在来工法とは木造軸組構法ともいわれており、断熱材の入れ方やリノベーションによって躯体の優美な表しを可能とする、架構の美しい日本由来の構法(工法)です。
ここでは「在来工法とは?」と題し、構造(在来工法の歴史)・ハウスメーカー・特徴をそれぞれ順番に解説していきます。
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目次
在来工法とは
在来工法は日本の伝統的な工法として知られており、いまでも戸建ての7割、8割は在来工法で建てられた住宅と考えてほぼ間違いないでしょう。
在来工法の構造はおもに柱(垂直材)等と梁(横架材)等による軸組で組まれており、垂直荷重に対して非常に強い構造ですが、その反面、横からの力(水平荷重といいます)には弱く、むかしから地震災害に悩まされてきました。
しかしシンプルな軸組でできた在来工法は、壁や建具を取り外すことで、間取りや空間の可変性も楽しめる良さもありますし、他の工法に比べると増改築やリノベーションにも適した工法です。
在来工法と筋交いの出現
日本の伝統的工法である在来工法は横からの応力に弱いとされていましたが、在来工法の歴史は地震大国日本の災害風土のなかで確実な進化を遂げてきました。
まず明治期、西洋の建築技術のひとつ、トラス構造を活用した「筋交い」が在来工法に出現したことで、以降の木造住宅に画期的な変化をもたらします(筋交いとは耐力壁に斜めに入る部材のこと)。
その後、関東大震災後の翌年の1924年に市街地建築法が改正され、在来工法の柱や梁を太くし、また筋交いを入れることを規定した耐震基準がはじめて導入されます。
この改正で一定の耐力壁を設けることがはじめて法律で規定されましたが、まだこのころは建築に上げる申請もない時代であり、地震の倒壊を避けられた木造住宅は非常に限られたものでした。
在来工法にも大きな転換となった新耐震基準
そして阪神・淡路大震災以前に戦後最大の震災となった福井地震(震度7、死者3769名、建物倒壊3万棟)が契機となり、1950年に建築基準法が制定されます。
その後も1978年の宮城県沖地震を受けて、1981年(昭和56年)に建築基準法が大幅に改正され、通称「新耐震基準」が登場します。
なお新耐震基準の定義をみると、1)「建築物の存在期間中に数度遭遇する」震度5程度の地震(中規模程度の地震)に対して「ほとんど損傷が生ずるおそれのない」設計をし、2)建築物の存在期間中に1度は遭遇することを考慮すべき極めて稀に発生する」震度6強~7程度の地震(大規模地震)に対しては倒壊・崩壊しない程度の耐震性を保持できる設計をすることとあります。
つまり在来工法の住宅では、耐力壁の基準量を増やすことで揺れに強い構造をつくりなさいと、改正法は呼びかけているのです。
新耐震基準で変わったのは、軸組の種類も改定されています。
ただ、いちばん大きな変更点は耐力壁の数量を上げたことです。
(耐力壁とは水平荷重に抵抗する能力をもつ壁のことで、原則的には筋交いを入れた壁のことです)
新耐震基準は、1995年に発生した阪神・淡路大震災で、一定の効果・機能を果たしています。
具体的には、旧耐震基準で建てた建物(1981年6月1日以前に建築確認申請を出した建物のこと)の70%近くが「小・中破」「大破」「倒壊」等の被害を受けましたが、新耐震基準ではその被害を受けた割合は30%以下にまで留まりました。
その後も2000年、2004年に建築基準法の改正が行われ、求められる耐震性能も向上しています。
なかでも在来工法にとって大きな転換となったのはこの新耐震基準と、壁配置のバランス計算が必要となった2000年の改正です。
耐力壁に壁パネルを用いるハウスメーカーも!
新耐震基準以降の在来工法の建物では、壁量規定(耐力壁)の見直しを行いましたが、筋交い以外に構造用合板等を張った壁パネルの使用も、在来工法のハウスメーカーを中心に進められていきます。
在来工法の壁パネルは壁厚75mmの構造用面材が主流でしたが(壁倍率2.5)、新耐震基準以降はツーバイフォー工法で使用している壁厚90mm以上の構造用合板を用いるケース(壁倍率3.0〜3.5)も増えました。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・ツーバイフォー住宅とは?ハウスメーカー・特徴・欠点を解説![/su_box]在来工法のパネル化は今やハウスメーカーだけのものではなく、地場の工務店でも行われている在来工法の標準工法といって良いと思います。
在来工法のパネル化は壁パネルだけではありません。
床も屋根もパネル化されています。
在来工法のパネル化は、もはや在来工法の“ツーバイフォー化”といっても良いものです。
部材供給の合理化という面でも在来工法のパネル化は、私たちが想像している以上に進んでいます。
世代によっては、構造用合板を使わない(筋交いを使った)在来工法のほうがかえってめずらしく映るかもしれません。
在来工法で有名なハウスメーカー
在来工法、木造軸組構法は今でも戸建住宅の代表的工法ですが、在来工法をメインにした全国規模のハウスメーカーとなると数は限られてきます。
ここでは在来工法で代表的なハウスメーカー3社について紹介してみます。
I-HEAD構法で本格的なハウスメーカーに生まれ変わった「一条工務店」
一条工務店は以前より耐震性を重視して家づくりを行う、在来工法のハウスメーカーとして知られていました。
本格的にモデルハウスで競合他社に負けない体制を築くようになったのは、一条のヒット商品「夢の家」I-HEAD構法をリリースした2000年代後半だと記憶しています。
現在の一条工務店は引き渡し物件で全棟気密測定を実施、また床暖房や太陽光発電など、現在のユーザーが望むであろうことをほぼ100%近く可能にしている点が大きな強みといえます。
なお、I-HEAD構法では他社同様にモノコック構造を売りにしていますが、同社の場合、I-HEAD構法以前は、ハウスメーカーの家にはめずらしく、比較的長い間筋交い工法をメインに販売を続けていました。
その意味では、在来工法の本来の良さを守り続けてきた気概も、一条のつくる家から感じられます。
在来工法のハウスメーカーを検討する場合、一条工務店は候補の一社に入れておきたいメーカーといえるでしょう。
変わらぬ「檜愛」は健在。在来工法の中堅メーカー「日本ハウスホールディングス」
日本ハウスHDは2015年に東日本ハウスから改名した在来工法の中堅ハウスメーカーです。
日本ハウスHDは1993年から「新木造システム」としてパネル化工法住宅を本格的に販売しています。
その意味では、業界に先駆けて在来工法のパネル化に取り組んだハウスメーカーといって良いでしょう。
また日本ハウスHDは東日本ハウス時代から、檜(ヒノキ)の柱と新木造システムを合体させて販売することを得意としていました。
当時は集成材(エンジニアリングウッド)や構造用LVLが出てきた時代でもあり、檜と集成材の柱を顧客が選べるようにしていましたが、檜柱を選択するユーザーが圧倒的に多かったようです。
とくに4寸の檜柱は壁厚も120mmとなり、断熱材の充填厚も3.5寸(105mm)の柱より15mm増します(標準は3.5寸となるようです)。
とくに東北や北海道など寒冷地に強かった旧東日本ハウスは、断熱性能でも優位に立てる4寸柱は同社にとってより魅力的な商材でした(北海道地区は檜より集成柱のほうが人気です)。
社名を日本ハウスHDに改名しても、同社の「檜愛」は健在です。
骨太の軸組と長い経験に裏付けられた新木造工法に日本ハウスHDの家づくりは収斂されています。
在来工法本来の良さを気づかせてくれる「住友林業」の家づくり
住友林業は日本を代表する在来工法のメーカーであり、老舗ハウスメーカーのひとつです。
そんな住友林業と他社との違いは、安易にモノコック構造に逃げないところにメーカーとしての面目躍如を感じます。
とくに同社の提案で素晴らしいのは、マルチバランス構法の「きづれパネル」です。
通常の新在来工法は、ツーバイフォーで一般的な針葉樹合板などの構造用合板が使われています。
針葉樹合板は信頼ある資材として有名ですが、日本の断熱工法で針葉樹合板を使うと透湿抵抗が高いために壁体内部で結露を起こす心配があります。
このような場合でも同社の「きづれパネル」を使えば、針葉樹合板の透湿抵抗の高さに縛られずに済みます。
「きづれパネル」の形状はガーデニングでよく使われるラチスに似た格子状の繊細な雰囲気がありますが、壁倍率は5.0という高い剛性があります。
「きづれパネル」を使えば強度的にも安心です。
また住友林業のビックフレーム構法は、105mm×560mmという大断面の柱を主要構造材に使うことから、文字通りのビックフレーム(最大開口幅5,460mm)を開口部に設けられます。
新在来工法になって確かに強度的には逞しくなった木造住宅ですが、本来の在来工法の良さを無くてしまいました。
住友林業の二つの構法は、在来工法本来の良さを私たちに気づかせてくれます。
在来工法の特徴と注意点
それでは最後にまとめとして、在来工法の特徴と注意点を整理しておきます。
在来工法は間取りの自由度が高いといったことも、その特性として伝えられてきました。
しかし在来木造は工法の進化に伴い、これまで特徴として伝えられてきたことと、少し異なる点も出てきています。
間取りに変化をつけやすい
和風住宅で多く見られる在来工法の特性に、障子や襖といった間仕切りを付けたり取り外したりすることで、間取りに変化をつけやすいという利点があります。
これは、いわゆる田の字プランでの和室(座敷)同士でも建具を外し、また仕切ることで佇まいに変化をつけられます。
また和室と土間空間、座敷と広縁空間、さらにその先の庭もひとつの空間として捉えて、多様な間取りの変化を楽しめます。
またかつての日本人の暮らしは、自宅で婚礼や葬儀の集いを行うのが常でした。
当然、和室二間(あるいは「通し間」)は、そのためにも必要なものとして、座敷にこだわりがある方から、今でもプラン要望のヒアリングの場面で聞かれます。
ただ間取りに変化をつけやすいという在来工法の特性は和風の間取りに合いますし、さらに平屋勝ちの建て方に向くものです。
ライフスタイルや工法の変化とともに、間取りの可変性を楽しむ習慣は徐々になくなりつつあります。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・【新築】注文住宅の間取りはどうやって決める?ポイントや流れを解説![/su_box]大開口(大きな窓)を設置しやすい
最近では耐震性を高める意味で少なくなってきましたが、在来工法は耐力壁をバランスよく設置していれば、現在も他の工法に比べ、大開口(大きな窓)を設置しやすい工法といえます。
天井まで高さがある掃き出しサッシを用いるケースで、設計事務所ではよく在来工法を選択します。
視界の抜けが良好な立地で、耐震的にみても無理のない窓であれば、設計担当者に相談してみるといいでしょう。
在来工法は増改築やリノベーションが比較的容易?
在来工法は増改築やリノベーションが比較的容易だとされています。
たしかにこれは間違いではありません。
しかし在来工法の軸組にパネル工法を組み合わせたことで、増改築や大幅なリフォームにはどちらかというと不向きな工法に変わってしまいました。
在来工法が増改築やリノベーションに向いているとされたのは、在来工法がパネル化に向かう前のはなしです。
工法がパネル化に向かってからの在来工法は、まず現場を解体するのに手間がかかります。
この辺りを十分考慮して予算を出しておかないと後で困ります。
ただ、工事内容が水まわり設備の入れ替えといったもので、それほど構造に手を加える必要がなく、また増改築が絡まない工事なら、新在来の現場でもスピーディーに作業が行えます。
在来工法の現場は大工の腕に左右される面が多い
同じ木造でもツーバイフォー工法は建て方が合理化され、かつマニュアル的に出来ていますので、大工の腕に左右されることが比較的少ない現場です。
ただ、在来工法も合理化に向かっているとはいえ、現場の仕上がりはまだ大工の技術に左右される面があります。
そのため在来工法のほうが、現場の良し悪しは大工の腕に左右される面が多いといえるでしょう。
これは腕のいい大工に頼めば、ある程度の品質が担保されるという点で、在来工法のメリットといえるでしょう。
ただ大量生産の時代、品質にばらつきがないという点ではデメリットです。
しかし在来工法も工務の技術は平準化に少しずつ向かっています。
それは高度な技術があっても使える場面が減り、誰が作業してもそれほど変わらない程度の仕事のほうが、多く求められるようになっていることも関係しています。
かつてのように高度な施工技術を競い合うといったことは、かなり少なくなっています。
まとめ
こうしてみると、ここ2,30年の間でいちばん変わった工法は在来工法ではないでしょうか。
またそれだけ在来工法は、変化を柔軟に受け入れられる工法だということにも気づきます。
これは各職人が在来工法を捨てなかったことも、この工法が進化を遂げた要因のひとつです。
今後も時代の要請を受けて、木造在来工法が進化を続けることは間違いありません。