私たちが毎日歩いている道路や通路について、その所有者や法的効力について考えながら通行している人はまずいないと思います。
何気なく通っている道路や通路ですが、ある日突然「この道路(または通路)を通ってはいけません!」と言われたら、あなたならどうしますか?
通勤や通学に支障が出たり、毎日の買い物に行くことが困難になったり、最悪の場合は自宅から外へ出ることができなくなったりする可能性もあるのです。
「他の道を歩く」
「通れるように交渉する」
「隣の人と相談する…」
など、最も良い解決策を導き出すのは容易ではありません。
じつは、こうした道路や通行を巡るトラブルは、日本全国で非常に多く発生しているのです。
そこで今回は、こうしたトラブルを防ぐために「通行権」に関して徹底解説します!
道路や通行権の種類、通行権と建物を建てるための接道義務の関係、通行権を巡る実際のトラブル事例と解決策など、ぜひこの記事を読んで参考にしてください。
目次
「通行権」とはその名の通り、「通行する権利」という意味です。
ここでは、通行権という権利の考え方について説明します。
私たちが通行する道路には、大きく分けて2種類あります。
ひとつは「公道」であり、もうひとつは「私道」です。
まずは、それぞれの道路について確認していきましょう。
公道とは、国または都道府県・市町村などの地方公共団体が所有し、管理を行っている道路であり、一般の通行の用にして供されているため、私たちはこれらの道路を自由に通行することができます。
公道には「高速自動車国道」「一般国道」「都道府県道」「市町村道」の4種類があり、それぞれ管理者と費用負担者が異なります。
<公道の事例>
<公道の管理者および費用負担>
公道の本来の目的は人や車が通行することですので、公道を占有することは禁止されています。
そのため、道路を使用もしくは占有する場合は、道路使用(または占用)許可を取得する必要があります。
<道路使用(占用)の事例>
例えば、建設工事などで、道路部分を搬出入作業や足場設置などで使用する際には、建設業者は道路使用(占用)許可を取得しなければなりません。
上の事例では、足場を一定期間、道路に設置するために道路占用許可を取得して、許可証を掲示しています。
ちなみに、「道路使用許可」と「道路占用許可」に違いについては、下記の通りです。
<道路使用許可と道路占用許可の違い>
一方、私道とは、個人や法人などの民間が所有する私有地であり、その私有地を道路として築造し、維持・管理して通行の用に供されているものとなります。
つまり、民間の私人が自分で費用を負担して道路として築造し、その道路敷地に対して所有権や借地権などの権利を持ち、維持・管理についてもその権限を持つ人の自由に任されている道路や、個人が所有して私的に使用している道路などになります。
私道は、原則、道路の所有権や借地権などの権利を持たない人の利用は禁止された道路であり、誰でもが自由に通行できる公道とは性質が異なります。
<私道の事例>
私道にはさまざまな権利形態があり、土地の地目が「公衆用道路」となっていて一般の人の日常的な通行に利用されているケースや地目は「宅地・田・山林」などとなっていても、事実上は一般の通行に利用されている場合もあります。
このように、パッと見ただけでは判断がつかないケースが多く、私道を巡るトラブルも非常に多く発生しているので注意が必要です。
代表的なトラブルとして、「私道の所有権を巡るトラブル」「私道の管理を巡るトラブル」「私道の利用を巡るトラブル」などがあります。
私道を含む住宅等を購入する場合には、事前に私道について役所等で十分に調査することが大切です。
<私道を巡るトラブルの事例>
前述の通り、公道は誰もが自由に利用できる道路ですが、私道は土地所有者や借地権者など権原を有する人が私的に利用する道路です。
私道はあくまでも私有地ですので、所有者(または共有者)以外の人は通行できません。
そのため、私道を通行するためには、原則的に「通行権」という権利が必要となります。
公道は誰もが通行できる道路ですので、通行権という概念はありません。
つまり、「通行権」とは「私道の通行権」ということになります。
私道の通行権には「囲繞地(いにょうち)通行権」「通行地役(ちえき)権」「債権的通行権」「通行の自由権」などがあります。
それぞれについては、次章で詳しく解説します。
日本国憲法第12条には、国民の権利について次の通り定められています。
第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
土地の所有権も憲法により保障された国民の権利ですので、常に公共の福祉のために利用する責任がある、ということになります。
つまり、たとえ私有地あってもその土地を取り巻く人たちと持ちつ持たれつの助け合いの精神で、土地(私道)を利用しなければならないのです。
こうした精神や理念がベースとなり、その土地を通行しなければ公道にアクセスできない人のために通行権が存在しているといえるでしょう。
このことは、民法第210条にも次の通り、定められています。
(公道に至るための他の土地の通行権)
第二百十条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
公道にアクセスできない土地の所有者が、自分の土地と公道の間にある土地を通行することができる、と定められているのも助け合いの精神を象徴しています。
次に、4種類の通行権について、それぞれ説明します。
<通行権の種類>
自分の土地が他人の土地に囲まれて(囲繞地)、公道に通じる通路がない土地(袋地)である場合、民法第210条および第211条により囲繞地通行権が認められており、囲繞地の所有者は通行を拒否することはできません。
<囲繞地通行権のイメージ>
ただし、通行する権利を有するといっても、囲繞地のどこでも自由に通ることができるということではなく、囲繞地の中で最も囲繞地所有者にとって損害の少ない場所を選定し、かつ必要最小限の範囲に限られます。
現実的には、人が通行に必要な幅員1メートル程度の通路となりますが、従前に車が通行していたなどの事情があれば、その幅員が認められる可能性もあります。
第二百十一条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
また、民法第212条では、袋地の所有者は囲繞地を通行するために、原則として償金(通行料)を支払う義務があると定められています。
第二百十二条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
囲繞地通行権は、袋地の所有者のみならず借地権者にも認められています。
つまり、袋地を借りて住宅を建て居住している借地権者に対しても、囲繞地通行権が認められることとなります。
借地権には地上権と賃借権の2つがあります。
地上権については、民法第267条における相隣関係の規定が地上権にも準用されることから囲繞地通行権が認められており、問題ありません。
次に、賃借権の場合、賃借権は所有権や地上権のような物権(物を支配する権利)ではなく債権(債権者が債務者に対して、一定の行為をすることを要求することができる権利)であることから、法的な定めがありません。
しかし、昭和36年の最高裁の判例により、対抗力のある賃借権は物権と同等の効力が認められることとなりました。
したがって、対抗要件を備えていれば賃借権に囲繞地通行権が認められます。
借地に建物を建てている場合の対抗要件は、建物の登記もしくは賃借権の登記となります。
つまり、建物の登記を備えていれば賃借権の登記がなくとも、借地権者には囲繞地通行権が認められることとなります。
なお、囲繞地通行権という権利としての登記制度はありませんので、囲繞地通行権自体を登記することはできません。
建物を借りているだけの借家人の場合、借家人は土地に対する権利を有しているわけではありませんので、借家人が土地(袋地)所有者と別個に囲繞地通行権を主張することはできません。
ただし、借家人も建物を使用する権利は有しているため、その権利を保全するために賃貸人が有している囲繞地通行権を代わりに行使して通行することができます。
土地の分筆により袋地が生じた場合は、分筆前の土地のみを通行することができます。
この場合、償金の支払いは不要であると民法第213条に定められています。
第二百十三条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
もともとの土地は公道に接していたことから、袋地が生じた原因は分筆の仕方にあると考えられ、元の土地以外の土地に通路を造るなど、他の土地所有者に負担をかけることは妥当ではないと判断されています。
また、この規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲渡した場合にも適用されます。
<土地の分筆により袋地が生じる事例>
上の事例では、Aという土地を分筆することにより、袋地が生じています。
この袋地は、このような分筆を行ったことから生じているため、もともとAの一部であった囲繞地しか通行することはできません。
通常、囲繞地通行権は袋地の状態である限り、消滅しません。
しかし、袋地の所有者が公道に接する隣地の所有権を取得した場合など、袋地の状態が解消されたときには囲繞地通行権は消滅します。
<土地の取得によって囲繞地通行権が消滅する事例>
上の事例では、袋地の所有者は囲繞地通行権により隣地Cの一部を通行して公道に出ていましたが、隣地Bを取得したことにより、他人の土地を通行することなく自分が取得した土地を通行して公道に出ることができます。
そのため、隣地Cの所有者に負担をかける必要がなくなり、囲繞地通行権は消滅します。
新たに取得した自分の土地を通行して公道に出られる場合、たとえそれが遠回りになるとしても囲繞地通行権は消滅しますので注意しましょう。
通行地役権とは、他人と土地を通行するために設定される地役権であり、原則として登記することにより第三者へ対抗することができます。
ちなみに、地役権とはある土地の便益のために、他人の土地を利用する権利(物件)であり、契約によって自由に設定されます(民法第280条)。
地役権の設定は通行の他に、用水路から自分の土地まで水を引く場合や、電力会社が高圧線の下にある土地に地役権を設定して、そこに建築される建物の高さを制限する場合などによく見られます。
(地役権の内容)
第二百八十条 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
通行地役権の場合、通行の利益を受ける地を「要役地(ようえきち)」といい、通行に供せられる土地を「承役地(しょうえきち)」といいます。
他人の土地を通行するためには、その土地を賃貸借または使用貸借すれば可能ですが、地役権を登記した場合は、その土地を直接支配できる物権となりますので、債権である賃貸借または使用貸借の権利より強い権利である、といえます。
<地役権の設定イメージ>
通行地役権は当事者同士の契約によって生じ、その内容も当事者同士の意思によって自由に定めることができます。
一般的に通行権を設定する契約である「通行地役権設定契約」において、通路の幅員、通行の内容(徒歩・自動車)、地役権設定の対価、通行料、契約期間などについて合意します。
<通行地役権設定契約書の事例>
通行地役権は登記をしておかなければ、承役地の所有者が変わった場合に、新しい所有者に対して通行地役権を主張することができませんので注意が必要です。
通行地役権を設定する場合、他に公道へ出るための通路があるか否かは要件ではなく、この点は囲繞地通行権と異なる点です。
<地役権設定登記の例>
地役権の設定登記を行うと、要役地の所在・地番、目的および範囲が記録され、範囲が承役地全部であれば「全部」、一部であればその一部を特定できるように明確に記録されます。
そのうえで、地役権の設定部分を明らかにした地役権図面番号が記録されます。
上の地役権設定登記の例では、承役地の西側15平方メートルの範囲に、通行のための地役権を設定していることがわかります。
囲繞地通行権と通行地役権との違いについて、下の表にまとめていますので確認してみましょう。
<囲繞地通行権と通行地役権の比較表>
以上のように、囲繞地通行権は当事者同士の契約を要せずに当然に成立しますが、通行地役権の場合は当事者同士の契約によって成立します。
つまり、自分の土地から直接公道に出ることができない土地には、囲繞地通行権が当然付着しているという原則を覚えておきましょう。
また、通行地役権の場合、当事者合意により成立することから「対価」という言葉が使われますが、囲繞地通行権は法的に当然成立することから「償金(賠償金の意味)」と言葉が使われています。
債権的通行権とは、通路の土地所有者と通行を目的として、賃貸借契約や使用貸借契約等を締結している場合に該当します。
通行料などの対価や契約の存続期間は契約当事者の合意により、自由に設定することができます。
債権的通行権は、契約当事者間でのみ拘束力のある通行権であり、囲繞地通行権や通行地役権などのような法的拘束力は原則ありません。
一般的に、対価が伴う場合には賃貸借契約を、対価が伴わない無償の場合には使用貸借契約が締結されます。
通行の自由権とは、過去の判例より建築基準法上の道路に対して認められる通行権のことをいいます。
具体的には、私道のうち建築基準法による道路位置指定を受けたもの、あるいはみなし道路として認められているもの(いわゆる2項道路)について、通行者にとってその私道の通行が日常的生活上において必要不可欠である場合などに認められる通行権です。
ただし、法律的に当然に認められる囲繞地通行権や、物権である通行地役権と比べて、通行の自由権は法律ではなく判例で認められている権利であるため、非常に効力の弱い権利といえます。
また、建築基準法上の私道だからといって、当然に通行する権利が認められるものでもないため、注意が必要です。
土地上に建物を建築するためには、建築基準法上の接道義務を満たさなければなりません。
ここでは、通行権と接道義務の関係について説明します。
道路には「公道」と「私道」があると説明しましたが、建築基準法第42条により、建築基準法上の道路が下の表の通り細かく規定されています。
<建築基準法上の道路>
建築基準法で認められている道路は、原則的に幅員4メートル以上の道路に限定されており、上の表のように国道、県道、市町村道などをはじめとして、さまざまな道路が定められています。
注意しなければならないのは、いわゆる「2項道路」です。
「2項道路」とは、本来道路と認められない道路幅員の狭い道路を、便宜上道路とみなしたものをいい、「建築基準法上の道路」または「みなし道路」などとも呼ばれています。
土地の前の道路が「2項道路」である場合は、道路の中心から2メートルまでの部分は道路部分とみなされます。
そのため、その土地に建物を建てる場合には、道路とみなされる部分には建物を建てることができません。
この道路中心線から2メートル後退する義務を「セットバック義務」といいます。
<セットバック義務について>
敷地に建物を建てる場合、建築基準法第42条の定めにより建物の敷地は道路に2メートル以上接していなければなりません。
これを接道義務といいます。
建物の敷地には、普段の生活のために通行する道路が必要であり、また地震や火事などの災害時には避難・消火・救急活動のための経路として道路が必要です。
そのため、建築基準法により接道義務が定められています。
土地が接道義務を満たしていない場合は、建築確認申請に対して許可が下りず、建物を建てることはできません。
ほとんどの宅地分譲地では、特定行政庁から道路位置指定を受けて接道義務を満たし、開発が行われています。
建物を建てることができない土地は、その価値が大きく損なわれてしまいます。
事前に、自分の土地が接道義務を満たしているかどうかについて、十分に確認することが大切です。
袋地に建物を建てようとする場合、袋地は接道義務を満たしていないため、建物を建てることは本来できません。
ただし、囲繞地通行権や通行地役権、債権的通行権などの通行権を有している場合、一定の要件を満たす時に建物を建てることが認められる可能性があります。
その要件とは、幅員2メートル以上の通路が確保できるか、ということになります。
建築基準法上の接道義務を満たすためには、建物を建てる敷地が建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならないためです。
ただし、囲繞地通行権、通行地役権、債権的通行権いずれの通行権の場合でも、建築基準法上の規定を満たす2メートルの幅員を、隣地所有者に要求できるかは別問題です。
特に、囲繞地通行権の場合は通行権者のために必要で、かつ囲繞地所有者にとって最も尊大が少ない範囲で認められるものにすぎないため、幅員2メートルを囲繞地所有者が容認してくるかどうかは微妙なところといえます。
いずれのケースでも、事前によく隣地所有者と話し合うことが大切です。
最後に、通行権を巡る実際のトラブル事例について見ていきましょう。
【現状の問題点】
Sさんは袋地の土地を購入しようと検討していますが、その土地の公道への通路が幅員4.5メートルの他人の位置指定道路となっていることがわかりました。
位置指定道路の所有者は、Sさんの通行自体は認めるが、承諾書等の書面の交付や地役権・賃借権の設定登記については認められない、といっています。
Sさんはどのような通行権が認められるのか、また建物を建てることはできるのかなど、この土地の購入を悩んでいる状況です。
<Sさんの事例>
【解決策】
このケースの場合、対象地は袋地であるため、Sさんは囲繞地通行権に基づいて位置指定道路を通行することができます。
通常、囲繞地通行権により通行が認められる範囲は、通行権者が必要かつ囲繞地所有者が最も損害が少ないものでなければなりませんが、この通路はすでに位置指定道路として開設されており、過去の判例と照らし合わせたうえで、その幅員4.5メートルについてSさんがそのまま通行することが認められることになりました。
さらに、Sさんは人の通行だけでなく車両の通行や配管のための道路掘削承諾などについても位置指定道路の所有者と協議の結果、年間の通行料や道路維持費の負担、掘削承諾料などを支払うことを条件にすべての通行や工事が容認されることとなりました。
【現状の問題点】
Mさんは、下の図のような他人の土地に囲まれた袋地に建つ借地権(賃借権)付き中古住宅の購入を検討しています。
売主によると対象地から公道へ出るために、隣地を通行することが隣地所有者に容認されているとの説明ですが、不動産仲介業者が隣地所有者に確認したところ「通行権を認めた覚えはない」という回答でした。
そのような経緯から、Mさんはこの借地権付き中古住宅を購入して、通行権が認められるのかどうか不安に思っています。
また、Mさんは車を所有しており、できれば人だけでなく車の通行も希望していますが、可能なのでしょうか。
<Mさんの事例>
【解決策】
このMさんのケースでは、対象地は袋地に該当するため、囲繞地通行権が認められる可能性があります。
ただし、借地権者であるMさんが囲繞地通行権を主張するためには、建物の登記(所有権登記および表題部登記)を行うか土地賃借権の登記を行い、第三者への対抗力を備えておかなければなりません。
囲繞地通行権で認められる通行に権利は、通行権者の通行に必要、かつ囲繞地所有者の損害が最も少ない範囲に限定されるため、現実的には1メートル程度の幅員の通路となる可能性が高いです。
また、囲繞地所有者に一定額の償金を支払わなければならない可能性もあります。
車の通行については、従前の借地権者が車を通行していた事実があれば認められる可能背もありますが、新たに車が通行できるほどの幅員が囲繞地通行権によって認められる可能性は低いでしょう。
結果的に、Mさんはこれらの事情を検討して、この物件の購入を見送ることにしました。
私道に対する通行権について解説してきました。
それぞれの通行権の権利の強さが異なり、またそれぞれに特徴や問題点がありますが、可能であれば登記することによって第三者に対抗できる通行地役権を取得しておくと安全でしょう。
ただし、通行権は隣地所有者や私道所有者の合意がない限り、認められるものではないため、袋地を購入する場合には通行権が確保されているのか否か、事前に必ずチェックしましょう。
通路を巡るトラブルや問題は非常に多く発生しています。
トラブルや問題の原因は、売主(所有者)のいうことをそのまま鵜呑みにしてしまったことにある場合も多く、現状が法的要件や対抗力を備えているのかどうか、客観的に調査したうえで購入を判断することが重要です。