東京メトロ東西線「竹橋」駅から徒歩5分、都営新宿線・三田線「神保町」駅から徒歩7分の場所に立地する「弦本ビル」。オーナーの弦本卓也氏も協力する2階のコワーキングスペース「TOKYOPRODUCERSHOUSE」(以下、プロハ)を中心にしたビル運営を進めていて、3階の事務所フロア、4~5階の住居フロアともにプロハの会員が入居。1階には中華料理屋が入居していることから、職住食があり仲間と場を共有することができるコミュニティビルをつくりだしている。
このプロハを中心としたビル内コミュニティについて慶應義塾大学経済学部の学生が研究対象として着目した。先月7日に武山政直研究会の坂井勇磨氏、佐野拓海氏がプロハコミュニティマネージャーの梶海斗氏にインタビューを行った。彼らの研究テーマは「リアル空間の活用」。佐野氏は研究の始まりについて次のように説明する。
「空地・空き家が増加していることが報道されていますが、現在あるリアル空間がテクノロジーに取って代わられる流れがあると思います。ECサイト(ウェブ通販サイト)が普及すれば店舗は不要となる。そのなかで余剰の空間をいかに活用するかは今後の課題となってきます。そのなかで私たちは『デザイン思考』を用いて、今後リアル空間だからこそできることとは何かを再定義しよう、というところから研究は始まっています」
これは不動産業界でも危機感を持って考えられているころ。今後、人口減少が確実視されるなかで空き家は更に増え、空きビルすらも問題として顕在化する危険性を秘めている。そのなかで空間を活性化する方法としてのコワーキングスペースに彼らは着目した。
「プロハに注目した理由はコミュニティが形成されている点です。他のコワーキングスペースでは『コミュニティをつくりたくてもできない』という悩みを抱えています。なぜコミュニティ化することができたのか、その仕掛けなどについてプロハを参照にしたいと考えました」(坂井氏)この問いに対して梶氏は「他のコワーキングスペースとはそもそもの成り立ちが異なるのではないか」と話し、次のように続ける。
「ビルをワクワクして購入した弦本さんともともとの知り合いだったことが始まりになりました。私や早野龍輝さん(元プロハプロデューサー)など5人ほどでこのプロハをつくっていきました。『この何もない空間から何を生みだしていくか』ということを考えて、つくりだしていくことができたので主体者意識が非常に強くありました。この空間にどのように価値づけしていくかをオーナーと初期のメンバーが同じ目線で考えていけたのが、コミュニティができた大きな理由となったのだと思います」
ではこのようなコミュニティを形成していくことが他のコワーキングスペースでもできるかというと、「簡単ではないだろう」と梶氏は言う。
「既存の施設でコミュニティをつくっていくという場合、そこでの関係性が固定化されているため難しさを伴うことになるのではないでしょうか。プロハでも主体的なメンバーが集っているとはいえ、仕事などの都合からなかなか顔を見せられないメンバーもいることは事実です。しかし、たとえば昨年8月に出版した『PRODUCERS』では会員ひとりひとりに焦点を当てるために全員に時間をつくってもらいインタビューを敢行しました。そのようなある種の強制もコミュニティに実効性を持たせる意味では必要ではないかと思います」(梶氏)
またプロハでは入会に際してコミュニティマネージャーの梶氏がひとりひとり面談を行っているという。これも「パーソナリティーを把握していないとコミュニティを円滑に運営することはできない」(梶氏)からだ。
「コワーキングスペースの運営者の悩みはスペースがあってもコミュニティが形成されずに続いてしまっていることです。相互の交流でビジネスが生まれる場であるはずが、その役割を果たせていないという思いが強くあります」(佐野氏)
今後、プロハを含めて様々なコワーキングスペースへのインタビューを通して、体系化を目指していくことになる。長い道のりになるかもしれないが、中小ビルの活性化を考える上で必見の研究になるのではないか。