任意売却とは?競売との違い・相談先・デメリット・売却の流れを解説!

「住宅ローンが支払えなくなったらどうなるのだろう・・・」といった悩みや問題に対して、ネット上や口コミを見てみると、

・家が競売にかけられてしまう・・・
・裁判所が差押えに来る・・・
・強制退去させられる・・・

など、断片的で責任感のない情報が氾濫しており、一層困惑してしまうかもしれません。

住宅ローンを滞納したからといって、すぐに強制退去や競売という事態になるわけではありませんし、その前に任意売却という選択肢もあるのです。

任意売却は競売と比較してたくさんのメリットがあります。

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この記事では、住宅ローンを滞納してからの流れや対策を体系的に解説しています。

ぜひ参考にして、任意売却をあなたの選択肢のひとつに加えてください。

目次

1.任意売却とは?

まずは、任意売却に関する正しい基礎知識や仕組みなどについて説明します。

(1)住宅ローンを借りると抵当権が設定される

マイホームを購入する際に、大抵の人が金融機関から住宅ローン融資を受けます。

その時、金融機関は購入したマイホームを担保として「抵当権」を設定します。

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「抵当権」とは、不動産の所有者が住宅ローンを返済できなくなった場合に、債権者が不動産を裁判所の競売にかけて、強制的に現金化できる権利のことをいいます。

債権者(=抵当権者・お金を貸している人)は、基本的に住宅ローン全額が返済されないとこの抵当権を抹消しません。

また、抵当権は不動産の所有権が他の人に移転した時も、自然と抹消されることはなく、抹消に関して債権者の同意が必要です。

抵当権は、いわゆる「借金のカタに取られている」という風にいえます。

抵当権の内容は、登記簿謄本の権利部(乙区)で確認することができます。

【抵当権設定の例】

普通、抵当権が設定されたままの不動産を購入する人はいません。

なぜなら、大金を出して不動産を購入しても、自分の借金ではない抵当権によって、いつなんどきその不動産が債権者によって競売にかけられてしまうかわからない、というリスクがあるためです。

そのため、マイホームを売却する時、所有者(売主)は自己の責任と負担において、抵当権を抹消しなければなりません。

通常は、マイホームの売却代金で残りの住宅ローンを一括返済することによって、債権者は抵当権の抹消に同意します。

(2)任意売却とは?

住宅ローンの滞納が続くと、金融機関などの債権者は抵当権を行使して競売によって強制的に融資を回収しようとします。

任意売却とは、競売になってしまう前に所有者と債権者の合意を得たうえで、その不動産を通常の不動産流通マーケットで売却することをいいます。

抵当権が設定されている時、売却代金で住宅ローンの残額すべてを支払えれば抵当権を抹消できますが、ローン残額に満たない売却価格の場合もあります。

マイホームの売却代金で住宅ローンの残額を一括返済できない時は、基本的に債権者は抵当権の抹消に同意しません。

そのような場合は、所有者が不足分を現金で用意して返済に充当しますが、住宅ローンを滞納している所有者は、不足分の現金を用意することが難しいケースがほとんどです。

このように、所有者が住宅ローンの全額を返済できないと債権者が判断した場合において、所有者自身の意思で不動産を売却し、その売却代金を住宅ローンの残額返済に充てることが任意売却の流れとなります。

債権者が任意売却に応じてくれる可能性は、任意売却によって競売より高い金額で売れれば融資した資金を多く回収できるというメリットにあります。

もちろん、所有者にとっても借金が少しでも減るというメリットがあります。

2.住宅ローンを滞納したら・・・競売への流れ

会社倒産、リストラによる失業、減給、残業代の減少、ケガや病気、離婚・・・

自分で計画していた人生設計と違った事態となり、収入減による住宅ローン滞納が発生するリスクは誰にでもあります。

では、住宅ローンを滞納して、何もせずにそのままでいるとどうなるのでしょうか。

時系列で具体的に説明します。

【競売までの流れと期間の目安】

※期間はあくまでも目安です。金融機関や自己破産などの状況によって変わります。

(1)住宅ローン滞納当初

住宅ローンを滞納すると、債権者である金融機関からの督促状などの書面が郵送されます。

「住宅ローン返済についてのご連絡」や「督促状」といったタイトルの文書です。

まずは、「ローン返済を滞納しているので支払ってください」といったお願い口調の文面です。

この時点で、経済的状況や今後の見通しが好転すれば問題は発生しません。

しかし、事態が変わらず今後の見通しも立たない場合は滞納が続くこととなります。

そのまま放置すると、さらに厳しい文言の書面が届いたり、担当者が直接、自宅や勤務先に電話や訪問をしたりします。

法的処置を含めたかなり厳しい内容の話となりますが、感情的になって担当者と口論などになることは避けましょう。

わだかまりや誤解が残って、後に任意売却の相談に応じてもらえなくなることがあります。

この先もローン返済の見通しが立たない場合は、この段階から任意売却専門の不動産業者(以下「専門業者」といいます)か弁護士・司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。

(2)期限の利益喪失

3ヶ月以上(住宅金融支援機構の場合は6ヶ月以上)滞納が続くと、債権者から「期限の利益喪失通知」という書面が送られてきます。

「期限の利益」とは、債務者が住宅ローンを毎月決められた返済額を支払うことで、残りのローンを一括返済せずに25年や30年などの借入期間を設けて返済できる、という利益のことをいいます。

期限の利益については、必ず住宅ローンの契約(金銭消費貸借契約)に規定されており、この規定に違反すると債務者は住宅ローンの残債務を直ちに一括返済しなければなりません。

(3)代位弁済・一括請求

期限の利益喪失が通知されると、次は保証会社から「代位弁済通知」という書面が送られてきます。

住宅ローンを利用する際、金融機関と締結する金銭消費貸借契約とは別に、保証会社と保証委託契約を締結しています。

この保証契約により、不動産の所有者が住宅ローンを滞納し、期限の利益を喪失した場合は、保証会社が所有者に代わって債権者へ住宅ローンの残債務を一括で支払うことを「代位弁済」といいます。

これによって、保証会社が新たな債権者となり、所有者へ住宅ローンの残債務の一括返済を請求してきます。

また、一般的には、保証会社から委託を受けた債権回収会社(サービサー)が窓口になります。

債権回収会社(サービサー)とは、「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」の施行により、弁護士法の特例として弁護士または弁護士法人以外に特定金銭債権の管理・回収を行うことが認められた民間会社です。

この段階で、競売か任意売却かの選択をしましょう。

早急に専門業者か弁護士・司法書士などの専門家と相談のうえ、保証会社と交渉してもらえば、多くの場合、任意売却を認めてもらえます。

競売と比較すると任意売却の方が取引の自由度は高いので、任意売却が認められるのであれば任意売却を選択する方が賢明です。

【住宅ローン全体の仕組み】

(4)差押え・競売開始決定

抵当権を設定している金融機関又は代位弁済した保証会社が、裁判所に不動産競売を申し立て、一連の競売手続きがスタートとなります。

担保となっている不動産に差押えが行われ、所有者のもとに「不動産競売開始決定」という通知書が送られてきます。

この段階になると、任意売却の相談をしても競売手続きに応じない債権者もいるため、注意が必要です。

また、任意売却に応じたとしても、競売手続きかかった費用(数十万円から百万円超)を請求されるケースもあり、任意売却を選択するのであれば早めの対応が必要なことがわかります。

(5)執行官による現状調査

続いて、裁判所は不動産競売の実務を担当する執行官に現状調査を命じます。

タイミングとしては、競売開始決定から早い場合は1ヶ月程度以内、遅くても3ヶ月程度以内には、執行官と評価人と呼ばれる不動産鑑定士がマイホームへ調査にやって来ます。

この現状調査は、国家権力によって行われるため、所有者に拒否権は一切ありません。

カギを開けなかったとしても、カギの専門業者に依頼して開錠し、調査を行います。

このように強制的に調査を行ったうえで、物件の所在地や構造・面積などの不動産概要、室内写真や間取図、不動産を占有している者(所有者)の氏名などを記載した「現況調査報告書」や評価人による「評価書」を作成し、後にインターネットなどで公開されることになります。

(6)期間入札の公告~売却許可決定

裁判所による現状調査が終わると、一定期間告知をした後に入札期間を設けて入札を行い、開札日に一番高い価格を入札した人が落札する、という流れで進みます。

期間入札の公告後、入札希望者は裁判所で「現況調査報告書」「評価書」「物件明細書」といういわゆる3点セットを閲覧できます。

以前は、裁判所に行くか、専門業者から情報を入手するかしか方法がなかったのですが、現在は、裁判所が運営しているWebサイトで公開され、誰でも手軽に確認できるようになっています。

インターネットでの公開によって、入札希望者にとっては利便性が上がりましたが、競売にかかってしまった人にとっては、情報がオープンになることによって自宅が競売にかかっているという事実が近隣の人にもわかってしまう・・・という辛い現実があります。

2週間の期間入札の公告を経て、期間入札→開札→落札へと進み、一番高い価格で入札した人が落札者として認められます。

そして、裁判所が落札者に対してその不動産の売却を許可するという売却許可決定を出します。

(7)その後の明渡しまで

落札者が落札代金を支払い、裁判所は各債務者へその代金を配分して、競売は終了となります。

落札者が代金を納付し所有権が移転すると新しい所有者となり、新所有者の合意がなければ住み続けることはできません。

話し合いによる合意が得られなければ、1~2ヶ月後には強制執行が行われ、強制的に立ち退かされます。

【明渡しの流れ】

このように、住宅ローンを滞納して、何もせずにいると競売手続きが進み、最悪の場合強制的に立ち退かされるということになります。

こういった事態を防ぐために、任意売却という選択肢があります。

3.競売を回避!任意売却までの流れ

競売という強制的な売却を回避するために、任意売却を選択した場合の流れについて説明します。

【任意売却を選択した場合の流れ】

住宅ローンの滞納が始まり、返済の見込みが立たない場合、すぐに専門業者への相談をお勧めします。

遅くとも、代位弁済通知が届いた段階で必ず相談してください。

任意売却は時間との闘いでもあるのです。

そして、適切な価格査定を行ったうえで、専門業者と専任媒介契約を締結します。

なぜ専任媒介契約を締結するかというと、重ねて他の業者へ売却を依頼できない契約のため、各債権者との窓口が一本化できるからです。

実務上は、専任媒介契約を締結した段階で、専門業者は各債権者へ売却の依頼を受けた旨を報告します。

ここで各債権者と売出し価格について算定結果をもとに価格の妥当性やスケジュール感などを交渉し、同意を取ります。

すべての債権者の同意が取れたら、売却活動の開始です。

売却活動は通常の不動産売却と同様で、物件情報を広く発信し、買い手を探します。

専門業者は、すべての債権者と同意した売却活動期間(6ヶ月の場合が多い)内での成約を目指して活動します。

任意売却の成功率を上げるためには、所有者の協力が必要不可欠です。

例えば、買い手が物件内部や周辺環境を確認するために内覧に来ますが、ここでの所有者の対応が成功率を左右します。

スケジュール調整、室内の清掃や整理整頓、生活臭やペット臭の消臭、内覧前の室内換気、電球等の交換、内覧日当日の対応など、所有者としてさまざまな対応や対策が必要となります。

詳細は専門業者から提案がありますが、まずは所有者のやる気と協力が必要なことを覚えておいてください。

そして、購入申込書を受領すると、専門業者は各債権者と再度交渉します。

ここでは、売却代金の配分について交渉し、同意を取ります。

所有者の引っ越し費用などもこの段階で同意を取り、確保します。

各債権者の債権より優先される費用などもあるため、各債権者が債権の100%を回収できる訳ではなく、ハードな交渉になる場合もあります。

各債権者の抵当権抹消に関する同意が取れれば、不動産売買契約を締結し、所有者は引越しの準備をして、決済・引渡しを迎えることとなります。

売買契約後の流れは、通常の不動産売却の場合と変わりありません。

4.任意売却と競売の違いと8つのメリット

ここでは、競売と任意売却の違いについて表で確認しましょう。

 競売任意売却
売却価格相場価格の50%~60%程度ほぼ相場価格
主な購入者不動産業者などのプロエンドユーザーなどの個人客
内覧不可
期間代位弁済後、半年~8ヶ月程度代位弁済後、1ヶ月~半年程度
引越し費用など資金は残らない別途残せる可能性あり
プライバシー保護されない保護される
退去について直ちに立ち退かなければ強制執行もあり「リースバック」や「買い戻し」の可能性もあり

この表をもとに、競売と任意売却を比較しながら、任意売却の8つのメリットについて説明します。

(1)競売より高く売却できる可能性がある

競売の基準価格は、評価人による評価額の50~60%程度です。

また、一般のエンドユーザーが入札に参加することは少なく、競売物件の内覧もできないため入札参加者は不動産業者などのプロがほとんどです。

任意売却の場合は、通常の不動産売却活動を同じため、物件の内覧も可能です。

広く情報発信をして買い手を多く集めることができるため、競争原理が働き、価格もほぼ相場価格で売却することができます。

そのため、各債権者もより多くの債権を回収することができ、所有者も高く売れる分を返済に充てることができます。

(2)引越し費用などを捻出できる

競売では強制執行という最終的な手段が使えるため、立ち退き料などが支払われることはありませんが、任意売却の場合は、各債権者との配分の相談の結果、引越し費用などを認めてもらえるケースが多くあります。

また、強制的に立ち退かされる競売と違い、任意売却では引越しのスケジュールなどの相談も可能です。

(3)プライバシーが守られる

競売では、住宅ローンを滞納して競売にかかっている事実が新聞やインターネットなどによりオープンとなり、近隣の人や会社の人に知られてしまう可能性があります。

任意売却の場合は、通常の不動産売却と同じですので、必要以上のプライバシーについては保護されます。

(4)自宅に住み続けることができる可能性がある

競売の場合は、新しい所有者が立ち退きを望めば、直ちに立ち退かなければなりません。

立ち退かない場合は、強制執行が待っています。

しかし、任意売却の場合は、家をそのまま賃借することによって住み続けることができる「リースバック」という方法や、親族などの身内にいったん物件を購入してもらい、後で買い戻すという「買い戻し」という方法が取れる可能性があります。

(5)競売より短期間で解決できる

競売の場合は、裁判所により法的手続きを進める必要があるため、解決するまでには代位弁済後、半年~8ヶ月程度の時間を要します。

しかし、任意売却の場合は法的手続きなどがなく、すぐにでも買い手が現れれば短期間で解決することが可能です。

(6)柔軟な対応が可能である

競売の場合は、法的手続きにより強制的な対応が求められますが、任意売却の場合は、ある程度柔軟な対応が可能です。

例えば、引渡しのスケジュールや売却価格の希望など、所有者としてのリクエストに応じてもらえる可能性があります。

(7)残債務の返済計画を相談できる

売却代金で住宅ローンを返済しきれなかった残債務について、債権者と相談や交渉することが可能です。

月々1万円ずつ返済していくといった、少額での返済に応じてもらえるケースもあり、所有者にとって大きなメリットがあります。

競売の場合は、残債務についても一括返済をしなければならないため、仕方なく自己破産する人もいます。

(8)精神的なストレスが少ない

競売の場合は、所有者の都合や事情を考えることなく、法的手続きにより進んでいきます。

そのため、精神的ストレスは計り知れないものがあり、屈辱感を感じる場面も多くあることでしょう。

しかし、任意売却の場合は、その字の通り所有者自身の意思決定により売却を進めることが可能です。

通常の不動産売却と変わらないために、所有者の精神的ストレスはかなり少ないと言えるのではないでしょうか。

「立ち退かされる」のと「引っ越す」のでは、大きな違いがあります。

5.任意売却の4つのデメリット

次に、任意売却における4つのデメリットについて説明します。

(1)所有者の協力や時間が必要である

任意売却の場合は、所有者自身の協力や時間が必要となります。

専門業者との打合せや売却活動中の内覧対応など、労力や時間がかかります。

競売の場合は、裁判所が法的手続きを進めるため、所有者は何もする必要がありません。

(2)個人信用情報が「ブラックリスト」に載る

代位弁済が行われると、個人信用情報に事故記録が登録されます。

俗にいう「ブラックリスト」に記録が登録されますので、今後の借入れなどが事実上不可能となります。

競売の場合もこの点は同様です。

(3)すべての債権者の同意が得られることもある

任意売却を認めない保証会社も一部にあるように、さまざまな理由で債権者の同意が取れないことがあります。

その場合は、任意売却の手続きは進めることはできなくなります。

(4)専門業者をなかなか見つけられない

意外と難しいのが、専門業者を探すことです。

インターネットで「任意売却」というワードで検索すると、さまざまサイトが現れますが、ポータルサイトであることが多いです。

そのポータルサイトに登録している不動産業者も専門業者でないケースが多く見られます。

専門業者と普通の不動産業者の違いは、債権者との交渉の経験値にあります。

スムーズな交渉ができないために競売に進んでしまうことや、複数の債権者がいたり、固定資産税や都市計画税の差押えがついていたり、など経験やノウハウがないと対応に困ることがあります。

任意売却は、専門知識・スキル・ノウハウが必要な専門性・特殊性の高い分野ですので、専門業者を探すためには、これまでの任意売却の実績や経験を必ず確認しましょう。

6.任意売却の実際の事例

ここでは、実際の任意売却の実際の事例を見てみましょう。

(1)会社の急な業績悪化により収入が激減→倒産

【所有者情報】
Tさん(会社員)・40代(妻・子2人)
【売却理由】
急な収入減による任意売却
【物件概要】
築10年の分譲マンション・最寄り駅から徒歩9分
鉄筋コンクリート造・75平方メートル(3LDK)
【売却背景】
Tさんは、このマンションを新築4,200万円で購入しました。
そして子供も2人生まれ、マイホームで一家4人が幸せな生活を送っていましたが、購入6年目に会社が急激な業績悪化に見舞われてしまいました。
それまでかなりの額を稼いでいた残業代もカットされ、ボーナスも支給されなくなり、とうとう給与まで減額となっていきました。
それでも、奥さんがパートに出たり、生活を切り詰めたりしながら何とか住宅ローンを払い続けました。
しかし、購入10年目を迎え、会社が倒産してしまったのです。
そこで、Tさんは子供の将来も考え、自宅マンションを売却する決意をしました。
不動産業者による査定を受けると、なんと今のマンションの相場価格は2,500万円とのこと。
住宅ローンの残債が3,000万円ありますので、売却代金で返済することができません。
そこで、インターネットで調べた専門業者Pに相談しました。
【解決策】
Tさんと専門業者Pはすぐに金融機関と相談のうえ、なるべく借金を残さない可能性がある任意売却を選択したいというTさんの希望を叶えられるよう、交渉を重ねました。
その結果、金融機関の同意を取ることができ、相場価格の2,500万円で無事売却することができました。
残債務である500万円については、毎月無理のない金額で返済することが認められ、無事解決しました。
【成功のカギ】
子供の将来を考え、借金をできるだけ残さない・・・ということが最大のポイントでした。
Tさん一家は、残債務について無理のない返済が認められたことで、精神的にも負担が軽くなり、新生活のスタートを切ることができました。

(2)サービサーの提携業者に依頼したら・・・

【所有者情報】
Mさん(会社員)・30代(妻・子1人)
【売却理由】
リストラによる住宅ローン滞納のため
【物件概要】
築15年の一戸建て・最寄り駅から徒歩14分
木造2階建・80平方メートル(4DK)
【売却背景】
Mさんは、会社からリストラにあってしまい住宅ローンの支払いを滞納してしまいました。
督促の手紙が送られてはきましたが、その他は特に電話や訪問などの督促はなく、なんとなくそのまま放置していました。
6ヶ月くらい経過すると代位弁済通知が送られてきて、Mさんはようやく事態の深刻さを認識しました。
Mさんが慌てて窓口となっているQ債権回収会社(サービサー)へ相談に行くと、「任意売却」という方法があると教えられ、Qサービサーの提携業者であるR不動産と専任媒介契約を締結しました。
しかし、そのR不動産は一度自宅を見に来ただけで、今後の売却方針やどのような売却活動をしているのか、全く連絡がありません。
このままでは、競売になってしまうと恐れたMさんは、自分自身で専門業者Sに相談をしました。
【解決策】
MさんはR不動産との専任媒介契約を解約し、改めて専門業者Sへ任意売却を依頼しました。
R不動産はほとんど物件情報を発信しておらず、きめ細かい売却活動を行っていませんでした。
Mさんの自宅は、駅からの距離は少しありますが住環境の良い人気エリアにありました。
そのため、専門業者Sが売却活動を開始すると1ヶ月で6組の内覧希望者を集めることができ、その中で最も契約条件の良い買い手に売却することができました。
【成功のカギ】
任意売却を成功させるカギは、任意売却に実績があり、ノウハウを持つ専門業者を選ぶことです。
特に、債権者から紹介される不動産業者は、基本的に債権者の利益を考えて売却を進めますので、引越し費用の配分なども考えませんし、少しでも所有者のためになる売却活動をしよう、という熱意もありません。
所有者自身の相談相手となり、味方となり、先々のことまで見据えた売却戦略を立ててくれる専門業者を選ぶことが大切です。

7.任意売却Q&A

最後に、任意売却についてよくある質問を紹介します。

(1)任意売却は必ず成功しますか?

債権者の方針や状況、物件の流動性、所有者の借入れ状況などにより、必ず成功するとは言い切れません。

しかし、競売より高値で売却できる任意売却は、債権者にとってもメリットが大きい可能性がありますので、検討の土俵には乗ってくれるでしょう。

(2)任意売却はいつまでできますか?

理論的には、競売の開札日前日まで可能です。

しかし、それまでに買い手を探し、各債権者の同意を得て、売買契約を締結し、債権者に抵当権抹消の準備をしてもらい、決済・引渡しをする・・・といった一連の流れを考えると、時間的余裕があればあるほど、任意売却の成功率が高くなります。

遅くとも代位弁済通知が送られてきた段階で、任意売却を開始したいところです。

(3)任意売却後の残債務はどうなりますか?

不動産の売却代金で支払いきれなかった住宅ローンの残債務は、無担保債務として支払う義務があります。

ただし、債務者の収入や生活状況などを考慮のうえ、無理のない返済計画によって支払いをすることが検討されますので、安心してください。

(4)任意売却の費用はどのくらいですか?

一般的に、任意売却による特別な費用はなく、通常の不動産売却と同様に仲介手数料(売却価格×3%+6万円、別途消費税)だけが発生します。

売却代金より配分金として支払われますので、所有者の負担はありません。

(5)税金の差押えが登記されているのですが・・・?

固定資産税や都市計画税、住民税などの税金の滞納による差押えが登記されている場合は、任意売却は行えません。

差押え登記を外すために、まずは市区町村の担当窓口での対応が必要となります。

(6)親子や親族へ任意売却できますか?

親族はともかく、親子間の任意売却はハードルが高いです。

なぜなら、金融機関が親子間の任意売却を認めないケースが多く、住宅ローンの融資を実行しないからです。

現金で購入できれば問題ないのですが、不動産を購入するほど多額の現金を保有していることは稀です。

しかしながら、状況によっては対応できるケースもありますので、まずは専門業者へ相談してみましょう。

(7)任意売却ができないケースはありますか?

任意売却ができない主なケースは以下の通りです。

・所有者本人が任意売却を望まず、内覧対応などの協力が得られないケース
・所有者が複数いる共有の場合で、共有者全員の同意が得られないケース
・保証会社以外の連帯保証人がいる場合で、その連帯保証人の同意が得られないケース
・税金などの差押え登記が外れないケース
・債権者が会社の方針などで任意売却を一切認めないケース

8.まとめ

任意売却の概要や流れ、競売との違い、任意売却のメリット・デメリット、事例紹介、Q&Aなどを解説しました。

任意売却を行うために一番重要なことは何でしょうか?

それは、ズバリ!所有者自身のやる気です。

住宅ローンを滞納してしまう理由は人それぞれですが、自分自身に非がなく、どうしようもできない理由の場合もあります。

そんな時でも、自分自身の問題として捉え、家族や守るべきもののために問題解決に能動的に取り組む姿勢が大切です。

なぜなら、弁護士や司法書士などの専門家や専門業者など、優良で最適なパートナーと二人三脚で誠意と熱意を持って行動しなければ、各債権者を動かすことはできないからです。

各債権者に任意売却を選択する義務はありません。

ぜひそのことを念頭に置いて、新しい生活のスタートを踏み出すために、行動を開始してください。

弦本 卓也

1987年、埼玉県生まれ。大学卒業後、大手広告会社「リクルート」にて不動産メディア「スーモ」(SUUMO)の運営に従事。新卒で入社して、スーモのメディアづくりを7年、その後にエンジニア組織の組織づくりを4年行う。 また、リクルート社内の部活動制度にて「大家部」を立ち上げ部長を務める。不動産投資に関する情報交換や物件見学のワークショップなどを行う。 入社2年目に新築一戸建ての広告を取り扱う部署に異動したことをきっかけに、「いい企画を作るためには、まずは自分で経験したい」という想いから個人で新築一戸建てを購入。その翌年には売却分野を担当したことをきっかけに売却も経験。マンションの売買なども行い、11年間で11回の引っ越しを経験。 「新しい住まいや暮らしを自ら探究したい」という気持ちで購入した東京都千代田区の神保町の中古ビル「弦本ビル」は、コワーキングスペース、シェアオフィス、シェアハウス、飲食店が入居する複合ビルとなっており、20代を中心とした若手社会人や学生のやりたいことを実現する場所として注目を集めている。3年間で延べ1万人以上の来場者を記録し、家賃年収1,400万円を達成しながら満室経営を続けている。 お金面とビジョン面の両立を大切にしており、モットーは「一人ひとりの可能性をもっと世の中に」。会社員を続ける傍ら、学生時代に起業した会社とあわせて株式会社を3社創業。うち1社は売却し現在は2社を経営している。他にもエンジェル投資家として若手実業家の支援を手がける一面も。 日経新聞や不動産業界紙、書籍や雑誌、テレビなどでも多数の注目を集めておりセミナー講師なども行う。宅地建物取引士を保有。

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