20151005_週刊ビル経営(第928号)-1

2階にイベントスペースを開設

28歳オーナーが考えるビルの創り方

築古のビルを購入して様々なイベントを開くことで、若者主体の場を築こうとしているビルが神田錦町にある。その方法に迫った。

未来を創る若者が主体的に集まる場に東京メトロ・都営新宿線「神保町」駅から徒歩5分ほどに立地する「弦本ビル」。神保町は「学生街」として知られている街だが、同ビルの住所は「神田錦町」でオフィス・事務所が多いエリア。同ビル周辺もオフィス仕様のビルが多く立ち並んでいる。そのなかで、同ビルは5階建の比較的小規模なビルだ。

同ビルオーナーの弦本卓也氏が同ビルを取得したのは今年の3月。同氏の本業はリクルート住まいカンパニー(東京都千代田区)の社員で、これまでも本業で活かすために戸建て物件の売買や、シェアハウス運営を行っていた経験を有している。弦本氏が今回、ビルを購入した理由について「ビルを利用して面白いことを発信していきたいという考えがあったから」と話す。もちろん収益も重要だが、それだけではない。では、同氏が考える「面白いこと」とは何か。そして、その目的の達成に向けて、今、同ビルではどのようなことが行われているのか。

現在、同ビルの2階に入居するイベントスペース「プロハ」では定期的に様々なテーマで若者を中心に集まるイベントを行っている。同スペースを運営するTOKYO PRODUCERS HOUSE(東京都千代田区)のプロデューサーである早野龍輝氏は、同ビルに入居する前からスペース探しを精力的に行っていたと言う。

「今年の初頭から定まった場所でイベントなどを頻繁に開催できる拠点を探していました。都内の物件を中心に探していたのですが、ビルのひとつのテナントとして入居するには賃料が高すぎて手を出せるところはありませんでした。比較的賃料も安く入居が可能な物件もシェアスペースの隅っこを借りる、といったものなど面白さに欠けるものしかありませんでした」(早野氏)

そんな早野氏と弦本氏が出会ったのは共通の知り合いだった不動産業界関係者を介してのことだった。

早野氏は「私がやろうとしていることを理解してくれそうな人がいるからと聞いて」と言えば、弦本氏は「面白いことをしている人がいるという話を聞いて」と両者は口をそろえる。両者は意気投合して、TOKYO PRODUCERS HOUSEが同ビル2階にテナントとして入居することが決定したのだ。

この出会いは仲介業者が仕事としてビルオーナーとテナントを結びつけたものであれば、決して特筆すべきものではなかったであろう。弦本氏と早野氏の目標、「やりたいこと」はこのような出会いにふさわしいほどに、重なるものがあった。

同ビルでは、壁、床、天井に関して、原状回復なしでDIYが可能。弦本氏曰く「築年数も経っており、内装に関しても『昭和のビル』という雰囲気が強いので、各テナント・入居者さんに心地良くご利用いただくためにも壁や床、天井に関しては自由に張り替えなどができるようになっています」と語る。

とは言っても、壁のクロスを変える、というケースが想定の範囲内。ましてや天井を張替えるという事例は、世の中に広まりつつあるDIYでもなかなかお目にかかることはないだろう。

「パーティシーンだけでなく、内装の造作の変更も自由と聞いて、自分のイメージに沿ったイベントスペースができると思いました。実際、あるイベントスペースでは建替え予定のビルで解体工事が始まるまでの期間限定で、自由に内装・造作を変更していたところがありました。私も今回、弦本さんからそのような条件提示を受けた時、そのイベントスペースの方から造作の徹底的なリフォームをするための方法を聞き、当日は解体業を営んでいる知人も呼び作業にとりかかりました」(早野氏)

弦本氏は当時のことを思い出して「驚きました」と笑いながら話した。しかし、「昭和のビル」という築古感が否めなかった内装が、早野氏らの徹底的なリフォームによって、古臭さのない、まっとうなイベントスペースができあがった。

このイベントスペースはどのような使われ方をされているのか。

最初のイベント開催が4月20日だったが、その前にも弦本氏の誕生日パーティが開催されるなど、知人を呼ぶなどして改装中の部屋でイベントは行われていた。ただ、これもタダのパーティーとして終わったわけではなく、弦本氏は自身の誕生パーティーからビル経営につながるプレゼントをつかみ取っていた。

「パーティー自体は非常に楽しいものでしたが、それだけではなく、ビルとしても良い方向に動き始めました。このパーティーに来ていた人の紹介で3階の事務所フロアの一部を借りてくれるテナントが決まりました。このような紹介や出会った人をつてにして、仲介業者を使わないで、かつ期間としては1週間もかかることなくテナントは満室の状態に持っていくことができました」(弦本氏)

「テナントが入らなければビル経営が行き詰りかねなかった」と弦本氏は言うが、その危険も購入から約1週間で脱した。そして、弦本氏は次のステージへ向かう。それは、同ビルのコンセプトとして掲げている「面白さを発信できるビル」にすること。これこそが弦本氏のビル購入のモチベーションになっている。

そのひとつとして、2階のスペースではTOKYO PRODUCERS HOUSEの会員になっている人たちが頻繁にイベント企画を持ち込み、様々なイベントを開催している。神保町という場所柄を利用した就活生向けの朝活イベントや、各種ワークショップなどが行われている。

そして、そのやり方も自由だ。「このスペースを使って夏にはスイカ割りや流しそうめんをやりましたよ」と話す早野氏。ビル内でそのようなことを行ったという話は少ないだろう。しかし、早野氏も弦本氏も若い人たちが集まれるスペースをつくって、若い人たちが主体となって「面白いこと」を発信していくことを目指しているからこその発想かもしれない。

早野氏は「テナント従業員も含めると平均年齢26歳の人たちが集うビルというのは珍しいのではないでしょうか。でも、そのような若さが『面白さを発信できるビル』の私たちなりの第一歩につながるのではないかと思います」と話す。弦本氏は「もちろん経営的な面も大事だが」と前置きした上で、次のように話した。

「しかし、経営だけで終わっては私にとってはつまらないです。そこから『面白いこと』を発信していく、そのためには私も楽しまなければならない、そう思うのです。その成果もあって、今ではイベントを行うたびに、数十人、多い時で50人くらいの若い人たちが来てくれるようになりました。1年目はビル内でのイベントで発信していければと思いますが、来年以降は『弦本ビル』として外に出てより積極的に発信していければと考えております」

弦本氏と早野氏が実践していることは「ビルをつくる」と言って過言ではない。新しい価値はそこから生まれる。そして、長期的には不動産市況が悪化することが予想される中で、賃貸するだけでは厳しい場合も出てくるだろう。その単純なビル賃貸の一歩先のビルをつくる先陣として弦本氏・早野氏には注目だ。

 

 

 

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