みなさんは「路線価」をご存じでしょうか?
毎年7月に国税庁から「路線価」が発表され、テレビや新聞などのメディアで話題になりますので、耳にしたことがある方も多いでしょう。
路線価は相続や贈与の際に利用される土地の価格ですが、そう聞くと、
「ウチには関係ない・・・」
と考えがちです。
しかし、路線価やその動向、路線価についての知識は、一般の不動産売買にも役立ちます。
ここでは、そんな路線価について徹底解説します。
不動産を相続する、もしくは売却する予定がある人は必見です!
目次
まずは、路線価とはどのような意味を持つ土地の価格なのか、路線価の基本について見ていきましょう。
土地の価格には5種類あり、よく「1物5価」などといわれます。
その5種類とは、「公示地価」「基準地価」「路線価」「固定資産税評価額」「実勢価格(時価)」となります。
それぞれについて見ていきましょう。
毎年1月1日を基準日として3月に国土交通省より発表され、土地売買の目安となる価格です。
毎年7月1日を基準日として9月に都道府県から発表され、やはり土地売買の目安となる価格です。
市区町村が発表する、固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税を計算するうえで基準となる価格です。
評価額は3年ごとに見直され、公示地価の70%程度が評価水準です。
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路線価については次項で詳しく説明します。
路線価には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」の2種類があり、「相続税路線価」は相続税や贈与税を計算する際に利用し、「固定資産税路線価」は固定資産税を計算する際に利用します。
一般的に「路線価」という場合には「相続税路線価」を指します。
相続税路線価は、毎年1月1日を基準日として7月に国税庁から発表され、主要道路に面している1平方メートル当たりの土地の価格です。
この場合の主要道路とは、主に不特定多数が通行できる公道のことであり、個人の権利が絡む私道などは含みません。
路線価は、公示地価・売買成約事例・不動産鑑定士による鑑定評価額・土地評価精通者の意見価格などを参考にしながら、毎年3月に発表される公示地価の約80%程度を目安に決定されます。
路線価も公示地価も1月1日が基準日のため、3月に発表された公示地価が前年より高くなっていれば、路線価も高くなることが予想されます。
また、相続や贈与に際して土地の価格を計算する場合、申告する年ではなく相続や贈与があった年の路線価を利用しますので、注意しましょう。
<路線価・公示地価・基準地価の比較表>
路線価の発表時期が7月であるのは相続税の申告と関係があります。
相続税の申告期限は、相続開始の翌日から10ヶ月以内と定められており、その年の1月に相続が開始された場合は10月に相続税の申告・納税を行う必要があります。
そのため、最低でも3ヶ月前の7月に発表しないと、そうしたケースの人の相続税の申告に間に合わないと考えられているためです。
また、路線価や公示地価が1月1日時点での価格であるのに対して、基準地価は7月1日時点での価格となっています。
そのため、基準地価はその年の後半の評価を反映した価格であるといえます。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・不動産の相続税対策10選!税金で損をしない方法を解説![/su_box]次に、路線価を調べる方法について説明します。
国税庁が運営する「路線価図・評価倍率表」において、路線価を調べることができます。
毎年7月に本年分が発表され、あわせて過去6年分の路線価も確認することができます。
<路線価図・評価倍率表>
一般社団法人資産評価システム研究センターが運営する「全国地価マップ」では、いわゆる路線価(相続税路線価)のほかに固定資産税路線価や公示地価、都道府県地価調査価格も調べることができます。
<全国地価マップ>
自宅にインターネット環境がない場合は、少し面倒ですが近くの国税局または税務署に出向き、備えてある端末にて路線価図を閲覧することができます。
路線価図には見慣れない記号や数字が記載されており、少々わかりにくい地図となっています。
そこで、ここでは、路線価図の見方について説明していきます。
<路線価図(東京都中央区銀座付近)>
まずは、上記の事例の赤枠で囲った記号やアルファベットの意味について説明します。
<地区区分を表す記号>
これらの図形により路線価を表す数字が囲まれている場合がありますが、これらの記号は道路に接する土地の地区区分を表しています。
路線価を表す数字を囲む記号がなければ、地区区分は「普通住宅地区」となります。
また、記号の上部または下部(路線の向きによっては右側または左側)に、「黒塗り」または「斜線」が記載されている場合があります。
「黒塗り」の場合、その地区区分は「黒塗り」側の路線の道路沿いのみが該当します。
「斜線」の場合、その地区区分は「斜線」側の路線には該当しません。
「黒塗り」または「斜線」ではない「白抜き」の場合、その地区区分はその路線全域に該当することになります。
<借地権割合を表すアルファベット>
路線価を表す数字の末尾についているアルファベットの意味は、借地権割合を表しています。
借地権割合とは、土地を借りている借地人の権利を表す割合のことをいいます。
相続や贈与の場合に、借地権や貸家建付地、貸宅地の価格を算定するために利用する数値です。
例えば、更地(自用地)としての評価額が1億円の土地において、借地権割合が70%であれば、借地権の評価額が7,000万円、底地(土地所有者の権利)の評価額が3,000万円となります。
ただし、借地権割合は、相続税や贈与税の金額を算定するための数値であり、実際の売買取引において適用されるわけではありません。
<路線価図の事例>
路線価を表す数字は千円単位となっています。
上記の図において、Aの土地が面している道路は「295C」と表示されていますので、路線価は「1平方メートル当たり295,000円」であり、路線価の数字に記号がありませんので「普通住宅地区」となり、末尾のアルファベットがCですので借地権割合は70%となります。
また、Bの土地は、路線価が「1平方メートル当たり380,000円」であり、路線価の数字の記号から「普通商業・併用住宅地区」となり、末尾のアルファベットはCですので借地権割合は70%ということになります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・借地権付き建物は売却できる?売却方法と押さえるべきポイントを解説![/su_box]路線価は土地の形状や条件に応じて補正が必要な場合があります。
整形な土地といびつな形状をした土地では、利用価値に差があるため路線価も変わってくるため、補正する必要が生じます。
ここでは、路線価の補正がどのように行われるのかについて説明します。
奥行価格補正とは、標準的な土地と比較して奥行が長い場合や短い場合に行う補正です。
奥行距離に応じて奥行価格補正率を利用して算定します。
奥行価格補正率は地区区分ごとに定められており、評価額から減額することにより公平な土地評価が行われます。
国税庁が定める奥行価格補正率表は下記の通りです。
<奥行価格補正率表(平成30年度用)>
引用元:国税庁ホームページ 法令等 法令解釈通達 より
例として、下の図の土地Aを参照しましょう。
<土地A・奥行価格補正の例>
土地Aは一方にしか路線がなく、土地が奥に長い場合は路線から離れた部分の土地は利用効率が下がりますので、奥行きの長い土地は評価額が低くなります。
奥行価格補正率は前記の表を見ると、「普通住宅地区」で奥行距離が30メートルですので「0.95」であることがわかります。
つまり、奥行価格補正により5%の評価減が行われることとなります。
【土地Aの路線価】
500千円/平方メートル×0.95=475,000円/平方メートル
また、奥行が短すぎても利用効率が下がることがあるため、この場合も評価額が減額されます。
側方路線影響加算とは、土地が正面と側方とで路線に接している場合に評価額が加算されることをいいます。
算定の方法は、正面路線の路線価に奥行価格補正を行い、側方路線にも正面路線と同様の方法で奥行価格補正を行い、さらに定められた側方路線影響加算率を利用して算定した価額を正面路線の路線価に加算します。
<側方路線影響加算率表>
引用元:国税庁ホームページ 法令等 法令解釈通達 より
正面路線と側方路線の判定方法は、その土地が接するそれぞれの路線の路線価に奥行価格補正を行ったうえで、金額の高い方を正面路線とします。
また、このように2つの道路に接している土地を「角地」というのに対して、1つの道路が折れ曲がってその内側に接している土地を「準角地」といいます。
「角地」の方が「準角地」より利便性が高いため、評価が高くなります。
<角地と準角地>
続いて、下の図の土地Bのケースで考えてみましょう。
<土地B・側方路線影響加算の例>
土地Bは「普通住宅地区」の「角地」ですので、側方路線影響加算率表より加算率は「0.03」となります。
路線価の計算は「正面路線価×奥行価格補正率+側方路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率」となり、土地Bの正面路線価は奥行価格補正後の金額の高い方の路線ですので、「500千円×0.97=485千円」となり、側方路線は「200千円×0.95=190千円」となります。
【土地Bの路線価】
500千円×0.97+200千円×0.95×0.03=490,700円/平方メートル
二方路線影響加算とは、土地が正面と裏面とで路線に接している場合に評価額が加算されることをいいます。
奥行価格補正後の金額が高い路線を正面路線とし、正面路線および裏面路線の路線価に奥行価格補正を行い、さらに定められている二方路線影響加算率を利用して算定した価額を加算します。
<二方路線影響加算率表>
引用元:国税庁ホームページ 法令等 法令解釈通達 より
下図の土地Cのケースを見てみましょう。
<土地B・二方路線影響加算の例>
土地Cは2つの道路に面していますので利便性が高く、評価も高くなります。
土地Cの二方路線影響加算率は、「普通住宅地区」ですので「0.02」であることがわかります。
正面路線は、奥行価格補正後の金額の高い方の路線ですので、「500千円×0.95=475千円」となります。
裏面路線は、奥行価格補正後の金額の低い方の路線ですので、「200千円×0.95=190千円」となります。
【土地Cの路線価】
500千円×0.95+200千円×0.95×0.02=478,800円/平方メートル
これまで説明してきた代表的な補正である「奥行価格補正」・「側方路線影響加算」・「二方路線影響加算」のほかにも、いくつかの補正がありますので確認しましょう。
道路と接している間口が狭い土地(不整形地および無道路地に該当する場合を除く)の価額は、奥行価格補正後の価額に定められている「間口狭小補正率」を乗じて算定します。
土地の間口のわりに奥行が長い、いわゆる「うなぎの寝床」といわれるような土地(不整形地および無道路地に該当する場合を除く)の価額は、奥行価格補正後の価額に定められている「奥行長大補正率」を乗じて算定します。
土地の形状が三角形や台形など、いびつな形状をしている場合に、「地積区分表」に掲げる地区区分及び地積区分に応じた「不整形地補正率」を乗じて算定します。
がけ地補正とは、通常の用途に供することができない斜面(がけ地等)がある場合に評価額が減算されることをいいます。
その土地のうち、がけ地部分ががけ地でないとした場合の価額をもとに、その土地の総面積に対するがけ地部分の面積の割合に応じて、がけ地補正率を乗じて算定します。
それぞれの補正率表は国税庁のホームページで確認することができます。
国税庁HP
次に、路線価を利用した土地の評価額の具体的な計算方法について確認しましょう。
これまで説明してきた補正を行ったうえで、各土地の路線価(1平方メートル当たりの価格)が算定されます。
自用地(自分で利用している土地)の評価額の計算式は以下の通りです。
【土地評価額の計算式】
土地評価額(自用地)=各種補正後の路線価×土地面積(平方メートル)
また、賃貸アパートや賃貸マンションなどを建てている土地(貸家建付地)や借地人に貸している土地(貸宅地)の場合は、土地や建物の借主の権利分を計算して減額しなければなりません。
計算式は以下の通りです。
貸家建付地 | 自用地の価格×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) ※借家権割合は全国共通で30% |
貸宅地 | 自用地の価格×(1-借地権割合) |
借地権 | 自用地の価格×借地権割合 |
それでは、具体的な事例を使って、土地の評価額を計算してみましょう。
<土地評価額の計算事例>
土地Dの路線価の数字を見ると記号がないため、地区区分は「普通住宅地区」であることがわかります。
また、数字末尾のアルファベットが「D」ですので、借地権割合は60%となります。
必要な補正は、奥行価格補正と角地であるため側方路線影響加算となります。
まずは、2つの道路のうち正面路線がどちらなのかを確認すると、195千円×1.00>190千円×1.00のため路線価195千円の道路が正面路線となります。
次に、側方路線影響加算率「0.03」を利用して路線価の算定を行います。
【土地Dの路線価】
195千円×1.00+190千円×1.00×0.03=200,700円/平方メートル
したがって、土地Dの自用地としての各種評価額は以下の通りとなります。
自用地の場合 | 200,700円/平方メートル×300平方メートル=60,210,000円 |
貸家建付地の場合 | 60,210,000円×(1-60%×30%×100%)=49,372,200円 ※賃貸割合は100%と仮定 |
貸宅地の場合 | 60,210,000円×(1-60%)24,084,000円 |
借地権の場合 | 60,210,000円×60%=36,126,000円 |
路線価は市街地に定められるため、市街地でない地域には路線価は設定されません。
ここでは、そうした土地の評価方法について説明します。
主に、建物の建築に制限のある市街化調整区域や農地には路線価が設定されておらず、こうした地域は倍率方式によって土地の評価額を算定します。
これらの地域を倍率地域といいます。
<倍率地域の事例>
また、倍率地域のほかにも路線価が定められていない地域に「個別評価」というものもあります。
土地区画整理事業により換地処分を受ける場合に適用されます。
個別評価の土地の評価額を知るためには、税務署に「個別評価申出書」を提出して手続しなければなりません。
手続きできる人は、相続税または贈与税の申告のために個別評価の申出が必要となる納税義務者に限られます。
次に、倍率表の見方について説明します。
倍率表は前述の「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。
<倍率表の事例>
上の図の赤線部分にある「1.1」が倍率であり、土地の固定資産税評価額に1.1倍した価額がその土地の評価額となります。
青線部分に「路線」とありますが、これはその地域が「路線価地域」であることを示しており、この地域は路線価図で路線価を確認する必要があります。
また、「比準」と書かれている場合は、その土地の近くの土地の路線価をもとに法価額を算定します。
ここまで路線価について見てきましたが、路線価は査定価格や実際の売買価格とは関係があるのでしょうか?
路線価は、相続税や贈与税を算定するための指標となる価額ですので、実際に売買される実勢価格とは異なる性質のものといえるでしょう。
もちろん、国が納税額のもとになるデータとして算定している数値ですから、その土地の持つ価値や可能性を表す指標として信頼のおけるものです。
上昇率や下落率を含めて、必ずチェックしたい不動産の指標のひとつといえます。
しかし、売買仲介を取り扱う不動産仲介業者は、路線価は参考にはしますが、査定価格を出す場合には、取引成約事例を抽出し、そこに対象不動産の持つ個別要因や特性、今後の経済動向やエリア性などを加味していきます。
「路線価が○○○○万円なので、査定価格は○○○○万円でいけるだろう」といった判断はしません。
また、実際の売買価格には、売主や買主の背景・事情という要素も影響してきます。
売主が売り急いでいれば価格は下がる可能性がありますし、買主がどうしてもその土地が欲しい場合は少しくらい高くても購入するでしょう。
このように、路線価には不動産の持つ個別要因や取引に関する背景・事情という要素は加味されていないため、査定価格や売買価格とは異なる数字となります。
路線価について詳しく見てきました。
聞き慣れない難しい言葉ばかりで、理解することが大変かもしれませんが、路線価は国が示している信頼できる不動産データです。
相続税や贈与税を算定する指標であり、動向を見ることは不動産を売却する場合にも大いに役立ちます。
この記事をもとに、ご自宅や所有する不動産の路線価図を見て、評価額を算定してみてはいかがでしょうか。