―弦本ビルは最初、どこから紹介がきたんですか?
最初は弊社にいた西田という役員のものが今村さんと元々つながっていたんです。その今村さんが弦本さんのリクルートの先輩なんですよ。それで、弦本さんが買おうと言った時になぜか今村さんが来るみたいな。それで、なんとかしないとということで西田さんと今村さんと弦本さんと私、この4名で東京駅の地下でランチをしたのが弦本さんとの初めての出会いですね。それで現地を見に行ったところ、1階が中華料理屋、2階・3階は誰かの住んでいる畳みたいのがあるんですよ。4階・5階も人が住むような空間でおばあちゃんが出てきたらしく、「どうもどうも」と、そんな感じでした。
―物件としての印象はどうでしたか?
物件としては面白いにつきましたね。神保町ってイメージとして蔵前にある「NUI(ぬい)」が出てきました。そこも、衣食住が全部揃ってるんですよね。このビル一つで、「働く」も「住む」も「食べる」も終わっていたので、これは面白いなというのが最初の印象でした。
―アドバイス等はされたんですか?
ここの4階・5階をシェアハウスにしたいとか、シェアオフィスにしたいとか、1階の店舗もカフェにしたいとか、最初は面白いアイディアがプレストでどんどんとびかっていましたね。弦本さんの面白かったところは、自分が決めるんじゃなくて「テナントさんが自由にやっていいからみんなで一緒に作っていきたいんだ」っていうのがひしひしと伝わってきた。作りましょうよみたいなところがやっぱり強かった、だから普通のオーナーじゃないんですよね。
―オーナーの中では珍しいタイプ?
それはもう、珍しいですね。余白を用意して不動産を渡してくれるってのはないですよね。
―余白を持たせた物件に対して、源さんならではの戦略はありましたか?
僕らが仕事をする中で、不動産を預かって、その不動産をどのように魅力的に伝えるかをすごく考えています。スーモさんなどの検索サイトだと、形が決まっていて魅力が十分に伝わらないんですよね。弦本ビルもそうだろうなと、むしろそういうふうにして書いたら逆に魅力が不十分な形で伝わってしまうのかなと。内装が整ってませんとか、駅からも近いようで遠いような距離ですよとか、古いとかエレベーターないよとか、そういったところが見えてしまうんですけれども、僕はそうじゃなくて、弦本ビルだからこその良いところ、余白がある。外国籍不可とかもないし、年収が低くても全然貸してくれる。企業じゃないとだめとかも全然なくて、不動産の本質を捉えているような貸し方ですね。
―元々から持っていた、ということですか?
そうですね、表面的な解決策ではなくて、もっとここを一緒に盛り上げていこうよという目的の中で自由にやっていいよというような、アウトラインはある中での自由をかなり作ってくれたのでそれを伝えたいなと思いました。
―プロハの2人につないだとき、どういう意図でしたか?
弦本ビルの2階・3階を見たときに、エリアが渋谷じゃないだけで条件としては当てはまってるなと思ったんですよ。で、梶君と一緒に渋谷から帰りながら2人で話していた時に、働きながら一緒に住めるシェアハウスとかもやりたいんだよねとかも言っていたし、なんかこう暗黙知っていうのかな、こんなことしたいんだよねとかこういうテイストでとかっていうのを、梶君とか早野君とかの話を聞くと見えてくるんですよね。コミュニティーがあって、そこがオフィスであったりカフェであったりとか。その上に家があったら尚更いいんだろうなとか、そういう画が出てきて、ただ渋谷じゃなかった、だけど一度見せたいなと思って。まさしくシェアオフィスやっている業者はけっこういるので、そういう人たちが頭に浮かんだものの、いの一番に声かけていの一番にこの人たちが内見して、だめだったら違う人に声をかけようと思ったんです。弦本さんの考えていることとプロハのやりたいことの温度感が合っているのと、渋谷じゃなかっただけで他の条件が当てはまっているな、ということが感じられたというところですね。
―借りたい人と貸したい人をマッチングさせるのは、不動産業者らしい働きですよね。マッチングさせるときに大切にしていることは?
多くの人が、こういう物件探してます、という情報を持ってるんですよ。決められてるんですよ、徒歩6分くらいでとか、的確に。でも、その6分の理由はなんですかと聞くと、解がないんですよね。答えが出てこない。なんとなくで決まっているところ、つまりあなたがやりたい理想の暮らしみたいなのがあるんですけど、それにベストな選択がとれているかどうかはわからなかったわけですよ。だから、理想の暮らし・何がしたいのかってのは改めて聞いたうえで、じゃあここはこうだよねということをスイッチ化していくことを心がけてますね。
―それが弦本ビルの場合は、要望が具体的になっていて、イメージしやすかったと?
そうですね、まずここかなと。2人のやりたいことの途中経過に弦本ビルがある気がしたんですよ。
―その直感が当たり、始まった前後はどういうふうに思っていますか?
始まった前後はとにかく集客ですよね。人が集まるということをすごく気にしてました。そこがないと続かないじゃないですか、だからいちばん心配なところはそこですよね。もう1個は矛盾しちゃうんですけど、特に心配してなかったです。なぜかと言ったら、やっぱりみんなで戦ってましたよね。だから、種が植えられてて芽が出るのを待つだけという安心感はありましたねコミュニティーがすでにあってそこでどんどん作り上げているのを見たら、「これは出来たな」というのはありましたね。
―それは何月くらいでした?
動画を見たときですね、リノベーションの。その時にびびりました。12月くらいかな。
―内装もいわば素人仕事ですが、2回目の内装が終わってどういう印象をもちましたか?
使いやすいですよね。ムードが出ましたよね、やっぱりそのムードが出るだけで立地的にも使いやすかったり、当てはまるものがあることですごい使いやすくなったなってのはありますよね。
―内装デザイナーを入れて、内装費に何百万もかけて……ってのが一般的な手法だと思うんですけど、それと違う方法でムードある空間が出来たっていうのが事例としてあるわけですかね?
内部の声で集まって内部でやってるのでめっちゃいいなと思いました。こういうふうに小さくコミュニティの声を救い上げて、どんどんそれを消化してく感じですね。
―プロとしていろんな物件を間近で仕事されてるわけですけど、プロハに近かったりとか面白いと思っている他のところっていうのはありますか?
テイストは違うけれどもすごい似てるなって思うのは、清澄白河のリトルトーキョーですね。プロハはかなり「熱い」感じです。リトルトーキョーは静かな感じ。プロハは燃えてるよね。リトルトーキョーはそこまで燃えてなくていいんですよね。自由な感じで。
―客層の違いは感じられますか?
感じますね。どちらかというとプロハは自分が自分が何かを追いかけているというところでの背中を押してあげるような環境だと思うんですよね。そこまでそうやっていくかってところにすごいコミットしてる場所なんじゃないかな。何がしたいのかを見つける場所、何がしたいのかを選べるようになる場所がプロハなのかなと。リトルトーキョーはどちらかというと、興味関心の幅を広げていけるような自分たちがちょっとでも出来ることを考えさせてくれる場所な気がします。
―そうした中、源さんも今年の2月、オフィスを弦本ビルの4階への移転することを決定されました。これはどういう経緯だったんですか?
タイミングが非常に良くてですね、3つのタイミングが揃いました。1つはですね、不動産の免許というものをリブモでとるということになりまして、リブモの免許を取得するにあたって、免許の取得資格要件に当てはまるものを探していた。シェアオフィスとかだと取れないんですね。まあある程度良いところじゃないと取りたくない、よくわからないところで取るとそこの住所の番号がついちゃうので、東京都の高級地でやっぱ取りたい。いい住所、アドレスで取りたい、それが1つですね。もう1つが、今年に入ってメンバーが4人くらい増えたこと。ちょっと手狭になってきたところがありました。で3つ目が、ずっと弦本ビルに行きたいと思っていたこと。でも賃料的なところを考えて、ダブルオフィスは難しいなと思い合わなかったんですが、それが少しずつ合ってきた、余裕が出てきたわけですね。この3つが揃ったのでゴーだと。
―弦本さんの第一声はどうでした?
びっくりしたのは、弦本さんが「ビル、1年経ちましたよ」って言って、そんなに経ってるんだって思って。僕は行きたいと思って1年間あっという間に過ぎちゃったんだなっていうのを感じましたね。
―4階は、どういう使い方をする予定ですか?
ちょっと変わった造り、住居ですよね。元の造りが住居なので、まあお客様も来店してもらいたいのでお客様がこられるような接待スペース、応接室と自分たちのオフィススペースをどのようにデザイン上わけていくかっていう課題をまだ解決はしていません。
―現在のこの1周年を切り取ったとき、1階が中華、2階がプロハ、3階がスキャンマン、4階がリブモと5階が梶店長を含めた住人のシェアハウスということで形が近づいてきたかなと思うんですけど、この時点での印象と近未来の未来予想図みたいなところって予想されてますか?
未来予想図、こうなったらいいなっていうのは、1階から5階まで全員が顔を知ってて、名前で呼び合えて連絡がとれるみたいなコミュニティビルになってるといいですよねと。別にそれは急いでつくるものではなくて自然的になっていくものだと思うので、今のこのコミュニティを大切にしていけるように、僕らは不動産のプロとして管理面とかでサポートできたらいいかなと思ってますね。もう、『弦本ビルのDNA』って本を書きたいですね。そこから出た人は、こういう暮らし方とかこういう使い方とかってなんでここにしかないんだろう、自分たちでも作ろうかみたいなのがやってくれる人がどんどん増えたら嬉しいですよね。不動産情報誌とかに載っているのをもっと具体的に作れる人が増えていったら面白くなってくるかなと。「最終学歴=弦本ビル」みたいな。
―プロハの成功事例を見て、同じことをやってみたい若いオーナーが増えるかもしれません。良いオーナーになるために、源さんからどういうメッセージがありますか?
「不動産屋にだまされるな」が1つですね。不動産屋というのは、企画を最初に起こしてくれる唯一の最初の窓口、家を探す人にとって初めて行く窓口、流通のスポットなんですが、ここは統一された企画でもってご紹介する、というルールがあります。反対に、まだ流通していないものを探すには、下すのもそうなんですけど、やっぱりちゃんと不動産屋さんの理解を得た上で、ちゃんと魅力が伝わるかどうかしっかり見た上でお願いしないと、魅力的な物件って生まれないと思うんですよね。「それは危ないからやめたほうがいいです」とか絶対に出てくるのですが、そういうのは不動産目線の不動産商品だなとなってしまって面白くないなと思いますね。
―やっぱりオーナーと知り合いましょうとなりますよね?
これからオーナーをやりたい人に私が言えることは、弦本ビルに一度入れということだと思いますよ。まずはやってみることが大事ですね。
―不動産業のプロとしてこれから不動産が迎えるであろう近未来の予測というか社会の姿を教えてください。
多様性のある暮らし、多様性のある商品が必要になってきます。なぜなら、外国人の移住者もたくさん増えてくるでしょうし、高齢者も独り身の高齢者がいたり、あとは若者もすごいお金、会社をもった若者だったりとかいろいろな今までこういう年齢ではこうあるべきという方程式が、10年や15年で崩れていくだろうと。そのときに、どういう暮らしを商品としてつくれるかどうかかなと思いますね。もう高齢者だけが行く大学とかできるかもしれないし、年齢とか収入とか国籍とかそういったもので変わってることが当たり前になる可能性があるだろうなと。その時に不動産の商品が近いターゲットにマッチしてたりするかどうか、考えられるかどうかというのがすごい肝になってくるなというのは感じますね。
―多様性は今後実現していきますか?
まさにそうですね。いろんなアイディアを0から考えられる不動産業者が大事ということですね。15年後公道におそらく自動運転装置の車が走っているだろうと。そしたらもうみんな電車とかバスを乗らずして、車を持って駅近じゃなくても駐車場がある家とかを買ったり住んだりする予定なんですよ。そういったときに駅から徒歩20分の物件が安くて駐車場もついてたらそこが人気になるはずなんですよ。そうなったときにそういう企画ができれば、そういう人たちにとって住みやすい空間になると思うんですよ。
―最後に1周年記念メッセージをお願いします。
僕らはいままだ途中経過にいるだけです。これからもっと成長できるよう、がんばろうと思います。