せっかくやりたいことが明確になって株式会社を起業したのに、会社の経営について起業した直後からわからないことがたくさんあり困った経験は、創業直後の社長の多くが感じられることではないでしょうか。
特に、ひとりで起業した株式会社では、社員を雇うほどの余裕もなく、個人的すぎてまわりに相談しづらく、安心して会社経営をはじめられない!といったことが大半なのではないかと思います。
また、法律や税率などといった会社のルールは常に変化していくため、最新の情報をキャッチしづらく、知らないうちにルール違反をしていたなどといったことも起こるリスクがあります。
僕はこれまで3社の株式会社の起業の経験があります。1社目は2011年にひとり株式会社として起業をしました。その後、2012年に立ち上げた事業では売上の成長や仲間が増えたこともあり、創業メンバーを入れての起業。2020年に起業した3社目の会社では2021年の4月から社員の雇用もはじめました。
起業にあたっては、時代の変化もあり、最近では司法書士などを自分で探して依頼しなくても、ネットで簡単に安くスピーディーに定款を作成し、公証役場や法務局での手続きができるようになりました。
しかし、その後の手続についてはまだ分かりづらいことも多く、今回はひとり株式会社の経理・総務・労務・人事に関して、詳しく書かれた本を紹介します。
これまで会社員として働いていた方は、いつもあまり深く考えていなかった給与明細の内訳や経費精算の項目、年末調整の手続き、就業規則や等級の規定、健康診断や避難訓練などの年間行事も、IR情報の数字などとつながり、実は知らないところでたくさんの同僚が手続きをしてくれていたことをあらためて感じるかもしれません。
目次
そもそも、会社経営に関する本は、どのような種類のものがあるのでしょうか。会社経営に関する本は、大きく分けると次の3つに分類できると考えています。
会社経営の本で最も種類が多いのが、起業家や創業者のエピソードやマインドを知れる本ではないでしょうか。これらは会社経営をするにあたってのモチベーションアップや、具体的な起業のアイデアを出すために役に立つことが多いです。
これらの書籍は企業名や人名や商品名がタイトルになっていることが多いです。
次に多いのが、経理・総務・労務・人事などといった職種に特化した本です。これらは大企業の多くで働いている会社員の担当者などが読むことの多い本でしょう。ひとり株式会社の場合には、人数や売上などの規模の大きさから、発生する頻度の低い手続やそもそも対応が不要なものなどもあり、ここまで詳細で具体的な知識までは不要な場合も多いです。
これらの書籍は『商品企画のアイデア』『採用担当者の心得』『決算書の読み方』『実例から学ぶ法務トラブル』などといったタイトルの本が多いでしょう。
また、より一般的なビジネス書として担当に関わらず広く読める本としては『リーダーシップ』『仕事術』『人生論』などといったビジネス実用書と呼ばれる本もあります。
ひとり株式会社を起業して読みたい本は、小さな会社に必要な、経理・総務・労務・人事などがまとまった本です。
株式会社を起業しても、まだ売上が少なく業務量も少ない創業時には、経理や総務、労務や人事、法務などといった担当を置くことは難しいケースが多いでしょう。
起業時にはひとりや役員がいる場合でも、このような職種のメンバーを採用し入社の手続きをおこなう必要があります。
そのため、はじめの社員を雇うにあたっても、これらの手続きは社長が知っておく必要があるのです。
これから規模が大きくなることが見込まれる会社の社長であっても、それぞれの部署でどのような業務を行っていて、どのぐらいの時間やコストがかかり、どのぐらい大変なのかを知っておくことは、これから雇用する社員とのコミュニケーション上で必要になる知識であるといえます。
また、これらの専門的な業務を専門家に任せるにしても、司法書士や行政書士、税理士や会計士、社労士や弁護士などに依頼するにあたっては避けては通れないでしょう。
実は少しの知識がないだけで、勝手に不安を感じてしまっていたり、知識がないことを理由に専門家に仕事を依頼することで、返って高くついてしまうこともあるでしょう。
まずは広く万遍なく、それぞれの職種でどのような業務があるのかについて、体系的に学んでおくことはすべての社長にとって創業時に必要な知識だと言えるでしょう。
ひとり株式会社の手続きでは、一時的に必要な知識も多く、それぞれの手続きを詳細まで細かく把握して丸暗記する必要はありません。
まずは、わかりやすく全体感をつかめることが重要です。これらの情報はインターネットなどでも情報は入手できますが、断片的で誤った情報も多くあるため、一度は信頼できる書籍で体系的に学ぶことがおすすめです。
書籍を選ぶときには、以下を意識するとよいでしょう。
まずは何と言っても書籍が読みやすいことでしょう。今回の目的は全体感をつかむことで、広く浅く体系的な知識を身につけることです。
そのため、文字や箇条書きばかりでひと目で分かりづらい書籍よりも、図解やイラストが使われている本がおすすめです。最近はフルカラーの書籍も増えてきているため、書店でも比較的、パッと見てわかりやすい本が見つかります。
著者のプロフィールに関しては、税理士、社会保険労務士、行政書士、経営コンサルタントなど、多くの資格を持っているかを確認します。
あわせて、業務での経験として中小企業の経営支援をしてきているかを確認します。もちろん、規模の大きな会社に対する会計などの経験や、上場企業などの大企業の経営管理部門などで働いた経験もあるとよいですが、今回はできるだけ中小零細企業での経験を重視するのがよいでしょう。
税理士や社労士などといった資格も、それぞれ合格率が非常に低い資格です。これらの資格を複数持っている人はそこまで多くありません。そのため、著者はひとりではなく、複数人で書いている本も参考になるといえます。複数の観点で書かれることで、誤った知識や漏れを防ぐことにもつながると考えられます。
僕も不動産投資の書籍を出版して感じたのですが、出版には有資格者が営業目的でおこなう「自費出版」というジャンルがあります。出版をして著者であるということは仕事をする上での権威にもなりますので、お金を払って形式上、本を書くこともあるのです。
そのため、書籍の増刷が複数回されている本は、読者によく読まれ、受け入れられている本であると考えられるため、書籍のよさを見極める際におすすめです。
増刷の回数に関しては、書籍の最終ページをみるとわかります。「2021年4月1日 第3刷発行」などといったかたちで、日付とともに増刷の回数が記載されています。
何版も刷られているものがおすすめであるという一方で、毎年のように制度や税率が変わるため、最新の情報が記載されていることも重要です。そのため、年度ごとに書籍が更新されているものがおすすめです。
出版社にとっては、良い本で売れる本であれば、シリーズ化して毎年売りたいと考えるでしょう。そのため、『令和3年度版』や、最近であれば『マイナンバー対応』『民法改正対応』などといった文言が、表紙や目次に書かれている本を探すのがよいでしょう。
ここからは、実際に僕が読んで役に立ったひとり株式会社の経理・総務・労務・人事に関する本を紹介したいと思います。
ひとりでもすべてこなせる! 小さな会社の総務・人事・経理の実務
図解 いちばんやさしく丁寧に書いた総務・労務・経理の本 ’20~’21年版
基本と実務がよくわかる 小さな会社の総務・労務・経理 20-21年版
専門性の高い分野で起業した場合でも、株式会社の社長には総合力が求められると感じています。株式会社の経理・総務・労務・人事について知識を身につけるにあたっても、1冊の書籍のみから学ぶのではなく、複数の本を読んで学ぶことは重要だと思います。
偏った知識で勘違いをしてしまったり、古い情報を仕入れてしまったり、知識の漏れがあることがリスクにつながることさえあります。1冊の本をじっくり読み込むことも大切ですが、複数の本を読んで知識を様々な角度から体系的に身につけるのがおすすめです。
一方で、創業時に必要な知識は一時的でよいものや、精度高く覚えておかなくてもよい知識も多くあります。そのため、書籍を読んでじっくり学ぶこととあわせて、実際に行動をしながらその場その場で調べながら進めていくというのも重要です。
たとえば、株式会社の創業時には公証役場や法務局に行ったかもしれませんが、同様に税金の手続きでは税務署、社会保険の手続では日本年金機構、労働保険の手続では労災保険を労働基準監督署に、雇用保険をハローワークで手続きをすることがあります。
これらの場所では、電話口でも丁寧に、手続きや必要な書類について教えてもらえます。
電話口での要件の伝え方については、以下のように伝えるとスムーズです。
「私は〇〇ともうしまして、千代田区で11月に株式会社を新規に設立しまして、税務署で開業届と青色申告が必要と思い、必要な手続きについて教えていただきたく、電話をさせていただきました」
「私は〇〇ともうしまして、千代田区で去年の11月に株式会社を起業したのですが、このたび4月から新たに従業員を雇用することになりまして、必要な手続きについて電話でお問い合わせをいたしました」
このとき、事前にある程度、電話の前に伝えたいことをメモしておくことが重要です。書籍をもとに、必要だと思われる手続きの名前と、必要だと思われる書類を書き出しておきましょう。
なお、電話をする際には、電話口でホームページに記載されている書式例やフォーマットなどを誘導して案内してもらえることもありますので、パソコンなどでインターネットに繋いでおくとよいでしょう。最後に、持ち物や営業時間などを確認して、お礼を伝えて電話を切ります。
また、実際に事務所に手続きに行く際には、書籍を持っていき、「この手続きをしたいのですが」や「この本のこの手続きのことでしょうか」などと都度、確認していくとよいでしょう。
さすがに「まったく何もわからないので教えてください」というスタンスは担当の方に迷惑になるのと、社長としても問題があるともいえますので、ある程度勉強をしてから、事前に要件やある程度の用語などを覚えておき、手続きする資料の名前と必要書類等はまとめて手元に持っておくようにしましょう。
事務所での手続きでは必要書類がない場合には受け付けてもらえないものです。面倒臭がらずに、1回目は手続きの方法と申込書をもらい必要書類を教えてもらえればいいや、2回目は自分なりに資料を一式を持って行き不備があれば教えてもらえればいいや、最悪3回目に一式を揃えて提出ができればいいやぐらいの感覚で、まずは躊躇したり先送りしたりせずに、足を運ぶことが大事だと思います。
ひとり株式会社の経理・総務・労務・人事では、初期の申請などの一過性のものもありますが、低い頻度で起こる業務も多いです。
たとえば従業員の退職や会社同士の訴訟、派遣労働者の雇用や従業員の出産時や定年時の対応、住所変更時の対応などといったものです。これらはいますぐには発生しないかもしれませんが、いざというときに大まかな観点や手続きを思い出せるように、おおよその手続きを理解したうえで、書籍を保管しておくのがおすすめです。必要に応じて、必要な部分に戻って読むのです。
ひとり株式会社の経理・総務・労務・人事では、事業の規模や特性、創業者の方針などによって、必要な手続きが変わってきます。
たとえば、日本年金機構やハローワークでは、加入が任意の場合でも、任意であるということはなかなか教えてもらえず、連絡をしてくるということは当然手続きをするという前提で対応をされてしまいます。本当に加入が必要かについては、インターネットで条件を確認することもできますが、社労士に相談するのがおすすめです。
一方で、司法書士や社労士などに依頼すると申請書を書いて出すだけでも書類作成費や出張費などで10万円~20万円などがかかってしまう場合があります。そのため、専門家に頼る必要があるのか、自分ですることができるかの見極めも重要です。
専門家に頼む場合でも、要件やおおよその依頼内容を自分で把握しておく必要があります。そのためにも書籍を読んで、必要な手続きを把握しておくことが重要です。
税務署や日本年金機構などは、手続きをしないでいると確認の案内が来ることがあります。故意か過失かなどに関わらず、手続きをしないことで金銭的な不利になるものや、法的に罰せられてしまうこともありますので、十分に注意をしておきましょう。
特に、法令違反や脱税はホームページに名前が掲載されてしまう場合もあります。手続きをないがしろにしていることが従業員や取引先からの評判につながり、信頼を損ねるリスクにもつながります。
ぜひ、会社として必要な手続きを十分におこない、本業の営業活動や業務に集中するために備えましょう。