組織開発の探求(読書ノート)
■日本の組織開発は現在、最大の危機でもあり、最大のチャンスでもある状況
・30年前の日本の企業
「日本人、男性、正社員」が中心
人事制度は時間をかけて育てるもの
新卒一斉入社、終身雇用、年功序列、長時間労働、飲みニケーション
→同質性が高く、統率がしやすかった
・近年の日本の企業
職場メンバーの多様化(女性、外国人、中途採用)
雇用形態の多様化(時短勤務、派遣、非正規労働)
働き方改革による職場の生産性向上(業務内容の個業化、在宅勤務、リモートワーク)
マネージャーの低年齢化
マネジメント力の低下
育児や介護をしながら働く人の増加
人材不足
成果を求めるスピードの速さ
→人材の質を高め、多様な諸力を求心力によって集め、生産性を高める「組織開発」が必要に
・組織開発では、過去のあやまちを繰り返さず、ブームとして消費されないようにするべき
組織開発は1960年代~1970年代に日本でブームを起こしていたが下火になってしまった。また怪しい自己啓発やマインド・コントロールも跋扈した
組織開発の過去の歴史を正しく認識する必要がある
・大まかな歴史
1950年代よりも前は、産業化が進み、科学的管理法が一般的になった
1950年代は、組織における人間の行動を科学的に明らかにするために、経営学、心理学、社会学、組織論をあわせた行動科学ができた
1960年代のアメリカは、公民権運動、ベトナム反戦運動、ヒッピー・ムーブメントなど、個人の人間性尊重を求める社会のニーズがあった
1970年代は、オイルショックによる不景気で、短期的な業績の回復や成長が求められるようになった。事業戦略→組織戦略の連携が強まった
1980年代は、人を資源と見る企業が増え、組織開発に人的資源管理、人材開発、キャリア開発の考え方が取りこまれた(また、怪しい自己啓発セミナーも増えた)
1990年代は、経営トップによる大胆な計画的な組織変更がブームとなり、組織開発は下火になった
2000年代以降には、「対話型組織開発」のコンセプトが広がり再び組織開発が注目を集めている
■組織開発とは
人はなにかの目標を達成するために人を集めて組織をつくるが、ただ集めただけでは組織として機能しない
→組織を円滑に機能させるための意図的な働きかけが粗組織開発
職場や組織をまとめ上げ、円滑にコミュニケーションができるように再組織化、秩序化していくこと
組織開発という言葉がつくられた当初の1958年頃から人により示すものが異なり、定義が曖昧
人材開発、リーダーシップ開発、組織開発は1つにつながっている
・組織開発の定義
①計画的な変革
②行動科学の知識を用いる
③組織の中で起こるプロセスを対象にする
④組織が適応し、革新する力を高める
→概念として曖昧で広い意味を持つため、あれもこれもと混同され、体系化されづらい
・組織開発の3つのステップ
①組織の問題の可視化(表面的な解決に向かわないように、目に見えている問題は氷山の一角ととらえ、隠れた真因を可視化する)
②関係者一同での深い対話(どちらが正しいかを決める議論ではなく、互いに違いを認め意見を受け入れあう対話)
③関係者一同での決定と未来づくり(深い対話を尽くして決める、全員が同じ未来を描き、腹をくくる)
→計画されていないことがおこることもあるが、目的が達成されることが重要(それぞれのステップで痛みをともなうことがある。異動や降格、退出の人事がおこることもある)
・組織開発の5段階の実践モデル
①エントリーと心理的契約
組織のキーマンからの問題意識や起こっている問題のヒアリング(経営課題や事業課題を組織開発のテーマに落とし込む)
組織開発の目的、お互いの役割、スケジュールを合意
②プロジェクトデザインと準備
プロダクトのをどのように進めるかのデザイン
必要に応じてデータ収集
③フィードバックによる対話
定量のデータ(アンケートなど)や定性の情報(インタビューなど)をもとに、メンバー感での対話の促進
問題の起こった背景をみつける対話
④アクション計画と実施
問題の真因の特定
解決策とアクションプランの策定(目的、役割分担、スケジュール)と実行
振り返りでの評価基準を定めておく
⑤評価
振り返り
必要に応じて再度②からはじめる
・組織開発の例
①組織診断調査(職場アンケート)で不満の多い組織に対して、マネージャーとメンバーに個別にヒアリング。その後、互いの対話の時間をとり、マネージャーにはコーチをつける
②新体制と旧体制との確執を解消するために、第三者の立場としてコンサルティングに入り、客観的な意見を述べ、互いの対話をうながす
・診断型組織開発の進め方
①エントリーと契約、②データ収集、③データ分析、④フィードバック、⑤アクション計画、⑥アクション実施、⑦評価、⑧集結
■組織開発の歴史(対個人)
・ジョン・デューイ(1859年~1952年、アメリカ)
プラグマティズム(実用主義)…効果が出ているものは正しいものであるという考え方
人は「能動的に環境に働きかける存在」であり、「経験」を積んで「リフレクション(反省的思考)」をすることで知を形成する
人は経験から直接学ぶのではなく、経験を内省するときに学んでいる
日本では、子供中心主義、大正自由教育運動、総合的な学習の時間、アクティブラーニングにつながっている
・デイヴィッド・コルプ(1970年代~1980年代)
デューイの考えを循環させ「経験学習サイクル」として表現
経験学習サイクル…①具体的実験→②内省的観察→抽象的概念化→能動的実験→①…、というサイクル
・ドナルド・ショーン(1970年代~1980年代)
不確実性の高い現代社会では、正しい問いの発見と設定が重要
・モーガン・マッコール(1980年代)
リーダーシップの開発には、一皮むけるようなタフな経験と内省が必要
経験とメンタリングとでリーダーを育てることができる
・エドムント・フッサール(1859年~1983年、オーストリア)
現象学…「今ここ(here and now)」で起きている出来事に意識をあてて考えることが重要という考え方
経験の記述学…現象や経験に焦点をあてて、記述をすることで自分とまわりの環境とを理解するという考え方
超越論主義…人はそれぞれの主観で世界に意味づけをしている、見たいものを意識しているだけで見ているものを意識しているわけではないという考え方
・ジクムント・フロイト(1856年~1939年、オーストリア)
精神分析の始祖
「無意識」…人の気持ちや思考のなかにある、本人には意識できない領域のこと
「抑圧」…無意識のなかにある心理的な葛藤
「病理」…「抑圧」されたネガティブなものが生み出すもの。無意識から顕在化(対話)することで解消することができる
■組織開発の歴史(対集団)
・集団精神療法
第一次世界大戦後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が大量に発生したため、個人療法ではなく集団療法が用いられた
グループが正しい方向に導かれるように、ファシリテーターには信頼を構築し、対話をうながし、最後はポジティブにもっていく力量が必要
・ヤコブ・モノレ(1889年~1974年、オーストリア)
心理劇…フロイトの「抑圧」をグループの中で劇として演じてもらい、監督が顕在化をうながすことで治療する方法(役割を入れ替えて顕在化させることもある)
・フレデリック・パールズ(1983年~1970年、ドイツ)
ゲシュタルト療法…過去の「抑圧」を現在どのように感じているかを引き出し、これまで気づかなかった新しい見方に気づかせる療法(ゲシュタルトとは意味のある要素のまとまりという意味)
・フレデリック・テイラー(1856年~1915年、アメリカ)
科学的管理法(テイラー・システム)…1日のノルマを設定し達成度合いで報酬を支払う、作業手順を標準化するなど科学的な根拠にもとづいて組織や人間を機械的に管理をする方法
自動車のフォード社でも取り入れられ、生産現場の近代化に寄与した
・ジョージ・エルトン・メイヨー(1880年~1949年、オーストリア)
人間関係論…科学的管理法とは対照的に、職場の人間関係が生命体として有機的につながり、作業効率に影響するという考え方
古典派とよばれ、のちの新古典派に否定された
・チェスター・バーナード(1886年~1961年、アメリカ)
システム理論…組織を「その内部の要素が相互に関連する1つのまとまり」として定義するもの
・クルト・レヴィン(1980年~1947年、アメリカ)
民主的で、1人ひとりを尊重し、できるかぎり多くの人を決定に参加させ、関与させることが重要と考えていた
トレーニング・グループ(ラボラトリー・トレーニング)…あらかじめ話題が決まっていないグループで4日間~6日間のセッションをし、参加者の「今ここ」で気になる議題をグループで議論し、その後に議論の仕方を振り返るというのを繰り返す研修
フィードバック…相手の現状を通知し、相手が現状を立てなおすための支援
アクション・リサーチ…目に見えないものを研究して見える化して、現場の人に返すことで評価をしてもらい、現場を変えていくという研究方法(研究や論文が目的ではなく、現場にアクションすることが目的)
組織変革の3段階モデル…組織の変更には、解凍(現状に気づき変革の動機づけが高まること)、変化(新しい行動基準、組織目標、戦略ゴールの設定)、再凍結(定着化)という3つのプロセスがあるという考え方
感受性訓練…トレーニング・グループでは組織全体がテーマであるのに対して、感受性訓練は個人の能力開発にテーマを置くもの。日本では1960年代後半から1970年代初めに大流行したが、トレーナーの育成が追いつかず、暴力、人格崩壊、精神崩壊、自殺者が出るなどで社会問題になった
・ロバート・ベールズ(1916年~2004年、アメリカ)
リーダーなき討議集団
12のカテゴリに分類(グループワークでの関わり方で個々人の特性を分類分け)
・アブラハム・マズロー(1908年~1970年、アメリカ)
「人間はもともと自己実現に向かって成長しようとする存在である」と提唱し、フロイトの「人は抑圧されたネガティブなものを持っていて、それが病理になっている」という意見に反した
5つの基本的欲求…①生理的欲求、②安全の欲求、③所属と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求
自己実現欲求の理論を唱えた
・マクレガー
X理論…人は本来怠け者で仕事をしたがらないため、強制や命令が必要
Y理論…人は適切な条件のもとでは、主体的かつ創造的に仕事する
X理論はなくなると唱えていた
・ハーズバーグ
仕事の満足要因と不満要因は互いに独立していて異なる
満足要因(動機づけ要因)…仕事の達成、承認、仕事自体、昇進
不満要因(衛生要因)…給与、人間関係、作業条件
・レンシス・リッカート(1903年~1981年、アメリカ)
業績が上がるのは「関係志向(人間関係維持軸)」が「課題志向(目標達成軸)」よりも高い場合
比較研究…パフォーマンスの高い人と低い人を比較するという研究手法
高い業績を上げるマネージャーは、仕事を積極的に部下に任せて、しかしながら失敗を許容し、メンバーに学習の機会を提供する傾向にある
低い業績を上げるマネージャーは、業務指示が細かく、失敗を許容せず、自身がプレイングマネージャーとなる傾向にある
リーダーシップの型
システム1(独善専制型)…管理者は部下を信頼せず、意思決定はトップダウン、管理を徹底する
システム2(温情的専制的)
システム3(相談型)
システム4(参加型)…管理者は部下を信頼し、仕事に巻き込みながら育成をし、意思決定が組織全体でおこなわれるように部門間の調整をおこなう
サーベイ・フィードバック…職場アンケートをもとにデータを分析し、経営層や現場のメンバーに報告する調査方法(診断型組織開発)
・ジョセフ・ラフトとハリー・インガム
ジョハリの窓…対人関係における気づきの図式モデル。「私が」「他者が」×「知っている」「知らない」で開放、盲点、隠された、未知の4つに分類したもの。開放の領域を増やすことが学びであるといわれている
・カール・ロジャーズ(1902年~1987年、アメリカ)
ベーシック・エンカウンターグループ…トレーニング・グループでは組織全体がテーマであるのに対して、個人の治療にテーマを置くもの
・ウィルフレッド・ビオン(1897年~1979年、イギリス)
タヴィストック・グループ…フロイトの唱える個人の「無意識」が、グループにも「無意識」あるという考え方
・エリック・トリスト(1909年~1993年、イギリス)
社会技術システム・アプローチ…工場的な「技術的なシステム」と人間的な「社会システム」の同時最適を探るアプローチ
・ブレークとムートン
マネジメント・グリッド…人に対する関心と業績に対する関心を9段階ずつに分けたもの
どのような企業にも共通して「ベストウェイ」があると考えていた
・エドガー・シャイン
プロセスの要素(コミュニケーション、メンバーの役割と機能、問題解決と意思決定、グループの規範と成長、リーダーシップと権限、グループ間の協働と競争)
プロセス・コンサルテーション…コンサルタントのアプローチには購入型(課題が明確な際に有効)、医師ー患者型(課題が不明瞭な際に有効)、プロセス・コンサルテーション型(クライアントに伴走し、クライアントが自走できるようにする方法)がある
・ロナルド・リピット(1914年~1986年)
アイオワ研究…放任型、民主型、専制型リーダーシップスタイルの研究
プランド・チェンジ(計画的な変革)…通常の変革は非計画的だが、組織のために計画的に起こす変革のこと
・ローレンスとローシュ
コンティンジェンシー理論…リーダーシップのあり方は、組織ごとにコンティンジェント(状況依存的)に変わるという考え方
高い業績を上げている組織は、分化(部門間の差)と統合(部門間の協力)の両方を有機的に高めている
・アルフレッド・チャンドラー
外部環境に適応するための戦略が組織内部の構造を規定しているという意味で、「組織構造は戦略に従う」という名言を残している
経営戦略論…組織の方向性を見定めて戦略を立案し実行するというアプローチ
・ナドラーとタッシュマン
コングルーエンス・モデル…環境の要因を含め各側面でどれくらい調和しているかを診断するモデル
インプット:①環境(政府による規制、市場や競合他社、親会社からの指示や関係)、②資源(金、資産、設備、技術)、③組織の歴史、④戦略
処理:①タスク、②個人、③非公式的組織(人間関係、組織風土など)、④公式組織(マネジメント、組織構造、職務設計、業務手順、報酬制度など)
アウトプット:①組織、②グループ、③個人
・ワイスボード
6ボックスモデル
フューチャーサーチ(対話型組織開発)
・エドウィン・ネーヴィス(1926年~2011年、アメリカ)
ユース・オブ・セルフ…他者に影響を及ぼすために自らを観察し、自分の価値観や感情にもとづいて動くこと
・ジョン・コッター
組織変革の8段階モデル…①危機意識を高める、②変革推進の連帯チームを築く、③ビジョンと戦略を生み出す、④変革のためのビジョンを周知徹底する、⑤従業員の自発を促す、⑥短期的成果を実現する、⑦成果を生かして、さらなる変革を推進する、⑧新しい方法を企業文化に定着させる
・ヤーロム
ファシリテーターの役割は、①情緒的刺激(自己開示を迫る、挑発)、②配慮(支援、需要、関心、称賛)、③意味づけ(説明、解釈、枠組みの提示)、④実行(目標の設定、時間管理)
②③に重きを置き、①④を中程度にするのが最もよいファシリテーターと定義している
・ロバート・マーシャク(アメリカ)
組織開発の4つの価値観…①人間尊重、②民主的、③クライアント中心、④社会・生命システム志向(組織を有機的な生命体としてとらえる)
・デイヴィッド・クーパーライダー(1954年~、アメリカ)
AI(アプリシエイティブ・インクアイアリー)…組織開発でポジティブな側面に着目したもの。欠陥ではなく強みを見える化する、当事者の主観を重要視する(反客観主義)
4Dサイクル…①ディスカバリー(ペアになり最高の瞬間をインタビューし、個人や組織の強みを参加者全員で共有する)→②ドリーム→③デザイン→④デスティニー
・ジャーヴァス・ブッシュ
対話型組織開発を提唱
AIの他に、フューチャーサーチ、オープン・スペース・テクノロジー、ワールド・カフェなど40種類の形式をまとめた
対話型組織開発の進め方
①エントリーと契約→コアチームづくり→コアチームによるデザイン→対話イベントの場(対話による現状把握→共通性の発見→未来への行動計画)→探求・実践・フォローアップ
■組織開発の事例
・キヤノン(CKI)
社内のコンサルタントが定期的に各部署をまわり、マネージャーとメンバーの意識のギャップを把握し、職場で議論するもの。それぞれの業務の課題を洗い出し、お互いに解決策を考えアドバイスをする。事前にマネージャー同士で話す場があることでマネージャー自身も楽になる
・オージス総研(アジャイル改善塾)
課題と宿題を出し、塾生が現場を巡回しながら宿題をやり、塾で発表するもの。自然と塾での学びが現場でも生かされ、現場に自主性が出てくる
・豊田通商(いきワク活動)
ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(一体化)をテーマに、持続的生産性の高い組織にシフトするために、各職場が自ら考え対話するというもの。研修やワークブック、サポーターをつけて推進した
・ベーリンガーインデルハイム(システム・コーチング)
チーム全体に対してコーチングをおこない、チームとして自己肯定感を高めた
・ヤフー(組織にあわせて施策を打つ)
社長交代時期には、ボトムアップ化のためのビジョン浸透、1on1の促進、ワールド・カフェ、人材開発会議、経営メンバー合宿、ES調査など
■組織開発の担当者の心がまえ
・人も事業もどちらも大事で、互いに関係している
・理論の引き出しを多く持っておき、状況に応じて使い分け、アレンジしていく(組織開発は現場の数だけある)
・対話ができるようにする
・探求する力、仮説を立てる力、交渉力、諦めない力(今日明日には変わらない、1年はやってみる)
・組織開発は、人事の管理や評価をするところとは別の部署がおこなうのがよいが、人事情報とも連携できる組織がよい
・組織開発の知識は、管理職やマネージャーになる前に学ぶべき