不動産仲介業の開業資金は500万円が相場だといわれています。しかし、不動産仲介業では売上の入金までに時間がかかることが多いため、
「できるなら、もっと初期費用を下げたい…」
というのが本音ではないでしょうか?
今回は、できるかぎり不動産仲介業の開業の初期費用をおさえて、200万円で開業する方法についてもご紹介します。
目次
不動産開業資金を節約すると最大300万円安くなる
実際に、不動産開業資金を節約した場合と、一般的な開業資金を比較してみました。
節約のポイントになるのが、事務所費用、株式会社の設立費用、設備や自動車の費用です。これらを意識することで、実に300万円近い費用が節約できる可能性があります。
不動産仲介業の一般的な開業資金(500万円)の内訳
※表
これはあくまでも、一般的な開業資金です。しかし、冒頭でも述べたように、開業のタイミングで手持ち資金が500万円近く出ていくと、開業後の運転資金が心配ですよね..
そこで、次に開業資金を300万円程度節約するおすすめの方法をご紹介します。
不動産仲介業の開業資金をおさえた場合(200万円)の内訳
一般的な開業資金の相場と比較して、できるかぎり開業資金をおさえた場合の内訳は、次の表が目安となります。
※表
インパクトが大きい、事務所費用、株式会社の設立費用、設備や自動車の費用など、「本当に費用をかけるべきか?」を判断すると、意外と節約が可能になります。
不動産開業資金の詳細と、節約する方法
事務所を借りない場合は0円で開業できる
宅建業の免許を取得するためには、宅地建物取引業法(宅建業法)の規定を満たす事務所の設置が必要です。
通常の事務所を契約する場合には、開業する地域の相場や契約する物件の条件などにもよりますが、ここでは家賃15万円の事務所で、初期費用の合計を約100万円と想定しています。
項目 | 金額 |
---|---|
前払家賃 | 15万円 |
仲介手数料 | 16.5万円 |
敷金・保証金(3.5ヵ月分) | 52.5万円 |
礼金 | 15万円 |
合計 | 99万円 |
宅地建物取引業法(宅建業法)の定める事務所の規定では、マンションの一室からはじめるのも問題はありません。他にも、事務所を借りる場合でも、居抜きの事務所を利用することで内装費をおさえることもできることでしょう。
事務所であればどのような場所でもいいというわけではありませんので、事務所を借りる前に、宅地建物取引業法(宅建業法)の定める事務所の要件を確認しておきましょう。詳細は次の記事をご覧ください。
シェアオフィスやコワーキングスペースを事務所として開業する場合の注意点
事務所の費用をおさえるために、複数の企業が入居するシェアオフィスやコワーキングスペースを利用する場合もあるでしょう。他にも、自宅事務所として申請し、登録することも可能です。開業時には費用をおさえて、開業後に売上が増え会社が大きくなってから事務所を借りるという方法もあるのです。
このとき、シェアオフィスやコワーキングスペースは宅地建物取引業法(宅建業法)の事務所の要件を満たさない場合がありますので注意が必要です。宅建業の事務所として使用する執務スペースは、他の目的で利用するスペースから区切られていることが求められます。そのため、空間が壁で区切られている必要や、専用の出入口が求められる場合があります。ただし、これらのルールは厳密な基準で定められているわけではありません。事務所については図面や写真を提示して、事前に審査してもらうのがよいでしょう。
自宅で開業する場合には、事務所の費用をおさえて開業することができるうえに、自宅用と事務所用とで使用している時間や面積で使用する割合を計算して、家賃の一部を会社の経費として計上することができます。そのため、自宅を事務所として利用できるかについては、開業時に検討してみてもよいでしょう。
玄関からすぐ階段のある家や、入り口を入ってすぐの部屋であれば、自宅を事務所にできる可能性があります。
法人の設立費用は0円~24万円が目安
宅建業の免許を取得する際には、一般的には社会的に信用のある「株式会社」を設立することが多いです。その際の内訳は以下となります。
項目 | 費用 |
---|---|
定款の認証手数料 | 5万円 |
定款の収入印紙代 | 4万円 |
定款の謄本手数料 | 0.2万円 |
登録免許税 | 15万円 |
登録事項証明書代、印鑑証明書代 | 0.1万円 |
合計 | 24.3万円 |
なお、今回の想定では司法書士や行政書士への依頼はせず、すべての手続きを自身でおこなった場合の実費を想定しています。また、定款の収入印紙代に関しては、電子認証にすることで0円にすることが可能です。
形式 | 費用(電子認証の場合) |
---|---|
法人(株式会社) | 20.3万円 |
法人(合同会社) | 6.1万円 |
個人事業主 | 0円 |
同じ法人でも「株式会社」ではなく「合同会社」を設立する場合には、定款に関する手数料がかからず、登録免許税が6万円となることから、電子認証にする場合には合計で6.1万円で会社を設立することが可能になります。
個人事業主での開業は0円で可能
他にも、宅建業の免許は個人でも取得することができるため、「個人事業主」として開業することも可能です。その場合には税務署への開業届のみの申請で開業できるため、0円で開業することが可能です。なお、個人事業主として開業する場合には、社会的な信用がないと見られる場合や、事業でトラブルなどが発生した場合に個人事業主が無限の責任を負う決まりがありますので、注意が必要です。
また、開業時には個人事業主として宅建業の免許を取得した場合でも、その後に法人に変更する場合などには免許の引き継ぎができず、再度手続きが必要になるため、費用や手間が二重にかかってしまう可能性があります。
宅建協会への入会金は166万円が目安(東京都の場合)
不動産業をはじめる場合には、宅地建物取引業法(宅建業法)の規定で、営業保証金として供託所にあらかじめ1,000万円以上の供託をしておく決まりがあります。しかし、保証協会の制度を利用することで、弁済業務保証金分担金として60万円を支払うことで、1,000万円以上の営業保証金を免除してもらうことができます。
保証協会の費用は、開業する地域を管轄する団体や団体の種類(「全国宅地建物取引業協会(全宅)」か「全日本宅地建物取引業協会(全日)」か)などによって異なりますが、東京都の場合には、弁済業務保証金分担金の60万円を含めて約166万円が目安となります。
なお、弁済業務保証金分担金の60万円に関しては、のちに加入を退会する場合には払い戻しを受けることができます。また、宅建協会に加入することで、不動産仲介会社が物件情報を登録しているレインズ(REINS)を利用できるようになります。保証協会のサービスや費用の詳細は、管轄の宅建協会にお問い合わせください。
歴史や会費の安さで選ぶならウサギ(全国宅地建物取引業協会連合会)、会員数や規模の大きさで選ぶならハト(全日本不動産協会)がおすすめです。
ウサギ、ハトどちらが良いかは、次の記事をご覧ください。
宅建業の免許申請料は3.3万円が目安(都道府県知事免許の場合)
宅建業を営む場合には、宅地建物取引士(宅建士)の登録が必要です。
宅建業の免許には、1つの都道府県のみで開業する際に申請する「都道府県知事免許」と、複数の都道府県で開業する際に申請する「国土交通大臣免許」の2種類があり、それぞれ申請料の金額が異なります。
開業する都道府県 | 宅建業の免許の種類 | 金額 |
---|---|---|
1つの都道府県のみで開業する場合 | 都道府県知事免許 | 3.3万円 |
複数の都道府県で開業する場合 | 国土交通大臣免許 | 9万円 |
なお、創業者が宅地建物取引士(宅建士)の資格を保有していない場合でも、宅建業の免許を申請することは可能です。しかし、社内に必ず「専任の宅地建物取引士(宅建士)」がいることが前提になるため、その場合には創業時から宅地建物取引士(宅建士)を確保する必要があります。
社内に宅建士がいない場合
もし、創業者が宅地建物取引士(宅建士)の資格を保有しておらず、さらに不動産仲介業の実務経験もない場合には、いますぐ開業することは、あまりおすすめではありません。その場合には、宅地建物取引士(宅建士)の資格を所有していて実務経験のあるメンバーとともに開業するか、自分で資格を取得し、不動産取引の現場で実務経験をしてから創業をするほうが、起業後の失敗を防ぐことができることでしょう。
宅建士の資格に必要な費用
なお、宅地建物取引士(宅建士)の資格に必要な費用としては、受験費用として7,000円、そして合格後に「宅地建物取引士証」の登録と交付申請の手数料がかかります。手数料は、合格者の合格後申請までの期間や実務経験の期間により金額が変わりますが、5万円~10万円が目安です。他にも必要に応じて受験に向けた教材などのテキスト代や、資格の学校などでの受講料もかかるでしょう。
なお、宅地建物取引業法(宅建業法)では、社内に5人に1人以上の宅地建物取引士(宅建士)が在籍していれば、資格がなくても不動産仲介業に携わることができる決まりになっています。そのため、資格の取得と並行して、不動産仲介業の会社で実務経験を積むことや、個人事業主として成果報酬型で働く「フルコミ」として、営業に挑戦することもおすすめです。
設備費用(看板、家具、机、椅子、パソコン、複合機など)は20万円~50万円が目安
事務所の設備費用としては、看板、家具、机、椅子、パソコン、複合機などが想定されます。
費用を抑えるためには、パソコンや複合機などの事務用品は中古品の購入やリースで借りることもおすすめです。また、複合機に関しては、コンビニなどのネットプリントを代用することも可能です。
事務所には、応接室も用意しましょう。応接室では机を1つ、椅子を2つ以上を置き接客ができるように整えます。また、重要な書類を保管できるように、鍵付きの引き出しかロッカーを用意しておきましょう。
自動車費用(自動車、駐車場など)は0円~140万円が目安
不動産仲介業では、物件の見学や案内などで自動車を使用することも多いでしょう。一方で自動車は固定費としても大きな支出となります。そのため、創業してまだ会社が小さなうちは、自家用車を使用するのもよいでしょう。自家用車を使用する場合には、私用と会社用との利用割合を計算して、会社の経費に計上することができます。
また、自動車を所有することで、駐車場代などの費用もかかります。近年では大都市圏を中心にカーシェアリングが普及してきていますので、カーシェアリングを利用して、車代や駐車場代を節約することも検討できるでしょう。最寄りの駐車場でカーシェアリングの車を手配できないか調べてみましょう。タイムズカーやカレコなどがおすすめです。
事務用品費(印鑑、名刺、筆記用具など)は5万円~10万円が目安
法人を創業する場合には、印鑑の登録が必要となります。また、営業をおこなうにあたっては名刺も必要になるでしょう。不動産仲介業の開業時には、これらの事務用品を揃える必要があります。
また、宅地建物取引業法(宅建業法)の規定では、事務所には標識や報酬額の掲示が義務付けられています。他にも、帳簿の備え付けや、従業員名簿の備え付けなども必須となりますので、必ず用意するようにしましょう。
通信費(電話、FAX、インターネット回線など)
電話に関しては、固定電話と固定電話回線の契約は必要となります。また、近年は携帯電話を中心に利用が増えてきていますが、格安SIMを導入するなどで通信費を安くおさえることも検討しましょう。
不動産仲介業ではいまだにFAXが主流の会社も多いです。FAXの設置は必須ではありませんが、いまの時代でもFAXで図面を送る不動産仲介会社や金融機関などがあります。メールではなくFAXのみでしか受け付けてもらえないところもあるため、FAXも用意しておきましょう。FAXは、以前のように機器を用意しなくても、eFAXなどを導入して、インターネット上でFAXの受発信をすることもできるようになっています。インターネット回線は、条件などをいくつか比較して導入するのがよいでしょう。
なお、自宅の固定電話や、個人で使用している携帯電話などを使用する場合には、私用と会社用との利用割合を計算して、携帯電話代の一部を会社の経費として計上することができます。
他にも、ポスティングのチラシの制作や配布の費用、自社のホームページの制作の費用、インターネット上の広告メディアなどの初期費用もかかる場合があります。
開業後の運転資金や融資による資金調達も重要
開業資金を把握し、費用をおさえることは、会社を経営するうえでも重要なことの一つです。余裕をもった資金計画を立てることで、不測の事態に備え、顧客がすぐに見つからない場合や、顧客を見つけても接客や案内に時間がかかり、営業がうまくいかずに売上や利益が思うように得られない場合に備えて、余剰資金を当面の生活費にあてることもできるでしょう。運転資金や生活費は半年分を目安に確保しておくこともすすめられています。
しかし、開業資金を減らすことにこだわりすぎて、その反動で運転資金がかかりすぎてしまったり、手間が増えてしまうことで本来やるべき営業ができなくなってしまい、売上が得られなくなったりするのは、本末転倒だともいえます。
開業資金をどの程度と想定するかについては、運転資金の計画や融資による資金調達も踏まえて、総合的に検討するのがよいでしょう。まさに、独立して経営していく社長に必要なスキルといえるでしょう。
不動産仲介業の開業後の運転資金は月々60万円が目安
不動産仲介業の開業後の運転資金は、以下の表が目安となります。
項目 | 価格 |
---|---|
保証協会の年会費 | 0.5万円 |
家賃 | 15万円 |
水道光熱費 | 1万円 |
通信費 | 2万円 |
交通費 | 5万円 |
人件費 | 20万円 |
広告宣伝費(ポスティング、SUUMOやHOME’S、at homeなど) | 15万円 |
税金 | 1万円 |
合計 | 59.5万円 |
もちろん、開業時の規模や、事務所を自宅にした場合などで、費用は大きく変わってきます。人件費は自身に支払うこともできますが、開業直後の立ち上げ期には、報酬をもらわないようにすることもあるでしょう。
開業資金の調達は「日本政策金融公庫」の「新創業融資制度」の利用がおすすめ
開業資金に関しては、必ずしも全額を自分で用意しなければならないとはかぎりません。銀行などの金融機関から融資を受けることができるためです。
一般的には、創業時に銀行から融資を受けるのは難しいです。そのため、政府の金融機関である「日本政策金融公庫」から、「新創業融資制度」を利用して融資を受けるのがおすすめです。
日本政策金融公庫は、中小企業を中心に開業を促進することで日本経済を活性化させること目的としているため、民間の銀行よりも比較的柔軟に融資を通してもらえます。金利は年利で2%、返済期間は10年が目安になります。また、融資を受ける場合でも、希望する金額の10分の1以上は必ず自己資金を用意する必要があります。
審査では、過去5年間で過去にクレジットカードやローンの未払いがあったり、携帯電話代などの支払いに遅延があったりすると、信用情報が毀損していて審査に落ちる可能性が高いです。一方で、過去に不動産業を営んでいた経験があると有利になるでしょう。
開業前から融資の相談ができますので、開業資金と運転資金を計算し、1年間の収支の計画を立てたら、銀行に提出することも検討しましょう。事務所を借りる契約をする前に、候補となった物件の図面や賃料などの資料を見せるのもよいでしょう。開業資金を取り崩す前に、資金が残っているうちに相談しましょう。
融資の相談に必要な資料は、日本政策金融公庫のホームページからダウンロードできます。電話で会社の概要と利用したい制度、融資を受けたい金額を伝えたうえで必要な書類を教えてもらい、書類に記入して郵送で送るのがスムーズです。書類審査が通ると、その後に電話で面談の日程を伝えてもらえます。
まとめ
不動産仲介業の創業では、このようにさまざまな手続きがあり、それぞれに費用がかかります。ここまで費用をおさえる話をしましたが、一方で多少の費用がかかっても早く営業をはじめて売上や利益を高めたいという考え方もあるでしょう。
開業の手続きでや、税務署への提出や、社会保険の加入手続きなど、営業以外にもさまざまな業務があります。融資を受けたい場合には、金融機関への書面の準備なども必要です。
不動産屋の開業の全体の流れについては、以下に詳しく書いていますので、参考にしてみてください。
不動産屋の開業の相談も、お気軽に
不動産屋の開業をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。