不動産会社を通じて土地・建物を購入する際、業者と取り交す契約は売買契約と言いますが、ハウスメーカーや工務店といった建築会社と取り交す契約を一般的に工事請負契約と言います。
ここでは請負契約と委託・委任契約との違いや、請負契約に必要な印紙代などについて詳しく解説していきます。
目次
請負契約とは
ハウスメーカーや工務店では、日々の業務の中であたり前のように接しているのが請負契約です。
「請け負う」という言葉の意味は、当事者の一方(請負人)が相手方に対し仕事の完成を約束することですが、仕事の注文者が仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束したのが、いわゆる請負契約です。
なお民法では請負契約を「典型契約」の一種と規定しており(民法632条)、「非典型契約(無名契約)」と区別しています。
「典型契約」は民法上、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の13種類の契約類型と、商法の倉庫契約、運送契約、保険契約などを規定しています。
いっぽう「非典型契約(無名契約)」とは、法律では規定されていない契約のことをいいます。
また請負契約は「役務型契約」の一種でもあり、労務の提供を目的とする契約です。
「役務型契約」には業務委託契約、委任契約、雇用契約、派遣契約がありますが、請負契約は業務委託契約、委任契約とよく比較されます。
次に両者にはどのような違いがあるのか見ていきましょう。
身近な例から見える請負契約と業務委託契約との違い
実は身近なところで請負契約と委託・委任契約との違いを示している例があります。
ハウスメーカーではお客様との折衝が首尾よく進むと、工事請負契約の前に社内の設計部に正式に動いてもらうため、設計業務委託契約を締結するケースがあります。
いわゆる仮契約というものです。
ハウスメーカーでは、特に設計業務委託契約を契約案件としてカウントしていません。
では何故設計業務委託契約をするのでしょう。
これは工事請負契約を前提に契約前打合せに進むことを、お客様に同義づけるために行なっているのです。
つまり請負契約に向けて正式に設計図を作成するため、ハウスメーカーの設計部と形式的に業務委託契約を結ぶ訳です。
もちろん設計業務委託契約を挟むのは全ての事案ではありませんが、ハウスメーカーではこのような段階を踏んで請負契約に進むケースがよくあります。
そして、このことから分かるのは、設計業務委託契約は工事請負契約とは違って“軽めの契約”ということです。
もちろん独立した設計事務所が行う設計業務委託契約はもちろん重要な契約です。
でもこの場合のハウスメーカーはお客様を請負契約に誘導すべく、段階的に業務委託契約を差し込んでいるだけに過ぎません。
ただはっきりしていることは、あくまで段階的に差し込めたのは業務委託契約だからです。
もしこれが工事請負契約だとしたら、別の方法を考えていたことでしょう。
請負契約は仕事の完成を約束する契約
前置きが長くなりましたが、請負契約と委託・委任契約との違いを端的に説明すると、請負契約は請負人が仕事の完成を約束し、注文者は仕事の結果に対して報酬の支払いを約束します。
また委託契約は、発注者が受注者に業務を委託し、受注者は自己の裁量と責任により委託された業務を実施する契約です。
両者はとてもよく似ていますが、決定的に違うのは、請負契約が仕事の完成を約束している点です。
委託・委任契約も実施する業務を終わらせる責任がありますが、その責任を受注者の裁量に任せている点は請負契約と大きく異なります。
例えば建築工事を受注することは契約金額的にも大きなことですが、工事を注文通りに完遂しなければならず、受注者に相当なプレッシャーが掛かります。
また頼んだ仕事が注文通りにつくられていない場合は、注文者は報酬の支払いを拒否できます。
従って請負契約は請負人(受注者)に不利に傾く側面があります。
工事請負契約は約款のボリュームが根本的に違う
さらに工事請負契約になると、委託・委任契約より契約約款のボリュームがかなり多くなります。
これは2000年4月1日から「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」が施行され、物件の引き渡し後も10年間、受注者は瑕疵担保責任を負うことになったことに起因しています。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・瑕疵担保責任とは?期間・時効・免責について詳しく解説![/su_box]そのため、工事請負契約約款は瑕疵担保責任についても言及していますし、口頭でもこれを説明しなければなりません。
同じ契約でも設計業務委託契約の場合は、契約内容が発注者・受注者間で理解出来ているものが多く、その説明も大体が簡単に済みます。
いっぽう工事請負契約は、法律の規定通り客前で約款の内容を解説しながら読み込むと、たっぷり2時間近くは掛かります。
設計業務委託契約は“軽めの契約”と言ったのこのためです。
建築工事はある意味で不確かな成果物ですが、不確かな成果物ゆえ、受注者はさまざまな責任を負います。
その意味で、請負契約は仕事を果たす責任が重くなる傾向があります。
請負契約に記載している項目や必要な印紙税について
次に請負契約に記載する項目や印紙税について見ていきますが、ここでは便宜上、工事請負契約の場合を解説します。
請負契約に記載している項目
・工事名
・工事場所
・工事着手の時期及び工事完成の時期
・請負代金の額
・請負代金の支払い時期と方法
・着工日、完工日、引渡し日
詳細は会社によって違いますが、以上が工事請負契約に記載している項目です。
請負契約は仕事の完成を約束する契約ですから「工事着手の時期及び工事完成の時期」「請負代金の額」「請負代金の支払い時期と方法」は必ず記載されています。
請負契約書に必要な印紙税
請負契約書は甲乙2通あり、契約書の所定の場所に貼る請負契約の印紙税は、収入印紙を購入して納税します。
工事請負契約の場合は1000万~5000万が請負額の相場ですから、一通につき2万円の収入印紙が本則です。
しかし税率の軽減は10年以上変わっていませんので、1万円の印紙代を双方で負担します。
契約時に添付すべき図面
ここからは、工事請負契約書についての注意点について見ていきます。
ハウスメーカーや工務店等と工事請負契約を締結する際、注意すべきととして契約時に添付すべき設計図書類と見積内訳明細書があります。
何故図面等が必要かというと、契約時点でどこまで打ち合わせがされたか、図面に対する見積書の内容や内訳がどのように決まったかが分かるからです。
【工事請負契約書に添付すべき設計図書類】
・設計概要書
・仕上表
・配置図
・平面図
・立面図
この他にも、特記仕様書、断面図、平面詳細図、矩計(かなばかり)図、部分詳細図、構造図、設備図などがありますが、指定がなければ上の5種類を添付しておきます。
【契約時に必要な見積書】
・見積内訳明細書
初めて工事請負契約を経験する人にとって戸惑うことは、特に注文住宅の場合、全てを決めてから契約するわけではないということです。
これを言い換えれば、大抵の方は未決事項を残したまま工事請負契約を締結します。
未決事項とは、どこにどの材料を使って建物を仕上げるのかか「まだ決まっていない」ということです。
そのため添付している平面図、立面図も今後変わる可能性がありますし、仕上表も全て埋まって契約するわけではありません。
ここが注文住宅の怖いところでもあります。
最近では注文住宅も選べる仕様を減らして、未決事項を少なくするように変わってきました。
それでも未決事項が完全になくなることは現在でも殆どありません。
[su_box title=”関連記事” style=”bubbles” box_color=”#0075c2″ title_color=”#ffffff”]・注文住宅によくあるトラブル10選!申し込み前に要チェック![/su_box]未決項目を極力減らしてから請負契約に臨む
しかし未決項目を残したまま請負契約書にサインをしてしまうことは、望ましい契約とはとても言えません。
なぜなら契約時の見積内訳明細書は最終的に大きく変わる可能性がありますし、資金計画も立たないからです。
特に住宅ローンを多く借りようと考えている方は、予算がどこまで膨らむのか不安でしょう。
未決項目を残すにしても出来れば間取りについて、請負契約後は動かないよう固めることと、メインの住設は色を残しても、モノだけは確定しておくことが重要です。
また外装のサイディングもグレードアップを考えている場合は、これも内容を決めてから契約すること大事です。
まとめ
最後の未決事項で付け加えると、未決を残したまま着工すると、当然のこと工期が遅れる原因にも繋がります。
未決事項は工事請負契約にとってマイナスにしかなりません。そのことをしっかり認識しておきましょう。