あなたは「建物滅失登記」をご存じでしょうか?
建物を取り壊した時に行う登記ですが、高度な法律知識や専門的な技術などが必要ないため、自分でも対応可能な登記なのです。
そう言われると、
「何から始めればよいのかわからない!」
「素人にはできないのでは?」
「難しくて無理だ!」
という声が聞こえてきそうです。
そこで今回の記事では、「自分でできる建物滅失登記」というテーマに沿って、建物滅失登記の必要書類や申請方法、手順、登記しない場合のデメリットなどについて詳しく解説します。
目次
建物を新築・増築した場合、新築・増築を行った日から1ヶ月以内に建物の表題部の登記(表題登記といいます)をすることが、不動産登記法により義務付けられています。
それでは、既存の建物を取り壊した場合はどうでしょうか。
不動産登記は、不動産の物理的状況や権利関係などを登記簿に記載することによって、誰もがその不動産の状況を確認することができるために行います。
それゆえに、火事によって建物が焼失した場合や解体して建物を取り壊した場合など、建物が滅失して存在していないのであれば、その状況を正確に登記簿に反映しなければなりません。
そのために「建物滅失登記」を行います。
建物滅失登記は、建物がなくなったということを登記簿に記録して、建物の登記を閉鎖する役割を担っています。
<建物滅失登記の事例>
上の事例では、所在(地番)○○区○○町一丁目100番地5、家屋番号100番5、木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建、床面積1階92.18平方メートル・2階54.20平方メートル、平成5年4月10日新築の居宅を、平成29年12月10日に解体して取り壊し、建物滅失登記を行ったことにより登記が抹消され(下線があるため抹消事項とわかります)、平成29年12月17日に登記簿が閉鎖されたことがわかります。
建物滅失登記は表題登記と同様に、建物の所有者が、建物の滅失(取壊し)があった日から1ヶ月以内にその建物を管轄する法務局に申請しなければなりません。
このことは、不動産登記法第57条に定められています。
第五十七条(建物の滅失の登記の申請)
建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の場合にあっては、所有者)は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
しかし、現実的には建物を取り壊したにもかかわらず、滅失登記を申請することを忘れている建物所有者の方が多くみられますので、注意が必要です。
次に、建物滅失登記の必要書類や申請方法、手順などについて説明します。
建物滅失登記を自分で行うことができるように、しっかりと確認していきましょう。
まずは、建物滅失登記を行うために下記の必要書類を準備しましょう。
登記申請書を記入します。
申請書は最寄りの法務局で取得できますが、法務省のホームページでダウンロードすることもできます。
<建物滅失登記申請書のサンプル>
引用元:法務所ホームページ 不動産登記の申請書様式について より
建物の登記簿謄本(登記事項証明書)を参照して、不動産番号・所在・家屋番号・種類・構造・床面積・登記原因及びその日付をそのまま書き写しましょう。
控えとしてコピーを取っておくとよいでしょう。
案内図(地図)として、通常は住宅地図のコピーを使用します。
住宅地図は図書館などで借りることができますが、グーグルマップのコピーでも差し支えありません。
解体工事を行った解体業者に作成してもらいます。
建物滅失証明書の書式は、大抵の解体業者が持っていると思いますが、サンプルを参照して自分で作成してもいいでしょう。
<建物滅失証明書のサンプル>
解体業者が滅失登記を申請する法務局の管轄外の法人の場合は、会社の資格証明書(代表者事項証明書もしくは履歴事項証明書)および会社の印鑑証明書を添付します。
ただし、解体業者が滅失登記を申請する法務局の管轄の法人の場合は、登記申請書にその会社の法人番号を記載することで、これらの書類の添付を省略することができます。
また、解体業者が個人事業者の場合は、会社の資格証明書はありませんので、個人の印鑑証明書のみが必要となります。
滅失した建物が登記されている法務局で、建物の登記簿謄本(登記事項証明書)・建物図面・各階平面図・公図を取得します。
登記簿謄本(登記事項証明書)では建物所有者の住所や氏名、抵当権設定の有無、建物図面では建物の位置関係、各階平面図では建物の形状、公図では建物の所在する土地の特定などを、それぞれ確認しましょう。
<建物登記簿謄本(登記事項証明書)のサンプル>
<建物図面・各階平面図のサンプル>
<公図のサンプル>
必須ではありませんが、現地写真を撮っておくことは万一の場合の証拠や確認材料ともなりますので、用意しておくことをオススメします。
建物所有者本人が登記申請に行けない場合に、代理人によって申請できますが、その際は委任状が必要となります。
<委任状のサンプル>
次に、建物滅失登記の申請方法と手順について、流れに沿って説明します。
<建物滅失登記の手順>
まずは、滅失した建物が登記されているかどうかを確認します。
なぜなら、すべての建物が必ず登記されているとは限らないためです。
確認方法は、固定資産税納税通知書を確認することです。
固定資産税納税通知書に記載されている建物で、家屋番号がある場合は登記されているということになり、建物滅失登記申請が必要となります。
滅失した建物に家屋番号がない場合は、登記されている建物ではないため、建物滅失登記申請も不要です。
建物を管轄する法務局で、前項で説明した建物の登記簿謄本(登記事項証明書)・建物図面・各階平面図・公図を取得します。
取得した最新の登記簿謄本(登記事項証明書)をもとに、登記申請書を作成します。
最新の情報に基づいて登記申請書を作成することが大切であり、万一、古い情報を登記申請書に記載してしまうと、後に補正などの対応が必要となる場合がありますので注意しましょう。
作成した建物滅失登記申請書を、案内図や建物滅失証明書などの必要書類を添付して、建物を管轄する法務局へ提出します。
法務局が遠方の場合は、郵送による登記申請も可能です。
また、建物滅失登記には登録免許税は課税されませんが、登記事項証明書などの発行手数料(2,000円~3,000円程度)は用意しておきましょう。
法務局において申請書類の確認・審査や現地調査などが行われ、書類の不備や補正事項などがある場合には連絡が来ますので、速やかに対応しましょう。
補正がない場合、または補正に適切に対応した場合は、建物滅失登記手続きが完了します。
通常であれば、申請後数日から10日以内程度で手続きが完了し、法務局より登記完了証が発行されます。
もし建物滅失登記をしない場合、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
ここでは、そのデメリットについて説明します。
不動産登記法第164条によると、建物の滅失登記を滅失の日から1ヶ月以内に行わない場合、10万円の過料に処する、と規定されています。
過料とは金銭を徴収する制裁のひとつであり、罰金とは異なり刑事罰ではありません。
また、実際に建物滅失登記をせずに過料の問われた・・・というケースはあまり聞かれませんが、法律に規定されているので速やかに申請しましょう。
第百六十四条(過料)
第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
実際には存在していない建物の固定資産税・都市計画税が、課税され続けるというデメリットがあります。
固定資産税・都市計画税は、その年の1月1日時点の所有者に支払い義務が発生しますので、建物がない場合は前年中に建物滅失登記を済ませておきましょう。
法務局は、不動産の登記情報を自治体へ報告しています。
そのため、建物滅失登記を適切に行っておけば、その翌年の1月1日時点で建物の登記がないことから、その年から建物分の固定資産税・都市計画税は課税されなくなります。
ただし、住宅家屋を解体して滅失登記した場合、住宅用地の特例による固定資産税・都市計画税の軽減措置が適用されなくなります。
結果として、固定資産税評価額が高くなり土地分の納税額が増えますので注意が必要です。
<住宅用地の特例による固定資産税・都市計画税の軽減措置>
建物がないにもかかわらず建物滅失登記をしないままでいると、所有者が亡くなって相続が発生した場合に、相続人がコストや手間を負担して建物滅失登記をしなければならない義務を負います。
その場合には、所有者自身が建物滅失登記を行う時の必要書類に加えて、相続人の戸籍謄本など相続関連の書類も取得・提出しなければならないため、手間がかかります。
また、本来の所有者がいないため、建物を取り壊した時の事情や経緯がわからず、思わぬトラブルや問題が発生するケースも考えられます。
こうした負担を発生させないためにも、建物を取り壊したら速やかに建物滅失登記を行っておきましょう。
土地を担保として金融機関から融資を受けようとする時、更地であるにもかかわらず建物の登記があれば金融機関から指摘を受けることになります。
この場合、登記上の物理的状況と現況が異なっているために不備があるとされ、このままでは融資を受けられない可能性があります。
土地売買において、買い手が金融機関から融資を受けて土地を購入することが一般的ですが、更地であるにもかかわらず建物滅失登記をしていなければ、買い手の融資が承認されないことがあります。
担保となる土地上に他の名義人の建物が登記されているということは、権利上のリスクが付着している物件であると判断されるためです。
融資が承認されなければ、せっかくの商談もご破算になってしまいますので、こうした事態にならないためにも事前に建物滅失登記をしておきましょう。
建物を新築する場合、市区町村へ建築確認申請を提出し、審査のうえ建築の許可を受けます。
そのため、申請した土地に建物の登記が確認されると、建築計画に不備があるとして建築確認が許可されない可能性があります。
建物滅失登記申請を依頼する場合、登記の専門家である司法書士ではなく土地家屋調査士に依頼しましょう。
建物滅失登記は不動産の表題部に関する登記ですので、土地家屋調査士しか登記申請の代理業務はできません。
ちなみに、所有権移転登記や抵当権設定登記など、不動産の権利に関する登記は司法書士の分野となります。
建物滅失登記を土地家屋調査士に依頼した場合の費用は、およそ4万~5万円程度ですが、建物の棟数が多い場合などは変動する場合があるため、確認が必要です。
自分で登記を行う時間が取れない人や手続きが面倒な人は、委任状を発行して依頼するとよいでしょう。
最後に、建物滅失登記を申請する場合の注意点について確認しましょう。
建物所有者の現住所と登記簿上の住所が異なっている場合は、登記簿上の住所から現住所への変遷がわかる「住民票の写し」や「戸籍の附票」が必要となります。
引越しが1回であれば住民票に前住所が記載されているため、住民票だけを用意すればよいのですが、引越しが2回以上の場合は戸籍の附票が必要となりますので注意しましょう。
また、建物所有者の氏名が異なっている場合は、「戸籍謄本」や「除籍謄本」など登記簿上の氏名と現在の氏名がつながる証明書が必要となります。
建物滅失登記は、表題部の所有者または登記名義人が申請しなければなりません。
ただし、建物の登記名義人が亡くなっている場合は、相続人(相続人の内の1人で可)が建物滅失登記を行うことができます。
というよりは、建物所有者が亡くなっているため、第三者が登記申請するわけにはいかず、相続人には申請義務があるといえます。
ただし、登記申請に際しては前述の登記必要書類の他に、以下の相続関連書類を準備する必要があります。
亡くなった建物所有者に配偶者や子供がいて、戸籍が閉鎖されていなければ戸籍謄本を提出し、配偶者や子供がいなければ戸籍が閉鎖されているため、除籍謄本を提出することとなります。
亡くなった建物所有者の戸籍に相続人(申請人)の記載がなければ、相続人(申請人)の戸籍を提出します。
亡くなった建物所有者の最後の住所を証明するために、住民票の除票(本籍地の記載のあるもの)または戸籍の附票が必要となります。
なお、滅失登記する建物について相続登記が完了している場合は、相続人としてではなく、新しい建物所有者として通常の滅失登記申請を行うこととなります。
建物所有者が病気や高齢、海外転勤などにより、建物滅失登記を申請することが難しい場合、配偶者や子供、親族などが代理で手続きを行うことが可能です。
ただし、登記申請人はあくまで建物所有者であるため、申請書には滅失した建物所有者の住所・氏名を記入のうえ、押印しなければなりません。
登記されている建物が自宅として使用している居宅だけでなく、敷地内に建物として認められている車庫や倉庫などもある場合は、主である建物として居宅、附属建物として車庫と倉庫が登記されているケースがあります。
<附属建物の登記の事例>
そのため、居宅だけを取り壊して車庫や倉庫が残っている状態では、建物滅失登記はできず、1個の建物に変更が生じたいという考え方から、車庫または倉庫のいずれかが主である建物とする建物表題変更登記の申請を行うこととなりますので、注意しましょう。
居宅・車庫・倉庫のすべてを取り壊した場合に、建物滅失登記を申請することができます。
抵当権が設定されている建物を滅失登記する場合、抵当権者の同意書などの書類を添付する必要はなく、建物が滅失登記されると同時に抵当権も抹消されます。
しかし、残債務があるにもかかわらず抵当権者の同意なしに建物を滅失してしまうと、契約に違反することがあり、トラブルに発展する可能性が高いので厳禁です。
必ず、事前に金融機関などの抵当権者に相談し、同意を得ておくようにしましょう。
住宅ローンなどの債務を完済している場合は、完済した時点で金融機関などから抵当権抹消書類が送られて来ているはずですので、抵当権抹消登記を行ってから滅失登記を申請しましょう。
表題登記されていない、いわゆる未登記の建物も世の中には数多くあります。
そのような未登記建物を取り壊した場合は、そもそも建物の登記自体が存在しないために、滅失登記を行う必要はありません。
親が住んでいた実家を相続で取得し、空き家のままになっているケースが増えています。
そのまま放置していると、樹木が繁茂して隣家や道路に越境したり、害虫や害獣が発生したり、外壁や屋根などが老朽化により落下したり、不法投棄・不法侵入・放火などの犯罪が発生したりと、周辺住民への大きなトラブルの原因となりかねません。
適切な維持・管理ができない場合は、自治体より助言・指導・勧告を受けることとなり、改善されない場合は命令・代執行が行われ50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
そのようなリスクや手間を避けるために、空き家を解体して建物滅失登記を申請することも検討しましょう。
古くて利用できない建物が建っている土地(古家付き土地)を売り出して、買い手が見つかった場合に、買い手から建物の所有権移転に関する登録免許税などの登記費用を節約したいために古家の所有権移転を省略してほしい、と相談されることがあります。
買い手は購入後、すぐに古家を解体して建物を新築するため、古家の所有権移転登記が無駄なためです。
実務上では、売り手の建物滅失登記に関する登記申請書や委任状などの必要書類一式を買い手に引渡し、建物の所有権移転登記を行わずに土地のみ所有権移転登記を行い、買い手側で古家を取り壊して、預かっている必要書類を使って滅失登記を申請する・・・ということになります。
ただし、売り手としてはリスクがないのですが、買い手には自分名義の土地上に解体工事が終了するまで、売り手名義の建物が残ってしまうリスクがあります。
もし、売り手が第三者へ建物を所有権移転してしまえば、買い手は滅失登記することができなくなるのです。
そのため、買い手が住宅ローンなどを利用する場合には、金融機関がそのような取引を了承しない可能性があります。
その場合には、売り手側で解体・滅失登記を行い、費用については売買価格で調整するなどの柔軟な対応が必要となります。
建物滅失登記について、申請方法や手順、申請しない場合のデメリット、申請する際の注意点などについて説明してきました。
実際は、建物を取り壊したにもかかわらず建物滅失登記を申請しなくても、法務局に知られてしまう可能性は低いといえます。
しかし、法律で決められている以上、社会のルールを守ることは大人として取るべき対応ではないでしょうか。
この記事で説明したデメリットやトラブル発生のリスクもありますので、建物を取り壊した場合は速やかに建物滅失登記の申請を行いましょう。