最近、「不動産エージェント」という表現が増えてきています。もともと「エージェント」とは代理人という意味で、「不動産エージェント」は不動産の売買の代理をするという意味で用いられています。今回は、不動産エージェントの言葉の意味と、今後の可能性について説明します。
目次
不動産エージェントは一言でいうと、個人で活動する不動産営業のことを指します。広義には、個人事業主として働いている営業や、フルコミッションで不動産仲介会社に所属して働いている営業、そしてひとりで独立開業している社長も、不動産エージェントに含めます。
エージェントは英語で代理人という意味を表します。もともとアメリカが発祥の仕組みといわれていますが、アメリカでは売主と買主は利益相反の関係にあることから、それぞれに不動産エージェントを挟む決まりとなっています。まさに「代理人」という役割をするのが仕事です。それぞれ売主や買主の代理として不動産の購入活動や販売活動をするのです。
現在アメリカでは、不動産仲介業で働く営業担当者のなかで、いわゆる「不動産エージェント」と呼ばれているのは8割ほどの人が占めているといわれています。
アメリカでは、このように独立した不動産営業である不動産エージェントが増えていますが、その背景には不動産売買の商慣習の違いにあります。
まず、アメリカでは、不動産の売買を成立させるために、アメリカでは売主と買主のいずれに対しても不動産エージェントが仲介に入る決まりとなっています。そして、手数料に関しては、売主が6%の手数料を支払い、それを売主側と買主側のエージェントが分け合う仕組みになっています。
また、そのため売主側のエージェントは物件の情報をできるかぎりオープンにしようという力が働き、不動産業者間で公開されている物件情報のデータベースであるMLS(Multiple Listing Service)に掲載をおこない、買主側のエージェントに見つけてもらおうという動きがみられます。
また、物件に関する情報の多くが公開されていることで、だれでもアクセスができるようになっていることも、不動産エージェントの発展に寄与したといえます。不動産仲介の営業担当者には、物件情報よりも営業の知識や接客に高い品質が求められるようになったためです。
一方で、日本の場合には、売主と買主のいずれに対しても不動産エージェントが仲介に入る決まりとはなっておらず、1社の不動産会社でも、不動産売買の仲介をおこなうことが可能です。本来は、売主は高く売りたいと思う一方で、買主は安く買いたいと思うなど、売買のそれぞれの立ち位置ごとに、理想の条件は相反する関係にあるはずです。売主と買主はいわゆる利益が相反する関係にあるのです。
不動産の仲介業は、契約をしてはじめて不動産の売買手数料を売主と買主からもらうというビジネスモデルです。日本ではアメリカとは異なり、1社の不動産会社しか間に入らないことで、売買の取引を成立させるために、ときには売主や買主の希望を無理やり折り合いをつけさせることがあるのです。そうでもしないと、他社に物件を取られてしまうことで、売主からも買主からも仲介手数料をもらえない可能性があるためです。
日本国内の不動産仲介会社は、売主と買主の両方から手数料をもらいたいため、いわゆる「両手取引」を狙います。アメリカでは売主が6%の手数料を支払う仕組みでしたが、日本では売主と買主がそれぞれ3%+6万円を上限に仲介手数料を支払う決まりとなっているのです。
日本でも、1980年代にレインズ(REINS)と呼ばれる不動産業者間でのみ物件の情報が見られる仕組みが導入されましたが、あまり多くの情報が情報が掲載されない傾向にあります。また、買主側の不動産仲介会社が売主側の不動産仲介会社に物件の問い合わせをした際に、物件があるにも関わらず「現在商談中で紹介できない」と答えてしまう、「囲い込み」なども発生しています。
このように、アメリカでは情報がオープンかつフェアになりやすいことから、不動産エージェントの仕組みが発達した一方で、日本では優先して両手取引をする力学が働いてしまうため、囲い込みなどの問題も発生してしまい、不動産仲介会社のエージェント化がそこまで進まなかったといえるでしょう。
日本ではこれまで、新築が好まれる傾向にあったことや国の優遇施策が多数あったことから、新築住宅の着工数は右肩上がりで増えてきていました。しかし、今後の人口の減少に向けて、新築住宅の着工数は減少に転じてきています。近年は良質な新築住宅が共有されてきていたこともあり、現在、質の高い中古住宅の流通が増えてきています。
また、最近は一つの家に住み続けるよりも、ライフステージにあわせて住み替えたいと考えるニーズも高まってきており、なるべく支出をおさえるために、マイホームよりも賃貸住宅に住みたいと思う人も増えてきています。
いずれも、売主と買主、貸主と売主を結びつける仕事をする不動産エージェントにとっては、市場機会の拡大といえるでしょう。
一方で、近年のテクノロジーの進化は不動産の営業にとっても不動産エージェント化を進める大きな要因となっています。これまでの日本の会社では、大量に営業を抱えて、大量にチラシを撒いたり電話営業をしたりと、大量の営業をするというスタイルが多く見られていました。そして、営業は高いノルマを持たされて、早朝から朝礼をおこなったり、深夜まで残業をしたりという働き方をしていました。
しかし、近年のテクノロジーの進化により、一人でも会社経営ができる環境が整ってきています。法務や税務、総務などの業務に関しても、PCやスマホ1台でWebサービスを利用したり、アウトソーシングを活用したりできるようになってきています。
本来、不動産の営業では物件の案内などで外に出ている機会がも多く、テクノロジーが進化するにつれて事務所にいる必要性は下がっていくといえそうです。また、不動産の売買や賃貸の仲介では、収益のモデルが成果報酬であり、契約をしたときに収入が入るビジネスモデルであることや、一つひとつの取引が完結すれば、その後は手離れがよくお客様のアフターフォローをそこまでしなくてもよいこと、さらには不動産の営業は実力主義で、1人で営業をすることができる点も、もともと不動産エージェントが増える下地があります。
不動産業界は、いまだにFAXが中心の文化であるなど、まだまだ変革の途上にありますが、これからテクノロジーによる恩恵を受けていく業界だと考えています。
不動産業界では、売上は十分に上がっているものの、社員の数が上限となってしまい、それが店舗の売上の限界をつくってしまっている例も増えてきています。不動産業界は土日が中心の仕事であることや、実力主義で営業がキツイというイメージもあり、人気がないことも多く人材が足りないのです。そのため、多くの不動産会社では営業の人材不足につねに悩まされているのです。
日本国内では働き方改革が推進され、副業などが促進され働き方の多様化が進んでいます。他の業界で働いていて、週末に不動産売買や賃貸の仲介をするという働き方も増えてきています。このような週末特化型の不動産エージェントは、不動産仲介会社と業務委託契約をおこない、個人事業主として活動することが多いです。
一方で、正社員で働くことを辞めたあとに、他業界で働きながらも副業で不動産エージェントを続けるという方も増えてきています。営業担当にとっても、正社員のときのような過酷なノルマがなくなったり、通勤時間や朝礼の時間がなくなったりすることで、自分のペースで自由に働けるようになります。仲介手数料のもらえる金額が物件によって異なることから、正社員の場合には会社から与えられた目標の売上を達成するために、お客様におすすめする物件を本当に純粋な気持ちでおすすめしているとはかぎらない場合もあります。それらのジレンマから開放されることも、メリットといえるようです。
アメリカでは、不動産に関わる業務をする際には免許が必要となりますが、非常に簡単に取得できるといわれています。
一方で、日本では、宅地建物取引業法(宅建業法)の定めで、従業員の5人に1人が宅地建物取引士(宅建士)の資格を持っていれば、残りの従業員は資格を持っていなくても働けるという決まりになっています。もちろん、契約書を読み合わせる業務などは、宅地建物取引士(宅建士)でないできない独占業務となっているため、すべての業務ができるというわけではありません。
そのため、不動産エージェントとしては、専任の宅地建物取引士(宅建士)のいる不動産会社に所属すれば、自身は宅地建物取引士(宅建士)の資格は持たなくても問題はありません。もちろん、不動産の取引に関する専門の知識を学ぶために資格を取得することはおすすめですが、必ずしもすべての業務に必要な知識とはかぎらないため、免許のない不動産エージェントも多数、存在しています。実際に、賃貸仲介をおこなっているフランチャイズなどで名の知れた不動産会社などでは、免許を持っていない正社員の方も多くいるのが現状です。
他にも、自身は不動産仲介には携わらないものの、人の紹介だけをおこなっているという方も増えてきています。不動産仲介では、売買の場合には手数料が最大3%+6万円がもらえることから、高額の収入が期待できます。たとえば、売買の場合には、3,000万円の物件が売れた場合には96万円、5,000万円の物件が売れた場合には156万円などが、手数料として入ってきます。賃貸の場合でも、家賃の最大1ヵ月分が手数料として入るため、家賃10万円の家が契約に至ると10万円が収入となります。さらに、AD費と呼ばれる広告費を貸主からもらえる場合もあるため、その金額は2倍や3倍になることもあります。
そのため、不動産会社としては、広告費や紹介料として多くの予算を割くことができるのです。お客様の集客をしてもらいたい不動産仲介会社も多いため、成果報酬型で紹介料を払ってくれる会社も多いのです。
このような仕組みを利用して、自身は不動産仲介の営業はしないものの、不動産の売買に潜在顧客になりそうな方を見つけて紹介をする不動産エージェントもいるのです。
不動産エージェントが得られる報酬は、本業で働くか副業で働くかや、売買仲介にするか賃貸仲介にするかによっても異なりますが、本業で売買をおこなう場合には、1,000万円~1,500万円が目安のようです。
不動産には繁忙期と閑散期があることから、月ごとに考えると大きく上下があります。1月~3月は新年度に向けた引っ越しのシーズンで、最も忙しい時期です。このときは200万円前後が月間の売上となります。それ以外の4月~12月までは、月間の売上は100万円が目安です。
仲介手数料以外にも、インターネットや引っ越し業者、ウォーターサーバー 、NHK、浄水器などを紹介することで、紹介料をもらうこともできます。また、不動産は金融資産やライフステージとも密接に関わることから、関連して生命保険やファイナンシャルプランナーの仕事もして収入を得る方もいるようです。
不動産エージェントの開業にあたっては、初期費用としては0万円~200万円ほどが目安となります。小さく開業したい場合には、まずは自身では宅地建物取引免許(宅建免許)を取らずに、個人事業主として開業することではじめることが可能です。
一方で、宅地建物取引免許(宅建免許)を取って、宅地建物取引士(宅建士)の登録をする場合には、自宅で開業する場合でも200万円ほどが最低限必要な金額となります。
なお、不動産エージェントの場合には、営業にかかる費用は自分で負担する必要があります。交通費や事務所の経費などを負担する必要があります。
不動産は他の業界と比較して、契約までにかかる時間が長く、ビジネスモデルとしても成果報酬のため、契約に至らない場合には収入の入らないモデルです。そのため、正社員のように毎月の固定給が入ってくるわけではないため、あらかじめ運転資金として自己資金を多めに持ってはじめるか、副業などで他の収入のあてがある状態ではじめるのがおすすめです。
不動産業は、土地と建物があり、人が生活をしているかぎりはなくならないといわれています。良くも悪くも、不動産は人への影響が大きいことから、法律でも守られている業界で、変化もそこまで大きくありません。
しかし、不動産業界は信用や信頼が第一の世界です。そのため実績を多く積んでいく必要があります。長く続けることのできている不動産仲介会社や、不動産エージェントは、それだけ実績があり信用できるともいえるのです。
不動産エージェントをはじめて、自身では店舗を持っていない場合でも、家族や友達からの紹介、会社の同僚や仕事のつながりで出会う人たちは、あらかじめ信頼や信用がある場合が多いです。まずは身近なところから、集客をしてみるのがよいでしょう。未経験の場合には、自分が引っ越したときを思い出しながら、友人などに条件を話してもらって物件を提案したり、部屋を紹介して案内したりすることからはじめていくのもよいでしょう。いくつかの物件を紹介して、いくつかの不動産屋とも契約書などのやりとりをすると、すぐに要領がわかってきます。
また、大企業などの看板が使えないことから、個人での看板がより重要になってきます。個人での発信も重要なため、twitterやInstagram、noteやYouTubeなどでの発信をしていくのがおすすめです。SNSでDMをもらい、実際のやりとりがスタートする場合も増えてきていると聞きます。
そして、一つひとつの接客を大切にしていく必要があります。たとえそのお客様とは契約には至らなかったとしても、その後のクチコミや紹介などが売上に大きな影響を与えることもあります。
不動産業界ではITやSNSの活用もまだまだ途上のため、若い人にもビジネスチャンスがあると思います。テクノロジーの進化が進むなかで、より人ならではの提案であったり、人にしか気づけない観点の気づきであったり、コミュニケーションをともなう交渉であったりに、価値がシフトしてきています。
不動産エージェントは良くも悪くも、とにかく自分次第です。自分から動くことができれば、可能性は大きく広がります。
不動産屋の開業をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。