景観法は、都市計画の21種類ある地域地区のひとつ、「景観地区・準景観地区」について定めた比較的新しい法律です。
ここでは景観法に見られる建築上の制限や届け出について詳しく見ていきます。
目次
景観法は平成16年(2004年)6月18日に景観に関わる日本の法律として交付されました。
前年の平成15年(2003年)7月11日にできた「美しい国づくり政策大綱」は景観法の元となったことでも知られています。
同時に景観法は
「景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(屋外広告物法)」「都市緑地保全法等の一部を改正する法律(都市緑地法)」
と併せて
「景観緑三法」
と呼ばれています。
景観法の第一条には「我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため」にその策定にあたっては「美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図り」と書かれ、そして「国民生活の向上並びに国民経済及び地域社会の健全な発展に寄与することを目的」と結んでいます。
景観とは簡単に言うと、良好な景観の形成を図る地区計画の一種と考えてもいいでしょう。
景観行政を進めるのは景観行政団体と呼ばれる団体です。
景観行政団体とは原則的に都道府県、指定都市等と言えますが、都道府県知事と協議して景観行政を実施する市町村も景観行政団体に数えられることから、自治体と解釈して良いでしょう。
なお景観行政団体は国土交通省のウェブページに掲載されています。
景観法は平成16年(2004年)6月18日に交付した比較的新しい法律です。
しかし景観行政はこれまでに数えただけでも、少なくとも4回~5回は行政上の集中的な取り組みが行われています。
戦前になりますが、大正8年に都市計画法制定によって「風致地区」「美観地区」制度がそれぞれ創設されました。
また戦後になると昭和41年には「歴史的風土保存区域」、「歴史的風土特別保存地区」制度が創設されていますし、以降も昭和50年の「伝統的建造物群保存地区(文化財保護法)」制度創設、昭和55年には「地区計画」が作られます。
そして直近の昭和60年には新たな「都市景観行政」について話し合いが持たれました。
それでもこれまでの法制度の疲弊や条例に基づく行為の届出勧告等の限界、また地方公共団体による自主的取組みに対する、国の税・財政上の支援が不十分であったことから、新たな法律の必要性が叫ばれました。
こうして創設されたのが景観法であり、代わって戦前に創設された「美観地区(びかんちく)」は景観法施行後廃止となっています。
景観法と都市計画は、似たような呼び方の地区があることから、しばしば都市計画と準えて景観法を理解しようとする向きもあるようです。
これは一見正しくもあります。
ただ、よく見ると景観法と都市計画は、完全には一致しません。
ですから、景観法と都市計画は似ているところもありますが、全て呼応するようには作られていないと理解しておきましょう。
景観地区とは景観法に規定された市街地の良好な景観の形成を図るために、都市計画に定めらた地区を言います。
また景観地区の規定は各地区で異なり、全国共通ではありません。
景観地区は都市計画区域で指定されますが、準都市計画区域外では準景観地区として指定されます。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・都市計画区域とは?建築基準について詳しく解説![/su_box]なお準景観地区は景観地区と同様の規制をします。
(準都市計画区とは将来的に都市計画区域として発展が見込める地域で、位置としては都市計画区域外に指定されます)
なお、景観地区ではかならず規定しなければいけないものに
・建築物の高さの最高限度または最低限度
・敷地面積の最低限度
・壁面の位置の制限
があります。
引用:「景観法の概要|国土交通省都市・地域整備局、都市計画課」
また忘れてはいけないのは、景観地区は都市計画上の「地域地区」のひとつだということです。
景観計画の対象範囲を景観計画区域といいますが、景観計画区域は、景観重要建築物、景観重要樹木、屋外広告物の表示・設置の制限、景観重要公共施設といった景観に関するおおまかな規定が決められています。
景観行政団体は景観計画区域による景観形成とともに、より積極的に強制力を持つ都市計画の「地域地区」(「地域地区」とは都市計画上、一定の規制を適用できる地域、地区また街区)として景観地区を指定できます。
よって、景観地区は景観計画区域内の一定の区域であり、都市計画上は一定の強制力を持つと考えていいでしょう。
なお景観計画区域内の土地所有者は、住民全員の合意によって良好な景観形成を図る「景観協定」を締結できます。
景観法は強制力の強い法律なのでしょうか。
また罰則規定はあるのでしょうか。
最後にこの点を検証してみましょう。
景観法は、実はあまり強制力の強い法ではありません。
基本的に景観行政団体の計画に任されている部分が多い景観法は、形式的に法的な根拠が付与されただけとの見方ができるかも知れません。
しかし景観法に強制力がないからと言って、建築会社が規制を無視して建築を進めてしまうわけでありません。
景観法の65条には「業務の停止」といった罰則処分もありますし、たとえ厳しい処分がなくても現在の建築会社や不動産会社が法を無視することは考えにくいでしょう。
常識的に考えて、建物を建てる時ですから建築会社は建築許可が必要ですし、違法な建築をしようと考えても行政の許可が下りることはありません。
つまり景観法の強制力は強くありませんが、違法建築を阻止するほどの強い規制はそもそも必要がないと言えます。
このことは景観法の届け出の仕組みが分かれば、自ずと理解できるでしょう。
では、景観法に基づく届出対象行為(専用住宅)について概要を説明します。
景観法は美しい街並みを作るために制定された法律ですが、該当する土地に対し、専用住宅の建築に関する届け出を受けるのも自治体である景観行政団体です。
一見複雑に思える景観法や景観計画ですが、例外はあるにせよ、専用住宅の届出についていえば難しいことは何もありません。
何故ならば、専用住宅の建築に関する届け出は、建築確認申請と同時に行うケースが多いからです。
専用住宅の届出で注意するべきことは、景観行政団体(自治体)によっても違いますが、概ね
・指定対象区域、高さの最高限度、地区区分
・形態意匠の制限
・色彩の制限
の3点です。
これは日々建築確認申請を行なっている設計の担当者にとって、特に負担になることではありません。
「指定対象区域、高さの最高限度、地区区分」には、当該住宅を建てる指定対象区域、その地区の形態意匠について制限内容、建築物の高さの最高限度について事細かく指定しています。
また「形態意匠の制限」では景観地区共通の地区計画の他、形態意匠の注意点が細かく記載されていますし、「色彩の制限」には外壁や屋根に使用可能な色を地区ごとにマルセル・カラー・システム(マンセル表色系:美術、デザイン分野でよく使われる色の三属性の体系)で指定しています。
ただしどれだけ規定が細かくても、人が住む家に奇抜な色や意匠を選択する方はほとんど居ません。
また建築確認申請でもさらに細かい要素は確認を受けます。
そのため「景観地区内における建築物の計画の認定申請書」、あるいは「建築等計画概要書」に記載すべき届出対象行為に関しては、建築物の形態意匠の内容(仕上材の種類、色彩に何を使うか)だけです。
もちろん「建築等工事主等の概要」や「計画の内容」については記載する必要がありますが、大抵は1枚の用紙の中で全て収まる分量です。
余ほど変わったデザインの住宅を計画しない限り、届け出に時間が掛かるということはまずありません。
こうして見ていくと、街の風景になじむ色合いを楽しむ家づくりは、住まいの価値も高めることにつながります。
景観地区という「地域地区」が住人の負担にならず、かえって土地に対する愛着や埃となれば言うことはないでしょう。