あなたの親が事業していた倉庫や工場を相続して売却したい時、どうしてよいのか途方に暮れるのではないでしょうか。
住宅やアパートであれば、まだ対応できそうな気がしますが、倉庫や工場となると何から始めてよいのか見当もつかず、時間だけが過ぎてしまうかもしれません。
倉庫や工場は非常に特殊な物件ですので、きちんとリスクや注意点を理解していないと売却できない可能性が高くなります。
今回は、倉庫や工場を売却する場合の注意点や売却方法などについて解説します。
この記事を読んで
といった知識をぜひ身に付けてください!
目次
倉庫や工場を売却する場合、売却の方法は2通りあります。
それは、倉庫や工場をそのままの状態で中古工場・中古倉庫として売却する方法と、既存倉庫や工場を解体して更地として売却する方法です。
いずれのケースでも、売却することで倉庫や工場で行っていた事業を廃止する場合は、各自治体や公的機関などへ届出をする必要があります。
まず、各自治体への工場・指定作業場・特定施設等の廃止届の提出、所轄の税務署への事業廃止届の提出などを行わなければなりません。
<工場・指定工場廃止届出書の事例(東京都中央区)>
引用元:中央区ホームページ 工場・指定作業場について より
中古工場や中古倉庫として売却し、買い手が同じ事業をその場所で行う場合でも、いったんは廃止届を提出する必要がありますので注意しましょう。
倉庫や工場を売却する場合、そのままの状態で中古工場や中古倉庫として売りに出しても、住宅や店舗と比較して汎用性がないため、極めて流動性が低くなりなかなか売却することができません。
そのため、中古工場や中古倉庫として売却する場合は、隣県より先まで相当な広範囲にわたって情報発信をする必要があります。
早く売却するためには、倉庫や工場を解体して更地にすることも検討してみましょう。
更地であれば、新しく自社仕様の倉庫や工場を建てたい事業法人、物流拠点が欲しい物流業者、ロードサイドにあれば物販・飲食店、住宅開発を行う不動産業者など、買い手のターゲットが拡がります。
ただし、住宅などに比べると割高な解体費用や設備などの専門的な除去費用が発生する可能性があるので、事前によく調べておきましょう。
そのままの状態で売却するのか、もしくは更地で売却するのか、どちらの方法であっても倉庫や工場(特に工場)の売却で問題となるのは、土壌汚染問題です。
土壌汚染問題は、売主の瑕疵担保責任に直接関係する非常に重要な要素です。
平成15年2月15日より「土壌汚染対策法」が施行され、有害物質を取り扱う事業者は土壌汚染の状況を調査し、汚染によって健康被害が出ないような対策を講じることが定められました。
特に、特定施設を設置した工場や事業場を廃止した場合、特定施設の廃止日から120日以内に敷地所有者が土壌汚染について調査・報告をしなければならない、と定められています。
工場などの敷地は有害物質(重金属や揮発性有機化合物など)による土壌汚染の懸念がありますので、売却する場合には土壌汚染対策法の基準に従った対策措置を取らなければなりません。
まず、土地の土壌汚染調査をフェーズ1からフェーズ3までのステップを踏んで行います。
フェーズ1は資料等による地歴調査、フェーズ2は表層部分の土壌を採取して行う土壌調汚染査、フェーズ3は深堀による深度調査となります。
<土壌汚染調査を行った場合の売却パターン>
取り扱っていた物質にもよりますが、工場のあった土地はフェーズ2から調査を始めることが一般的です。
フェーズ2で表層部分の土壌汚染調査を行い、重金属や揮発性有機化合物、その他指定された優雅物質以外の汚染が確認された場合、フェーズ3の深度調査を行います。
フェーズ3ではボーリングなどによる詳細調査を行い、汚染の範囲、深さ、程度を調査して汚染の実態を把握します。
そのうえで、土壌浄化対策方法として、不溶化・覆土・封じ込め・掘削・除去・入替などの対策を立てて、費用の概算を算定します。
実際の売買では、売主がフェーズ3の結果を踏まえて、土壌汚染対策工事を実施した後に土地を売却するケースと、土壌汚染調査を開示して、現状有姿のまま対策工事費用分を減額して売却するケースに分かれます。
フェーズ3の調査結果をもとに、土壌汚染対策専門業者による土壌汚染対策工事の見積りを取得して工事費を確定させ、工事費用を売却価格から減額して現状有姿で売却する方法が、土壌汚染のある土地を早く安全に売却する方法といえるでしょう。
倉庫や工場など、事業の用に供していた不動産を売却する場合は、法人はもちろんのこと個人でも消費税が課税されます。
消費税法上の「事業」とは、対価を得て行われる資産の譲渡、貸付及びサービスの提供が継続反復して行われることをいいます。
売却する不動産のうち、土地は消費税非課税であり、建物部分だけが課税対象となりますので注意しましょう。
また、消費税を納めるのは消費税の課税事業者ですが、課税事業者であるか否かの判断は以下の基準によります。
基準期間とは、法人の場合は前々事業年度、個人の場合は前々年を指し、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
ただし、資本金が1,000万円以上の法人は、課税売上高にかかわらず課税対象となります。
続いて、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合には、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えているか否かの判定を行います。
特定期間とは、法人の場合は前事業年度の開始日から6ヶ月の期間をいい、個人の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間をいいます。
この特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
通常、倉庫や工場を売却する場合には、不動産会社に仲介を依頼します。
倉庫や工場などは特殊な物件であり、情報周知のノウハウや広いネットワークを活用しなければ売却することはできません。
そうしたノウハウやネットワークを持っているのは不動産仲介業者であり、個人的な付き合いや繋がりで売却することは難しいでしょう。
また、倉庫や工場の売却には、土壌汚染対策法をはじめとして関係法令を慎重に確認しながら取引を進める必要があり、それに伴う各種届出や確認作業なども多くあります。
それに加えて、土壌汚染による瑕疵担保責任の捉え方などデリケートな問題も存在しているため、そうした取引に慣れた不動産仲介業者でなければ安心できません。
その他にも、建物や設備の解体・除去を行う解体業者、土壌汚染調査・土壌汚染対策工事などの行う専門業者との連携も構築しなければならないため、そうしたスキルやノウハウのある不動産仲介業者をパートナーとしなければ売却を成功させることはできないでしょう。
そうした実力のある不動産仲介業者を探すためには、不動産一括査定サイトが非常に有効です。
不動産一括査定サイトは、戸建てやマンションなどの住宅、賃貸アパートや賃貸マンションなどの収益用物件だけでなく、倉庫や工場などのニッチで専門性の高い物件に対応できる不動産仲介業者を見つけることができるのです。
不動産一括査定サイトを利用して、倉庫や工場などの売却に実績や自信のある複数の不動産会社から査定を受け、「この会社なら!」と思える不動産会社に売却を依頼しましょう。
依頼する前には、これまでの倉庫や工場の売却実績や土壌汚染関係の専門業者とのネットワーク体制などについて必ず確認することが大切です。
倉庫や工場を売却するために、気を付けるべき土壌汚染調査や消費税、査定依頼の方法などについて解説してきました。
倉庫や工場を売却することは、家や投資用物件を売却するよりも難しいといえます。
一般の人には必要がなく、用途や買い手が限定されるためです。
そうした物件だからこそ「不動産会社の腕」が重要です。
情報を囲い込まずに隣県の先まで広範囲に発信して周知徹底し、各種法令にも目を配り、各専門業者のネットワークを構築し、売主の立場で瑕疵担保のリスクも低減させてくれる不動産仲介業者に売却を依頼することが最大の成功要因です。