あなたは「抵当権」という言葉をご存じでしょうか。
この記事を読んでいる方は、不動産について勉強している方だと思いますのでご存じのことと思います。
「抵当権」は、昔風に言うと「借金の形(カタ)」です。
「借金の形」というと取り上げられて保管されてしまうイメージがありますが、「抵当権」の場合はそうではなく、「借金の形」を自由に使用収益できます。
「抵当権」の主な「借金の形」はマイホームなどの不動産だからです。
マイホームが使用できないのでは困ってしまいます。
特に抵当権は不動産を売却する時や相続する時に重要な意味を持ちますので、知っておくべき不動産の知識といえます。
そこで今回は、抵当権の効力や仕組み、登記などについてわかりやすく解説します!
目次
ここでは、抵当権の概要や仕組みについて説明します。
抵当権は、民法で次のように規定されています。
【第369条(抵当権の内容)】
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
一般的には、所有権を目的とした抵当権が多いですが、地上権や永小作権に対しても抵当権を設定することができます。
具体的なケースで説明すると、抵当権とは、住宅ローンを金融機関などから利用した際、住宅ローンを融資した金融機関(抵当権者)などがマイホームなどの不動産を担保とすることができる権利のことをいいます。
抵当権者は、万一お金を借りた人(債務者)が住宅ローンの返済ができない(債務不履行)場合には、担保とした不動産を裁判所の競売にかけて他の債権者に優先して弁済を受けることができます。
次から、抵当権の登記内容で確認される基本的な用語について説明します。
債権とは、ある人から他の人に対して特定の行為や給付の請求できる権利のことをいいます。
例えば、金銭の支払いや物の引渡しを請求できることです。
その反対に債務とは、ある人へ特定の行為や給付の請求を履行する義務のことをいい、債権と債務は対義語となります。
そして、債権を有する人のことを債権者といい、履行する人を債務者といいます。
例としては、AがBに100万円を貸している場合、AはBに「100万円を返してください」という請求ができる権利を持っており、反対にBは100万円をAに支払わなければならない履行の義務を負っているため、Aは債権者、Bは債務者となります。
<債権者と債務者のイメージ図>
抵当権者とは抵当権を有する債権者のことをいい、抵当権設定者とは担保となる不動産を提供した者のことをいいます。
前述の民法第369条の規定によると、担保不動産の提供者は「債務者又は第三者」となっているため、必ずしも「担保不動産の提供者=債務者」となるわけではありません。
その区別をするために、債務者が担保不動産の提供者である場合は「債務者兼設定者」といい、第三者が担保不動産を提供した場合は「物上保証人」といいます。
それに対して、抵当権者に関しては「抵当権者=債権者」でなければならず、異なることは認められません。
<債務者兼抵当権設定者の場合>
<債務者・物上保証人の場合>
続いて、抵当権の基本的な仕組みを理解するために、具体的なケースで説明します。
Aさんは5,000万円のマイホームを購入することになり、自己資金を1,000万円出して残りはB銀行の住宅ローンを利用することとしました。
B銀行はAさんのマイホームを担保として、抵当権設定登記を行いました。
<抵当権設定の仕組み>
Aさんは、毎月住宅ローンを債権者であるB銀行に返済するという債務を負います。
担保として抵当権が設定されたマイホームですが、Aさんが住宅ローンを返済している限り、自由に使うことができます。
万一、何らかの事情でAさんが住宅ローンの返済ができなくなった場合には、債権者であるB銀行はAさんのマイホームの競売申立てを裁判所に行い、落札代金より債権を回収することとなります。
これが、基本的な抵当権の仕組みとなります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・競売物件とは?購入のメリットやトラブル・リスクを紹介![/su_box]抵当権は登記をしなければ、自分が抵当権者であることを第三者に対して主張することができません。
これを登記の対抗力といいます。
まずは、実際の抵当権設定登記の事例を見ながら、登記内容について見ていきましょう。
<実際の抵当権設定登記の事例>
抵当権は、不動産の権利関係が記録される「権利部」のうち、所有権以外の権利に関する事項として「乙区」に記録されます。
登記内容を見ると、登記の目的はもちろん「抵当権設定」であり、権利者その他の事項からは「抵当権の設定日」「債権額」「債務者の住所・氏名(ここでは隠してあります)」「抵当権者の住所・氏名」「共同担保」などがわかります。
民法第373条には
【第373条(抵当権の順位)】
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
と規定されています。
これによると、同一の不動産を担保として複数の抵当権を設定登記することが可能であり、抵当権の優先順位は抵当権設定登記が行われた順番によって決まることとなります。
例えば、ある不動産を担保としてAさんが1番目に債権額2,000万円の抵当権設定登記をし、Bさんが2番目に債権額1,000万円の抵当権設定登記をした場合には、第1順位の抵当権者はAさん、第2順位の抵当権者がBさん、ということになります。
また、Aさんへの債務が完済された場合は、Bさんが第1順位の抵当権者に繰り上がります。
上記の場合において、債務者が返済不能となったケースでは、抵当権者は債権を回収するために抵当権を実行し、裁判所に競売申し立てを行うこととなります。
競売で担保不動産が2,200万円で落札されたとすると、AさんとBさんの債権回収額は下図の通りとなります。
<抵当権順位による債権回収額>
このように、抵当権の順位により弁済の優先順位が決まり債権回収額も変わるため、債権者(特に銀行などの金融機関)は順位にこだわります。
不動産を売却する時に、抵当権が設定されていれば、売主の義務として抵当権を抹消登記して買主に引渡さなければなりません。
そこで、ここでは抵当権抹消登記について説明します。
抵当権とは、抵当権者が競売を申し立てることにより強制的に債権を回収できる仕組みですから、残債務のある抵当権が付着したままの不動産を購入する人はいません。
せっかく購入しても、いつ何時債権者によって競売にかけられてしまうかわからないリスクを背負うことになるからです。
そのため、売主は買主に不動産を引渡す際には、売却代金によって抵当権者に残債務を全額返済したうえで、抵当権を抹消して引渡す義務を負っています。
通常、抵当権の抹消義務については売買契約書で規定しています。
<売買契約書における抵当権抹消義務の規定事例>
次に、住宅ローンなどの債務を完済しているにもかかわらず、抵当権登記をそのままにしている・・・というケースについて説明します。
債務を完済していても、抵当権の登記は自動的に抹消されるわけではありませんし、また債権者である金融機関などが抹消手続きしてくれるわけでもありません。
自分自身で抵当権抹消登記を申請して、初めて抹消されることになるので注意が必要です。
この場合、抵当権抹消登記をいつまでにしなければならない、という期限は設けられていませんが、急な売却や相続、新たな融資を受ける場合などを考慮すれば、速やかに抵当権を抹消した方がベターでしょう。
抵当権抹消登記に必要な書類について説明します。
登記申請書を作成し、必要書類と一緒に法務局へ提出します。
登記済証または登記識別情報は、抵当権設定時に抵当権者に交付・保管されています。
抵当権抹消登記申請をする際には、抵当権者である金融機関などからこれを受け取り、申請手続きを行うこととなります。
住宅ローンなどの債務を完済している場合は、抵当権者から郵送などで送られてきているはずです。
住宅ローンなどの債務が完済されたので抵当権抹消をしてもよい、という証明となる書類です。
また、上記の抵当権設定契約証書に「抵当権を解除しました」などのスタンプを押し、この書類と兼用する場合もあります。
金融機関などの抵当権者の委任状であり、抵当権抹消登記手続きを委任するための書類です。
なお、法律の改正により、平成27年11月2日からこれまで必要書類であった金融機関などの「資格証明書」の添付は、法人の登記簿謄本や代表者事項証明書に記載のある「会社法人番号」を抵当権抹消登記申請書に記載することによって不要となりました。
ここでは、抵当権抹消登記の流れや手続きについて説明します。
特に住宅ローンなどの債務を完済している場合は、自分自身で登記手続きすることも可能ですので、よく確認しましょう。
<抵当権抹消登記手続きの流れ>
債権者である金融機関から、前述の抵当権抹消登記に必要な書類を受け取ります。
所有者の登記上の住所と現住所が相違する場合には、住所変更登記が必要となるため、住民票(または戸籍の附票)を準備します。
また、婚姻などにより所有者の登記上の氏名と現在の氏名が相違する場合には、氏名変更登記が必要となるため、戸籍謄本(または抄本)および本籍地の記載のある住民票を準備します。
抵当権抹消登記申請書を作成します。
原本は法務局で取得できますが、法務局のホームページでダウンロードすることもできます。
法務局HP:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
登記申請書と必要書類を、対象不動産の所在地を管轄する法務局へ提出します。
法務局への直接提出のほか、郵送で手続きすることもできます。
登記申請手続きを司法書士に依頼する場合は、その旨の司法書士宛の委任状が必要となります。
登記完了予定日に補正の有無を法務局に確認し、必要に応じて補正を行います。
補正がなければ登記完了となります。
抵当権抹消登記に関する費用は以下の通りです。
抵当権抹消登記申請を行う際には、不動産1個につき1,000円の登録免許税が必要となります。
例えば、土地1筆・建物1棟の場合、それぞれ1個ずつで合計2,000円となります。
土地が何筆にも分かれている場合には、すべての分が加算されますので注意しましょう。
また、住所変更登記や氏名変更登記などが必要な場合は、不動産1個につき1,000円の登録免許税が必要です。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・登録免許税とは?計算・軽減措置・相続・納付方法について解説![/su_box]住民票や戸籍謄本などが必要な場合には、その取得費用が必要となります。
抵当権抹消登記を司法書士へ依頼した場合は、司法書士報酬が必要となります。
報酬の目安としては1万円~1万5,000円程度です。
次に、相続した不動産に抵当権が登記されている場合、どのような点に注意したらよいのでしょうか。
ここでは、その場合の注意点などについて説明します。
相続においては、相続人は預貯金や不動産などの積極財産(プラスの財産)だけを相続することはできません。
借金などの債務である消極財産(マイナスの財産)も含めて、一切を引き継ぐこととなります。
つまり、相続した不動産に抵当権が付いていればその債務も相続することとなり、各相続人が法定相続分の割合に基づいて相続することとなります。
債務の内容については、不動産の登記簿謄本により確認できます。
相続した不動産の抵当権を抹消するためには、残債務の完済が必要です。
一般的には、相続した不動産を売却して残債務を返済します。
相続した不動産を売却する際には、仲介手数料や登記費用などの諸経費や、税金として印紙税のほかに場合によっては相続税とは別に譲渡所得税も課税されることがありますので、抵当権の残債務を含めてよくシミュレーションをしておきましょう。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・譲渡所得とは?税率・計算方法・特別控除について解説![/su_box]なお、相続した不動産の抵当権が住宅ローンによる場合は、住宅ローンの融資を受けた際に債務者(被相続人=亡くなった人)が団体信用生命保険に加入している可能性が高いといえます。
その場合には、団体信用生命保険によって住宅ローンの残債務は一括返済されますので、被相続人の死亡によって債務は消滅します。
そのため、抵当権抹消登記を行うだけとなります。
前述の通り、抵当権による債務も消極財産として相続税の対象となります。
この場合、債務は控除の対象となり相続税の課税価格から差し引かれますが、その担保となっている不動産は積極財産として課税対象となり加算されます。
また、抵当権が登記されていても不動産としての評価には影響ありません。
土地は路線価方式や倍率方式によって、建物は固定資産税評価額によって相続税評価額が算定されます。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・固定資産税の評価額はいくらくらい?調べ方や計算方法などを解説![/su_box]あまりなじみのない「抵当権」について、その効力や仕組み、登記などについて解説してきました。
住宅ローンを借りた時には抵当権設定登記、マイホームを売却した時や住宅ローンを完済した時には抵当権抹消登記が必要となります。
特に、住宅ローン完済時の抵当権抹消登記は、自分自身で対応しなければそのまま放置されてしまいます。
放置したままですと、後で困るケースが出てくる可能性がありますので注意が必要です。
この記事の内容を理解した人であれば、抵当権の登記された不動産を売却する時も、抵当権者である金融機関などとスムーズにやり取りができることでしょう。
相続などで複雑な場合には、不動産業者・弁護士・司法書士などの専門家に相談することをオススメします。