して譲渡所得税と住民税、復興所得税が課税されます。
譲渡所得に対する税金は、給与所得や事業所得などの所得とは合算せず、分離して計算します。
譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
譲渡価額とは、土地・建物の売却代金の他に固定資産税・都市計画税の精算金が含まれます。
取得費は、購入時の購入価格から建物の減価償却費を差し引いた簿価や購入時の仲介手数料などの合計となります。
また、譲渡費用は売却のために直接支払った費用の合計であり、仲介手数料、登記費用、印紙代、測量費用などが含まれます。
譲渡所得が計算できたら、該当する特別控除があればその特別控除を差し引いて、課税譲渡所得を算定します。
この課税譲渡所得に対して、長期譲渡所得または短期譲渡所得の税率により税額が算定できます。
投資用アパート・マンションを売却した年の1月1日現在における所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得、5年以下の場合は短期譲渡所得となります。
<長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率>
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15.315% | 5% |
短期譲渡所得 | 30.63% | 9% |
※平成25年から平成49年まで、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が加算されています。
長期譲渡所得と短期譲渡所得では、上の表の通り税率が著しく違うため、売却時期を考える際に注意が必要です。
個人投資家の方々が忘れがちな税金として消費税があります。
法人はもとより個人で投資を行っている場合も、不動産投資は立派な事業ですので、消費税が発生することを忘れてはいけません。
投資用アパート・マンションの賃料には消費税が課税されませんが、物件を売却した場合には建物部分が消費税の課税対象となります(土地部分は非課税です)。
しかし、消費税を納税しなければならないか否かは、基準期間と特定期間における課税売上により判断されます。
課税売上とは消費税の対象となる売上高のことであり、基準期間である前々年度の課税売上、もしくは特定期間である前年の1月から6月の間の課税売上が1,000万円以上である場合、消費税の課税業者となります。
つまり、今年売却した投資用アパート・マンションの建物価格が1,000万円を超えている場合、翌々年度は課税業者となり、その年に課税売上が1,000万円以上ある場合には消費税を納税する義務が発生することになりますので、注意しましょう。
最後に、投資用アパート・マンションを売却する場合に、必要な書類を一覧表で紹介しますので、確認しましょう。
No | 項目 | 用意するタイミング | 備考 | ||
---|---|---|---|---|---|
契約前 | 契約時 | 引渡時 | |||
1 | 登記済証・登記識別情報 | ● | 必須書類 | ||
2 | 実印及び印鑑証明書 | ● | 必須書類 | ||
3 | 本人確認書類 | ● | 必須書類 | ||
4 | 住民票または戸籍の附票 | 該当する場合のみ | |||
5 | 確定測量図及び境界確認書 | ● | 必須書類 | ||
6 | 越境に関する覚書 | ● | 該当する場合のみ | ||
7 | 確認済証 | ● | 必須書類 | ||
8 | 検査済証 | ● | 必須書類 | ||
9 | 建築設計図書や工事記録書等 | ● | 必須書類 | ||
10 | 付帯設備取扱説明書及び保証書 | ● | 必須書類 | ||
11 | 固定資産税納税通知書 | ● | 必須書類 | ||
12 | 固定資産評価証明書 | ● | 必須書類 | ||
13 | 維持費等関連書類 | ● | 必須書類 | ||
14 | 最新のレントロール | ● | 必須書類 | ||
15 | 修繕履歴 | ● | 該当する場合のみ | ||
16 | 賃貸収支実績表 | ● | 必須書類 | ||
17 | 賃貸管理報告書(PMレポート) | ● | 必須書類 | ||
18 | 賃貸管理契約書 | ● | 該当する場合のみ | ||
19 | 建物管理契約書 | ● | 該当する場合のみ | ||
20 | 賃貸募集図面 | ● | 必須書類 | ||
21 | 購入時の重要事項説明書 | ● | 該当する場合のみ | ||
22 | 抵当権抹消書類等 | ● | 該当する場合のみ | ||
23 | 借入金融機関預金通帳・通帳印 | ● | 該当する場合のみ | ||
24 | ローン残高証明書 | ● | 該当する場合のみ | ||
25 | 住宅性能評価書 | ● | 該当する場合のみ | ||
26 | 構造計算書・耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書等 | ● | 該当する場合のみ | ||
27 | 購入時の販売パンフレットや販売図面 | ● | 該当する場合のみ | ||
28 | その他の書類(土壌汚染調査報告書・地盤調査報告書等) | ● | 該当する場合のみ |
投資用アパート・マンションを売却する場合に、身に付けておくべき基礎知識や出口戦略、売買戦術について解説してきました。
投資用アパート・マンションの評価は積算法と収益還元法により決まり、特に収益還元法による評価についてはオーナー自身の努力や工夫であげられることが理解できたと思います。
投資用アパート・マンションを運用していくことは立派な不動産事業ですので、事業経営者としての努力やスキルアップが欠かせないことを忘れてはいけません。
そうした心構えが高い価格での売却を実現させ、不動産投資を成功へ導くカギとなります。