“高専ベンチャー”ことの起こりとその取組み
“高専ベンチャー”は、2012年2月に、とあるきっかけで長野高専の専攻科生に会い、その実力に感動した弦本卓也(非高専OB、明治大学理工学卒、当時25歳)が立ち上げた組織である。
「高専にはこんなに優秀な学生がいるのか!」と、3月の春休みには、交通費・宿泊費・食費を彼個人で全額負担して、最初のイベントとなる、2週間の“プロダクト開発合宿”を企画した。異なる高専から参加した情報系の5名の高専生が、自由な発想で企画から開発までを行った。熱意を持って、学んだ技術をものづくりに活かしていく過程を目の当たりして、弦本は高専生の可能性をもっと世の中に広めていきたいと思い、高専を応援しようと決意したと言う(写真1)。
かくして、高専ベンチャーは、高専生の才能と可能性を世に知らしめることを目的とした活動を開始した。2012年は、5月にリモートインターンシップ、8月に高専生企業訪問ツアー、11月に起業家イベントへの高専生特別招待、12月に石川高専での学内就職セミナーを実施した。なお、イベントに参加しやすいように、協賛企業のご支援を得て、交通費・滞在費・食費は高専ベンチャーで支給する形を確立している。
2年目の2013年3月に開催した“高専生企業訪問ツアー2013”を例に取り、イベントの開催スケジュールのパターンを以下に示す。
学生は異なる高専の学生とリモート開発を1か月行ってはいるが、会うのは発表コンテスト当日が初めてである。にもかかわらず、各チームのプレゼンはなかなか上手で、高専パワーを企業の方々に知ってもらう絶好のチャンスとなっている。企業訪問ツアーで学生は企業への理解が深まり、企業には高専生の実態を知ってもらえる。加えて、参加学生は仲良くなり、イベント終了後も連絡を取り合い連携を深めることになり有意義である。
なお、リモートでのチーム開発の取り組みについては、9月に奈良高専で開催されたISATE2013で論文発表を行い、教育的な意義が高く評価された。
以下に、同様な開催スケジュールで行われた主なイベントを列挙する。
これ迄に、40以上の高専から延べ約100名を超す学生の参加があり、延べ30社を超す企業からご支援をいただいている。
“高専ベンチャー”参加学生の成長と今後の運営
高専ベンチャーのイベントに全国から馳せ参じる学生たちは、もともと積極性のある学生であるが、参加学生同士の交流による相乗効果、企業の方々との交流、インターン経験などによって、さらに大きく成長して帰り、各自の高専での活動はもちろん、高専の枠を越えた広範な活動をしていることが散見され大変喜ばしい。後述する“KOSEN’s”は全国ベースの活動の一例である。
“全国高専生合同インターン2013”に参加した岩渕 美咲さん(福島高専コミュニケーション情報学科4年生)は避難生活をしていると涙ぐむ場面もあったが、11月の先輩たちの会HNKの一関総会にも島田の勧誘に応じて参加するなど将来への希望を見い出し、念願のスペイン語研修のために、4月に単身スペインへ飛び立って行き頑張っている行動力は素晴らしい。個人への高専ベンチャー効果の現れの一例として紹介した。
“高専生企業訪問ツアー2014”で、甲斐甲斐しく参加学生の世話をしていた見かけぬ青年に島田は声をかけた。彼は当日担当の高専ベンチャースタッフの澤木 陽太郎さんや弦本代表の友人の宮崎真人さんという大学2年生だった。
「高専生は素晴らしい!大学生は勉強していない、自分は文系だが、文系理系の枠を越えて手を携えて行く必要がある。今後も高専生を支援し続けますよ!」と嬉しい返答。高専OBではない高専ベンチャースタッフの高専評価、高専支援は非常に嬉しく、彼らと高専学生等のスタッフが協力して、今後とも新たなイベント企画を展開し、高専ベンチャーの掲げているミッション“高専生の可能性をもっと世の中に!”の継続遂行をして行くことに大いに期待する。
引用: 電波技術協会報『FORN』 298号