ひとりで株式会社をすると起業したあとのしばらくは社長自らが商品企画から営業、接客やサービス提供などをおこなうことが多いですが、徐々に売上が増え、仕事が増えてきたころには、従業員の雇用を検討するでしょう。はじめのうちは業務委託で外注していたものでも、徐々に業務が定型化してくると、内製化していくほうがオーナーシップを持って自由度高く会社を経営できるようになります。
今回は、株式会社を3社起業した弦本が初めて従業員を雇用したときの手続きをまとめました。はじめは何をしたらよいのかがわからず不安でしたが、今回まとめておくことで、今後自分でも参考にしつつ、これから従業員を雇用しようとされている方の参考になれば幸いです。
なお、住んでいる地域や制度変更などにより、正しい情報が異なる場合がありますので、必ずインターネットや書籍で最新版を探していただくか、起業は司法書士や行政書士、雇用は社労士、税金は税理士などと、それぞれの専門家に相談いただくようにお願いします。
もし内容に誤りがある場合や、気になる点や不明点がある場合には、直接お問い合わせいただくなど、ご指摘いただけたら嬉しいです。
目次
まずは、既存の業務を分解し、それぞれの業務に何時間がかかるのか、時給にするといくらぐらいになるのかを計算し、自分から切り離すことのできる業務なのかを見極めます。
また、仕事を委託する際には必要となる専門的なスキルや、求める人物像を考えます。たとえばWebマーケティングの場合には自社メディアやSNSの運用経験がある、システム開発の場合にはエンジニアなどの経験があるなどといったものです。
内容によっては、たとえばお金に関しては会計士や税理士などが専門家になりますが、毎日の仕事が発生しないような業務に関しては都度委託をする業務委託契約のかたちをとり、社員にしないほうがよいこともあります。
時給はそれぞれの職種の人材募集のサイトなどをみて相場を調べます。このとき、地域ごとの最低賃金を下回らないように注意します。たとえば東京都の最低賃金は1,013円となっています。
正社員を雇用する場合には社会保険料(厚生年金保険、健康保険)の加入と、雇用保険の加入が義務付けられていますので、それぞれの金額も計算します。
一方で、週20時間以内であれば雇用保険の加入は必須ではなく、また週30時間以内であれば社会保険の加入は必須ではありません。
そのため、業務が少ないうちはパートタイム契約がおすすめです。扶養範囲内で働きたい主婦をターゲットにする場合には、給与所得が103万円を超えないように、たとえば以下のように金額と労働時間を設定するのが上限の目安となります。
1日4.5時間=週18時間≒月78時間≒月8.5万円(時給1,090円)≒年間102万
他にも、もし家族に仕事を手伝ってもらう場合などには、節税を兼ねて、家族を非常勤の役員にする場合もあるようです。この場合には、月あたりの労働時間を85時間以内の勤務にして、給与を毎月8~10万円の場合には社会保険に入らなくていい相場のようです。
会社をひとりで創業し、自らが代表取締役となり経営している場合には、自らは役員という扱いになり、労働時間のや勤怠の管理などは必要ありません。
そのため、はじめて従業員を雇用する場合には、労働時間や勤怠の管理が必要になります。
まずは、営業カレンダーの作成をします。営業日を決めるにあたり、休日は土日にするのか、祝日は休みにするのか、とくに年末年始は12月何日から1月何日までを会社の指定する休みとするかを決めます。大抵の会社では官公庁の休みにあわせて12月29日から1月3日までを冬期休暇とするようです。
つぎに、就業規則の作成をします。就業規則は10人以上の正社員がいる場合に作成が必要になるようですが、あらかじめ作成しておき、採用する段階から条件を提示できるようにしておけるとよいでしょう。
就業規則には制服やドレスコードの規定、給与規定などを書きますが、厚生労働省のホームページにテンプレートがあるため、そちらを参考に作成します。
また、パートタイムで従業員を雇用する場合には、「パートタイム労働者就業規則」も作成しておきます。
従業員の採用にあたっては、労働条件通知書の作成と書面での提示が義務付けられています。そのため、労働条件通知書を作成します。
労働条件通知書には、労働時間や休日、給与の金額などを記載します。こちらも厚生労働省からテンプレートが公開されていますので、参考にするとよいでしょう。
いよいよ人材採用の要件が固まったら、実際に募集を開始します。条件を提示して興味をもってくれる候補者を探します。募集はSNSでの告知などで人づてでおこなう方法や、ハローワークで無料で募集してもらう方法、採用サイトに掲載する方法などがあります。
エントリーがあった場合には、履歴書を送付してもらい面談をおこないます。
企業の採用の条件と、応募者の応募の条件が合致し、見事に採用が決まったら、入社日を決定します。
このとき、入社に必要な資料として、入社誓約書を作成しておくと、のちのトラブルを防ぐことや、保険などの申請の際に参考資料として使用することができるので便利です。
入社誓約書もテンプレートがありますので、あらかじめ作成しておき、入社希望者に記名捺印をお願いします。このとき、あわせて給与の振込先の情報と、緊急連絡先も教えてもらっておくとよいでしょう。
弦本の場合は、安心して入社してもらうために、会社紹介の資料と登記簿謄本の写しを印刷して必要書類とあわせて入社希望者の自宅に郵送しました。
正社員の場合や、一部のパートやアルバイトで条件に当てはまる場合には、「雇入れ時の健康診断」を実施してもらいます。
こちらは入社者に病院で検査してもらうのが一般的ですが、最近ではAmazonなどのネット上でキットを購入して、自宅で尿検査や血液検査をして郵送することで結果がもらえるものもあるようです。
健康診断は入社時のみでなく、年に一度の検査が必要になりますが、結果は個人情報のため企業で厳重に管理して保管します。
また、従業員が50人を超える場合には労働基準監督署への提出の義務や産業医を置く義務、ストレスチェックをおこなう義務なども増えるようです。
従業員を雇用する企業には、法定三帳簿とよばれる帳簿の作成義務が発生します。
法廷三帳簿は、それぞれ労働者名簿、賃金台帳、出勤簿となります。こちらも厚生労働省のホームページにそれぞれのテンプレートがありますので、参考にするとよいでしょう。
なお、従業員には社員番号をつけると管理がしやすいでしょう。
法人をつくり、新たに給与の支払いが発生するときには、対象者が役員であっても従業員であっても、税務署に「給与支払事務所等の開設届」を提出します。
このとき、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」も提出するとよいでしょう。常時雇用の正社員が10人未満の場合には、給与の支払いから天引きした所得税を毎月税務署に支払う必要がなく、半年に一度の支払いにしてもらうことができます。
たとえば、4月1日に従業員の雇用を開始して、給与の支払いが翌月20日の場合には、5月20日がはじめての給与の支払いのタイミングとなります。この場合は、4月中に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しておくことで、本来は5月10日に所得税を支払う必要があったものが、5月と6月の支払い分をまとめて7月10日までに納付と先送りすることができ、またその後は7月~12月の半年間の支払い分をまとめて1月20日までに納付と先送りすることができるというものです。
弦本のケースでは、4月に雇用を開始して、4月中旬に神田税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出しましたが、提出したタイミングから適用されることと、月の計算は支払いタイミングからおこなうとのことだったので、5月支払いの4月分給与から無事に適用することができました。
なお、いずれの資料も申請書は税務署の窓口に用紙があるため、窓口で記入ができます。法人の印鑑の捺印も必要なため、忘れずに用意しておきましょう。
従業員を雇用する際には、労災保険の加入が義務付けられています。同居をしている家族や親族以外が手伝いをする一部の場合には加入の必要がないようでしたが、弦本の場合は家族や親族ではなかったため、労災保険の加入をしました。
労災保険の加入は、労働基準監督署でおこないます。はじめての雇用の場合には「保険関係成立届」を提出し、その後、従業員の想定年収を計算して「概算保険料申告書」を提出します。
それぞれ窓口にある用紙に書き込みますが、業種番号や産業分類の番号を探し、保険料の料率の特定と計算などがあるため、あらかじめ書き方について窓口に問い合わせるとよいでしょう。保険料は産業ごとに発生する仕事中の身体的な災害や精神的な障害の起こるリスクをもとに発生割合が計算されており、保険料率に反映されているようです。
弦本の場合は、業種は情報サービス業で9436番、産業分類は39番で、保険料率は3/1000でした。従業員が3名の雇用で年収の合計が390万円でしたので3/1000をかけて合計で11,700円が1年間の保険料となりました。
銀行の窓口で支払いのできる振込用紙を渡されました。また、今回申請した従業員に関しては、毎年7月に精算をするための案内が来るようで、2年目以降は窓口での手続きは不要のようでした。
なお、近年は行政の手続きが電子化されてきており、e-Gov電子申請もできるようですが、都度確認が必要な手続きに関しては、不備のないように窓口で確認するのがよさそうだと感じました。届出には法人番号を記載する欄もありますが、登記が完了すると国税庁の法人番号公表サイトに会社名が掲載されますので、国税庁のサイトから検索するとよいでしょう。
また、多くの場合は雇用保険にも加入するのですが、弦本のケースでは全従業員が週の労働時間が20時間を下回っていることから、雇用保険には加入しませんでした。
雇用保険に加入する場合には、ハローワーク(公共職業安定所)で「雇用保険適用事務所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の申請をします。
ハローワークは多くの場合、労働基準監督署と同じ建物内にあることが多いようです。副業で起業している千代田区で申請する前に、本業の職場近くの港区に一度行ってみたのですが、千代田区でも港区でも、同じ建物内にありました。
なお、事前に必要書類の名称や持ち物、営業時間の確認のために電話をしたのですが、電話口でも丁寧に教えていただけました。ただし、労働基準監督署とハローワークとはあまり連携をとっていないようで、それぞれのことはそれぞれで聞いてくださいとの反応でした。
従業員を雇用する場合には、健康保険と厚生年金保険にも加入が必要な場合があります。
弦本のケースでは、今回は役員に役員報酬や給与を支払っていないことと、従業員の3名が扶養範囲内の主婦の方と、年金を受け取っている方、年金と給与所得を受け取っている方であり、それぞれの勤務時間が週30時間未満であったことから、加入は見送りました。
健康保険、厚生年金保険に加入する場合には、各市区町村の年金事務局で、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出します。
申請がない場合には、日本年金機構の事務センターからアンケートが郵送で送られてきますが、回答をして支払いが不要であると判断されると、再度郵送にて、申立書の記載例とともに、申立書の作成の依頼があります。その内容を記載した書面を作成し、日本年金機構の事務センターに返送をすれば問題はありません。
これまで、従業員を雇用する前に役員のみで会社を経営していた場合には、出勤や退勤などの勤怠管理は不要でした。しかし、労働基準法により雇用した従業員の勤怠管理が義務付けられています。
勤怠は基本的に本人に記載してもらいますが、タイムカードを使用する方法や、出勤簿に都度記載してもらうかたち、最近では人事労務freeeなどでスマートフォンなどで出勤時に記録してもらう方法があります。
今回の弦本のケースではそこまで複雑な計算をしないので、人事労務freeeの導入は見送りました。人事労務freeeで給与計算をすると、会計freeeにも自動連携ができ便利になるようです。
給料の支払いとは別に、従業員に物品の購入や移動交通費などで立て替てもらったお金の精算もおこないます。
現金管理をしておいたり、あらかじめ定額を渡しておいて精算する方法もありますが、レシートや領収書をもらったあとに、スマートフォンで領収書の写真を撮って登録をしてもらうのが便利です。また、通勤交通費や移動交通費の申請は、経路を検索して登録してもらうと精算がしやすいです。そのため、弦本のケースでは会計freeeをバージョンアップして、立替精算や通勤交通費を精算できる仕組みを導入しました。
従業員を雇用すると、毎月の業務として給与計算が必要になります。残業や深夜労働、休日出勤、欠勤日数などで金額が変動することがありますので、慎重に計算をします。
あらかじめ、扶養家族の増減などで所得の控除額に変化がないか、自宅の転居により通勤手当や行政の手続先に変化がないかを確認し、勤怠情報をもとに給与の計算をします。
給与計算では手当がある場合にはその金額を加えたり、控除して税務署にあらかじめ支払っておく所得税の分を引いたりしますが、この内訳を給与明細に記載しておきます。
給与明細の発行は義務ではありませんが、給料から控除した金額などの計算書と支払明細などを伝える義務がありますので、給与明細のかたちで従業員に発行します。給与明細は書面でも電子データでも問題ありません。
なお、所得税の計算では、国税庁のホームページに記載の対応表をもとに計算します。
給与計算は、税理士または社労士が代理でおこなうことができるようです。
今回は社労士にも相談してみましたが、社労士の相場では月額2.5万円で4名分の給与計算、行政への手続き(雇用保険料や労災保険料の申告など)、労務相談にも乗ってもらえるとのことでした。
弦本のケースでは、基本給は目先では固定しており、また厚生年金保険や健康保険、雇用保険に加入していないことから保険料や控除額の計算が必要なく、計算が複雑にならないことから社労士への依頼は見送りました。
労働時間の実態が週20時間を超える場合や、保険に加入し毎月の給与計算に変動が発生する際、今後もう少し会社が大きくなりパートタイム以外の社員が増えてきた際などに、あらためて依頼しようと思います。
今回は、いつもお世話になっている税理士に受けていただくことにしました。
従業員を雇用したあとの業務は、それぞれ上記のようにあげられます。
弦本のケースでは、税務署、市区町村、労働基準監督署が対象となり、1月、7月、10月、12月、3月を目処に年間の業務がある想定となりました。
今回、法人の決算では、これまで創業した2社の決算や弦本個人の決算でも10年ほどお世話になっている税理士(会計士)に依頼することにしました。
税理士に業務委託する仕事としては、法人の決算と個人の確定申告以外に、年末調整を依頼しました。
年末調整では、具体的には従業員の法定調書を作成し、税務署と市区町村に送るというものです。また、今回は従業員にあらたに確定申告が必要になることから、個人の確定申告もお願いしました。参考までに、税理士報酬は毎月の相談や顧問をしてもらう分も含めて、年間で29万円となりました。
他にも、会社の起業では様々な準備や手続きが必要になります。
新たに株式会社を設立する手続きは、こちらも参考にしていただければと思います。
今後も日々の業務のナレッジなどについても発信していこうと思います。引き続きよろしくお願いします!