「家を建てる」
「住宅や建物付土地を購入する」
「住宅や建物付土地を売却する」
こうした予定がある人にとって、「建ぺい率」は非常に重要な規定です。
「建ぺい率」とは建築基準法に基づく規制であるため、自由な家づくりや建物づくりに制限を受けることになります。
しかし、建ぺい率があることによって、採光や風通し、景観などが守られてもいることも事実であり、また、建ぺい率を遵守することは資産価値にも影響を及ぼします。
そこで今回は、建ぺい率の基本的な内容である
・建ぺい率の定義や基礎知識
・用途地域ごとの建ぺい率
・建ぺい率の計算方法
・建ぺい率の緩和条件
・建ぺい率と容積率の関係
などについて、徹底解説します。
目次
まずは、建ぺい率の定義や基本的な考え方について説明します。
建ぺい率とは「敷地面積に対する建築面積の割合」のことをいい、その敷地にどのくらいの規模の建物を建てることができるのかを判断する数値となります。
敷地面積とは、建物を建てる予定の土地の面積であり、建築面積とは屋根を外して建物を真上から見た時の面積といえますが、建築基準法施行令では下記の通り規定されています。
【建築基準法施行令の規定】
第二条(面積、高さ等の算定方法)
次の各号に掲げる面積、高さ及び階数の算定方法は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 敷地面積 敷地の水平投影面積による。ただし、建築基準法(以下「法」という。)第四十二条第二項、第三項又は第五項の規定によって道路の境界線とみなされる線と道との間の部分の敷地は、算入しない。
二 建築面積 建築物(地階で地盤面上一メートル以下にある部分を除く。以下この号において同じ。)の外壁又はこれに代わる柱の中心線(軒、ひさし、はね出し縁その他これらに類するもので当該中心線から水平距離一メートル以上突き出たものがある場合においては、その端から水平距離一メートル後退した線)で囲まれた部分の水平投影面積による。ただし、国土交通大臣が高い開放性を有すると認めて指定する構造の建築物又はその部分については、その端から水平距離一メートル以内の部分の水平投影面積は、当該建築物の建築面積に算入しない。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
これによると、正確には「建築物の外壁または柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積」ということになります。
次に、建ぺい率の基本的な考え方を、図を見ながら事例を通して確認しましょう。
<建築面積の事例>
上の図のように、屋根を外して真上から見て、外壁と柱の中心線で囲まれた部分が建築面積となります。
2階建ての建物の場合、2階部分が1階と同じ面積もしくは2階の方が小さい場合は、1階部分の外壁と柱の中心線で囲まれた部分が建築面積となります。
<2階建ての場合の事例>
上の図のように、すべて建物において1階部分の面積が建築面積となることがわかります。
では、2階部分が1階部分より、上から見てはみ出している建物の場合はどうなるのでしょうか。
<2階部分がはみ出している場合>
上の図の通り、1階部分よりはみ出した部分がある場合は、そのはみ出し部分を水平投影して1階部分に加算した面積が建築面積となります。
3階建て以上の建物や凹凸がある建物でも考え方は同じです。
ここでは少し専門的な分野となりますが、建築部分に算入される部分と算入されない部分について説明します。
無理に覚える必要はありませんが、知っていればより建ぺい率に関して万全となる知識です。
・外壁から1メートル以内の突き出し部分(軒・庇など)は、建築面積に算入されませんが、1メートルを超える場合は先端から1メートル後退した部分は建築面積に算入されます。
<突き出し部分の1メートルを超える場合の事例1>
<突き出し部分の1メートルを超える場合の事例2>
・下端が床面から30センチメートル以上の高さで外壁から50センチメートル以上突き出していない出窓は建築面積に算入されませんが、それ以外の出窓は建築面積に算入されます。
・高い開放性を有する部分(バルコニーや玄関ポーチなど)は建築面積に算入されませんが、柱が建てられている場合(カーポートなど)や3方を壁で囲まれている場合には建築面積に算入されます。
自分が希望する広さの建物を建てる場合には、建ぺい率は非常に重要な要素となりますので、土地情報を見る際には必ずチェックすべきポイントといえます。
次に、用途地域ごとの建ぺい率や建ぺい率の調べ方について説明します。
建ぺい率は、風通しや採光の確保、さらに防災の観点からも一定以上の空地が確保されるように、用途地域ごとに定められています。
<用途地域ごとの建ぺい率>
建物を新築する場合、上の表に定められている建ぺい率の範囲内で建物を建てなければなりません。
既に建物が建っている場合は、建築面積の敷地面積に対する割合が上の表の範囲内に収まっているかどうかをチェックします。
また、このように用途地域ごとに定められた建ぺい率を「指定建ぺい率」といいます。
建物を建てる予定の(あるいは既に建っている)敷地の建ぺい率を調べる場合、現在では多くの市区町村などの自治体が建ぺい率を含む都市計画情報をインターネットによって公開しているため、手軽に調べることができます。
ヤフーやグーグルなどの検索サイトで、「○○市(区) 建ぺい率」と検索すれば、各自治体の都市計画情報にアクセスすることができます。
<(例)東京都千代田区の都市計画情報マップ>
参考:千代田区ホームページ 千代田区都市計画情報提供ポータル より
また、市区町村などの各自治体の担当部署に足を運べば、都市計画全般について担当者と直接口頭で確認することができます。
担当者が都市計画規定などを順次説明してくれますので、慌てずにメモを取りましょう。
担当部署は「都市計画課」「まちづくり推進課」などが一般的ですが、自治体によっては名称が違う場合があります。
その場合は「都市計画について調査したい」と受付で問い合わせれば、担当部署を案内してくれるでしょう。
ここでは、建ぺい率の計算方法などについて見ていきましょう。
建ぺい率を求める計算式は、下記の通りとなります。
<建ぺい率の計算式>
続いて、具体的な事例によって計算してみましょう。
上図の通り、指定建ぺい率60%の地域にある300平方メートルの敷地に建物を建てる場合、どのくらいの建築面積の建物が建てられるのか計算してみると
敷地面積300平方メートル×建ぺい率60%÷100=建築面積の上限180平方メートル
となり、建築面積が最大180平方メートルの建物を新築することができます。
ただし、建ぺい率以外の制限により建築できる建物の大きさが影響を受けることもありますので、注意が必要です。
現在建物が建てられている場合は、その建物の建築面積がその土地に対する建ぺい率に違反していないか遵法性をチェックしなければなりません。
上図のように、300平方メートルの敷地に75平方メートルの建築面積の建物が建っている場合、前述の計算式に当てはめると、
建築面積75平方メートル÷敷地面積300平方メートル×100=25%
となり、実際に使用している建ぺい率は25%ですので60%の範囲内に収まっており、遵法性は確保されている、といえます。
ちなみに、このような実際に使用されている建ぺい率を「使用建ぺい率」といいます。
既存の建物が建っている場合で、使用建ぺい率が緩和条件を含めた基準建ぺい率(次章で説明します)をオーバーしている時、その建物が違反建築物の可能性があります。
しかし、このケースでは違反建築物の可能性について、もう少し詳細に調査する必要があります。
なぜなら、建築した当時は適法に建てられたが、その後の都市計画の改正などにより指定建ぺい率が変更され、現状では遵法性を確保できていない、というケースがあるためです。
そのため、建築当時の用途地域や指定建ぺい率を調査することが大切です。
こうした建物を「既存不適格建築物」といい、違反建築物における是正・指導といった法令上の義務は発生しません。
建ぺい率は、一定の条件を満たす場合に、定められている建ぺい率の割り増しを受けられる、あるいは建ぺい率の制限そのものを受けないことがあり、下記の通り建築基準法第53条第3・4・5項に規定されています。
【建築基準法の規定】
第五十三条(建蔽率)
3 前二項の規定の適用については、第一号又は第二号のいずれかに該当する建築物にあつては第一項各号に定める数値に十分の一を加えたものをもつて当該各号に定める数値とし、第一号及び第二号に該当する建築物にあつては同項各号に定める数値に十分の二を加えたものをもつて当該各号に定める数値とする。
一 第一項第二号から第四号までの規定により建蔽率の限度が十分の八とされている地域外で、かつ、防火地域内にある耐火建築物
二 街区の角にある敷地又はこれに準ずる敷地で特定行政庁が指定するものの内にある建築物
4 隣地境界線から後退して壁面線の指定がある場合又は第六十八条の二第一項の規定に基づく条例で定める壁面の位置の制限(隣地境界線に面する建築物の壁又はこれに代わる柱の位置及び隣地境界線に面する高さ二メートルを超える門又は塀の位置を制限するものに限る。)がある場合において、当該壁面線又は壁面の位置の制限として定められた限度の線を越えない建築物(ひさしその他の建築物の部分で政令で定めるものを除く。)で、特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの建蔽率は、前三項の規定にかかわらず、その許可の範囲内において、前三項の規定による限度を超えるものとすることができる。
5 前各項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物については、適用しない。
一 第一項第二号から第四号までの規定により建蔽率の限度が十分の八とされている地域内で、かつ、防火地域内にある耐火建築物
二 巡査派出所、公衆便所、公共用歩廊その他これらに類するもの
三 公園、広場、道路、川その他これらに類するものの内にある建築物で特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したもの
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
下記の条件を満たす土地については、建ぺい率は100%となり、建ぺい率の制限は適用除外となります(建築基準法第53条第5項)。
[su_list icon=”icon: check-square-o”]下記の2つの条件のうち、1つに該当する場合は建ぺい率が「+10%」となり、2つとも該当する場合には建ぺい率が「+20%」となる規制緩和が適用されます(建築基準法第53条第3項)。
[su_list icon=”icon: check-square-o”]敷地が防火地域に内外にまたがっている場合、建物が耐火建築物の時は敷地全体が防火地域内にあるものと判断され、規制緩和が適用されます。
なお、角地に関する規定は各自治体によって違うため、必ず敷地がある自治体に確認しましょう。
例として、東京都千代田区の規定を挙げてみます。
(例)【東京都千代田区の規定】
第41条(建ぺい率の緩和)
法第53条第3項第2号の規定により区長が指定する敷地は、その周辺の3分の1以上が道路又は公園、広場、川その他これらに類するもの(以下この条において「公園等」という。)に接し、かつ、次に掲げる敷地のいずれかに該当するものとする。
(1)二つの道路(法第42条第2項の規定による道路で、同項の規定により道路境界線とみなされる線と道との間の当該敷地の部分を道路として築造しないものを除く。)が隅角120度未満で交わる角敷地
(2)幅員がそれぞれ8メートル以上の道路の間にある敷地で、道路境界線相互の間隔が35メートルを超えないもの
(3)公園等に接する敷地又はその前面道路の反対側に公園等がある敷地で、前2号に掲げる敷地に準ずるもの
引用元:千代田区HP 千代田区例規集 千代田区建築基準法施行細則 より
また、敷地が2つ以上の建ぺい率の異なる用途地域にまたがっている場合は加重平均で建ぺい率を計算します。
<敷地が2つ以上の建ぺい率の異なる用途地域にまたがっている事例>
上の図の場合、加重平均により建ぺい率を計算すると、
(建ぺい率60%×100平方メートル+建ぺい率80%×200平方メートル)÷300平方メートル=73.3%
となります。
これらの規制緩和などを含めた、敷地の個別の建ぺい率を「基準建ぺい率」といいます。
建ぺい率と併せて確認すべき数値に「容積率」という数値があります。
容積率とは「敷地面積に対する延床面積(床面積の合計)の割合」のことであり、建ぺい率と同様に用途地域ごとに50%から1300%の範囲で定められています。
ここでは容積率についての詳細な説明は避けますが、低層系の住居地域では「建ぺい率50%、容積率100%」といった土地が多く、通常は2階建てまでの住宅しか建築できません。
一方、「建ぺい率80%容積率800%」といった商業地では10階建て以上の大型のビルが建築できることとなります。
このように、建ぺい率と容積率はセットで考える必要があり、一般的には容積率は建ぺい率の2倍以上あるとバランスの良い建物が建てられる、といわれています。
建ぺい率について、意味や計算方法、建ぺい率の算入・不算入、緩和条件などについて説明してきました。
一般的には使用しないことであると思いますが、不動産を購入する・売却する・家を建てるといった予定がある人であれば、必ずチェックしておきたい知識です。
特に「指定建ぺい率」「使用建ぺい率」「基準建ぺい率」の区別や、建ぺい率の計算方法、緩和条件については理解を深めておくと、不動産取引や建築プラン作りに役立ちます。