皆さんは「民泊(みんぱく)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
最近では新聞やテレビなどのマスメディアでも取り上げられていますので、耳にした方も多いことでしょう。
「民泊」とは、ホテルや旅館ではなく一般の民家に宿泊することをいいます。
インターネットの仲介サイトを介して訪日外国人旅行者が個人宅や賃貸マンションなどに泊まる形態から始まり、法整備が進むにつれて1棟の建物すべてが民泊といった営業形態も出てきています。
ホテル代わりに住宅を宿泊施設として提供する、というシンプルなビジネスモデルではありますが、いざ実際に民泊を始めてみようと考えると、わからないことばかりなのが現実でしょう。
そこで今回は、まず民泊を取り巻く環境や民泊の定義、民泊に関する法規制、民泊の将来性やトラブルなどについて解説していきます。
ぜひこの記事を参考にして、民泊の基礎を確認してください!
目次
訪日外国人旅行者の現状と今後の動向
近年、日本を訪れる外国人旅行者の数が非常に増えてきています。
外国人旅行者による「爆買い」などの現象も起きていますが、実態について数字を交えて確認していきましょう。
訪日外国人旅行者の現状
2018年12月に日本政府観光局(JNTO)が発表したプレスリリースによると、2018年の訪日外国人旅行者数が史上初めて3,000万人を超え、最終的には対前年比 8.7%増の 3,119 万 2 千人となり、日本政府観光局が統計を取り始めた1964 年以降、最多となりました。
<訪日外国人旅行者の推移>
引用元:日本政府観光局(JNTO)ホームページ より
(https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/181219.pdf)
(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/190116_monthly.pdf)
特に、2013年以降の訪日外国人旅行者の数の伸びが顕著であることが上のグラフからわかりますが、それには経済効果を狙った日本政府の思惑が関係しているのです。
東京オリンピック後の訪日外国人旅行者は?
それでは、日本政府の思惑とはいったい何なのでしょうか。
日本は四季折々の豊かな自然や、「クールジャパン」に代表される独自の文化など、優れた観光資源を有していることから、海外からの外国人旅行者を受け入れる「観光立国」を目指しており、アベノミクスの第3の矢である「成長戦略」の柱のひとつとして位置付けています。
そして、2019年には日本で初めてのラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピックといった世界的イベントを控えており、日本政府は2020年には訪日外国人旅行者数を4,000万人、2025年には大阪万博もあることから2030年までに6,000万人を目標にしています。
2017年の外国人訪問者数の世界第1位はフランスで約8,700万人、日本がもし6,000万人に到達すると中国やイタリアと同程度の外国人訪問者数となり、世界トップ5に食い込む水準となります。
<世界各国の外国人訪問者数(上位40位)>
引用元:日本政府観光局(JNTO)ホームページ 世界各国・地域への外国人訪問者数ランキング より
現在、日本を訪れている外国人旅行者はイベント目的ではなく、日本という国や文化について純粋に興味を抱いて訪日してくれており、この傾向は今後も続くものと考えられています。
そのため、今後行われる世界的イベントは、訪日外国人旅行者数の増加に対してボーナス的な効果を発揮してくれると考えられますが、その後も安定的・継続的に外国人旅行者が増えていくことは間違いなく、大きな経済効果が期待されているのです。
日本の宿泊施設事情とは?
訪日外国人旅行者の増加によって、国内の宿泊事情が大きく変化しています。
ここでは、その実態について説明していきましょう。
国内のビジネスマンがホテルを予約できない
訪日外国人旅行者が右肩上がりに増えることにより生まれてくるのが、「インバウンド需要」です。
「インバウンド」とは、外国人が日本を訪れてくる旅行のことをいいます。
インバウンドに伴い、外国人旅行者をターゲットとしてモノやサービスを提供するというビジネス需要が非常に高まっています。
もちろん、宿泊サービスはその根幹となるサービスですが、課題となっているのが宿泊施設の不足なのです。
<都道府県別宿泊施設タイプ別客室稼働率(平成30年1月~12月の速報値>
引用元:国土交通省 観光庁ホームページ 宿泊旅行統計調査 より
国土交通省が管轄する観光庁の宿泊旅行統計調査によると、上記の表の通り、東京や神奈川、大阪、京都などの主要観光都市では、ビジネスホテルやシティホテルなどの客室稼働率が80%を超えていることがわかります。
客室稼働率が80%を超えると、予約が取りにくくなるといわれており、ピーク時には90%を超えることも珍しくなく、宿泊施設不足が叫ばれているのです。
また、それに伴って客室単価も高騰しています。
そのため、国内のビジネスマンが、出張のためにホテルを予約したり、予算内に収めたりすることができずに「宿泊する場所がない!」といった状況まで生じているが実状です。
なぜなら、訪日外国人旅行者は予約のタイミングが早く、2ヶ月前先・3ヶ月前先の予約を取っていますが、国内のビジネスマンはせいぜい1ヶ月前(たいていは1週間前程度でしょう)に宿泊の予約を取ろうとするため、すでに外国人旅行者に客室を抑えられてしまっているのです。
宿泊施設を増やすための動き
それならば「不足しているホテルを建てればよいのでは…」とも考えられますが、都市圏では新たなホテル用地の確保が難しく、ホテルを新築できる土地の取得は進んでいません。
こうした背景を受けて、老朽化した空きオフィスビルや空き家などをホテルやゲストハウスにコンバージョン(用途変更)する動きが出てきています。
空室の目立つ築年数の古いオフィスビルや空き家をホテルにコンバージョンすることは、ホテルを新築するより初期投資コストが少なく、工期も短縮できるなどのメリットがあり、不動産事業者などホテル事業者以外の事業者の新規参入が増加しています。
築年数の古いオフィスビルなどは、駅に近いなどの立地条件が良いことが多く、ホテルへのコンバージョンとは相性が良いことも特徴です。
<オフィスビル→ホテルへのコンバージョン事例>
2015年度グッドデザイン賞受賞 物件名:ファーストキャビン築地
引用元:GOOD DESIGN AWARD ホームページ より
また、日本式の古民家をゲストハウスなどにコンバージョンすると、訪日外国人旅行者にとっては和風のテイストや文化を感じられることから喜ばれ、非常に魅力的な人気物件になっている事例が増えています。
そして、こうした事例とともに訪日外国人旅行者の受け皿として注目を浴びたのが「民泊」なのです。
民泊ブームがやってくる
それでは、民泊の定義や始まりについて見ていきましょう。
民泊の定義
民泊とは、もともとは個人の家やマンションの1室などを、観光客などへ宿泊用として貸し出すサービスのことを指します。
ホテルのように大規模な施設や設備が必要でなく、宿泊費もホテルより割安な価格となるため、長期滞在には最適な宿泊施設であるといえるでしょう。
2012年にロンドンオリンピックが開催されたイギリスでは、大会期間中におけるロンドン市内のホテルの宿泊費の高騰により、多くの観光客が近隣民家に宿泊していました。
これにより、ロンドンは民泊を容認する方向に進み、2015年5月以降は90日以内で自宅などの住居を一時的に宿泊施設として貸し出す場合には、許可は不要となりました。
アメリカでも、テニスの全米オープンやゴルフのマスターズなどの世界的イベントの際には、会場付近の住民が自宅を観光客や選手に貸し出し、自分たちは旅行へ出かけるなど、空いている自宅を有効活用することが文化として根付いています。
このように欧米などでは、貸す側も借りる側も民泊を利活用することに慣れており、民泊仲介サイトなどに関するリテラシーも高いため、民泊が浸透しているのです。
日本でも民泊を巡る法規制が新しく制定されるなど、ハード面だけでなくソフト面でも民泊に関する整備が進んでいる状況です。
内需からインバウンドへ
日本国内では少子高齢化が進んでいることにより、内需は頭打ちの状態が続いています。
そこで、内需の減少を埋めるために期待されているのがインバウンド需要であり、観光客の訪日消費が日本経済に欠かせない存在となっているのです。
<訪日外国人旅行者数と出国日本人旅行者数の推移>
引用元:日本政府観光局(JNTO)ホームページ 月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人) より
上のグラフの通り、2015年には日本人が外国に行く旅行者数より、外国から日本へ訪れる旅行者数の方が50年ぶりに上回っています。
そのため、不振が続く内需に代わって訪日消費を増加させることは国策となっており、今後も日本政府による観光産業への後押しは続いていくものと考えられます。
そして、2016年から東京都大田区など全国の国家戦略特区に指定されている自治体において、民泊が解禁となったのです。
民泊を取り巻くビジネス環境や法規制
それでは、民泊に関する法律やビジネス環境について説明します。
法規制については3つのカテゴリーがありますので、よく確認しましょう。
民泊とこれまでの業態との比較
民泊と既存のビジネス業態とを比較した場合、民泊は「旅館・ホテル業」と「不動産賃貸業」の中間に位置しているといえるでしょう。
<民泊のビジネス業態の位置付け>
国家戦略特区の指定による条例制定や住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行前は、民泊を規制する法律が明確されておらず、法的にグレーゾーンにあると言われていました。
しかし、現在では法整備が進んでおり、かなり明確化されたビジネスとなっています。
民泊営業に関する法規制
現在の民泊の営業形態には、「旅館業法で定める簡易宿所としての民泊」「国家戦略特区の民泊(特区民泊)」「住宅宿泊事業法(民泊新法)による民泊」の3種類があり、それぞれについて法規制があります。
それぞれの営業形態の一覧表を確認しながら、その特徴などを確認していきましょう。
<民泊営業の種類と特徴>
簡易宿所としての民泊
旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。
旅館業に基づく営業形態には、これまで「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種類ありましたが、2018年6月の改正旅館業法施行により、現在は「ホテル営業」と「旅館営業」が統合され、「旅館・ホテル営業」となっています。
このうち、合法的に民泊を運営するためには「簡易宿所営業」の許可を取得する必要があります。
しかし、許可のハードルが高く法的にもグレーゾーンであったことから、無届けのヤミ民泊が横行していました。
国は健全な民泊運営を目指して、違法性のあるヤミ民泊を減らすために、2016年4月に旅館業法を一部改正して簡易宿所営業の規制を緩和しています。
<旅館業法の主な規制緩和のポイント>
こうした規制緩和が行われたことにより、「簡易宿所営業」の許可取得のための手間やコストが軽減され、合法的に健全な民泊営業を行う事業者が増え、ヤミ民泊は淘汰されつつあります。
特区民泊
特区民泊とは、国家戦略特別区域(略して国家戦略特区という)に指定されたエリアにおいて、各自治体が民泊条例を定めている場合、都道府県知事・市長・区長より「外国人滞在施設経営事業」の認定を受けることにより、旅館業法上の営業許可がなくとも実施できる民泊のことをいいます。
国家戦略特区に指定されているエリアは、関東圏(東京都、神奈川県、千葉県千葉市、千葉県成田市)、関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)、新潟県新潟市、兵庫県養父市、福岡県福岡市、福岡県北九州市、沖縄県、秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県、広島県、愛媛県今治市となっています。
なお、2019年3月現在、これらの国家戦略特区に指定されているエリアの中で特区民泊の条例を制定している自治体は、東京都大田区、大阪府、大阪府大阪市、新潟県新潟市、福岡県北九州市、千葉県千葉市の6自治体となっています。
特区民泊が行えるのは、条例が制定されている特区に限りますので注意しましょう。
特区民泊の認定を受けるための主な要件は、
・宿泊施設の所在地が国家戦略特別区域にあること
・施設に滞在させる期間が(2泊)3日~(9泊)10日までの範囲で、かつ自治体が条例で定める期間以上であること
・宿泊施設の一居室の床面積が原則25平方メートル以上であること(自治体の判断により変更可能)
・滞在者名簿を備えること
・施設周辺住民への適切な説明が行われていること
・施設周辺住民からの苦情や問い合わせに対して、適切かつ迅速に対応すること
などがあります。
これらの要件以外にも、衛生設備や消防設備などに関してのさまざまな要件がありますが、すべての要件を満たすことにより分譲マンションの一室などの区分所有建物で民泊を日数の制限なく運営することも可能です。
ただし、区分所有建物で特区民泊の認定を受ける場合には、専有部分において特区民泊を行うことができる旨が管理規約に規定されていることが必要条件となります。
万一、「民泊禁止」と規定されている場合には、認定の対象外となりますので注意が必要です。
住宅宿泊事業法(民泊新法)による民泊
旅館業法の規制緩和や国家戦略特区による特区民泊など、合法的な民泊の供給を促進させる政策が採られていたにもかかわらず、それ以上に訪日外国人旅行者のニーズが急増していることから、都市部での宿泊需給はひっ迫していました。
こうした状況を解決するために2018年6月に施行されたのが、民泊に関する新しい法律である「住宅宿泊事業法(民泊新法)」です。
これにより、「住宅宿泊事業者」として民泊施設を運営する事業者は、都道府県知事に届出を行うことによって、旅館業法の許可がなくとも民泊(住宅宿泊事業)を運営することができるようになりました。
具体的には、宿泊者数に応じた客室床面積の基準、衛生管理、苦情対応や標識の設置などの住民トラブル防止措置、宿泊者名簿の設置などが義務付けられており、1日単位で宿泊料を得ながら運営します。
簡易宿所としての民泊や特区民泊との一番の違いは、「人を宿泊させる日数の上限が年間180日以内」と定められていることです。
180日の算定方法は、毎年4月1日12:00~翌年4月1日12:00までの間に人を宿泊させた日数となっており、12:00から翌日の12:00までを1日としてカウントします。
つまり、住宅宿泊事業法上の一定の要件を満たせば、届出をするだけで民泊を始めることができますが、年間の営業日数が180日以内と制約されるために事業収益性の面で不安要素が残ります。
特区民泊のような地域の制限がなく、全国的に民泊を運営することができます。
また、物件が区分所有建物の場合、管理規約で民泊による部屋の運用が禁止されているときは、特区民泊と同様に民泊を運営することはできませんので注意しましょう。
民泊と他の短期滞在型サービスの違い
民泊が登場する以前から、「ウィークリーマンション」「マンスリーマンション」「ゲストハウス」といった短期滞在型のサービスが存在していますが、それぞれのサービスと民泊との違いがどこにあるのか、説明していきます。
ウィークリーマンション・マンスリーマンションと民泊の違い
ウィークリーマンション・マンスリーマンションという名称は法律的に定められた用語ではなく商標であり、両者の間に根本的・構造的な違いはありません。
どちらも、借地借家法で定める「定期借家契約」によって締結される建物賃貸借契約です。
通常、部屋のオーナーが入居者と締結する契約は「普通借家契約」であり、契約期間は1年以上で設定し(たいていの場合は2年契約としています)、契約期間満了後も契約の更新をすることにより住み続けることができます。
これに対して、定期借家契約は契約の更新ができない契約であり、契約期間満了とともに契約は確定的に終了し、入居者は必ず部屋を明け渡さなければならないこととなっています。
なお、契約期間については自由に設定することができます。
こうした特徴を持つ定期借家契約を利用することにより、契約期間が1週間~1ヶ月未満程度のものをウィークリーマンション、契約期間が1ヶ月以上のものをマンスリーマンションとして分けて運営しています。
つまり、ウィークリーマンション・マンスリーマンションは旅館業法に基づく旅館・ホテルでの客室提供(宿泊)ではなく、あくまでも定期借家契約に基づいて家具・家電付きの部屋を、期間を限定して賃貸する…という居住用のサービスという位置付けです。
ゲストハウスと民泊の違い
ゲストハウスとは、バックパッカーなどがよく利用する宿泊施設のことをいいます。
複数の宿泊者と空間を共有する構造となっているため、ホテルや旅館と比較して宿泊費が安いことが魅力です。
また、ゲストハウスにはサロンなどのオープンスペースがあり、そこで見知らぬ宿泊者同士が交流できたり、ゲストハウスのスタッフやオーナーと交流ができたりすることも大きな特徴です。
ゲストハウスは、旅館業法に定める簡易宿所という区分を利用して営業許可を取得している宿泊施設ですので、簡易宿所型の民泊とは同じカテゴリーといえますが、特区民泊や住宅宿泊事業法による民泊では、通常の住宅を民泊として運営するケースもあり、そうした民泊とは異なるサービスといえるでしょう。
民泊の活用により期待される効果
民泊が浸透し、定着していくことにより、国内で生じているさまざまな問題や課題の解決につながることが期待されています。
その具体的な取り組みについて見ていきましょう。
空き家問題の解決
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)が平成25年には過去最高の13.5%を記録しました。
<総住宅数、空き家数および空き家率の推移>
参考:総務省統計局ホームページ 平成25年住宅・土地統計調査 より
こうした背景を踏まえて、2015年5月から「空家等対策特別措置法」が施行されました。
この法律は、空き家が放置されることによって生じる倒壊等のリスク、衛生上のリスク、防災・防犯上のリスクなどを防ぎ、空き家が適切に管理されることを目的としています。
そのため、相続などによって今後も増加が予想される空き家は、売却しない限り適切な管理が必要であり、適切な管理がなされない場合には自治体により「特定空き家」に指定され、助言・指導・勧告・命令・代執行の対象となります。
そのため、空き家を民泊事業で運営することは、空き家対策および訪日外国人旅行者への宿泊施設対策として、非常に有効な手段であると期待されています。
地方の活性化と経済効果
東京、大阪、京都などの有名な観光地ばかりでなく、地方でも民泊による空き家やリゾートマンションなどの活用が注目を集めています。
近年は、訪日外国人旅行者もランドマーク的な有名観光地だけでなく、日本の伝統的文化の体験、農業・漁業体験、工芸・民芸などの職人体験など、土着の日本の歴史や文化に触れたいというニーズが高まっています。
国が地方創生に力を入れていることもあり、地方にしかない地元の魅力をアピールすることで、訪日外国人旅行者を呼び込み、地方の活性化やその経済効果を期待しています。
そのためには、空き家の民泊による活用が欠かせないと考えられています。
新しい賃貸住宅のビジネスチャンスとして
少子高齢化・賃貸住宅の供給過多による賃貸住宅の空室率上昇は、不動産賃貸市場での大きな課題となっています。
そうした空室対策として、民泊を検討するオーナーが非常に増えています。
民泊により空室を運営することで空室率を下げ、収益性が改善されることを期待しているのです。
それと同時に、不動産賃貸管理業者にとってもビジネスチャンスが生まれようとしています。
住宅宿泊事業法においては、事業者である家主が一緒に居住している「家主居住型」と、事業者が民泊を行う住宅を生活の拠点としていない「家主非居住型」の2種類の営業形態があります。
「家主非居住者型」の場合は、住宅宿泊事業管理業者に管理業務を委託しなければならない、と住宅宿泊事業法第11条に規定されています。
(住宅宿泊管理業務の委託)
第十一条 住宅宿泊事業者は、次の各号のいずれかに該当するときは、国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより、当該届出住宅に係る住宅宿泊管理業務を一の住宅宿泊管理業者に委託しなければならない。ただし、住宅宿泊事業者が住宅宿泊管理業者である場合において、当該住宅宿泊事業者が自ら当該届出住宅に係る住宅宿泊管理業務を行うときは、この限りでない。
一 届出住宅の居室の数が、一の住宅宿泊事業者が各居室に係る住宅宿泊管理業務の全部を行ったとしてもその適切な実施に支障を生ずるおそれがないものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める居室の数を超えるとき。
二 届出住宅に人を宿泊させる間、不在(一時的なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものを除く。)となるとき(住宅宿泊事業者が自己の生活の本拠として使用する住宅と届出住宅との距離その他の事情を勘案し、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託しなくてもその適切な実施に支障を生ずるおそれがないと認められる場合として国土交通省令・厚生労働省令で定めるときを除く。)。
2 第五条から前条までの規定は、住宅宿泊管理業務の委託がされた届出住宅において住宅宿泊事業を営む住宅宿泊事業者については、適用しない。
引用元:総務省行政管理局運営 e-Gov 電子政府の総合窓口 より
住宅宿泊事業管理業者とは、これまでの旅館業法では対象とされていなかった民泊運営管理代行者のことをいいます。
住宅宿泊管理業者は、一定の要件を満たしたうえで国土交通省に登録された管理業者であり、家主非居住型の民泊事業者と管理契約を締結して民泊の管理を行います。
住宅宿泊管理業者の要件においては、
・住宅の取引または管理に関する契約実務を伴う2年以上の事業経験
・宅地建物取引士有資格者
・マンション管理業務主任者有資格者
・賃貸不動産経営管理士有資格者
というように、不動産業の経験がある者(法人・個人)や宅建業・マンション管理業・賃貸管理業などの登録がある者とされているため、不動産賃貸管理業者などにとっては新しいビジネスのフィールドが拡がったといえるでしょう。
そのため、空室対策としての民泊運営のみならず、積極的に民泊事業をオーナーに提案する動きが出てくると期待されています。
民泊のよくあるトラブルや問題点
民泊を運営するうえで生じる代表的なトラブルについて解説しますので、見ていきましょう。
ヤミ民泊・違法民泊
民泊の法整備が成される以前の、旅館業、不動産賃貸業のいずれに属するのかどっちつかずの状況が続いていたときには、無許可営業のヤミ民泊が横行していました。
いわゆるグレーゾーンの民泊です。
そして、グレーゾーンであるが故、明確なルールが定められていないまま運営されていたため、物件が増えるにしたがってトラブルが顕在化してきたのです。
こうした事態を打開するために国も法整備に乗り出し、ヤミ民泊を一掃するために2018年に旅館業法の一部改正を行い、罰則規定を強化しています。
従前は、無許可営業に対する罰金が3万円であったのですが、改正後は100万円に引き上げられたほか、その他の違反についても罰金を2万円から50万円に引き上げています。
<旅館業法の一部を改正する法律の概要>
引用元:厚生労働省ホームページ 旅館業法の改正について より
国家戦略特区や住宅宿泊事業法の制定など、規制緩和が進んで民泊運営のルールが明確していくことで、ヤミ民泊は撲滅されると期待されており、実際にヤミ民泊や違法民泊が摘発される事例も出てきています。
今後も、こうしたヤミ民泊や違法民泊については、取り締まりが強化されていくことでしょう。
周辺住民とのトラブル
民泊運営を行ううえで、ありがちなトラブルとして物件の周辺住民とのトラブルがあります。
民泊の利用者が、周辺住民の迷惑となる行動や不快な行為をしてしまうと、さまざまなクレームが生じて、その後の民泊運営に大きな悪影響が出てしまいます。
例えば、賃貸物件を借りて民泊運営をしている場合、周辺住民からのクレームは物件のオーナーに寄せられることになり、オーナーから賃貸契約の解除を申し入れされてしまうかもしれません。
こうした事態を避けるためにも、民泊利用者と周辺住民との間にトラブルが生じないように工夫することが大切です。
起こりやすい具体的なトラブルは、ゴミのトラブルと騒音のトラブルです。
例えばゴミのトラブルでは、ゴミ出しのルールがわからず、分別せずに町内のゴミ回収場にゴミを捨てて回収されなかったり、分別せずに専用ゴミ置場に捨てることにより管理人の負担が増えたりするケースがあります。
日本のゴミ出しルールを知らない民泊利用者が大半ですので、事前にルールを周知徹底しなければなりません。
また、騒音のトラブルでは、旅行により気分が高まっている民泊利用者が深夜まで大きな声で会話したり、音楽を大音量でかけたりして周辺住民の迷惑となる事例があります。
こうしたトラブルは、事前の周知や告知により防止することができる問題ですので、きめの細かい運営を心掛ることが大切です。
民泊ビジネスによる納税義務
法人が事業として民泊を運営する場合は、売上や利益を毎年の決算で申告するため問題ありませんが、個人で民泊を運営している場合でも確定申告をしたうえで、利益が出ていれば納税する義務が生じます。
特に、副業として自宅の一部を民泊で運営している場合などは、確定申告をするという意識が働きにくいことがあるかもしれません。
しかし、サラリーマンなどの給与所得者でも、副業で得た不動産所得や事業所得などの所得が20万円以上ある場合は確定申告を行わなければならないのです。
万一、期限までに確定申告や必要な納税を行わなければ、延滞税や無申告加算税などのペナルティが科されることもありますので、注意しましょう。
納税は国民の義務ですので、民泊運営で利益を得た場合には適切に対応することが大切です。
民泊による確定申告や税金について疑問がある場合には、近くの税務署か税理士に相談するとよいでしょう。
悪質な利用者やテロ等の発生
賃貸と違って、不特定多数の利用者が短期間で入れ替わる民泊においては、居室がテロ組織の隠れ家や詐欺集団のアジトとして利用されてしまうリスクもゼロではありません。
特に、ヤミ民泊では事前の身元確認などが甘い(あるいは一切行っていない)ために、凶悪な犯罪が発生しているケースもあります。
海外でも2015年にパリ同時多発テロを引き起こした実行犯が、ホテルではなく知人を介して身元を隠しやすい民泊を利用していた、との報道もあります。
日本においては法整備や民泊運営のルール化が進む中、健全な民泊運営を心掛ければこうしたリスクを防ぐことができます。
しかし、こうしたリスクを常に頭に留めておき、少しでもおかしいな…と感じたら利用を断ることも大切です。
ルールを守って安心・安全な民泊運営を
「訪日外国人旅行者の増加に伴う宿泊施設不足」と「少子高齢化による空室・空き家問題」をマッチングさせた解決策のひとつに、「民泊」があることが理解できたのではないでしょうか。
今後も日本の観光立国を支える存在として民泊は欠かせないと言われており、そのための法整備や明確なルール化はますます進んでいくでしょう。
こうした背景のもと、民泊を利用した訪日外国人旅行者に「また日本に来たい」と思ってもらうことは、大きな経済効果をもたらしてくれるのではないでしょうか。
そのためにも、民泊に関する法律やルールを遵守したうえで、清潔で安心・安全な民泊運営を徹底することが大切です。
そうしたことにより、民泊が大きなビジネスチャンスにつながることが期待できます。
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